ゲーデがさっさとイシュタムの元から逃げた以上、これで一気に戦力のバランスは崩れた。
こちらが圧倒的有利に立った以上、一気に決着をつける必要がある。
そう判断したキクリヒメは、大声で叫んだ。
「そちらが冥府へと誘う神で、ここが楽園ならばそれを逆用するまでですわ! 来たれ! 黄泉比良坂よ! 黄泉との入口をここへとつなぎたまえ!!」
そうキクリヒメが叫んだ瞬間、大樹によって構築されている異界を歪ませて、大岩によって封じられた洞窟と、その大岩の前に飾られた注連縄で構築された冥府への入り口が出現する。
凍矢たちが管理している異界『黄泉比良坂』同じ黄泉、冥界という相性を利用して、その入口がこの異界内部へと召喚したのである。
『これは……日本の冥界、いやその入り口か!?』
イザナミの怒りによりゴゴゴ、と鳴動を続ける千引の岩に対して、キクリヒメは呪文を唱える。
「行きますわよ~!! 封印限定開放! 千引の岩を5秒だけ開封します!
此の神床に仰ぎ奉る 掛けまくも畏き 黄泉津大神イザナミ等の大前を拝み奉りて 恐み恐みも白さく 大神等の廣き厚き御恵みを 辱み奉り 高き尊き神教のまにまに 直き正しき眞心もちて 誠の道に違ふことなく 負ひ持つ業に勵ましめ給ひ家門高く 身健に 世のため人のために盡さしめ給へと恐み恐みも白す!!」
そのキクリヒメの言葉に、やるべきことを察知した凍矢も彼女に続いて祝詞を唱える。
「了解!! 黒札権限発動! 封印限定開放! ショタおじが作り出した封印を5秒だけ開放する!
玉串の小枝に偲ぶ心の丈を尽くして拝み奉る状を 平らけく安らけく諾ひ聞食して 天翔り坐しては天つ神の尊き御列に入り給ひ 幽世の神業に勤しみ給ひ 国翔り坐しては此れの鎮め 家門の守りと鎮り坐して 汝命等が残し給へる尊き御教を幽世乍ら見遙かし 夜の守り日の守りに守り恵み幸へ給へと 慎み敬ひ恐み恐みも白す!!」
ゴゴゴゴと激しい鳴動と共に、かつてイザナギが封印した千引の岩が開き、ショタおじが作り出した封印も開封される。封印の限定開放。もし何かあった時の緊急手段である。
通常の空間での封印を解くなど危険極まりないことはできるはずもない。
下手をすればヨモツシコメやヨモツイグサが無限に湧き出して地上を侵攻し始めても不思議ではない。
だが、ここはイシュタムの作り出した異界内部。そういった無茶をしても問題はない。
イザナミもそれを知っているのか、黄泉の穴から出てくるのはヨモツイグサやヨモツシコメではなく、黄泉の力が形になった無数の”手”である。
その黄泉の魔力で構築された無数の手は、イシュタムを捕えようと蠢きながら侵攻を始める。
それを見ながら、イシュタムは絶望に顔を歪ませながら絶叫する。
『や、やめろ! 私にしか、安楽死をもってしか人類は救えない! 現実で苦しむより、安楽死こそが人間にとって最も幸せなんだ! それが何故理解できない!!』
「それはお前が決める事じゃない! というか自分の国でやれ!!」
グリスブリザードを装備している凍矢は必死で黄泉の穴の吸引力から逃れようとするイシュタムに対して攻撃を仕掛ける。
【タルカジャ】+【チャージ】=【エクシードチャージ】
G4Xデモニカに内蔵されているスキルを発動し、さらにデモニカ内部の『氷結ガードキル』を発動させる。
「【氷結ガードキル】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】【飛び蹴り】!! 食らえぇえ!」
「【グレイシャルフィニッシュ】ッ! 」
猛烈な勢いで絶対零度の凍気をまき散らしながらの飛び蹴りは、見事にイシュタムへと命中する。
バキボキ、とイシュタムの胴体部の骨を砕く感触を感じながら、凍矢はそのまま黄泉の穴へとイシュタムを捕えたまま突撃する。
そして、凍矢はイシュタムの体を足場にしてさらに蹴りを入れてその勢いで反転して後方部へとバク転の応用で距離を取っていく。
「イシュタムを黄泉の国へとシュート!! 超! エキサイティング!!」
獲物が来たのを待ちかねたように、無数の手は次々とイシュタムへと絡みついていく。無数の漆黒の手に絡みつかれ、黄泉の国へと引きずり込まれながらイシュタムは叫ぶ。
『や、やめろ!! 他国の冥界になど行きたくない!! 私に何をするつもりだ!! やめろぉおおお!!』
黄泉の国へと引きずり込まれていくイシュタムに対して、凍矢は吐き捨てるように言葉を放つ。
