式波?惣流?まぁ今さら、どっちでもいいわ。
とにかく、アタシの名前はアスカ・ラングレー。
燦々と輝いていた太陽は分厚い雲の上。薄暗い空の下は気温が一気に下がり、冬が来たんだなぁって、なんとなく実感する。
「さっむ・・・・・・」
アタシは赤くなった指先を擦り合わせ、はぁっと息を吹きかけた。すぐにまた冷えちゃうけど、気を紛らわす程度には効果があるみたいね。
あのバカの起こしたネオンジェネシスから、もう2年近く経つ。第三村のみんなとの生活を始めてから迎える、二度目の冬。この時期は収穫も終わり、みんなは農作業ではなく、冬籠りの準備をする。ガソリンや油といったものは貴重品なので、もっぱら男衆は薪拾いに出掛けているみたい。
今日のアタシは休みをもらってる。第三村の端っこの、アタシだけの小さなボロい一軒屋。雨風は凌げるけど、この寒さだけはなんともし難い。石油ストーブを使おうか、それとも薪を燃やして暖を取ろうか。ちょっとだけ悩んでから、アタシは石油ストーブを使う事に決めた。
今日のアタシはすこぶる体調が悪い。・・・・・・生理が来てんのよ。エヴァの呪縛に囚われてる間は無くなっていた生理。14年振りに訪れたソレは、元の健康な身体に戻って嬉しいハズのアタシにとって、「戻らなきゃよかった」なんて言わせる程に辛いものだった。こんな辛かったっけ?
というわけで、今日のアタシはなるべく体力を使いたくない。石油ストーブのスイッチをカチカチと回す。なんて簡単なんだろう。薪の場合は、アレ、火が着くまでは結構重労働なのよね。
重い体を無理やり動かして、布団をストーブの横に運ぶ。暖が取れる場所まで着いたと同時に、アタシは布団の上に崩れ落ちた。
「寒いしキツいし、ほんっと最悪・・・・・・」
誰に言うでもなく、アタシは悪態をついた。まぁ元気がないんで、呟く程度でしかないんだけどさ。
ネオンジェネシスが終わって第三村に戻ってきてから、アタシはケンケンの家を出た。アタシの体が成長しないのを気味悪がず、長い間アタシに付き合ってくれたケンケンには申し訳なく思うし、あの家の居心地の良さを捨てるのには相当悩んだんだけど・・・。
でもやっぱり、アタシは諦めきれないみたい。
あのバカをもう一度、今度はガラス越しではなく直にブン殴る。その想いは、日に日に強くなっていった。
最初の頃は村に残っている貴重な車を無断で拝借し、ほうぼうを探し回った。まあ、そのあとケンケンや鈴原、おまけにヒカリにまでこっ酷く叱られたけど。その後ろでレイが赤ん坊のツバメをあやしているのが見えて、なんだか恥ずかしくなったのを覚えている。
結局、どれだけ探しても、あのバカもコネメガネも見つける事はできなかった。
第三村で迎えた最初の冬。とうとうアタシは観念して、村の仕事を手伝う事にした。物資なんかはケンケンが気を遣って時々持ってきてくれていたけど、WILLEの一員として生還したアタシが働かないのを、よく思わない人たちも結構いるらしい。アタシのワガママでケンケンの株が下がるのは、なんか嫌だったから。
リツコやサクラに仕事を貰いつつ、その日暮しの生活に慣れてきた頃、アタシは自分の変化に気付いた。
だんだん、大人の体になってきている。あの日、海岸で横たわっていたときの、年相応のアタシの身体に。
14年間分の成長が、一気に訪れた感じ。それはある意味で嬉しい事なんだけど・・・・・・。
「アタシ、歳をとったのね・・・」
通算で、29歳。大人として肉体が成長した事を喜ばしいと思う反面、アタシは、あのバカとまた歳が離れたような気がして、それが物凄く悲しかった。
そして、今年の12月4日。今日、アタシは30歳の誕生日を迎えた。寂しいボロ屋で生理の辛さと寒さに耐えながら、1人で迎える誕生日。
・・・・・・泣けてくるわね。ホント、マジで。
あとでヒカリ達やケンケンが来てお祝いしてくれる事になってるけど、正直、楽しめるかどうかは微妙な感じよ。
「ホント、どこ行ったのよ。シンジ・・・」
あんたさえ側に居てくれれば、アタシはきっと、笑っていられると思うのに、なぁ・・・・・・。
いつの間にか眠ってたみたい。アタシは夢うつつで寝返りをうつ。
それにしてもヤケに寒いわね。昼間はまだなんとか耐えられたんだけど。
布団、増やそうかな?
