吾郎ちゃんがウマ娘世界でご飯を食べるおはなし。

本日18時に公開。

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『東京府中商店街の日替わり爆弾からあげ定食とお肉屋さんのコロッケ』

 

東京、府中。

 

 

(お~、久しぶりに来たなぁ。レースの本場、府中。)

 

 

北府中駅から降りてくるスーツ姿の男性。細身ではあるが肩幅、身長共に大きく少しやせた大男の印象を覚える彼。書類鞄を片手にゆっくりと歩を進める。

 

 

(前に来たのはいつだったか……、あいにくレースには無縁の人生を送って来たからなぁ。ま、そんな男に依頼が転がり込んでくるってのは面白い話だ。)

 

「ふっ。」

 

 

少々強面なソレが頬を緩ませた彼が選ぶのはトレセン学園への道。職業・個人輸入雑貨商、一体どんな用でそこへ向かうのか。

 

 

 

 

◇ー◆ー◇ー◆ー◇

 

 

時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たす時。

つかの間、彼は自分勝手になり自由になる。

誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為。

この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の癒しと言えるのである。

 

 

孤独のグルメ

 

 

『東京府中商店街の日替わり爆弾からあげ定食とお肉屋さんのコロッケ』

 

 

◇ー◆ー◇ー◆ー◇

 

 

 

 

(うぉー、噂には聞いていたけどやっぱりすごい大きいな。ここまでの道寮がずらっと並んで校舎もでかい。)

 

 

彼が通ってきた道はウマ娘たちが毎日通学に使う歩道、朝や夕方の時間帯となれば全速力で走るウマ娘たちが見られるある意味聖地のような場所である。しかしながら今の時間は昼過ぎ、団地ほどの大きさを誇る寮も非常に静か。聞こえてくる声は少し離れたグラウンドから響く掛け声のみだ。

 

 

(結構距離あると思うけどここまで聞こえてくるとは……、頑張れ、若人。)

 

 

「もしかして井之頭さんですか?」

 

「あ、はい。井之頭ですが……。」

 

 

彼に声をかけたのは学園の校門に立っていた女性、緑色のスーツで身を包み同じ色の帽子を頭にのせている。

 

 

「今回ご連絡させていただきました駿川と申します。」

 

「あ、これはどうもご丁寧に。……改めまして、井之頭と申します。」

 

 

鞄を脇に挟み、取り出した名刺を差し出す彼。同様に目の前の女性も名刺を返しそこには『中央トレセン学園理事長秘書 駿川たづな』との文字。今回の依頼は知人からの紹介で、学園関係者からの依頼ということは知っていた。

 

 

(秘書さんだったのね。……にしてもこの人、なんだかすごく強そうだぞ?)

 

 

失礼にならない程度に目の前にいる彼女を観察する。学生時代田舎で古武術をやっていたせいか何となくその体つきから大体の強さというか、この人鍛えてるな、というのは解る彼。目の前の駿川を名乗る女性に対して、その感覚がかなり鋭く反応している。もしかしてウマ娘なのか? という思考がよぎるがそうであるならばわざわざ耳と尻尾を隠す必要があるだろうか? トレセン学園の中にウマ娘の秘書がいても気にするようなことではないと思うのだが……。となると普通のすごく鍛えてる人間ということになる。

 

 

(気のせいかな? それにしてもやはり、人間がウマ娘を相手するとなると鍛えないと大変なのかな?)

 

「では、どうぞ中へ。」

 

「あぁ、はい。どうも。」

 

 

ウマ娘の学校に勤める人間の大変さを考えながら、彼女に連れられ学園へと足を踏み入れる。

 

 

「……にしても、すごい大きい場所ですね。トレセンというものに初めてきたものですから、スケールに圧倒されてしまって。ここまで来るとき見た寮も非常に大きくびっくりしてしまいました。」

 

「あぁ、そうでしたか。確かに私も初めて見たときは大きくてびっくりしました、でもやっぱり皆さんウマ娘ですから、ある程度大きなスペースがないと大変なんですよ。基本みんな走っちゃいますからね。」

 

「なるほどぉ。」

 

 

