リトル・ヤタガラスは妖怪を狩るようです ~正義の妖怪ヒーローが往く退魔怪奇譚~   作:小村・衣須

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其の伍拾弐 (くら)い太陽

 東京近郊、某県、金烏(キンウ)市。

 九十九たちの暮らすこの街は今、ある話題で持ち切りだった。

 

 それは、数日前に街全体で起きた、正体不明の怪物たちによる殺戮劇。

 妖怪と名乗る者どもは人々を無差別に襲い──そして、その危機から人々を救ったのもまた、己を妖怪と名乗る謎の少年だった。

 

 そうして全てが解決してみれば、奇妙な事にどのメディアもこの事件を報じない。

 それどころか、政府は今回の一件を「大規模なガス爆発事故」と発表したではないか。

 

 政府による隠蔽。情報操作。陰謀論。某国の侵略工作。はたまた宇宙人の仕業か。

 そんな憶測が街中を、ネット中を連日駆け巡り、金烏市を取り巻く情勢は良くも悪くも盛り上がりを見せていた。

 

 ……だが、彼らは知らない。

 金烏市のとある路地裏に、オンボロ小屋も同然の店がひっそりと建っている事に。

 

 その場所は、つい昨日までは何も建っていない、ただの空き地だった。

 けれども今は、そこに1軒の店がでんと居を構えている。そしてその事実を知る者は、この街には誰もいない。

 

 立て掛けられた看板に墨で描かれた、その店の名を──古美術商『現代堂』。

 

 

 

 

「……ヒヒヒヒヒッ。さァて、そろそろ準備も整った頃だねェ」

 

 むわり。

 むせ返るほどに甘ったるく、同時にツンと鼻を刺す草の青臭さ。

 不愉快極まりない匂いの溶け込んだ煙草の煙が、夕焼けの昏いオレンジ色を吸い込んだ店内に行き渡る。

 

 誰も知らない古美術商『現代堂』の店内に満ちるモノは、大きく分けて3つ。

 カウンターに腰掛ける男が()む煙草の煙。棚や床に乱雑に積み重ねられた骨董品の数々。

 そして、狭くも広い奇妙な空間を圧迫するほどに集まった大勢の異形たち──妖怪の集団だ。

 

 そんな妖怪たちからの視線を一手に集める存在。店の奥に置かれた木製のカウンターの上で、長い長い煙管(キセル)を携えた和装の男。

 妖怪集団『現代堂』を統べる山ン本は、妖怪どもを一瞥してヌラリと口を開いた。

 

「ここらでいっちょ、第3回目の『げえむ』を始めようじゃァないか。今回も、あたしたちを楽しませておくれよォ?」

 

 首魁の宣言を受けて、店内に屯する妖怪たちは一斉に沸き立った。

 己こそが『げえむ』を制覇するのだと意気込む者。次の“魔王”を名乗るのは自分だと吠える者。自らが挑む『るうる』の算段をつけ始める者。

 

 それら悪しき企みの数々を俯瞰して、恐るべきキセル・ヌラリヒョンは嘲笑うように煙管(キセル)を口にする。

 彼の傍では、巨大な甲冑に身を隠した大妖怪──神ン野が、深く重い溜め息を面頬の奥から吐き出していた。

 

「チョウチンも、フデも、いーい具合に場を温めてくれたからねェ。3回目になる今回は、ひとつドカンと大きな事を起こそうじゃァないか」

「……その『大きな事』が必ずしも、人間の恐怖を煽り立てる事に繋がるとは限らんがな。派手さに気を取られ、『げえむくりあ』を疎かにする愚か者はいないと思いたいところだ」

「神ン野は真面目だねェ。“ゆうもあ”は必要だよォ? ただ効率を重視するばかりの『げえむ』なんてつまらないじゃないかァ。“おりじなりてぃ”を加えるからこそ、『げえむ』はより面白くなるってものさァ。ヒヒヒヒッ」

「あー、あの~……その事で疑問があるんですけどぉ」

 

 と、そこで。

 群れをなす妖怪どもの中から、1体の異形が恐る恐るといった風に顔を出してきた。

 興奮の坩堝にあった店内は不意に静まり、その異形へと注目が飛び交う。

 

「ヒヒッ。どうしたんだい? 何か聞きたい事があるなら、気軽に言ってみなよォ」

「へ、へい。我らが大将の謳う『げえむ』なんですけどぉ……具体的に、何をどうやったら『げえむくりあ』なんですか?」

「それは予め、山ン本が宣言していただろう。人間どもを殺戮し、破壊し、蹂躙し、恐怖を煽り立てる。それによって人間の世界に『夜』をもたらし、文明を破綻させる。そうして妖怪の世界を打ち立てた者に、次なる“山ン本 五郎左衛門”の名を与えるのだ」

「いやぁ、神ン野の旦那ぁ。それについては事前に聞いてますけどね? じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですか?」

「……先ほどから聞いていれば」

 

──ベベンッ!

