これはフィクションであり現実とは関係ありません。
8/19、皆さんからご意見をいただいたので、修正しました。
「うう……。疲れた……。マジで疲れた……」
何とか霊視ニキとの中層攻略を終えて、精神的にボロボロになりながら彼は自分の拠点である旧公民館へと帰ってくる。霊泉などによって、体力の回復などは地方などより遥かにいい山梨支部だったが、それでも精神的疲労ばかりはどうしようもない。
最近は、魚沼でも疲れを癒す霊泉は作っているが、やはり回復量が違うのはどうしようもないだろう。
ともあれ、帰ってきても彼には平穏はない。
静と市長たちなど政治部に大部分の書類仕事は任せたとはいえ、事実上のトップである彼が目を通さなくてはいけない書類は山のようにある。
「マスター。お疲れ様でした。とりあえずどうぞ」
『破裂の人形』はMH形態から人間の女性形態、高峯のあの姿になって、凍矢を抱きしめてヨシヨシする。
『破裂の人形』も疲労はしているが、それでもマスターのためならばこれぐらいはやって当然、というのがシキガミ界隈では常識である。
それを堪能した後で、静から長岡市シェルターお客様が来ていると聞いて、凍矢は疑問符を浮かべる。
はて、誰かな? と思いながら、女性になった『破裂の人形』の抱擁から抜け出すと客間へと向かう。
そこには、真っ白なスーツ、真っ白なコート、真っ白な帽子という、どこぞの錬金術師に出てきそうな風貌の30代の男性が存在していた。
「これはこれは初めまして黒札様。私、長岡市シェルターの副市長、金振と申します。以後よろしくお見知りおき下さい」
魚沼市の元市長から聞いた事はある。何でも若いながら私腹を肥やす悪徳政治家で、この終末の時にもうまく立ち回って自分の懐を肥やしているとか何とか。
正直顔を合わせたくない類の人間ではあるが、正式にアポを取ってきた以上合わなければならない。
心の中でため息をつきながら、彼は金振と客間でソファーに座りながら対面する。
「さて、回りくどいのはお嫌でしょうから、単刀直入に言いましょう。我々、長岡市シェルターにそちらからの支援を頂きたい」
それに対して、思わず凍矢の顔が引きつる。
(しばき倒すぞワレ。こっちだって金はないっちゅうねん!! むしろ借金を背負ってるっちゅうねん!!
タカるんならほかの黒札にしろよぉおお!!!)
わざわざ借金を抱えてるところに「支援してくれ」などと言われたらこうもなろう。そもそも長岡市にも何人かの黒札はいるはずだ。そちらに頼めばいい。
金振もそれは当然の反応だ、と困ったように頬を掻きながら返答する。
「ええ……。その……。長岡市の黒札様は少し変わったお方で……。『全部そちらにお任せしましゅうううう!! 何かあったら田舎ニキに!!』とのことで……。こちらとまともに話すこともできず……」
(ああ……。確か長岡市の黒札って『ぼっちちゃんネキ』だったっけ……。どちゃくそ強いくせに何であそこまで卑屈なんだろうか……)
「ぼっちちゃんネキ」←ここまで正式名称。
『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公『後藤ひとり』にそっくりの黒札女性である。
ギターで空気をかき鳴らして、疾風系のガルダインやら衝撃系のザンダインやら敵悪魔に対して叩き込んだり、音波で相手を魅了するマリンカリン*1、混乱させるプリンパなども行うことができるLV50台のれっきとした黒札である。
何なら、トライガンのミッドバレイ・ザ・ホーンフリークみたいに、自然音に対して音をぶつけ合って無音空間を作り出し、陰ながら悪魔に攻撃を仕掛けられるほどの凄まじい腕前だ。
だが、彼女には性格的に大きな問題がある。それは陰キャも陰キャ。とんでもないコミュ障であり、対人恐怖症といってもいいほどの性格である。
本当は山梨支部に籠りたかったらしいが、家族を説得できずに結局生まれ故郷の長岡市にそのまま居続ける事になったらしい。
(周囲の金札の仲間やライブハウスSTARRY(実際はガイア連合の下部組織)の力で何とか悪魔退治などを行っている)
(あと一人は……露伴ニキか。あいつはこういうの無関心だろうしなぁ……)
もう一人は岸辺露伴そっくりの「露伴ニキ」である。言うまでもなく、漫画以外興味を示さない彼が政治的なあれやこれやなどに興味を示すはずもない。
一応彼もLV50の黒札のペルソナ使いという貴重な人間ではあるが、自分の興味のためだけにしか動かず、スライムニキたちのマヨナカテレビ攻略などにも興味があるときしか動かないという筋金入りである。
自分の自衛やら都市に悪魔が侵攻したときやらは活動するだろうが、それ以外、政治的な事を行うなど死んでもやりたがらないだろう。