ちょっと視線をずらせば生徒たちが結構な速度で校内を移動している。人間には決して出せない速度だ、確かにあれだけの速さであの寮に収まるだけの生徒が生活しているとなると大分空間がないとぶつかってしまうだろう。何かの例えで『ウマ娘は自由自在に動く軽自動車、気を付けないと骨折じゃすまないぞ!』という言葉があった気もする。

 

 

(そういう前提で設計されてるんだなぁ。)

 

「まぁそれ以外にも大きい理由がありまして……。ウチの理事長が浪費家ということがあってですね、昨日も急に『決定! ウマ娘専用のスパ施設を建設するぞ! 近くの土地を購入してくるのだ!』と仰って止めるのが大変だったんですよ……、いやほんとに。」

 

 

(……なるほど、大きいのはそういう理由もあるのか。にしてもスパ施設を建てるために土地を新たに買う、か。やっぱりトレセン、金持ってるなぁ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今回は調度品の新調ということで、椅子・机などの来客用に使えるような家具や、花瓶・壺・絵画のような部屋を彩るものを中心にリストアップさせていただきました。かなり幅広く、ということでしたのでその分資料も多くなってしまいましたが……。」

 

「いえいえ、大丈夫です。お願いしてからまだ数日ほどですのにこれだけのものを……、さっそく見させていただきます。」

 

 

書類鞄から取り出した大きな書類束を手渡す彼、一応手持ちのノートパソコンにも同じデータが入っておりそちらでも見られるようにしてあるのだが依頼人の希望から紙の資料を用意した。量が量であるので結構重かったが……、久しぶりの上客。ちょっとぐらいの苦労なら問題はない。

 

 

(にしても理事長室に案内されるとは……、学園の規模も大きいし応接室ぐらいありそうなものだけど。それにこの部屋もそこまでお金かかってなさそう。仕事用の部屋だったりするのかな。)

 

 

彼女に案内されたのは理事長室、この部屋の主である理事長本人は別件で席を外しているようで顔を合わせることはなかった。まぁそれは別にいいのだが、気になることが複数。理事長と書かれたプレートのある机、そしておそらく目の前にいる緑の彼女の机。その二つにこれでもかと置かれた書類。紙の束というよりも柱と言った方がよいソレ。

 

 

(激務、って噂に聞いてたけどここまでとは。こんな書類の量、テレビでしか見たことないぞ!?)

 

「うん、うん……。全部すごいいいですね! やはり樫本さんに紹介していただいてよかったです!」

 

「ありがとうございます……、あの、よろしければ家具などを置かれる部屋の方見せていただくことは可能でしょうか? 資料の量が量ですから、こちらである程度仕分けさせていただこうかと……。」

 

「あ~、はい。やっぱりそうですよね……。」

 

(あれ、すごく目が泳いでる。なんや変なこと言っちゃったか俺?)

 

 

明らかに狼狽した様子を見せる彼女、自身の発言した内容を一つずつ思い出し確認する彼だがおかしなところは思い至らない。そうやって少し思考を回しているうちに、観念したのか少々声を低くして話始める彼女。

 

 

「あの、誰にも話さないでいただきたいのですが……。」

 

「は、はい。」

 

「実は先日一生徒の……、いや生徒たちのイタズラ?がちょっとひどいものになってしまいまして……。」

 

 

彼女の話を要約すると、

 

とある科学・化学・薬学に精通した白衣の似合う生徒がとある薬品を製造。詳しい効果については解らなかったがなんでもウマ娘の生徒たちにとってはどうしても欲しかったものらしく、争奪戦が勃発。なんやかんやで何故か学園一の問題児である葦毛でイカした帽子をかぶる長身の彼女が薬品を確保。『飲んだ後一番最初に見た異性を好きなる薬って……、さすがにコレ廃棄しねぇとヤベェだろ。』とのことでそのまま容器を破壊、地面へと薬品を廃棄したのは良かったのだが……。

 

運悪くその近くに学園の空調システムに繋がる通気口があったらしく、その薬品から生じたガスが応接室を中心としたお部屋に充満。もちろん本来の理事長室にも充満。

 

 

「幸い誰もいなかったので被害はなかったのですが、応接室などの来賓用の棟が全滅してしまいまして……。部屋の調度品。壁・天井含めて全部虹色に発光。現在大改装に向けて準備中なんです。」

 

「な、なるほど。それで私に。」

 