 

 苛立ちを吐き出すように、乱暴な撥使いで鳴り響く三味線の音色。

 途端に張り詰め出した空気が、力無い妖怪たちの肌を切り刻まんとばかりに刺激する。

 

 それを成した者へと意識が向くのは自明の理であり、幾多の眼差しを一身に受けた者の正体こそは、煤けたガラス窓にもたれて座る1人の女怪だ。

 キツネの尾を9つ持ち、三味線を胸に抱える金色の瞳──『現代堂』が幹部、妖怪シャミセン・キュウビの信ン太である。

 彼女の縦に裂けた瞳孔は、質問者気取りの異形をこれでもかと睨みつけている。

 

「山ン本や神ン野、そして『げえむ』の運営を担うウチの裁定に、何か不満があるのですか? 賢しらっぽく『物言い』をして、そんなに人間どもを甚振るのが面倒なのであれば、『げえむ』への参加意欲無し──即ち、我ら『現代堂』への造反と見做しても?」

【おいおい姐さァん。今挙がった名前に、オイラの名前が無かったんだけど? オイラもこの『現代堂』の幹部じゃねぇのかよぉ】

「お黙り、呑ン舟」

 

 虚空から響き渡り、ミシミシと木棚を軋ませる呑ン舟のどら声を、信ン太が一蹴する。

 彼女はそのまま、9つの尻尾をざわつかせながら異形へと向き直った。彼が不躾な事を物申せば、いつでも()()()()できるように。

 

「此度の『げえむ』を開催したのは山ン本ですが、運営・裁定を任されているのはこのウチです。『げえむますたあ』であるウチに『物言い』したいのであれば、もっとハッキリ言ってごらんなさい。さぁ、どうぞ? ウチの『げえむ』に参加したくないのでしょう?」

「とっ、とんでもない! 信ン太の姐御ぉ、俺はただ、『げえむくりあ』と認められる為の条件を知りたいだけですぜ! そりゃあ俺だって、人間どもを殺したくてウズウズしてますが……これが『げえむ』だってんなら、闇雲にやったって面白くないでしょう!?」

「ヒヒヒヒヒッ……あまり責めてやるなよォ、信ン太。これは、その辺りの説明を欠いたあたしたちに非があるのさァ。そうだねェ……折角の機会だ、ちゃァんと説明してやろうじゃないか」

 

 ケラケラと嘲笑うような声を上げる山ン本に、九尾のキツネは呆れた風の溜め息を吐き捨てた。

 乱雑な手つきで三味線を奏でる彼女をより一層嘲りながら、異常な長さの煙管(キセル)を持つ総大将は、質問者を──その場の妖怪たちを一瞥する。

 

「……“(くら)い太陽”。それを空に昇らせる事ができたら、あたしたちの勝ち。即ち、『げえむくりあ』って訳よォ」

「“昏い太陽”……ですか? 聞いた事の無い名前ですが……」

「おい、知ってるか?」

「さぁ……私も知らないわ」

 

 ざわざわと、やおらに騒がしくなる妖怪たち。

 当然ながら幹部妖怪たちは動じていないし、一部の妖怪の中にはアタリがついている者もいるようだ。

 一方で大多数の者たちは困惑を隠せずにいるらしく、そんな当惑をカウンターの上から眺め、煙管(キセル)をぱくりと咥える。

 

「おやァ、おや。随分と不勉強な奴が増えてきたものだねェ。“昏い太陽”ってのはね、()()()()()()の事さァ。あたしたちはそれを、“空亡(ソラナキ)”という別の名でも呼んでいる」