最近ではガイアアニメーションやら出版社やらと協力して、漫画をDDSに投稿できるピクシブならぬ「ガイシブ」にご熱心らしい。彼的には、現地人だろうが黒札だろうが悪魔だろうが、ガンガン面白い漫画を描いてくれたらそれで問題ないらしい。(もちろん本人もバンバン書いている)
「ボクは漫画という文化を愛しているッ! 心の底からね! その文化を続ける協力ならするが、それ以外はお断りだ! 面倒な事は君がやりたまえッ!!」とのことである。
ああいった手合いは自分の興味のある事だけやらせておけばいい。無理矢理やらせても無意味だと凍矢は知っているので、基本的にフリーにしている。
ともあれ、こんな奴らばかりでは、確かに凍矢の方にタカりに来たのは理解はできる。理解はできるが勘弁してほしいなぁ、と渋い顔を見せる凍矢に、金振はにやりと不敵に笑う。
「確かに長岡市シェルターは黒札様にご支援を頂いております。ですがまだまだ物資やオカルト武具などが不足しており……。下手をすれば、長岡市シェルターが崩壊の危機に陥るかもしれません」
長岡市の人口はおよそ26万人。新潟市を除く新潟第二の都市である。その都市シェルターが崩壊し、その市民がどこに流れ込んでくるか。
それは言うまでもなく、極めて近いこの魚沼である。
流石に26万人が一気に流れ込んできたら、それを受け入れるのに大混乱が生じるだろう。
最悪のパターンとして、支えきれずにこちらまで破綻してしまうという可能性がある。
「なるほど。確かにここは万全かもしれない。けれど、長岡市シェルターが崩壊してその人口26万人が魚沼に押し寄せたらどうしますか? あるいは、26万人全てが飢民となって侵攻してきたら? 押し寄せる女子供と戦えますかな?
そう、「悪魔の命を奪って平気なの?」ではなく、「人間の命を奪って平気なの?」と言った所でしょうな?」
(こ、こいつぅうう! 長岡市の市民を人質に取ってきやがった!!)
無理だ。凍矢も静も同じ判断をした。それは最早ただの内乱であり、人間同士の戦争でしかない。
例えば未覚生者だろうが、大量の女子供を人間の盾として、最前線に立たせて侵攻してくれば?
束縛や睡眠の魔術で無力化できても、そんな大量を一気に無力化するのは無理だ。
追い詰められた人間は何でも「やる」
最悪、女子供を守らなければならないという大義名分すら平気で捨て去るだろう。
人間は食うに困らないから人間でいられる。それがなくなれば、食料を漁るためにほかに侵攻し、平気で同胞の肉を貪り食らうケダモノへと変化する。
(残念ながら、長岡市とは霊道がすでに繋がっている。繋がっているのも善し悪しである)
それをさせないために、大都市のシェルターはきちんとある程度は衣食住を確保させなければならない。
つまり、その崩壊を防ぐために物資をよこせ、と凍矢にタカっている状況である。
確かに理屈は解るが、「破裂の人形」の機動性や飛行性能を生かした傭兵稼業やらシェルター防衛やら越後平野防衛やらダンジョン攻略やらを繰り返し、ようやく半分から1/3まで減らした借金。
長岡市を支援するということは、その減らした借金がまた多少増えてしまうということだ。
書類仕事を静や元市長たちに任せ、防衛などをほむらたちに任せ、傭兵稼業を頑張ってようやく半分から1/3まで減らした借金がまた跳ね上がるのは何としても避けたい、
ちらっ、と横目で静の顔を見ると渋い……とても渋い顔はしていたが、何とか理解はしてくれそうな顔である。
現地人嫌いの黒札がいたら、これだから現地人は、と吐き捨てそうな状況であるが、舌先三寸だけで物資を大量に掠め取ろうというその才覚だけは大いに評価するべきだろう。
「……分かった。で、そちらは何が必要なの?」
「全部!! 物資食糧武器弾薬全て!! 何もかも全て欲しい! ですな!! 私が生き延びるために! 皆から尊敬されるために!!」
おめーはどこぞの強欲のグリードかよ、と凍矢は心の中でつぶやくが、それを聞いた瞬間、静の眼つきが吊り上がって鬼神のような表情になる。
ぎりぎりぎり、と歯軋りの音がここまで聞こえてくるようである。どこからどう見ても女性がしちゃいけない顔をしていますよ静さん。
ともあれ、あちらが満足するような物をある程度供給して、きちんと長岡市シェルターを維持してもらないと困る。
「と、言うものの、タダで貪り取るというのも私が恨みを買うし、貴方たちガイア連合の心情も悪くなる。今回のお代は露伴ニキ?とぼっちちゃんネキ?が支払うと二人に許可は取ってあります。こちらが霊的な証明書になります。」
そう言って彼は証明書を差し出す。確かにきちんと二人のサインももらっている。
だったら初めからそう言えや、と言いたいのをぐっと我慢する。
ぼっちちゃんネキや露伴ニキが直接話をすれば早いのだろうが、彼らでは一般市民の必用とする物を把握できないからこうなったのだろう。