「はい、もうどうしようもないほどに虹色なのでもう吹っ切れちゃいまして……。せっかく樫本さんから良い方をご紹介していただいたものですから、家具に合わせて部屋を作り変えちゃおうかと。」

 

「そうでしたか……。」

 

(すごくたくましい根性。にしても虹色に光る部屋。……ちょっと見てみたいかも。)

 

 

資料を高速で読み進めながらそう話す彼女、正直色々突っ込みどころがあった話だがウマ娘という神秘的存在が巻き起こした騒動だ。多分普段の常識は通用しない、郷に入れば郷に従えの精神で何とか受け流した吾郎。でもやっぱりちょっと現実離れしてるので逃避しちゃうのはしかたないかもしれない。

 

 

「……はい、こちらで全部ですね! いや、本当にいいものばかりで大変良かったです。……あ、こちらの資料色々かき込んじゃったんですけど大丈夫でしたか?」

 

「あぁ、はい。もちろんです。」

 

「そうですか、良かった~。あ、ではこちらの資料に〇を書かせて頂いたもの全部、お願いしたいと思います!」

 

「…………え?」

 

 

今、なんと?

 

 

「? はい、ですから全部お願いします。」

 

「ぜ、全部ですか!?」

 

「はい、さっきお話しした通り部屋が全滅しましたので……。」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

「本日はどうも、ありがとうございました、来週の末にはすべてこちらに到着するよう配送させていただきますので。」

 

「わぁ! ありがとうございます! お手数おかけしますがよろしくお願いいたしますね!」

 

 

商談も纏まりひと段落。理事長室を後にした二人は校門前まで移動していた。片方は良い家具をまとめて入手出来てニコニコ顔。もう片方は大量購入ということもあり多少値切られたがそれでもかなりの上客、懐に入る額を考えれば少し頬が緩むのも仕方ない。

 

この後は仕事もないし、これだけの大量注文で上客。どこかのカフェにでも入って仕入れ先や配送会社にメールしてしまおうと思いながら別れの挨拶をしようとしたとき。二人のいる校門に向かって二人のウマ娘が走ってくる。

 

 

「あ~! 会長! もうこんな時間だよ~ぉ! レースもう始まっちゃうじゃん! 仕事なんて置いて行こうって言ったじゃんかぁ!」

 

「む、そうは言ってもなテイオー。生徒会長としてやるべきことはしっかりとせねば皆の模範たるものには……。」

 

「いつもそう言って~! 僕知ってるもんに! エアグルーヴが言ってたよ! いつも仕事抱え込み過ぎて困ってるって! だから今日ぐらいお休みにして見に行こうって言ったのに!」

 

 

どうやらこの学園の生徒会長と、話し方や背格好を見るにその後輩のようだ。それに、レースにそこまで興味がない自分でも見たことのある顔。名前はわからないが良く駅の広告とかでよく見る二人だ。

 

 

「あ、たづなさん! ……と、ダレ?」

 

「はい、こんにちはテイオーさん。こちらは輸入雑貨商の井之頭さんです、先日の例の件でダメになった調度品をご用意してくれる方です。」

 

「どうも、井之頭です。」

 

(むむ、もしかしてコレ。すごいことなんじゃないか?)

 

 

実際、そうである。唯一の無敗三冠ウマ娘に無敗二冠ウマ娘。シンボリルドルフとトウカイテイオーにたまたま仕事先で会って会話するなど、無茶苦茶の豪運。彼女たちのファンならば『いくら出せば代わっていただけますか?』と言いながらトン単位の金塊を投げてくるぐらいには豪運で、羨ましいことである。

 

 

「あぁ、アレかぁ……。」

 

「初めまして、シンボリルドルフです。今回はわざわざご足労いただきありがとうございました。」

 

「ありがとね~! ……ってそんな場合じゃないよ会長! 遅れそうなんだってば! ほら早くはやくーぅ!」

 

「むっ、すまない。たづなさん、井之頭さん。失礼します。」

 

「はい、お気を付けて~。」

 

「じゃあねぇ~!」

 

 

(はは、まるで嵐のような子。休日に子供に振り回されるお父さんみたいになってる。)

 

 

苦笑いしながら手を振る吾郎、その視線の先には会長の服の端を思いっきり引っ張るテイオーに、それをなだめながら進むルドルフの姿があった。

 

