銭と課金のノスタルディア  ~異世界行ったのに、仲間増やすにはガチャしか手がないんですが~   作:Rameso

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異世界転移しても、原作をあまり覚えていない

「くそっ、またすり抜けたか……」

 

 じわじわと嫌な汗が噴き出る。

 気づけば、スマホをタップする手が震えていた。

 

 ──―これは侘び石を貯めて行う乾坤一擲のガチャだ。

 なのに、当たり演出が来たかと思えば外れ、当たり演出すら来ない外れ。

 マスコットキャラクターの猫娘が行う小芝居にはこの頃殺意すら抱く。

 

 最初のリセットマラソンでは粘って粘りつくして、何度もアカウントを作り続けて、

 目当ての星五つの最高レア"陽光の騎士 エステル"を引き当てた。

 エステルは回復こそできないが、一、二を争うタンク性能を持ち、

 本職には劣るが、最低限のアタッカーをこなせる万能キャラだ。

 

 それに加えて、生真面目な性格、橙色の髪を持ちまさに太陽を体現するような美貌も相まって、このゲーム、"ノスタルディア ストーリー"でも屈指の人気を誇る。

 

 だが、いざエステルを引いてからというのは本当に運の無い毎日だ。

 

 エステルをエースアタッカーにしつつ、

 ノーマルガチャやイベントで手に入れた戦士で当座を凌ぐ毎日。

 

 結局のところ戦力増強はガチャを行うことが最も効率が良い。

 経済力は時短にも繋がるし、そもそも高難易度クエストもガチャの特攻キャラ前提で組まれている場合が多い。

 

 通勤帰りの人で込み合う横断歩道前で、俺はスマホ片手にため息をつく。

 俺ことしがない社会人である"鈴木 恵介"は主人公である"自由の旅人 ヴェリ"を恨む。

 主人公はこの手のゲームの場合、色づけを行わない場合が多い。

 プレイヤーの分身であることと感情移入をしやすくするためだ。

 

 しかし、その主人公は何せぱっとしない。弱いというか中途半端な強さなのだ。

 最高レアが星で五つだとすると主人公のレア度は三。

 連撃を得意とした軽剣士であり、ストーリーの都合上必要なキャラバンを運営する旅人。

 紫髪で中肉中背の”如何にも”主人公然として設定された容姿を持つ。

 だが、イベントで出会う強キャラ達の多くは、ヴェリと邂逅せども仲間にはならない。

 

 あくまでガチャで引かなければどれだけストーリー上で親しくてもプレイヤーは使えないのだ。

 例えば"風塵の双剣士 セレニード"にはメインストーリー終盤でライバル視される。

 その後、紆余曲折はあるのだが最終的には明確に「俺もお前の冒険に加えてくれ」と文章中で言う。

 

 だが、リザルト画面ではあくまで、

 メインストーリークリアの報酬でガチャを引くために必要な契約石が貰えるのみ。

 

 何と言う理不尽。

 しかも報酬の契約石自体もガチャを一回も引けない程度だ。

 

「……ストーリー上で仲間になっただけで、編成できるわけでもなし、か」

 

 何度でも言うが、俺はヴェリを恨む。

 そもそも文章中で明確に喋らないこいつの事だ。

 返答や、示唆されるくらいはあるのだが、どうにも押しが弱いのではなかろうか。

 そんなお約束にでさえ、多少の苛立ちを覚えるくらい戦力が増強されていないのだ。

 

 いや、正確に言うとたまに報酬でキャラを貰える場合ある事はある。

 しかしながら、星が二つのレア。最高でも星三つまでだ。

 これは明確な運営側からの、「強いキャラが欲しかったらガチャを引いてくださいね」という意思表示だろう。

 

 星五つのセレニードピックアップガチャも、そのメインストーリー実装と共に盛大に行われた。

 

 ぶっとばすぞ。

 