「……そんな事があり得るんで? 普通、太陽は昼に昇るもの。だから俺たち妖怪は、太陽の光を厭って夜の世界に生きてるんでしょう」

「だから、そういうところが不勉強なのさァ。夜空に君臨する太陽は、光を放たない。“昏い太陽”は、闇を以て地上を照らすのさァ。それは人間の心を蝕み、逆にあたしたち妖怪にとって心地の良い世界。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……つまり、“昏い太陽”がこの世に顕現すれば、昼の側から“光の太陽”は失われる。これを以て人間と妖怪の立場は逆転し、昏い『夜』の世界が、光を失った『昼』の側を駆逐する。それこそが、『げえむ』の最終目的だ」

「ヒヒッ、神ン野が言った通りだねェ。“昏い太陽”とは即ち、人間にとっての『恐怖』の具現化。人間どもがあたしたち妖怪に恐怖すればするほど、太陽は昏く塗り潰されていく。その為の手段として、あたしたちは『げえむ』を立ち上げたのさァ」

 

 自分たちを統べる首魁の言葉に、妖怪どもは「おおっ!」と盛り上がりを見せる。

 なんとも単純な奴らだ。自らが副官を務める煙草()みの隣で、神ン野は面頬の奥に呆れを溜め込んだ。

 それは信ン太も同様であるらしく、頭頂のキツネ耳をぺたりと折り曲げ、肩を竦めてすらいる。

 

 彼女が軽く弦を弾けば、その音を聞いた一同は再び九尾の女怪へと意識を動かした。

 

「……加えて、この街……金烏市で『げえむ』をする事自体にも意味があります。なにせこの街は、日本で最も地脈の流れが色濃い要の土地ですから」

「……? そりゃ一体、どういう事ですか?」

「はぁ……無知蒙昧もここまで来れば天晴ですね。我ら妖怪は妖気より生まれ、そして妖気は地脈より湧き出る。であれば、地脈に直接干渉する事ができれば、その影響は流れを通してこの国全体に行き渡るでしょう?」

「ヒヒヒヒ。妖怪を、妖気を揺り動かすのは人の感情さァ。人の想いが、情動が、心が妖気を変質させる。だから、地脈の流れが濃いこの土地の妖気を『恐怖』に塗り替えれば、そりゃもう効率的に“昏い太陽”を招く事ができるのよォ」

 

 煙管(キセル)を振るって解説に勤しむその仕草は、まるで教鞭を執る教師のよう。

 もわもわと店内を飛び回る甘ったるい煙が、()み手の意思によって自在に変化し、川の流れのような図式を空中に描いていく。

 それを眺めながらも、神ン野は重々しく口を開いた。

 

「……80年前、我らの侵略は失敗に終わった。当時の我らは、妖怪の軍団による闇夜の進撃──“百鬼夜行”を以て、日本全土に恐怖をもたらそうとした。だが、如何に妖怪と言えど、日本全土を攻め滅ぼすにはあらゆる“りそおす”が足りなかったのだ」

「妖怪とは、本質的には群れる事なく、いち個体にて成立する存在。山ン本がどれほど“かりすま”を持っていたとして、百鬼夜行を維持するには限界がありました。そしてウチたち幹部がどれだけ生き残ろうとも、雑兵が死んだ時点でウチたちの負けでした」

「──けれど、『げえむ』は違う」

 

 山ン本の呟きに、2人の幹部たちは一様に頷いた。

 

「お前さんらも、妖怪なら“百物語”は知ってるだろう? 妖怪に群れさせるのが難しいなら、1体ずつの侵略に切り替えればいいのさァ。終わらない怪談、終わらない恐怖、終わらない物語。永遠に続く暗黒の寝物語が、やがて金烏(キンウ)玉兎(ギョクト)を食い千切るのよォ」

「そして“百物語”とは本来、妖怪を呼び寄せる為の儀式とされている。つまり、我らが行う『げえむ』は一種の儀式であり──それをこの街で集中して執り行う事は、言わば将を直接射殺すに等しい行いなのだ」

【日本全土を攻めたって、地脈の薄いところで暴れても大して利にはならねぇからな! その点、この街だけ攻めてりゃ“昏い太陽”があっという間に天へと昇る。こっちの方が効率的ってワケだ! ギャハハハハ!】

 

 ゲラゲラと呑ン舟の呵々大笑が轟いたところで、(あざな)を持たない妖怪どもは再度の高揚を口に出した。

 彼ら妖怪は学を持たない。そんなものは必要無いからだ。そんな彼らでも、この『げえむ』の大義を理解する事ができた。

 