 

(お父さん、じゃないけどあぁいう後輩がいたら大変だな。でもまぁ自分を慕ってくれる後輩ってのは疎ましさよりも、その頼ってくれることに心地よさを感じるんだよな。昔、古武道やってた時の奴らは今何してるだろうか。)

 

 

二人を見送りながら過去に浸る、故郷の風景に自身の高校時代。がむしゃらに前に進み、友と共に夢を語る。それに昔は今よりも動いていたせいでたらふく食べていた。昼飯の弁当を朝練の後に食べ、昼には食堂でこれでもかと盛られた飯をかき込む。

 

 

(あれ、なんだか昔を思い出してたら急に。ガクンと)

 

 

(はらが、へった。)

 

 

 

 

テン

 

 

 

テン

 

 

 

テン

 

 

 

 

「あ、そうだ井之頭さん! この後お暇でしたらレースの方いかがですか? ちょうど今日は秋の天皇賞ですしちょっと走れば間に合う……」

 

「すいません、少々急用を思い出しまして。失礼いたします!」

 

「は、はぁ……。今日のレース! イクイノックスさんが注目ですよぉ~!」

 

 

大男が、府中を駆ける。

 

 

(レース場グルメ、モツ煮をはじめとして麺類や揚げ物じゃ収まらずちょっとお高い店も東京レース場にはあるって聞く。だが今日の腹はそうじゃない。メシだ、メシをかき込みたい。これでもかと盛られた白い茶碗が俺を誘惑してならない。)

 

 

それに、天皇賞という名誉あるGⅠにもなると観客の数はすごいことになる。今から駆け込んだとしても人の波にのまれ、レース場で遭難。何も口にすることなく餓死してしまう。絶対にそれは避けないといけない。

 

獲物をご飯へと定めた彼は、今日ここまで来るときに使った道をそのまま早足で引き返して行く。腹の減り具合と連動して速度が上がるその足はより加速。ウマ娘のスピードにも劣らないそれは学園の敷地を飛び出し、少し開けた場所へと彼を連れていく。

 

しかしながら速度を出し過ぎた、足の回転を維持しながら鷹のように獲物を探すその行為は必要以上にカロリーを消費してしまう。一歩一歩足を進めるごとにどんどんハラが飯を求めてくる。これはまずい、非常にまずい。

 

 

(いや、早まるな俺。落ち着くんだ。)

 

 

逸る足を何とか意思の力で押しとどめ、立ち止まる。

 

 

(闇雲に探したって飯屋が見つかるわけもない、ウマ娘たちみたいに無限の速度とスタミナを持たない俺では限界がある。感覚を研ぎ澄ませ吾郎、山盛りご飯が食べれそうな場所を察知するんだ。)

 

 

トレセンがある区画から抜け出したとは言え未だ見渡す限り住宅地、カフェらしきものは発見できたが求めるのは飯、定食屋みたいなご飯が食べられるような場所。少し前までは作業をしようと考えていたが、今も空腹という主張を止めぬ腹を放置して仕事などできるはずもない。

 

全ての感覚を研ぎ澄ませ、情報を探す吾郎。そんな時、彼の耳に飛び込む声。

 

 

「ネイチャ! コロッケ! コロッケ買お!」

 

「お~? ターボさん好きですねぇ。」

 

「うん! ターボ商店街のコロッケ一番好きだもん!」

 

「確かにあの肉屋さんのコロッケおいしいもんねぇ……。じゃ、みんなの分も買って帰るとしますか!」

 

 

瞬間、吾郎に電流走る。

 

 

(商店街、それだ!)

 

 

商店街、なんと素晴らしき響きか。しかも彼女たちが向かっていった方向へと目を向けると自身を商店街へと連れて行ってくれる看板までそこにある。『ここから300m直進後、右折』すごく丁寧だ。それに商店街ともなれば飯屋があるはず。

 

 

(こうしちゃいられない、商店街ステークス。距離300m右回り・腹状態不良の始まりだ。)

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

(おぉ、ここが府中商店街か……)

 

 

彼の視界に収まるのはトレセンの近くにある商店街、ただ突っ立ってるだけでもおいしそうな匂いが鼻孔をくすぐる。時間はちょうど日が沈み始めたころ、夕飯を探すサラリーマンや夕飯を用意するために食材を探す主婦などが見える。

 

 

(よし、じゃあ早速飯屋を……、おん? なんだあれ。)

 

 

商店街に入ってすぐのところに何かしらの食事ができそうな店を発見する彼、ちょうど店主らしき女性が暖簾を上げ店を開けようとしている。

 

 

(『あなたのごはん屋さん』……? もしかして大当たり引いちゃったか!?)

