ソウルナ   作:モンです

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「大丈夫か……?」

「な、なかなか、やるじゃん」

 

 よろよろと立ち上がった少女は手首を押さえたままキッと睨む。

 頬が朱に染まっている。恥ずかしかったらしい。最初の幻想的な雰囲気は何処へ行ったんだよ。温度差が激しすぎて目眩がする。

 

 頭に手を当て、とりあえず話しかける。

 

「初めまして。俺はグレイ。その様子じゃ突然の呼び出しになったのか? 申し訳なかった」

「え、あ、はい」

「あー、嬢ちゃん、お名前は?」

「……コハク」

 

 名前を答えてくれてホッとした。警戒されてはいるが、一応対話はしてくれるらしい。確かにこれはコミュニケーション能力必須だな。

 つーかこの嬢ちゃん自分の名前を技名にしてた?

 

「俺はソウルナっていう、よく分からん石で英雄を呼び出したはずだったんだが。コハク、さんは英雄なのか?」

「はっ?」

「オッケイ、まさか事故ったかこれ」

 

 どうすんだよこれ。ソウルナなんて謎物質を信用すんじゃなかった。

 俺が頭を抱えていると、少女はコハクでいいよ、と前置きして問いかけてきた。

 

「英雄って織田信長とかナポレオンとか、そんな感じの人?」

「……俺は知らねぇな。有名どころだと、『炎剣』のマイルズや『絶魔』のシャルロタじゃねぇか?」

 

 何その中二病みたいなの、とコハクは遠い目をした。

 そのままコハクは腕を組み、目を閉じる。考え込むコハクの顔を見ていると、整った容姿が知的な雰囲気を醸し出していた。とてもさっき殴りかかって自滅した奴とは思えない。

 

 しばらくして、コハクはゆっくりと、目を開いた。

 

「なるほどね。かんぜんにりかいした」

 

 そんな理解を放棄した顔で言われても。

 

「まあこういうの好きだから、か。……それにしても、私が英雄ね。一応白い死神って言われてたし、それか?」

「白い死神? 聞いた事がねぇな」

「そりゃあね」

 

 当然とばかりに頷くコハク。

 

「設定はなんとなく分かったけど、なんで私を呼んだの?」

 

 設定、というのは分からんが、俺に呼ばれた事は理解してくれたようだ。

 それならば後は誠意を見せるのみだ。コハクの問いかけに真摯に答える。

 

「俺はアンデッドと呼ばれる化け物退治のギルドに所属することになってな。だが俺だけじゃとてもじゃないが勝てねぇ。だからあんたの……コハクの力を借りたい。協力してくれねぇか?」

「おっけー」

「早くね!?」

 

 もっとこう……代わりに何かやれみたいなのあるだろ。逆に不気味なんだが。

 

 コハクは自分の髪の毛を手持ち無沙汰にいじる。

 

「まぁ、暇だし。面白そうだから良いかなって。顔が好みじゃないのは残念だけど」

「お、おう。それは申し訳ねぇ」

「良いってことよ」

 

 引きつる頬を抑えて笑顔を固定する。

 た、耐えろ俺。こいつに協力してもらわねぇと命に関わるんだぞ。それに、対価無しに力を貸してくれるってんだ。ちょっとばかし生意気でも、どうってことねぇさ。

 

「どうせならカワイイ美少年だったらよかったのに。案内役は良い年したおっさんかー、夢が無いなぁ」

 

 生意気なクソガキがぁ!

 

「は、ははは。とりあえず、よろしく頼むわ、コハク」

「よろしくー」

 

 やる気無さそうに手を振る白髪の少女に、先行きが非常に不安になる。

 ため息をついた時、目の前の少女が捻れていく。

 

 違う。コハクだけじゃない、この空間が捻れてるんだ。

 気づいた時には、俺達は闇に溶け込んでいた。

 

 

 

 重力を感じる。

 肌に触れた空気が温度を伝える。

 

 ゆっくりと目を開くと、光が差し込む。

 そこは元いたギルドの応接室だ。

 

 室内にはエリックとメアリーが変わらずにいて、ほっと一息つく。

 その様子を見たエリックが話し出した。

 

「おかえり。どうだった? 無事に契約できたかい?」

「ええ、まあ、おそらく」

 

 正直なところ、実感はない。ただの口約束だし、そもそもコハクがどんな英雄かも分かっていないのだ。

 

 今だに戸惑っている俺に、メアリーが。

 

「安心してください。グレイ様は確かに契約を結びましたよ。貴方が手に持つものがその証拠です」

 

 そういって、俺の手元に視線を送る。

 視線の先には、持っていたはずのソウルナは無く。

 黒光りする金属の塊があった。

 

「なんだ、これ?」

『デザートイーグルだよ』

「うおっ!?」

 

 突然した耳元の声に、思いっきり仰け反った。

 慌てて視線を向けると、見覚えのある白髪の少女が、俺の肩の辺りにぷかぷかと浮いていた。

 

「な、ん、え?」

『銃に詳しくない私でも知ってるくらい、有名な銃だけど。知らないの?』

「なんだそれ……てかなんでいんの!?」

 

 当然のようにいるしなんか浮いてるしマジで何なの!?