「他国を好き勝手荒らしておいて、他国の冥界に行きたくないなんてのはちょっと筋が通らないんじゃないの? イシュタムさんよ。せいぜいイザナミを鎮めるための生贄になるんだな!!」
悲鳴と共に黄泉の国へと吸い込まれていくイシュタム。彼女が完全に吸い込まれた後、千引の岩はズズズと横に自動的にスライドし、再封印が施される。
それと同時に、ショタおじが作り上げた注連縄の封印も再起動し、二重の再封印が完了する。
以前のような激しい鳴動など感じずに静かなものである。
どうやら、イザナミはイシュタムという格好の生贄と、大和の民の魂を回収が終わったことにより満足したようである。
黄泉の国でイシュタムがどんな目にあっているかなど、考えたくもない。
「……ふう。何とかなったか」
イシュタムがいなくなったことによって、この異界は崩れ始めてきているが、その中でもキクリヒメはイシュタムがいう楽園……ハピルマ漬けによる幸福に支配された無数の魂の回収に成功していた。
「ヨシ! 魂回収ですわ~。これでイザナミだけじゃなくて他の冥府の神々も満足するでしょう~。まあ、これからが面倒くさいんですが……」
イシュタムがいなくなったことにより、ハピルマ漬けにされていた魂たちは幸福から目覚めて次々と苦しみによる悲鳴を上げる。キクリヒメは、アイテムによりその魂たちを眠りにつかせていた。
「この魂たちは、言ってしまえば24時間365日ハピルマ漬け……麻薬漬けにされていたような物ですから~。それが切れた時の禁断症状は凄まじいものですわ。現代風にいうと、皆薬物中毒患者のようなものですか。軽度の大和の民は、スサノオくんの根の国でリハビリさせて、最重度は蔵王権現のツテを頼って仏教の天界に送って天人としてリハビリするしかありませんわね~」
他の国々の冥府にもこの魂たちを送らなければならないが、ただでさえショタおじ顔負けの過労死ぎみの冥府神がこれだけの量、しかもリハビリも必要もなればマジ切れするのは間違いないだろう。
これらのヘイトは、すでに存在しないイシュタムではなく、それを管理しきれなかったマヤ神話、イツァム・ナーへと向けられるだろう。
凍矢からもこれらの事実はガイア連合へと上げられ、メシア教と似たようなことをしでかしたマヤ神話はよりガイア連合からの支援が厳しくなる。
これをきっかけに、ガイア連合に貢献しているケツァルコアトルなどのアステカ神話などと大きく水をあけられて、イツァム・ナーはマジ泣きすることになるが……それは凍矢たちには関係ないことである。
「……それってどれくらいかかるの?」
仏教の六道輪廻の中の一つ、六道最高位の天界。そこに住まう天人は長寿であり、快楽に満ち、苦しみはないとされている。苦しみのない世界で、最重度ハピルマ中毒の魂をリハビリさせようというのである。
だが、天人も長寿の末に、天人五衰を迎えて転生するとされる。それだけの年数生きればもうリハビリも終了して次の輪廻の輪に加わることができるだろう。
「さあ……? 天人として寿命を迎えて輪廻転生するまでかかりそうですから……結構かかるのでは?」
神の「結構かかる」とは人間基準でいうと膨大な年数がかかる。運が良ければあっさりと治るかもしれないが、どうなるかは不明である。
凍矢ははあ、と深いため息をつきながら、異界から現世へと帰っていった。
こうしてイシュタムを倒して魂を回収・リハビリさせることで一段落はついた。
だが、まだ問題は残っている。それはイシュタムが広めた噂である。このせいでイシュタムはいないのに、まだ首吊りをする人たちも大量に出てしまうだろう。
それに噂システムにより、安楽死を願う人々の願いによってまた新しいイシュタムがいくらでも涌いてくる可能性がある。下手をすれば這い寄る混沌なども涌いて出てきかねない。
だが、一度広まった噂を消し去るのは不可能である。
電子的な噂ならガイア連合が雇った大量のサクラ動員で消し去れるが、アナログな噂は中々難しい。
噂を上書きするために新しい噂を広めたら、どんな風に変化するか読めない。
色々考えた結果、凍矢は一つの答えを出した。
「噂を何とかする方法……それは、噂以上のインパクトを皆に与えて噂を無効化するしかない。インパクトのある事を流せば噂は自然に消えていくだろう」
自分の拠点である元公民館に帰還した凍矢は、自分の考えを静たちに相談した。
そんな静たちの反応は困惑だった。
「……ええと、正気ですか? いや、理論は分かりますがそこまでやりますか?」