 

 

木製の立て看板に墨で書かれた店名らしきもの。比較的新しくできたように見えるその店はこの商店街の雰囲気にのまれず、確固としたものを持っているような雰囲気だ。それに店主らしきウマ娘の女性の雰囲気もただ者じゃない。

 

そして何よりも店の外からでもわかる米の香り、さっきから感覚を最大限研ぎ澄ませていたからこそ解るほのかな甘い匂い。炊き立てご飯がそこにある。もう我慢できない。

 

 

「いらっしゃい! ちょうど今始めたところだよ、食べてく?」

 

「はい、ぜひ!」

 

「あいよ! 好きなとこ座っちゃって!」

 

店主に連れられ中へと入る。

 

 

(おぉ……、なんというかザ・食堂って感じだ。カウンターにテーブル席、そして何よりもこの部屋中を包み込むご飯の香り。こりゃぁもう我慢できないぞ!)

 

 

「はい、コレ水とお手拭きとメニューね。決まったら呼んで。……あ、あと今日の日替わりは爆弾からあげだからおすすめ。ご飯に合うよぉ?」

 

 

(ば、バクダンからあげ!? なんとも魅惑的な単語じゃぁないか!)

 

 

「すみません。その日替わり定食をいただけますか?」

 

「あいよ! ご飯の量は……、大盛りでいいかい? 飲み物はどうする。」

 

「あ、じゃあ……、ウーロン茶で。」

 

 

注文を受け取り、カウンターの奥にあるキッチンへと戻っていく店主。早速冷蔵庫からタッパーに仕込んである鶏肉を取り出しからあげの準備を進めている。自分以外人がいないし、運ばれてくるのも早そうだ。そんなことを考えながら、メニューへと姿勢を正す吾郎。爆弾からあげの魔性に惹かれてしまい何も見ずに決めてしまった、この腹減り具合を考えるにもう一つ何か欲しいところであるし、メニューを眺める時間というのも乙なものなのだ。

 

 

(にしても、何も聞かれずに大盛りにされちゃったな。そんなにハラペコな顔してたかな? ふ、さてさてメニューには何があるかな?)

 

 

ゆっくりとメニューを吟味する彼、店主が進めてきた日替わり定食はやはりおすすめのようで最初のページにまるで王者のように鎮座している。

 

 

(うわ! おっきぃからあげ! 日替わり爆弾定食、迷ったらこれ。なるほどぉ。爆弾の中身が毎日変わり基本牛・豚・鶏のルーティン。牛の爆弾や豚の爆弾も気にならないわけじゃないが……、やっぱり山盛りご飯にはからあげが一番合う。)

 

 

そのほかには豚ニラ定食やハンバーグ定食など非常にそそられる名前がきれいな写真と共に載せられている。ウマ娘の店主が一人で切り盛りしているようで、このメニューも手書きなところを見ると全部自分で作っているのだろう。そういうお店、けっこう好き。

 

 

「ひゃー、新鮮な油だから絶対うまいよ! 私熱いけど!」

 

「あ、どうも……。」

 

 

急に厨房から話しかけられて少し驚いてしまったがなんのその。今の俺はとてもペコちゃんだ。この後どんなに強大な相手が待ち構えようともメニューをめくるこのワクワク感。何物にも代えがたい。

 

 

(お? 数に限りはあるが日替わりの違うもの、つまり牛や豚の爆弾も頼めるのか。気になるな……、いや待て。早まるな吾郎、まだ慌てるような時間じゃない。ほかのも見てから決めるとしよう。)

 

 

ごはんを大盛りにしてしまった手前定食二人分はさすがにキツイかもしれない。それに写真で見たからあげは見るからにずしんと来る大型。そんななけなしの理性が叫んでくれたおかげか、新たな爆弾の誘惑を押し切り次のページへと歩を進める。どうやら一品料理の欄のようだ、こちらは先ほどの定食の欄と違い名前とその簡単な説明のみが並べられている。