でもまだ出たくないなぁ・・・。こういう時って、気合いが必要になるのよね。気合いっていうか、寒さに耐えるための、覚悟?
うぅぅぅ・・・。出たくない。でも寒い。ストーブはまだ点いてる。でも足りない。ああ、足先がどんどん冷たくなってくるぅ。
ちくしょー・・・・・・なんなのよ、もう!
ええい!出ちゃる!いくわよアスカ!
1、2の3で飛び起きて・・・・・・!
『アスカ。雪だよ』
アタシは跳ね起きた。
「・・・・・・シンジ?」
急いで辺りを見回す。誰もいない。
幻聴?夢でも見てんのかしら。それにしてもちょっと重症すぎない?あのバカの声が聞こえ始めるだなんて。
そんな考えを、頭を振って外に追いやってから、なんとなく窓の外に目を向けてみた。
「・・・・・・雪だ」
窓の外で、粉雪がチラチラと舞っていた。
少し早い、冬の到来。アタシは窓に近づいて外を眺める。
ふと、気になって、アタシは家の中をぐるりと見渡してみた。
アタシの布団。枕元に置いてある、見覚えのある、懐かしい包み。
シンジの、お弁当・・・・・・・・・・・・?
もう一度、バッと窓の外に振り返る。今度は目を凝らして。粉雪の向こうに誰かいないか、アタシは必死に探した。
「あのバカ・・・・・・!」
アタシは家を飛び出した。靴を履いてる時間すら惜しい。いつから降っていたのかわからないけど、外は軽く雪が積もっていた。冷たくて柔らかい感触を足の裏に感じながら、アタシはひたすら走り続けた。
「あのバカ・・・バカ・・・・・・バカシンジ!」
小さな林へと続いている道の脇には、錆びついて放り捨てられた可哀想な自転車。少し雪を被った姿が寒そうで。
その道の先に、あのバカはいた。
「逃げんなゴラァッ!!」
シンジがビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこちらに振り返る。
・・・・・・ったく。なんて顔してんのよ。
イタズラが見つかったガキじゃあるまいし。目が泳ぎすぎ。
なんて顔してんのよ。目尻に涙なんか溜めてさ。その泣き笑い。やめねさいよね。
観念したようね。ほっぺたなんかポリポリかいちゃってさ。
さってと!こっちには言いたいことがたっくさんあるんだから!
「・・・・・・・・・・・・あ」
・・・どうしよう。言葉が出てこない。
胸がぎゅうっと締め付けられて、苦しくて、涙が込み上げてくる。
あんなに、あんなにたくさん言いたい言葉があったのに・・・。
アタシ達の間を強い風が通り過ぎて、ブワッと粉雪が舞う。同時に、シンジの姿が雪に紛れそうになった。
「待って!」
違う!バカ、そうじゃないでしょアタシ!?
でも、今止めないと、シンジが行っちゃう!
『アスカ』
シンジの声が、耳元で聞こえた気がした。
『⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎・・・・・・』
一際強い風が吹いて、アタシは思わず腕で顔を庇ってしまった。
急いで腕をどける。
シンジの姿は、もう、どこにも無かった。
夢?
・・・・・・はぁ。アタシってホント肝心な時にやらかすのね。
それとも、アタシがあいつに相当お熱ってとこなのかしら?まあ、いまさら否定はしないけど。
それにしても、あのバカ。
「聞こえなかったわよ・・・・・・」
落胆したアタシの言葉が白い息となって吐き出される。
でも、アタシの心は少しだけ暖かい。
あいつがなんて言ったかは、わかってたから。
「次は目の前で、はっきりと言いなさいよ?前みたいに過去形なんかにしないで、さ。バカシンジ」
暖かい涙が、アタシの頬を伝っていく。
「来年も、お祝いしてよね」
道の向こうから、車のヘッドライトが近づいてくるのが見える。たぶん、ケンケン達だろうな。
今のアタシなら、今日のお祝いは、きっと楽しめると思う。
「またね、シンジ」
アタシは笑顔で、また会うためのおまじないを口にした。
来年もきっと、シンジが来てくれると、そう信じて。
来年の誕生日につづく
槇原敬之さんの「北風〜君にとどきますように」をテーマにさせていただきました。
今の季節にピッタリな、ラブソングです。
よければ聞いてみてくださいね。
アスカ。誕生日おめでとう!!