 もちろんセレニードの性能をもってすれば、ストーリーも楽に進めれるのは間違いない。

 ……しかし、俺は、どれだけ面白かろうとスマホアプリに課金する気はないのだ。

 いや、正確に言うとこれまでに他のアプリには課金してきたことがある。

 

 ──―何と言うのだろうか。ストレス衝動って怖いよね。うん。

 

 毎月のクレジットカードの請求が怖くなり、リボ払いにまで手を出しそうになった頃に、

 俺はスマホアプリに課金をすることを辞めた。

 ついでに言うとその課金のお陰でボーナスの大半は飛んでいった。

 

 そのゲームの教訓……というか、

 眠れる自分自身の本能が怖くなってしまいその課金推奨ゲーム自体は封印した。

 今は"ノスタルディア ストーリー"一本にゲーム自体を絞っている。

 

 さて、この"ノスタルディア ストーリー"だが、

 俺が最も評価している部分、かつ、はまっている理由がある。

 エステルの折でも触れたが、このゲームでは"タンク・アタッカー・ヒーラー"の三種の役割が機能しているのだ。

 つまり、レア度を高いキャラをガチャで出すだけではない戦略を求められる。

 無課金でも戦略次第では、高難易度クエに立ち向かえるという訳だ。

 

 勿論、バッキバキのお金湯水の如く使えますエステルちゃん可愛いよチュッチュ勢には勝てない。

 彼らが使うエステルなり、セレニードはもはやそのキャラの皮を被ったナニカだからだ。

(当然水着エステルだったり、浴衣セレニードだったりもするがそういうのは置いておく)

 

 当然、リアルタイムで行われる対人戦闘やレイドでは遺憾なくその実力を発揮する。

 その暴力を、戦略云々で覆すことは難しいだろう。

 

 ……うん、その、なんだろう。今、なけなしの詫び石でガチャ引いてるのはそういう訳で。

 星五つがエステルだけじゃ勝てないんすよ、うん。

 未だに一軍メンバーの中にヴェリ入れてる状況なんです、はい。

 

 おかしいだろう?! この対人イベントで千位以内に入らないと星五つ確定ガチャチケットは手に入らないんだ! 

 だけれども、明確に廃人の壁ってのがあって、

 千位以内なんて無課金では無理に決まってるだろ、いい加減にしろ!! 

 

 ヴェリの攻撃じゃ相手の廃タンクにかすり傷しか入らないの! 

 タンクのエステルだけいつも残って袋叩きにされるの! 

 

 不意の頭痛に、軽くこめかみを指で抑える。

 ダメだ、ストレスを解消するために行っているゲームでストレスを溜めていては本末転倒だ。

 そう思って、歩きスマホを続けている俺は気づかなかった。

 ──―そう、典型的というか、なんというか、信号無視をしてしまっており、

 そこにお約束のトラックが突っ込んできていたのだ。

 

 

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 ──―意識の混濁を抜けたら、そこは異世界でした。

 

 軽い倦怠感と、脳疲労を覚えながらなんとか伸びをして起き上がる。

 体全体に伝わる激しい振動の中、周りを見渡せば携行品や食糧等が置いてある。

 

 なんだこれ、というかどこだこれ。ガタゴト、ガタゴト。

 周りの音に揺られるまま、上を見ると白い布切れ。

 乗ったことはないのだが、馬車か何かなのだろうか? 

 

 んんんん?? と今だはっきりとしていない頭をフル回転させる。

 そんな中、「おお、お気づきですか、旦那様」とややしわがれた声。

 声の方に振り向くと、そこには得体のしれない卵のようなシルエットの魔物が居た。

 ……いや、卵のようなシルエットだけならまだいい。御者してるんだ、この魔物が。

 

「そんな、馬鹿な。こいつ、ノスタルディアに出てくる魔物みたいじゃないか」

 

 "ノスタルディア ストーリー"には様々な魔物が敵として出現する。

 例えば、中世ファンタジーでは典型的なゴブリンやオーク。

 今、御者をしているこの魔物はハンプティという火魔法を得意とする低位な魔物だ。

 