 

 

(ほうほう、お酒のおつまみになりそうなものがたくさん……、ん? これは……、コロッケ。『近所の肉屋さんのホカホカころっけ』。そういえばさっき商店街に行く道で見たウマ娘の子たちが言ってたっけ……。)

 

 

「はい、おまちどおさま!」

 

「あぁ、ありがとうござい……、ってデカ!」

 

 

 

 

◇ー◆ー◇ー◆ー◇

 

 

【日替わり爆弾定食・からあげ】

 

店主の気持ちがこれでもかと入った巨大なからあげゴロゴロ

山盛りお茶碗も忘れられない

 

 

◇ー◆ー◇ー◆ー◇

 

 

 

 

彼の眼前に運ばれてきた料理は山盛りのからあげに同じく山盛りのごはん、そして付け合わせの漬物とお味噌汁が乗せられた黒い盆。

 

 

(な、なんじゃこりゃ。子供の握りこぶしみたいなからあげが……、八つも! それにまるで山のように盛られたお茶碗! こ、こりゃあ登りがいがありそうだ。……おっと、そうだ!)

 

 

「すいません、追加でこのコロッケをお願いします。」

 

「あいあい、コロッケね。んじゃちょっと走ってくっか! お店開けるけど好きにご飯と味噌汁好きにお代わりしていいからね~。」

 

「え? 走る……? うわ、もう行っちゃった……。」

 

 

ウマ娘の脚力を生かして風のように消えてしまった店主、近所の肉屋さんのコロッケと書いていたがそのまま買ってくるタイプのコロッケだったか……。にしてもこの量でおかわり自由とは。

 

この量にコロッケの追加は少々頼み過ぎな気もするが頼まなければわからない、頼まなくて後悔するなら俺は食べ過ぎで後悔することを選ぼう。……さて、勝負の時間だ。

 

 

「学生、それこそウマ娘とか喜びそうだな。……いただきます。」

 

 

まずはお茶碗を持ってみる。

 

 

(おぉ、ずっしり重い。こりゃ食べ応えがあるぞぉ、とりあえず一口……。)

 

 

「おぉ~。」

 

 

(甘い。やさしいお米の甘さだ。噛めば噛むほど口に広がるうまみと甘味、なるほど確かに『ごはん屋さん』なだけある。すごくうまい。)

 

 

どこの産地や銘柄が解るわけではないが、美味いことは舌が教えてくれる。店の名前に恥じないどころかそれ以上の旨味が優しく包み込んでくれる感覚。コメだけでうまいと思わせてくれる店は中々ない。これは他も期待できそうだ。

 

次に手を付けるのは、からあげ。揚げたてで熱々、茶色い肌から目が離せない。

 

 

(これも大きいなぁ、どうかじればいいんだろう……。一思いに、やっちゃうか!)

 

 

意を決してかぶりつく。

 

 

(あち! おほぉー! すごい肉汁!)

 

 

肉、固すぎず。油、多すぎず。肉の旨味と醤油の風味、あとショウガ。すごい、すごいうまい。なんというかTHE・からあげ。丸々一個が大きすぎる爆弾からあげだ。だが、これだけじゃ物足りない。大事なピースが足りてないのだ。

 

 

(ここで、飯をかき込む!)

 

 

ひゃー、こりゃヤバい。全部ぴったりだ。からあげ、メシ。からあげ、メシ。こんなの止められるわけないじゃないか。

 

しっかりと味付けがされてるしょっぱいからあげに、ほんのり甘い旨味ご飯。こりゃもしかして全部計算されてるんじゃないか?

 

 

(多いかもって思ってたけど、全然止まらないぞ!)

