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依頼を受けた翌朝。
ギルドに赴いた俺は、依頼に付き添ってくれる先輩に挨拶をしていた。
「いきなり任務? へぇ、おもしれー新人」
「グレイと申します。よろしくお願いします、先輩」
「ご丁寧にどうも。俺様はラルフだ。あぁ、敬語はいらねーよ。そんなもの使わなくても、お前が俺様を尊敬してるって事は、分かりきってっからよ……」
なんだこの癖が強い先輩は。
俺より幾らか年下であろう青年は、長い茶髪をかき上げ、目を細めて天井を眺めている。
失礼な言い方をすれば、めちゃくちゃ自分に酔いしれていた。整った顔をしているので、それも絵になってしまうのがイラッとする。
俺の横で綿毛のように浮いているコハクは、楽しそうに口角を上げた。
『おもしれー男だね』
「ちょっと面白過ぎて不安まで行くかもしれねぇ」
「おいおい、ラルフ様みたいになれるか不安だって? ―――安心しろよ、俺様の領域に来るには人の寿命じゃ短過ぎる。目指す者じゃーない、見上げる者なのさ」
「聞いてねぇよ」
この人が月明かりのベテランなのか?
マジで……? 俺、やっていける自信ねぇよ……?
ギルドに入って一日で脱退を考えさせられていると、ラルフはゆっくりと首を振り、こちらに目を向けた。
「ふっ、俺様が気になるのは仕方ないが、まずはお前の事だ。ソウルナの扱いについては何か聞いてるのか?」
「いや、何も聞いてないな」
「なら、教えてやろう。ソウルナを操るのに必要なのは、たった一つ」
ラルフは俺のソウルナを指差し、言い放つ。
「英雄との対話だ」
指を指揮棒の様に振るい、ラルフは続ける。
「ソウルナってのは英雄の力を借りる物。ならばその使い方を知っているのは当然、ソウルナに込められた英雄自身だ。そのために、普通の新人はソウルナと時間を共にし、絆を深め、英雄の声が聞こえるまで体と心を鍛えあげる」
お前はラッキーなのさ、と肩を叩かれる。
ラルフの言葉に思わず頷く。だからエリックはあんなに興奮していたのか。最初から英雄と対話ができるのは、俺が考えていた以上にとてつもないアドバンテージになるようだ。
「ま、ここでは話し辛いだろう。一人になれるよう、ギルドの部屋を取っておいた。そこで聞いてみるといい」
「助かる。ありがとう」
当然、と顔を手で隠してポーズを決めるラルフ。
人目のあるギルドで、全く自分を恥じていない。
……これが無ければ素直に尊敬できるんだが。
そのメンタルは凄いと思うけど。
早くこの人から離れたいし、ありがたく厚意を受け取ろう。足早にラルフから聞いた部屋へと向かった。
号室を確認し、扉を開けて部屋に入る。
机の近くの椅子に座り、浮いたまま着いてくるコハクを見た。
「よし。じゃあコハク、ソウルナの使い方を教えてくれねぇか。確か、デザートイーグルって奴だよな」
『うん。でも私、あんまり知らないけどなぁ』
「……? これ、コハクのじゃないのか?」
『そんなわけないじゃん』
「話が違わないか」
そんな訳無い事ある?
『知ってることと言えば、それが剣や弓と同じく武器であるって事と、大砲を小さくした感じで鉄の塊を撃ち出す物って事、そして大体の扱い方位かな』
「十分だろう」
『知識だけだよ。実際に使った事あるわけじゃないから』
コハクが自信なさげに眉を下げる。
戦いとは無縁そうな細い体だから、サポート向きのソウルナかと思ったが、まさか戦闘向きだとは。
実際に使ったことが無いってのも不思議な話だが、軍の指揮官や参謀だったならありえなくもない、のか?