 それが、あろうことか喋って、あまつさえ、俺を旦那様と呼ぶ。

 いやいやいやいや、待て待て、前提条件が全ておかしい。

 そもそも俺はスマホ片手にガチャ引いててそれで……あれ、そこから意識が飛んでる。

 

「旦那様、わたくしめは魔物ではありますが、れっきとした旦那様の僕ですぞ」

 

 卵形の魔物はあくまで前方の手綱を締め、苦笑いながら、喋りかけてくる。

 理解が追いつかない。

 

「あ、ああ。分かった、すまない」と少し声が震えてしまう。

 

 やり取りをしている間に頭が冷えてくる。

 ちょっと待て。そもそもここはどこなんだ。

 今、出した声色もおかしいし、そもそも先ほどからの拭い切れない違和感。

 よくよく見ると腰に剣を挿しているし、携行品も如何にもなビン入りの薬だったり。

「ちょっと聞いていいか。その、なんだろう。俺とお前の関係って主従? であってるんだよな」

 

 これから質問をしていくにしろ、こいつとの関係性を明確にしておかないと怖い。

 

「先ほどもお伝えしますが、このハンプ。ヴェリ様と深い絆で結ばれてると自負しております」

 

 は? 今、なんて言った。とふと目線を下に下げ、体をペタペタと触る。

 そこには中肉中背。腰に挿した剣に、印象的な青色の冒険着と言った、

 "ノスタルディア ストーリー"の主人公、"自由の旅人 ヴェリ"と同じ姿かたちがあった。

 

「うっそだろお前」と疑問の声が思わず出てしまう。

 

 少しばかり怪訝な顔をしたハンプと名乗った魔物が、

 何言ってるんだこいつというようにこちらを凝視してくる。

 それにハッと気付き、姿勢を正す。

 

「いや、主従関係を結んでくれてるのならば本当にありがたい」と返す。

 ハンプはおほんと軽い咳払いをして、口元を綻ばせた。

 

 馬車に揺られながら、たわいのない質問をハンプと繰り返していく。

 服の中に冷たいつららを入れられてしまったような驚愕を必至に隠しながらではあるが。

 状況整理と共に、現状確認が主の目的だ。

 

 まずは、今向かっている場所はメルカトルの街。葡萄とワインが名産の、小規模な街ということだ。

 その名前におぼろげながらだが、記憶があった。

 確か、ノスタルディアのメインストーリーで初めに向かう街の名前もメルカトルなのだ。

 そこで一連のチュートリアル的な流れをこなした後に、壮大な冒険が始まる。

 

 いや、つまるところ、初期の無料十連ガチャ引くための前フリチュートリアルですよ。

 エステルをお迎えするまでに血涙流しながらリセマラしたから、脳が覚えてしまっていたのだ。

 

 肝心のストーリーはほぼスキップしてたから全然覚えていないけど。

 

 確か、行方不明になった姫を探す王国騎士団に巻き込まれる云々だったと思う。

 

「左様でございます、左様でございます。

 メルカトルには今、エッツラウプ王国の姫を探す騎士団が滞在しており、

 そのお陰でにわかに経済が湧き上がっているのでございます」

 

 嫌な盛り上がり方だなぁとは思うが、人が増えれば単純に消費も増えて経済が回るということだろう。

 そもそも姫が行方不明って、国を左右するような出来事だと思うんだけれどそこはどうなんだ。

 ツッコミ所しかないんだけど。

 

 外交とか大丈夫なんだろうか。思わずぐっと唸りそうになるが、胃の中へ無理やり飲み込む。

 これはあくまでチュートリアル的な、ゲーム的な都合なので、深く考えてはいけないのだ。

 

「なるほどね、俺はその景気にご相伴あずかろうと向かってる訳だ」

「ええ、今回の旅に出る行動指針としては、そのようにお聞きしております」

 