 

 

からあげとご飯の方程式。学校で教えてくれない完璧な数式がここにある。もし地元の学校の近くにあったら毎日通ってただろうお店。こりゃあトレセン学園が羨ましい、ちょっぴりだけ。

 

 

(……おっと、ご飯をかき込み過ぎてもう平らげちゃったぞ。お代わりは……、自分でしていいんだっけ。)

 

「よい、「ただいまー!!!」」

 

 

立ち上がって厨房の方を見に行こうかと思った矢先、店の引き戸を叩きつけるように開けて帰ってくる店主。その手にはコロッケが入っているであろう袋が一つ。思ったよりも早かった。

 

 

「お? お代わりかい? 私やるからお茶碗プレテ~!」

 

「あ、どうも。」

 

(何故にフランス語。)

 

 

 

 

 

◇ー◆ー◇ー◆ー◇

 

 

【お肉屋さんのコロッケ】

 

店主が走って買ってきた特別製

あつあつビック、付け合わせの野菜もこんもり

 

 

◇ー◆ー◇ー◆ー◇

 

 

 

「ほい、お代わりのごはんとコロッケね。味付けはそこにあるソースとかお好みでどうぞ。」

 

(もしかして、と思ってたけどこのコロッケもすごい大きさ。握り拳ぐらいあるぞ……。)

 

「大きいでしょ、うち用に特別に用意してもらってんの。んじゃごゆっくり~。」

 

 

そういうとすぐに厨房の方に戻っていく店長、すぐに何かしらの容器を冷蔵庫から取り出して調理をしている模様。仕込みでもしているのだろうか。今日は早い時間に来たから俺しかいないけど、もう少し遅い時間になればここもお客でいっぱいになるのだろう。学生相手か、ウマ娘相手か、それとも酒飲み相手かはわからないが普通の定食の量でこのからあげだ、みんな大食漢なのだろう。

 

 

(よぉ~し。俺も負けないように、とりあえずそのまま。)

 

 

コロッケに箸を入れると思ったよりも柔らかい。すんなり切れて中身が見える。ほくほくの黄色いじゃがいもにちょっとだけミンチが紛れている。この肉のうまみがいいんだよなあぁ、単なる総菜屋さんのコロッケよりもお肉屋さんのコロッケの方がおいしく感じてしまうのはこのお肉のせいかも。

 

一口分放り込む、うむ。思った通りの味。全然外れてない。

 

頭の中で浮かんでいたお肉屋さんのコロッケ、そのイメージがしっかりと固まる。こういうの、こういうのがいいんだよ。俺ちゃんだいすき。ソースをちょっとかけて幸せ、たくさんかけた後にご飯をかき込んで幸せを超えた大満足。

 

 

「こんちわー、もうやってる?」

 

「あ! シリウスにミホ! やってるよ~!」

 

(お、トレセン生。練習帰りかな?)

 

 

笑みを浮かべただけで周りの女の子が放っておかなそうなぐらいカッコよさが際立つ長い髪をそのまま流しているウマ娘と、ちょっとした威圧感とポニーテールが似合うウマ娘。……なんかどっかで見たことがあるような気がする。というか店主と三人で並ぶと……。

 

 

「今日は鳥だっけ。」

 

「そうそう! シリウスはいつものとしてミホは何すんの?」

 

「おい、勝手に決めんなよ! ……まぁいつものだけど。」

 

「あ~、じゃあ豚の焼きで。お肉多めでお願い。」

 

「あいあい!」

 

 

 

 

(ふ、常連さんかな? よし、俺も負けないようにラストスパートだ!)

 

 

東京、府中、町の定食屋さん。俺の腹状態は良好、どんなに長いコースだってへっちゃら。からあげという油ものがこんなにたくさん並べられたとしてもお腹はずっと学生気分、エネルギッシュな若さとこれまでの強敵たちとの戦いの経験を活かしながら舌鼓を打つ。

 

ごはん選手、からあげ選手、コロッケ選手。皆すごい追い上げを掛けてくる。すかさずここで味噌汁リフレッシュ。腹の中で革命が発生してもう一度スパート。今日の俺はどんなレースにも負けないくらい熱々で、ウマ娘に負けないぐらいパクパクだ。

 

残ったからあげを口に放り込み、最後のごはんをかき込む。ほんのりと残った味噌汁を飲み干せば……

 

 

(吾郎選手、一着でゴールイン。)

 

 

「……ごちそうさまでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ~い、いつもの牛鍋と豚の野菜炒めね~。」

 

 