「とはいうものの、説明した通り噂を放っておいたら噂から実体化するっていうのは説明しただろ? 今のうちから噂システムを何とかする仕組みを作っておかないと」
それはそうですが……と静は言葉を返してくる。
静やほむらたちにもきちんと噂システムのことは伝えてある。これから先、シェルター内部で妙な噂が広まって何かが実体化する前に、きちんと民衆に伝わる噂をチェックしておいてもらいたいからである。
やっぱり師匠って変人だわ、というほむらの視線が突き刺さるが、それをスルーしながら凍矢は次の場所へと向かった。
「なるほど。分かった。喜んでその話は引き受けよう」
凍矢が訪れたのは、俗に『偽マフティーニキ』と言われている彼の元だった。*1
同じ黒札である彼は踊りに長け、【生命の泉】&【チャクラウォーク】の効果のある踊りすら踊れるほどである。(それ以外にも趣味で戦闘以外にも踊っているが)
踊りを踊った経験が薄い凍矢は、ある意味専門家ともいえる彼に弟子入りして踊りをその体で覚えようとしたのである。
一度広まった噂は簡単に消すことはできない。だが、ほかの強力なインパクトで話題を薄れされることは可能である。
これは、この下準備である。偽マフティーニキは、ランタンハットを被ったまま凍矢に対して問いかけてくる。
「ところで田舎ニキ。お前ダンスの経験とかあるの?」
その言葉に、凍矢は首を横に振るが、それを聞いて偽マフティーニキはヒートアップした。
「それはダメだな! どうせやるのなら徹底的になるべきだ! 今から特訓するぞ!!」
「やるぞ田舎ニキ!! 俺たちなら何とでもなるはずだ!!」
……やっぱり判断早まったかなぁ、と思いつつも、凍矢は彼の提案に素直に頷いた。
──―それから数日後。大都市の屋外ビジョンが一斉に奇妙な場面に切り替わって道を歩いている人たちは困惑した。それは屋外ビジョンだけでなく、日本全てのTVなどが全て同じ場面に切り替わっていた。
「?」
「何あれ?」
道を歩く人々、部屋の中でTVを見ていた人々はいきなり切り替わった場面に思わず困惑する。
そこに映し出されたのは、全身黒タイツに身を包んで顔にカボチャマスクのお面を被った二人の男性。
その異質な状況に、テレビジョンを見上げている人たちがざわめきだす。マックス・ヘッドルーム事件という未解決の放送ジャック事件も以前アメリカであったのだが、そんなのを知る由もない民衆は騒ぎ出す。
BGM:閃光。
その音楽に従って、二人の男はまるでシンクロしているかのように奇妙な踊りを踊り始めた。
いわゆる前世で流行した「連邦に反省を促すダンス」である。
つまり凍矢のやる事は、「日本の放送をジャックして『連邦に反省を促すダンス』を偽マフティーニキと一緒に踊る」これが彼のプランである。
噂システムへのカウンターアタック。噂システムを他の強力なミーム汚染で無効化できるかどうかというサンプルとして活用できないか? とショタおじや運営に相談して、それが認められた形である。
これがうまくいけば噂システムのある程度の無効化が可能になる。
その魅力的な提案に、ガイア連合は迷いなく飛びついた。
『クソワロタ』
『こやつ正気か?』
『何で日本の全放送ジャックしてこんなことするの? アホなの?』
『放送ジャックしてやることがこれなの? (困惑)』
『wwwwwwwwwww』
『草はやしすぎィ!』
『アホらしすぎてもう少し生きてみることにしたわ』
『こんなアホでも生きていけるんだから俺たちでも生きていけるのでは?』
そんな風にネットでは感想が荒ぶる中、付け焼刃のダンスを凍矢は必死になって踊っていた。
うおおお! レベル70の身体能力を舐めるんじゃない!!
そんな風に思いながら、何とか彼はダンスを踊り切りながら、二人揃って一礼する。
それと同時にジャックは終わり、通常の放送へと戻る。
「ふーやれやれ!! いやぁめっちゃ楽しかったな!!」
偽マフティーニキはいい笑顔で凍矢に話しかけてくるが、自分の踊りが日本で報道された凍矢は気が重かった。はぁ、とため息をつきながら着替えてCOMPを見てみると、自分の踊りがCOMPでも同時再生されていたことが彼らの建てられたスレで知った。
「ちょっと待って! 何でDDSでも同時放映されてんの!? これ全世界報道じゃん!!」
慌ててショタおじにCOMPで通信をかけると、彼のにこやかな声が凍矢へと帰ってきた。
『ああ! 面白そうだからDSSの方でも同時放送しておいたよ!! 良かったね田舎ニキ!
全世界でダンスを見られるなんてそうそうないよ!!