 とりあえずキャラクターとしてのヴェリの行動指針については分かった。

 自由の旅人って銘打たれている以上、公式でふらふらとしている性格に設定されていた気はする。

 そもそもが、そこまで深く"自由の旅人 ヴェリ"のバックボーンにストーリーでは触れていない。

 無色でプレイヤーの代理である主人公を、上手い具合に演出するのは難しいのだろう。

 

「行方不明になった姫様とばったり出くわしてしまったりしてな」

「ははは、まさかそのような事がある訳がございません、あくまでそこに付随する騎士団の補助や雑務がメインですな」

 

 やや軽薄な会話をして、ハンプとの会話を打ち切る。

 ガタガタと舗装されていない悪路を馬車は突き進み、そのうちメルカトルの全貌が見えてきた。

 石造りの壁に囲まれた門の前には、膨大な数の行列。それをじっと険しい顔をしながら取り仕切る騎士達。

 初めて見た異世界の街は、勝手なイメージとは違い重々しい雰囲気に包まれていた。

 

「はて、ここまで重々しい空気とは。クリューゲルの冒険者ギルドで聞いてきた噂とは違いますな」

 

 馬車を行列の最後尾につけている最中に、ハンプは不思議そうに頭を傾げた。

 そもそもがギルドもクリューゲルも詳しく知らない俺としては、

「そうだな」と適当に相槌を打つしかない。

 

 ギルドってアプリのノスタルディア内に存在していた奴かな、

 トップ画面の下にアイコンで表示されてたのは覚えてるけど。

 思い出すと、ゲーム内でのギルドはあくまでプレイヤー同士の相互補助のイメージが強かった。

 レイドという大型ボスを倒す事を主としていたり、対人戦で競うあう団体だったり。

 まぁ、移転されてきたこの世界とアプリ間の食い違いは多少はありそうだ。

 

「どうにも今朝方、近郊で姫様らしき姿を見かけたとかで。ちょっと、騎士団の検閲が厳しいみたい」

 

 前に並んでいた年若い旅装の女商人が、物珍しそうに話しかけてきた。

 怪訝そうな顔でハンプが顔をしかめたことに、その女商人は苦笑いを返した。

 

「あ、急にごめん。私の名前はリズ。メルカトルには胡椒を売りに来たの。そっちはお兄さんと、……ハンプティの魔物? 

 さっきから聞いてたけど、喋る魔物の従者なんて本当珍しいね」

 

 どうも、暇を持て余していたようで、周りの誰かに話しかけたくてうずうずしていたらしい。

 そこに物珍しい俺たちの姿を見つけて、どうやら白羽の矢が立ったようだ。

 

「わたくしの名前は、ハンプ。こちらはヴェリ様と申しまして、わたくしの旦那様です」

 

 ハンプが勝手に紹介してくれたので、俺は胡乱げに頭を下げる。

 

「へー、ヴェリは魔物使いなんだ。帯剣してるし、近接戦闘もできそうね。

 それに個人で馬車を持ってるなんて。もしかして有名な冒険者様なのかな?」

 

 リズは軽く馬車を触りながらこちらを伺うように、視線を寄こす。

 ハンプは、さも当然だというように、胸を張る。

 

「そうでございますぞ、旦那様は数多の冒険を繰り広げてきたクリューゲルでも屈指の冒険者。

 わたくしも旦那様に見出されて、御者をさせていただいております」

 

 自慢げに言うハンプだが、そもそもヴェリとしての俺にそんな記憶はない。

 勿論、ゲーム内でも語られていないのではっきりと言って全容は不明だ。

 まぁレアリティも星三つなので、この世界での相応の実力は最初からあったのだろう。

 

 "自由の旅人"という称号を得る前日談に、ストーリーの導入前にそんな冒険譚があった訳だ。

 