ふと頭に浮かんだ疑問は置いておき、とりあえずコハクに銃の扱い方を教えてもらう事にする。
『握り方は、そう、そんな感じで。そのレバーを動かすと安全装置が外れるから、あとは銃の上の所を引いて、引き金を引く。それで弾が出るから。あ、今撃たないでよ。弾込めの仕方はそこのボタンを押して……』
「弾なんて持ってないんだが」
『ポッケとかに入ってたりしない?』
「するわけ……あったわ」
服のポッケに手を突っ込むと、ジャラジャラと指位の大きさの弾が出てくる。ソウルナが親切設計で良かった。
今は実際に撃つわけでは無いので、弾は込めずに操作を学んでいく。一通り教わった後、手持ち無沙汰に銃をいじりながら一言。
「これ、強いのか? 装填数が少ないし、すごく面倒なんだが」
微妙な顔の俺を見て、コハクは指を立ててチッチッチッと舌打ちする。
『甘い。甘いねぇー、グレイ君』
「……何がだよ」
『に・ん・し・き・が、だよ』
コハクの物凄いドヤ顔が迫って来た。
『いい? 確かにこの銃は装弾数が7発しかないし、戦場でリロードできるとも思えない。そもそも拳銃なんて当たんないよ』
「当たんねぇの!?」
『超ムズいね。―――だけど、これはソウルナだよ?』
手を銃の形にしたコハクは、虚空に撃つ真似をする。
『FPSプレイヤーの魂が込められた銃が、そんな貧弱な設定なわけ無いじゃん。しかも相手はアンデッドなんでしょ? ヘッドショットでキル確定、リロードはボタン一つですぐ終わる、そんな素敵仕様に違いない!』
「おう?」
『これでも私、ランク戦で10位以内に入ってますから。何ならプロチームのスカウトも来たことあるし? 白い死神なんて恥ずかしい名前でも呼ばれてる位には強いんだよ! なめないでよね!』
「な、なめてないなめてない。俺が悪かったよ」
何言ってるか分からなかったが、勢いに負けて謝る。取り敢えず、強い武器って事で良いのか。
「デザートイーグル、か」
ずっしりと重い銃を眺める。ソウルナという謎の鉱石から創り出された未知の兵器。どれほど信用できるのか、使ってみなければ分からないが。
「格好良いからヨシ!」
『それな!』
勢いよく親指を立てて、コハクが同意した。
部屋を出て、ラルフと合流する。俺を待っていたラルフは片手で読んでいた本を閉じ、壁に寄りかかりながらゆっくりとこちらを振り向いた。
……なんか、こう、いちいち所作が狙っているというか。共感性羞恥が凄いというか……。
若者にたまにいるよな。なんなんだろうな。
「待たせた、ラルフ先輩」
「ソウルナの使い方は分かったか?」
「ああ、お陰様で」
素晴らしい、とラルフが拍手する。無駄に音を響かせているのが辛い。
拍手の最中、ラルフが持つ本の表紙が見えた。……サルでもわかるモテる男の秘訣、か。
関わりたくないという気持ちをグッと堪えて、依頼についての話をする。
「それで、マイメにはいつ向かうんだ?」
「今から馬車で向かう。準備はできているな」
「もちろんだ。行こう」
リュックサックの重みを確認し、頷く。トランクルの北門からマイメ行きの馬車が出ていたはずだ。
ラルフと二人で北門へと向かう。活気溢れる人々を横目に目的地へと歩いていく。途中、市場を横切る中で、コハクが物珍しげに商品を眺めていた。
――ッツ!?
コハク。頼むからスキンヘッドの男性の上で片足立ちしないでくれ。真顔なのがジワジワ来るんだ。
その状態で徐々に回転していくコハクを見なかったふりをして、視線を隣に移す。
そういえば、ラルフも月明かりに所属しているという事は、ソウルナを持っているはずだ。しかし彼の荷物の中にそれらしき物は見当たらない。
「ラルフ先輩のソウルナは、どんなものなんだ?」
「ほう? ……やはり気になるか」
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりにラルフが不敵な笑みを浮かべる。腰に手を当て、身に纏うマントの中から何かを引き抜いていく。
「ならば見せてやろう。―――これが俺様の至高のソウルナだ」
そう言って掲げた彼の手に現れた物は。
「……スコップ?」
なんの変哲も無い道具だった。