それに噂は全世界に広がってるんだから、当然このダンスも全世界に広めないとミーム汚染の意味がないからね!仕方ないね!!』
「ああああああああああああ!!!!」
むふーと満足そうな偽マフティーに対して、頭を抱える凍矢。自分でやっておいて何言ってるんだ、と思うだろうが、まさか全世界規模で広まるとは思っていなかったのである。
……ともあれ、このインパクトによるミーム汚染で、イシュタムの首つりの噂はほぼ完全に消滅した。
これによって、イシュタムの起こした騒動は静まったのである。
碧神 凍矢 男・20歳 転生者・覚醒済 Lv75
ステータスタイプ:【魔】中心の魔術師タイプ
耐性:破魔無効、凍結無効、衝撃耐性、精神無効(装備)、呪殺無効
スキル:ブフ系呪文全て、ブフバリオン、マハブフバリオン、復讐の氷拳、コンセントレイト、吸魔、氷結ハイブースタ、大魔脈、氷結貫通、アクア系呪文全て、アクアダイン、マハアクダイン、反気旺盛
特殊スキル:ブフストーン作成、凍結弾付与作成、低レベル覚醒者への教育スキル、アクエスストーン作成、飛行
装備:無銘の刀、ジャッカルP、カジュアル装備一式、電撃の鞘、火炎弾、冷凍弾
展開型G4Xデモニカ『グリスブリザード』(格闘スキル、食いしばりスキル)
COMPソフト【ナース・コール】【Mr.サプライズ】【百太郎】【ギボ・アイズ】
仲魔:式神【破裂の人形】 Lv75
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、精神状態異常無効、呪殺無効、氷結無効、火炎耐性
スキル:怪力乱神、万物粉砕、モータルジハード、物理貫通、物理ハイブースタ、挑発、かばう、食いしばり、防御形態、メギドラオン、トラポート、反気旺盛
汎用スキル:会話、食事、調理、房中術、変化A、高速飛行、交渉、事務仕事
装備:神剣『ヒノカグヅチ』、試作型プラズマソード、モーフィング装甲(現在はカジュアル系装備一式と同程度の防御力)ラウンドシールド、バスターランチャー
人間形態:シンデレラガールズの高峯のあ。
仲魔:霊鳥スザク(元アガシオン) Lv65
物理耐性、火炎無効、衝撃耐性
マハラギバリオン、アギバリオン、ムドダイン、マハムドオン、マカカジャ、マハスクンダ、トラエスト、ラクカジャ、タルカジャ、エネミーソナー、テレパシー、火炎ギガプレロマ、火炎貫通
特殊スキル:飛行
仲魔:地母神キクリヒメ Lv65
衝撃無効、破魔耐性、魅了耐性
ザンダイン、マハザンダイン、ジオダイン、マハジオダイン、マハタルンダ、メディアラハン、サマリカーム、ディアラハン、乙女の仲裁、常世の祈り、衝撃貫通、雷撃貫通
特殊スキル:飛行
事務員:九重 静 LV25(移植手術によりLV上限25)(デモニカLV30)
スキル:マハザンマ、ムドオン、ベノンザッパー、掃射、急所射撃、突撃
装備:バッシュザブラックナイト(デモニカ)(内装はG3Xに換装、外装甲だけバッシュ)
スキルカード【物理耐性】【一分の活泉】
アクセサリー 【鋭敏のピアス】(睡眠・混乱・魔封・魅了」無効)
『GM-01 スコーピオン(調整済み)』『GS-03 デストロイヤー』『無銘の刀』
イヌガミ(LV30)
高級アガシオン(LV30)
転生体:秋葉ほむら LV45(LV上限50、ヒノカグヅチ本霊からの力を得て上限アップした)
【ホノカグヅチ】の転生体だが、彼女にはその自覚はあんまりない。
神の転生体の中でも現地民にしては優れた素質(LV35上限)と豊かな生体マグネタイトを所有している。
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:火炎耐性、精神無効
装備:【備前長船】【無銘の刀】【冷却の鞘】【退魔銃(ベレッタ M92FSのモデルガン改造銃)】【凍結弾】【アルメーブラウス】【アルメースカート】【お守り】
アクセサリー 【鋭敏のピアス】(睡眠・混乱・魔封・魅了」無効)
スキル:アギバリオン、マハラギダイン、ハマオン、ポムズディ、紅蓮の手刀(剣に炎を纏わせる) 火之迦具土、火砕裂破、火炎ハイブースタ
特殊スキル: 魔剣ヒノカグツチ(劣化)生成スキル*2
イヌガミ(LV30)
高級アガシオン(LV30)
反省を促すダンスで噂システムを無効化するのは、カオ転リスペクトのとあるやる夫スレからのリスペクトです。あれを見てなるほどなーと思ったので。