「なるほどね。でも、冒険者って普通は徒党を組んでるイメージがあるんだけど。

 それに、こんな立派な馬車を持ってるのに単独で活動なんて勿体無いよね。

 ……あ、ごめんね。他意はないんだけれど、なんだか不思議だねって」

 

 それはリズとしては純粋な疑問だったのだろう。

 俺もその点を改めて問われると何とも言えなくなる。

 確かに"ノスタルディア ストーリー"開始時点で、使用できるユニットはヴェリ一人だ。

 

 あらすじでは、自由とは縛られないこと。そんな世界を旅人は今日も往く。

 

 ……と流れて、気付けばプレイヤーの名前入力画面にシーンが移っていたので深く考えずにいた。

 

 急に何某かの強い感情が俺の中に流れ込んできて、その不意の奔流にびっくりする。

 あれ、ヴェリって強がってるけどこいつ、ぼっちじゃね……。

 

「いやいやいや、リズ様。それは違いますぞ。旦那様は"あえて"固定の仲間を作らないのです。

 幾度も仲間を作られましたが、最終的に目的を達成した後は無言で立ち去るのです

 そうやって救われた人々がどれ程いたことか。活躍すれど富も名声も欲さない。

 なればこそ、"自由の旅人"と巷では憧れを持って言われているのですぞ」

 

 ハンプが少しの怒気を含みながら、リズに熱弁する。

 その言葉に、俺はハッとセレニードの一件を思い出す。

 仲間になると相手方は言っていたが、ヴェリ自体はそれに対して何も反応を返していないのだ。

 

 ……コミュ障だから相手方に意思が明確に伝わってないだけじゃないのそれ。

 

「自由の旅人……。確かクリューゲルで噂されてる無欲の冒険者だったね。

 なるほど、ヴェリって名前は聞いた事ないけど称号は聞いた事があるよ、立派な事だね」

 

 リズの視線が少し尊敬を含むようになったのは気のせいだろうか。

 少し、頭は痛くなったが、俺になる前のヴェリがなんとなく掴めた様な気がした。

 多分だけれど、別に富も名声も仲間も欲しくなかった訳ではないのだ。

 鈴木 恵介としてその記憶は当然持ってはいないのだが、

 何となく、本当に何となくだけれどヴェリ本人の体を使っている俺には分かるのだ。

 

 こいつ、物凄く生き辛い人生送ってきたんだなぁ……と。

 というか、アピールしていけよ。もっと。

 

 ……だが、改めてなのだが主人公の、喋らないのに周囲を魅了するという特性の難しさに思いを馳せる。

 ──―そんなん、無理でしょ、うん。

 何だかじわりと胸に暖かいものが宿った。

 アプリの時はガチャ運が来なくて、戦力が揃わない八つ当たりをしてすまなかった。

 

 まぁ、代弁者が主人公あげをしないと凄さも分からないよな。

 つまり、ハンプという存在もそれこそゲームの都合という事なのだろう。

 ヴェリよ、本当にすまん、色々詰んでたんだなお前。

 どこか遠くからから「ええんやで」と聞こえてきた気がしたが、

 気にしないようにしよう。

 

「そう。自由とは縛られないこと。そんな世界を俺は今日も往く」

 

 気が動転しすぎて、あらすじで表示された文章をリズに喋ってしまった。

 何言ってんのこいつというような視線を彼女から向けられたが、気にしない。

 俺はヴェリをどうプロデュースしたいんだろう。

 

 

「ま、まぁ、兎にも角にも旦那様は素晴らしいお方なのです」

 

 ハンプも適当にフォローをしてくれているし、

 もうヴェリぼっち問題の言及はいい加減勘弁してくれ。何かこっちまで泣きそう。

 リズは「へーすごいね」と言った後に、こちらに興味をなくしたように無言で佇まいを戻した。

 そんなこんなで地獄のような時間を経てから、ようやく騎士の検問まで辿り着く。

 どうやらリズは問題なく通過できたようで、別れ際にじゃねーと手をひらひらさせて去っていった。

 