 つまるところ──この街で思うがままに暴れ、思うがままに人間を殺し、恐怖を撒き散らせばいい。

 そうすれば、その内に世界は『夜』に染まり、自分は妖怪の頂点たる“魔王”の名を冠する事ができる。

 それさえ分かれば十分であり、彼らは真実それだけを求めているのだから。

 

「ま、『げえむくりあ』の為には、例の小坊主──妖怪リトル・ヤタガラスって名乗る事にしたらしいけどねェ。ともかく、あの生意気な八咫村の小倅を無視する事はできないだろうけどさァ」

【あー、なんだっけ? ……そうだそうだ、確か八咫村の老いぼれ当主の孫ガキだったな! 先祖返りだかなんだか知らねぇが、チョウチンもフデも、山ン本の大将が生んだカタナって奴も全員そいつに殺されちまったみてぇだな!】

「ヒヒヒヒッ。テイのいい『敵きゃら』って訳だよォ。障害の1つや2つもあった方が、『げえむ』も盛り上がるだろう? あいつさえ満足に排除できないようじゃ、『げえむくりあ』は夢のまた夢って話さァ」

「それで『ぷれいやあ』が悪戯に死んでいくのであれば、ウチたちにとっては気分がいいものではありませんが……まぁ、どうせ山ン本の決定には誰も逆らえません。首魁が享楽狂いだと、こういう時に困り果ててしまいますね」

 

 処置なし。そう言わんばかりに首を振り、三味線を弾く動作に戻る信ン太。

 彼女たちのやり取りを聞いた一般妖怪どもは、ざわめきつつも隣り合った者と言葉を交わし、それが意味するところを理解した。

 

 妖怪ニンゲン・ヤタガラス。またの名を、妖怪リトル・ヤタガラス。

 80年前の大戦で『現代堂』と刺し違えた妖怪一派“八咫派”の当主一族に生まれた、半人半妖の少年。

 意図せず妖怪の力に覚醒(めざ)めた彼は、山ン本の生み出した妖怪カタナ・キリサキジャックを打倒し、『げえむ』の『ぷれいやあ』である妖怪チョウチン・ネコマタと妖怪フデ・ショウジョウも撃破したのだ。

 

 総大将の山ン本は、これを事実上の黙認。

 むしろ『げえむ』の障害、『ぷれいやあ』が乗り越えるべき『敵きゃら』として扱う事とした。

 これが示す事実とは、つまり──

 

「そのリトルとかいう妖怪を殺した奴が、次代の“魔王”確実って事かよ!?」

「へへへっ、こいつぁ盛り上がってきたぜ……つまり、俺たちが挑戦する『げえむ』の『るうる』を、リトル・ヤタガラスをぶっ殺す事に設定すりゃあいい訳だろ?」

「いや、もっといい方法があるぜ! そいつの家族とか親しい奴を殺せるような『るうる』を作るんだ! そうすりゃ、『敵きゃら』は自分から殺されに──」

【──ギャハハハハハハッ! なんとも()()()()算段だなァ、オイ! 今喋ってた連中、オメェらの『げえむくりあ』はまず無理だな!】

 

 どこからか聞こえてくる、それでいてその場にいる者たちの誰もが声の発生源を理解している、そんな濁ったわめき声。

 呑ン舟のハツラツとした嘲笑に臓物を揺るがされて、妖怪どもは不快感を表に出した。

 

「おいおい、呑ン舟よぉ……どういう意味だよ、そりゃ」

【分っかんねぇ奴らだなァ。だってよぉ、リトル・ヤタガラスとかいう妖怪はあくまで、『げえむ』を()()()()()()()()()()()()()()()? そいつを倒したからって、人間どもの恐怖で地脈を染め上げなきゃ意味ねぇだろうよ】

「だから、その為にそいつを殺せるような『るうる』を──」

【で、その『るうる』とやらは、一発で“昏い太陽”を呼べるくらいの恐怖を集められるのかよ?】

 

 その言葉の意味を、彼らは理解し難かった。

 だがそこで、ドスンという鈍く重い音が響く。その音の方に目を向けてみれば、神ン野が手に持つ薙刀の石突で床を叩いていた。

 注目を集めた彼は、雑兵どもを見渡して重々しく言葉を紡ぐ。

 

「自ら決めた『るうる』は、変更してはならない。その鉄則は、開催時にも告げた筈だ。仮に『リトル・ヤタガラスを殺す』という『るうる』を定めたならば、その『るうる』に則った『げえむ』で“昏い太陽”を呼べなければ、決して『げえむくりあ』とは認められない」