シリウスと呼ばれた子の前に置かれるのは正にウマ娘サイズと呼べる鉄の鍋。中にはお野菜と牛肉がこれでもか! ってほどに入っている。というか溢れ出ている。ちょっと離れたここまでぐつぐつ言ってるのが解るほど熱々だ。そしてミホと呼ばれた子の前に置かれるのはこちらも山と言った方がいいレベルに盛られた豚の野菜炒め。さっき俺が食べてたからあげよりも何倍も標高が高い。

 

しかも豚多めと注文されていたこともあってか、豚の色の割合がすごく多い。もやしに玉ねぎピーマン・パプリカ、野菜の量もすごいが絶対にそれでかさ増しなんかしないという強い意志を感じる。

 

そして二人とも大盛りを超えるどんぶり茶碗に、こんもりメシ。

 

どんな学生にもウマ娘にも負けないと思っていたが……。

 

 

(御見それしました。)

 

「あ。お会計ね~! ちょい待ち! ……と、日替わりとコロッケだから……。千円ね!」

 

「や、やす!」

 

「そう?」

 

 

 

「あ~、そこのおっさん。あんま気にすんなよ。こいつ趣味でやってるから原価以外取ってないんだよ。」

 

「レースで私らより稼いでるからねぇ。気になるんだったらまた来てあげてください。」

 

 

 

「え、ということは……、学生!?」

 

「そうだぞ! あなたちゃんなのだ、良かったら応援よろしくぅ! ……あ、調理師免許とかそう言うのはちゃんととってるから安心安全だぞ!」

 

 

「そ、そうでしたか……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

~♪~

 

 

「ありがとうございました~! またおいで~!」

 

 

お腹もパンパンで大満足。でもちょっとあの子たちが食べてた鍋とか野菜炒めもどんなのか気になる。絶対メシと合うんだろうなぁ……。また搬入の時にこっち来るし。ちょうどいいサイズがあれば挑戦してみよう。さすがの俺でもあのサイズは食べれる気がしない。

 

にしても学生しながらレース、そして飯屋の店主とは……。すごい子もいたもんだ。

 

家に帰ったら名前、調べてみようかな?

 

 








◇ー◆ー◇ー◆ー◇



原作者の『ささみ』さんが実際にお店を訪問


『ふらっと SASAMI 府中』



◇ー◆ー◇ー◆ー◇




現役トレセン学生が営む商店街の一角、『あなたのごはん屋さん』

ふっくらおいしいご飯を前面に押し出すお店ですが……、おっとささみさん。もうすでに注文を終わらせていたご様子。


「は~い! コレご注文の“麦ジュース”。」

「おぉ~! すごい! これはおいしそうなジュースですねぇ! それにこんな大ジョッキ! んじゃま、一口。」


そんなおいしそうなジュースのお供に選んだのはこちらの2品。まず最初は吾郎さんも食べていた鳥のからあげ、ささみさんは爆弾サイズのものではなく一口サイズのものを注文したご様子。


「いや~、やっぱり揚げ物にこの麦ジュースはたまりませんよねぇ! かぶりつく、ってのもいいけどこういう一口サイズのもあるのはうれしいよね。ま、一口サイズって言っても口に収まらないぐらい大きいんだけど。」


次に選んだのは豚とナスのピリ辛炒め。豚ミンチとナスが交わっています。


「うおぉ~、一皿でこの量? ほんと? 撮影用とかで大目にしてるとか?」

「そだよ! いっつもこの量。というか少ないかも、ウマ娘用だったらあと三倍ぐらいしてる。」

「それで味も……、うんうまい。ジュースがとっても進みますねぇ(笑)」








「どの料理もとんでもないぐらいに大盛りでしたけど何か理由とかはあるんですか?」

「ん~、特にない、かな? まぁ私らウマ娘よく食べるし、自分がこれぐらい食べたいなぁ?って量出してたらいつの間にかこうなってた。」

「なるほど。」

「それに学園だとたまに食堂休みになるでしょ? 名前言っちゃいけないから言わないけど数人餓死しそうになるの、だからそん時のためにお店開いたらなんかうまくいった。さすがあなたちゃん。自画自賛。」



府中商店街にあるこのお店ですが、店主のレースや学業、あと気分によってその日オープンするかどうか決まるそうですので、ご利用の際は一度ホームページの方をご覧くださいとのこと。

あとこの作品はフィクションですので実際に行っても存在しないことはご容赦ください。





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