「おっほん。よし、次。そこの馬車、まずは何か証明になる物を見せてもらおうか」

 

 少し間を開けた後に荘厳な装いを隠そうともした、フルフェイスで顔まで隠した騎士が語りかけてきた。

 本来は守衛や、憲兵といった領主直属の兵が行うような業務なのだろうが姫様の一件からだろうか出張ってきているのだ。

 それに下っ端では姫様の姿をはっきりと認識できない可能性があるとのこと。

 そんなことをハンプから事前に聞いていた俺は準備していた冒険者カードを差し出す。

 

「なになに、証明は冒険者カードと。内容は、クリューゲル発行の星……三つの冒険者だと」

 

 騎士団連中が少しざわつき、ハンプが誇らしそうな顔をしている。

 ……思ってた以上に星三つとは凄いことらしい。

 ヴェリよ、ぼっちとかコミュ障とか言ってごめん。

 

「……称号の"自由の旅人"と言えば、メルカトル在住の人には分かるかと」

 

 ハンプが駄目押しとして、俺が築き上げてきた称号名を言う。

 

「おぉ、自由の旅人とは貴殿の事か。この街にもその噂は入ってきているぞ」

 

 如何に俺自身の記憶にないからと言って、褒められて悪い気はしない。

 

「なるほど、"自由の旅人"の称号は聞こえど名前が不明瞭であったのは、

 その実、自身が卵型のモンスターであったからだということだな」

 

 顔を隠しているが仕草や声の調子で盛大なドヤ顔をしているのがなんとなくわかった。

 何か盛大な勘違いをしてる気がしてるその騎士に俺とハンプは苦笑いした。

 

「おほん、違いますぞ。わたくしではなく、横にいるお方が自由の旅人です」

「なにっ、おお、すまんすまん。どうにも称号の名だけは聞こえてくるが、

 その実態が謎の部分が多かったために、実像が掴めておらんかったのだ」

 

 何か冷静に言われると凄い恥ずかしいんですけど。

 まぁ、でも喋らなかったら人間像とか伝わりにくいよな。そこはヴェリが悪い。

 そんな事を考えているうちにゴホンと佇まいを直した騎士は改めて問いかけてくる。

 

「まぁ、証明として問題はない。

 卵形の魔物の方もきちんと冒険カードに登録済みと記入されていた。

 それでは……改めて陽光の騎士として問う。メルカトルには何をしに来たのだ? "自由の旅人"」

 

 その問いに俺の胸はどきりと跳ね上がる。

 陽光の騎士……?! まさか、対面してるこの人物って。

 

「もしかしてと思いますが、まさか、あなたの名前はエステルと言わないですか」

 

 興奮を抑えきれなくなって、つい口から言葉が勝手に発せられてしまう。

 

「ほう、ヴェロニカ姫様付きである私の名を貴殿が知っているとはな。

 巷の冒険者にもこの名前は多少は響いてきたということか」

 

 目の前の騎士は、軽やかにフルフェイスの兜を頭から脱いだ。

 しゃらんと香り立つような綺麗な雫が額から伝う。

 

「如何にも、私の名前はエステル。

 ……おめおめと姫様に逃げられてしまった"陽光の騎士"だよ」

 

 そう言って、多少の悔しさを滲ませてくるエステルを見て、

 生エステル来たこれとか、メインタンクきたこれと思うと同時に、

 ──―うん、ハンプに"自由の旅人?! "とか言ってる時点でドジっ子だと思ってたよ。と、嘘偽りない感情を心の中で吐露する。

 

「それで、"自由の旅人"よ。如何にして、メルカトルへ?」

 

 質問を再度繰り返す彼女の表情、口の動き等を見て、

 そういや、アプリのチュートリアルに出てくるフルフェイスの騎士ってエステルだったのか。

 結構考えられてるんだなーこのゲームと、俺は感動を隠し切れないのであった。

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