「ええと……。ともあれ、試作型簡易呪唱銃(ほむらが作り出したアギストーン版、慣れていないので威力にむらがある)の供給、呪殺効果のあるノロイ米の大量供給。
この辺なら安価でLV1の覚醒者にとっても十分な武器になるはずだ。
後は、新型の試作型動力機関『三宝荒神型火力発電炉』の提供と覚醒武具としての【戦術甲冑】の提供。
まずはもう一基の大ターミナルの支援、そして、新しい農業用向きの結界の支援。こんなところでどうかな? 何なら霊山同盟支部の『デモニカG3MILD』などの購入の窓口の紹介状を書いてもいい」
順調な輸出を示していたノロイ米だったが、地球が魔界に落ちた影響により、天使の無限沸きもなくなった事で需要が少なくなると凍矢は踏んでいた。
だが、そこで意外な需要が出てきた。それは例の猛烈な覚醒者需要である。
どこのシェルターでも覚醒者が急激に増えた結果、手ごろな武器が急激に不足しているのである。
そこで皆が目を付けたのは、ただ相手にぶつけるだけで敵に呪殺効果をもたらすノロイ米である。
銃や武器などと行った特殊な訓練など必要ない。LV1でもあれば使えて、ただ相手に投げつけるだけでいいのだ。
呪殺に弱い悪魔以外でも牽制程度にはなるし、きけばそれこそ儲けものだ。
それをまずは長岡市に供給し試してみて、有効ならどんどん他のところにも簡易な武器と売りつけようという魂胆である。
(なお海外では虚弱効果のあるノロイ酒も造れる、呪殺効果もあるノロイ米の輸出を絞るなんてとんでもない! と泣きつかれたらしい)
また『三宝荒神型火力発電炉』は、元々静たち九重家が崇めていた竈の神『三宝荒神』の力を活用できないかと考えた結果試作された炉心である。
ホノカグヅチと火という属性が被るため、崇められてはいてもあまり活用されていない『三宝荒神』だったが、彼はホノカグヅチとは異なる属性を持つ。
それは『竈の神』という属性である。竈=エネルギー供給源として炉心に転用できるのでは? 荒ぶるヒノカグヅチより制御しやすいのでは? という考えで開発された炉心である。おまけに不浄を焼き尽くす概念により周囲に結界を展開できる代物である。
新しい大ターミナルや結界は仕方ないにせよ、コストが非常に安いノロイ米や他には試作型兵器や試作型炉心を押し付けることで、試作型のデータを入手することで、少しでもこちらにとってメリットがあるようにしているのである。
できるだけ安く! または試作兵器を押し付け! 向こうを満足させてお帰り願う!!
これが凍矢と静が出した結論である。
「そんなこと知るかボケ」と蹴り飛ばすこともできたが、魚沼地方を守るためにも、長岡市には安定してもらわないと何かと困る。そのために結論としてこう至ったのだ。
「結構! いやいや実に結構!! ともあれ、黒札様には貸しを作ってしまった事も事実。この先政治的問題などありましたらぜひご相談を。私は役に立ちますよ」
脅して舌先三寸で物資巻き上げたくせに何言ってるんだコイツ、と思わず毒づきたくなったが、彼のその能力はきちんと認めなくてはいけない。
ここで貸しを作っておけば、いざという時の政治的問題に力になってくれるだろう……多分。
何だかんだで金振が満足して帰っていったあとで、凍矢は疲れたようにソファーに寝転ぶ。
「はー疲れた……。とりあえず、静的にはあいつはどう?」
「非常にわかりやすいタイプですね。自分が生き残っていい暮らしができればそれでいい。そのために周囲の人々の安定した生活を維持させるという……まあ、言ってはアレですが、ガイア連合の黒札様に多いパターンかと」
ですよねーと凍矢は心の中で呟く。
「まあ……わかりやすいということは、それだけ利用しやすいかと。向こうも必死でつかみ取った黒札とのツテは絶対に手離さないでしょうから、利用しまくってやればいいのです」
そうだねぇ、と言いながら、凍矢はイスに疲れたように寄りかかって溜息をつく。
だが、武装などを与えても今の彼らはそれを訓練してくれる人がいない。
ぼっちちゃんネキや露伴ニキが軍や霊能組織の指導や纏め上げなどできないことは見てみればわかる。
(餅は餅屋。そこは現地民の戦力指導の専門家、ニヒトニキ*2に頼んで何とかしてもらおう。何かいい感じによろしく! と丸投げしても彼ならなんとかしてるやろ。面倒なことは他人に丸投げする。それが生き残るコツやで!)
そんな風に寝転がっている凍矢に対して、人間形態になった『破裂の人形』は申し訳なさそうに、凍矢に話しかけてくる。
「お休みのところすみません。ところで……。『浦野牧』シェルターから新しく難民たちが到着したのですが、どうしましょうか……」*3
(う、馬ニキィイイイイイイイイ!!)
思わず彼は心の中で絶叫した。*4