「た、確かに言われた覚えはありますが、しかし何故……」

「……どうやら、まだ理解できていないようだな。()()()()()()()()()()()()()のだ。法則性の無い怪異は、質のいい恐怖を生み出せない。そして、『げえむ』における一貫した法則性──“物語(すとおりい)”こそが、『るうる』なのだ」

「『リトル・ヤタガラスを殺す』という粗筋(るうる)の終わりは、リトル・ヤタガラスの死以外にあり得ません。そして、リトル・ヤタガラスを殺す事に成功した以上、その怪談(げえむ)はそこでおしまいなのです」

 

 弦を弾く音と共に、キツネの女怪が補足を加える。

 彼ら彼女ら──即ち『現代堂』の幹部たちは、『るうる』が定められた意義をよく理解している。

 それはつまり、ヤタガラスなる邪魔者を優先して殺す旨味が無い理由も理解している、という事だ。

 

「『敵きゃら』を殺す。『敵きゃら』の身内を殺す。大いに結構。ですがその程度の『るうる』では、結局のところ彼ら()()殺せません。恐怖を生み出す為に求められるのは、当事者性なのですから」

【要はよぉ、『自分も巻き込まれるかもしれない』って意識が恐怖を生み出すんだな。例えば八咫村の当主を殺す為に、『ジジイババアを狙って殺す』って『るうる』を定めてみろ。その通りに『げえむ』を進めたとしても、若い連中はピンッピンしてるだろうが】

「それならいっそ、『金烏市の住民を手当たり次第に殺す』という『るうる』を設定した方が、八咫村の関係者を纏めて殺しつつ恐怖を煽れますね。……この馬鹿でも分かっているような事を、どうしてあなたたちは……」

 

 何度目になるかも分からない溜め息が、己の九尾をゆらゆらと震わせた。

 この呑ン舟なる声の主は、普段から間抜けで喧しい笑い声ばかりを轟かせている癖に、こういうところでは核心をしっかり理解して語るからタチが悪い。

 

 そう内心で毒を吐きつつ、信ン太の指先は撥を強く握り締めた。

 どれほど妖怪の膂力で握ったとして、妖力から生成した撥にはヒビ1つ入らない。

 

「お分かりになられましたか? ならば、次からは『“特定の誰かを狙い撃ちにする”るうる』ではなく、『“より多く、より効率的に恐怖を掻き立てられる”るうる』を考える事です」

「へ、へい……よく分かりました……」

「ヒヒヒヒヒッ。信ン太たちのお説教はよく効くだろう? 『げえむ』の根本を勘違いしたまま『るうる』を作って、『げえむくりあ』できずに『ぺなるてぃ』を食らう奴の醜態も見てみたかったんだけどねェ……その点は残念だよォ」

「それを防止する為にわざわざ解説して差し上げたんですけど?」

 

 大方予想通りの胡乱な事をのたまった総大将に対して、縦に裂けた金の瞳孔が()めつけられる。

 尤も、睨まれた相手は虚ろに嗤いながら煙管(キセル)を咥えるばかりなので、ポーズにしかならないのだが。

 

「さっ、て。信ン太たちが分かりやすく教えてくれたおかげで、『げえむ』についての理解度も深まっただろう? じゃァそろそろ、次の『ぷれいやあ』を決めようかァ」

 

 ヌラリ。

 

 この世に存在する如何なる概念も介在しない、完全な暗黒にして虚無。

 或いは、この世の総てを嘲笑っているかのような、ヘドロよりも深くて濃い悪意。

 

 見る者によって無限の解釈が生じるだろう、山ン本の虚ろな眼差しが放たれた。

 その粘ついた瞳は一般妖怪どもを、幹部たちを、そして棚に並べられた骨董品の数々を舐めるように凝視する。

 

「次は、誰が行くんだい? 今度の『げえむ』はどんな惨劇を見せてくれるのか、今から愉しみで仕方がないからねェ……ヒヒッ、ヒヒヒヒヒッ!」

 

 そこまで言い切ってから、長く禍々しい煙管(キセル)から煙を吸い上げ──

 

「ゲヒャヒャッ! そんなら、次こそはオレサマの出番だなァ!?」

 

 名乗りが、上げられた。




・敵勢力が暴れる理由
・敵勢力が戦力を逐次投入する理由
・主人公たちの街でしか暴れない理由
・主人公たちの身内を狙わない理由

大体説明できたな、ヨシ!
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