記憶の彼女はいつもなにかに脅えていた。初めてまともに会話したその日に彼女は自分の手を、腹を刺して泣きながらも僕らを助けてくれた。高校に入って体育祭で彼女の凄さを目撃した。だからか勘違いをしていた、この人は凄い人なのだと、自分に立ち向かえる強い人なんだと、そう勘違いしていた。この人は昔も今も誰かの為に飛び出して来てしまう、誰かを傷付けることが嫌なのに自分が傷付く事は厭わない、酷く優しい子だ。あの時のお礼はまだちゃんとできていなかった。だから今度は僕の番だ。
「もう大丈夫!僕が来た!!」
「ハァ…やはりいいなお前!」
ヒーロー殺しの個性が切れた。緑谷よりも先に飯田とプロヒーローが個性にかかっているため、動きを止めた順番で解ける訳では無い。理由を考えると可能性は3つ浮かんでくる。1つは、人数によって時間が短くなる。2つ目は、個性発動時に血を舐めていたため摂取量で時間が変わる。3つ目は、血液型で変わる。ということ。
「血液型…僕はAだ…」
「俺は…B」
「血液型…ハァ…正解だ!」
ご丁寧にヒーロー殺し本人から個性を教えられる。血を経口摂取しなければならないこと、不確定要素が多すぎる点からして特別便利な個性ではないのだが、それでもプロヒーローを含めた4人のヒーローをたった1人で相手して見せていることから、かなりの実力があるのがわかる。
『切裂さん!!?どうしたの!?返事して!!』
「「「!!!」」」
「(アレは切裂さんのインカム!アレなら助けを呼べる!!)」
緑谷に抱えられた際に落ちてしまったインカムから声が聞こえた。一瞬だが意識がそちらにむく、その隙をヒーロー殺しが見逃すはずがない。轟へとナイフを投擲すると同時にインカムを破壊をした。恐ろしい対応力だ、1つ1つの行動が2択3択を迫ってくる。
「何故…緑谷くんも轟くんも…切裂くんも何故だ…やめてくれよ…兄さんの名を継いだんだ…そいつは僕が」
「継いだのかおかしいな…俺が見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな」
轟が氷結で防ぎながら攻撃を仕掛けるがむしろ視界を塞いでしまい、投擲されたナイフが腕に数本刺さってしまう。一方緑谷は近接戦闘でヒーロー殺しに攻撃を仕掛けていたが、足を切られ刃についた血を舐められ動きを止められてしまう。
「やめてくれ……僕は…もう」
「やめて欲しけりゃ立て!!!
なりてぇもんちゃんと見ろ!!」
恨みつらみで動く人間の顔をよく知っている轟だからこそわかる。視野をどれだけ狭めてしまうのかを、簡単な事さえ見えなくなってしまう事を、緑谷に言われて気付かされた轟本人だからこそ言える言葉。飯田に対しての、かつての自分と同じ顔をしている友人にかけられる唯一の言葉だった。
「(なにがヒーロー…友に守られ血を流させ怯えさせて!!入試の時から何も変わっていない自分の事しか見れちゃいない!…今ここで立たなきゃ二度と!!彼らに兄さんに追いつけなくなってしまう!)レシプロ!バースト!!」
轟に迫っていた刃を飯田が蹴りでへし折る。時間によりヒーロー殺しの個性が解けたのだ。そしてそのままもう一撃をヒーロー殺しへ入れる。
「みんな関係ないことで…申し訳ない…だからもうこれ以上血を流させるわけにはいかない」
「感化されとりつくろおうとも無駄だ人間の本質はそう易々と変わらない、ヒーローを歪ませる社会のガンだ、誰かが正さなければならないんだ」
「お前の言う通りさ…それでも折れる訳にはいかない…俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」
「論外」
その言葉と同時に轟が炎で攻撃を仕掛けるが避けられる。狙いはプロヒーローと飯田なので戦うよりも逃げるべきなのだが、そうはさせて貰えそうにない。
「この人だけでも連れてく!」
「切裂!?お前無茶すんな!!怖くて動けてなかっただろ!!」
切裂がプロヒーローを連れてはしっていこうとする。怖くないわけが無い、今だって体が震えている。足にはまともに力が入らない。普段なら男性だろうと抱えて離れるくらいならできるだろうがそれすらできない。恐怖で動かない体を無理やり動かしているに過ぎない。そんな人間を見逃すわけがなくヒーロー殺しは切裂へと狙いを向ける。
「ッ!(こっち来た!!大丈夫個性を使えば私は傷つかない!友達を助ける為に使え!!)」
切裂の個性であれば怪我はヒーロー殺しが負い、切裂からは血が流れない。完全にヒーロー殺しに強く出れる個性である。言うなれば最強の盾になれる個性である。しかし
「(アレ?個性が…発動しない!!?)ッ!あぶな!!」
「よそ見してんじゃねぇ!!」
「轟君!?」
ヒーロー殺しの刃をギリギリで避ける。そこへ轟が切裂達を助けるように炎をくり出す。右手側では飯田の脚を凍らせている。
「(脚を凍らせて…いや冷やしてる?エンジンの故障?どちらにせよこんな時にしてるんだから何かあるんだ…バレたら確実に狙われる…なら)」
「!貴様!!」
自分の首筋へとナイフを当てる。プロヒーローのもとへ駆け寄る際にヒーロー殺しが投げたナイフを回収していた。雄英体育祭で見せている切裂の個性アレを見たのなら必ず警戒するはず、とは言え先程のヒーロー殺しの攻撃は切裂の個性を警戒したものではなかった。だが、どんな人であろう目の前の人物が突然こんな事をすれば一瞬目が向くだろう。
「(ハッタリ!!)」
「レシプロエクステンド!!」
「お前も止まれ!!」
「飯田!!」
「(腕など捨ておけ!!今は
脚があればいい!!!)」
飯田の渾身の蹴りといつの間にか動けるようになっていた緑谷が拳を叩き込んだ。そのまま轟の氷結でヒーロー殺しを捕まえる。ついでに空中にいた飯田と緑谷を回収する。その時既にはヒーロー殺しは気絶していた。武装を解除し拘束する。ゴミ置場ということもあって意外となんでもあった。
「あっ、轟君私が持つよ」
「いや、俺が引こう轟くん」
「お前腕ぐちゃぐちゃだろ…後切裂、ブラフだとしてもああゆうのはやめろ」
「うっ…ごめんなさい」
先程の首筋にナイフを当てたことを轟に叱られる。ブラフだったとしても命を粗末にするような行為なのだから褒められたものでは無い。
「む!?うなっ…何故お前がここに!!!」
「グラントリノ!!!」
緑谷の職業体験先のヒーローのようだ、出会い頭に緑谷の顔面に蹴りを入れていた。グラントリノの登場を皮切りに続々とヒーローが集まってくる。飯田達の様子を見るやいなや救急車を呼んでくれた。その時
「伏せろ!!」
「何あれ!?」
脳みそを外に出し翼を生やしたヴィランがこちらへ飛んできた。血を垂れ流しているので恐くやられて逃げてきたのだろう。緑谷をつかみそのまま上空へと飛んで行った。あっという間に高く舞い上がっており、切裂の個性の範囲からも抜けてしまっていた。
「偽物が蔓延るこの社会も徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ…ハァ…ハァ…全ては正しき社会の為に…正さねば誰かが…血に染まらねば…こい偽物共…俺を殺していいのは
ヒーロー殺しがヴィランの血を舐め動きを止め緑谷を助けた。動きを止められたのはそのヴィランだけだ、しかしその時動けた人は誰1人いなかった。