 

『だってソウルナ(それ)の中、何も無いし。外に出たくなるじゃん』

「そんな気軽に出れるもんなのかよ」

『みたいだね』

 

 とー、と呟きながら頭上を回るコハク。それを呆然と見る俺。

 ソウルナは魂を呼ぶ石らしいから、コハクも魂だけの存在なのだろう。空を飛ぶのも当たり前ってことか?

 楽しそうだなコハク。おっさんは怒涛の展開疲れたよ。

 

「エリックさんも人が悪いな。最初にこうなるって教えてくれりゃいいのによ」

 

 疲れ混じりに俺がぼやく。月明かりに入ってから振り回されてばかりだ。このギルド思った以上にヤバい。

 恨みがましくエリックを見て。

 

 ―――なぜそんな呆然とした顔をしている?

 

「君は……ソウルナの魂が見えているのかい?」

「はい、元気に飛び回ってますけど?」

『体が軽い、こんなの初めて!』

「そりゃあな。体がないからな」

「彼らがソウルナから出た記録は無いし、現実で見えたという報告も無いよ」

「ん?」

 

 いやめっちゃ出ているし見えるが。

 

「もしかして、コハクって俺だけにしか見えてない?」

「コハク、というのが君が契約した英雄だとすると、その通りだ」

「声も聞こえてない?」

「そうですね」

「……俺、傍目には頭おかしい奴か?」

「人前ではあまり反応しない方が良いかもしれません」

『草』

 

 衝撃の事実が発覚した。

 というか草ってなんだ。

 

 要するに、ソウルナを使ったら今までに無い現象が起きた、ということか。俺がおかしいのか、コハクが特別なのか、このソウルナが変なのか。

 

「まぁ害が無いならいいんじゃないですか」

『だーれだ』

「害あったわ」

「仲が良さそうですね」

 

 何よりだね、とエリックが何度も頷く。興奮して俺を見る彼の目は、良い研究材料を見つけた科学者の様だった。

 

 あぁ、嫌な予感がする。

 

「うん、うん、やはり僕の勘は間違ってなかった。英雄の声を聞ける者はいるが、見える者は初めてだ。君はきっと、上に上がってくるだろうね」

 

 こんなおっさんに期待すんなよ。

 

「というわけで、早速だが君に仕事を任せたい」

「いや、ソウルナの習熟まで無いんじゃなかったんですか」

「それはアンデッドの討伐の話さ。それ以外の仕事だったら認められている。それに、仕事があるのはグレイ君にとっても喜ばしいことじゃないかな?」

 

 言葉が詰まる。

 そうだよな、知ってるよな。

 《月明かり》はそれを知って俺を入れるのか。

 

『何の話?』

「……借金があるんでね」

『へぇー。お金の無い男はモテないよ?』

「うるせぇ」

 

 傭兵っつーのは儲からねぇんだよ。装備品の手入れや買い替えで費用がかかるんだ。それに、いつ死ぬか分からんのに、所帯持ってどうすんだって話でもある。これからはアンデッドの討伐までやる事になるんだ。尚更無理だろ。だから全然気にしてねぇし?

 

 あー、出会い欲しい。 

 

「新人の俺に仕事をくれるのは、ありがたいですけどね。内容次第じゃ自分だと力不足かもしんないですよ」

「そこは安心して欲しい。さすがにいきなり一人で行かせるつもりは無いからね。ベテランをつけさせてもらうよ」

 

 エリックの言葉にほっとする。いきなり一人でアンデッド関連の仕事とか、しんどいにも程があるからな。

 

 俺の様子を見て、エリックは依頼の内容を話しだす。

 

「トランクルの北東のマイメで、村人の行方不明者が多発している。グレイ君にはその調査をしてきて欲しい」

 

 詳しくは依頼人に聞いてほしい、とエリックが告げる。

 

 マイメは、トランクルの北にある山岳地帯、そこから流れる川の下流に位置している。ワインの製造で有名な商会が土地を買い取り、開拓してできた村だ。

 

 そこで作られるマイメワインは、トランクルで割と人気で、日常的に飲む奴もいるらしい。酒場の酔っぱらいがそう言っていたのを覚えている。

 

 ……酒が欲しくなってきた。

 

「この仕事をしながら、先輩にソウルナの使い方を教わるといい」

「了解っす。ありがとうございます」

 

 なんか流されてる気がするが、悪い話じゃないはずだ。準備だけはしっかりせねばならんが。

 

 頭を下げて立ち上がり、部屋を出ようと振り返る。

 

『……くかー』

 

 コハクが浮きながら寝ていた。

 えっ、魂って寝れるの?

 

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