ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
……はっ?
待って待って、聞いてない聞いてない。
なんでレジロック出てくるの?
ゲームじゃ持ってなかったじゃん。
ジンダイさんかよ。
いや待って、これだけ言わせて。
勝てるかぁ!!
最初のジムで出してくるポケモンじゃねぇだろどう考えても!
本来だったらファイヤーとかいないんだぞ!
マダツボミとかフシギダネでこれを相手にしろって言うの?
無理ゲーだろどう考えても!
「誰がきてもわたし達なら勝てる! 続いていくよっ! ファイヤー!」
ファイヤーへと転生した俺の主人、リーフは溌剌とした勢いで拳を突き出した。
流石に辛いって!
いや最初からきつかったけど!
いくら対戦用に鍛えられたポケモンでもきついもんはきついんだよ!
なんて思念を送ってみようにも俺の口から出てくるのは「ギャーオ!」という雄たけびのみ。
これをご主人は「気合十分だね!」とまるで理解していない様子で両肘を曲げてポーズをとる。
……マジかよ。
いや分かっているよ。
フシギダネでレジロックを相手にするのは正直言って無理だって。
けどさ、ファイヤーでレジロックを相手にするのはもっと無理だって思うのよ。
「レジロック、岩石封じ!」
「ファイヤー! 熱砂の大地!」
岩石封じと熱砂の大地は互いの威力を相殺しあい弾け飛ぶ。
爆風が俺たちを手厚く抱擁し、先の光景が見えなくなる。
さっきと全く同じ流れだ。
「レレレジジ(損傷軽微)」
「レジロックの岩石封じも防ぐか。いいな。レジロック、鉄壁!」
鉄壁?
何をするつもりだ?
防御力なんて上げても睨みつける以外影響は出ないぞ。
「ファイヤー、突っ込んで火炎放射!」
この何か企んでいると思しき行動にあえて突っ込めと。
よしっ、やってやる!
リーフ、トレーナーからしか見えない判断だってあるだろう!
俺は翼を折り畳み煙へと急降下、眼前にレジロックを補足する。
あちらはまだ動いていない。
火炎放射を放とうと口を開いたその直後だった。
「レジロック、押さえつけろ!」
「レジレレレ(目標を捉えます)」
岩の腕がにゅるりと伸びてきて俺の首根っこをひっ捕らえたのは。
抜けられない!
鉄のように固くなった岩石の身体は、俺がいくら身体を動かそうともびくともしない。
けどよ! ここから火炎放射は撃てる!
効かないと思うけど怯んでくれたら儲けもんだ!
「レジロック、ボディプレス!」
レジロックの硬度は鋼に近かった。
規則性なく光る点字は無機質が持つ不気味さを醸し出していた。
剛力を秘めた岩の腕で器用に俺を押さえつけたままだ。
タケシの指示を受けたレジロックは、そのままジャンプすると全防御力を持って圧し潰してきた。
意識が再び途切れるかと思った。
いや、意識があったとしてレジロックの手は俺を離れない。
もうこのまま手放したいとすら思える衝撃が、ガツンとなんて生易しい勢いじゃなく俺をぶん殴った。
背中が熱い。
全身がひび割れるように痛い。
けどなんでか分かってしまう。
俺の体力はまだ、赤ゲージくらいなんだろうと。
痣ができているんだろうなぁ、まるっきり見当違いなことを考えながら、俺は熱した砂を投げつけレジロックの拘束を引きはがす。
「ギャーオ」
意味は無い。
ただ吠えただけ。
本当に吠えただけなのだ。
羽休めが使えるなら今すぐにでも使いたいってさ。
けどリーフは、俺の行いに対してそう思わなかったようだ。
「まだまだ行けそう? 持ちこたえてファイヤー!」
ああっ、持ちこたえるしかないんだろ。
分かっている。
後ろフシギダネだしな。
持ちこたえればいいじゃなく、俺が持ちこたえるしかないんだ。
例え赤ゲージであってもな。
ゲームだと残り体力1の状態でも問題なく動いてくれていたけど……、これはきついな。
体力1じゃなくても、もう限界だと、もう休んでくれと雑念が脳に響いてきやがる。
「トレーナーはファイヤー頼み。はっきり言ってポケモンたちが可哀そうだ。自分のプライドか何かは知らないが、感情を優先して手持ちを二匹しか連れてこないのなんかは特に」
「ここに来るまでの間、ファイヤーはゴローニャと戦った。エンペルトとも戦った。それでも勝ってこれたのよ!」
「それはファイヤーのおかげだな。お前の強さじゃない。もう一匹のポケモンはどうしたんだ? そいつは戦えるポケモンじゃないと、信頼していないのか?」
「信頼しているに決まっているでしょ! 私とファイヤーのコンビなら誰にも負けないって話よ!」
「それを信頼していないというのだ。そして今のお前はファイヤーからも信頼されていない。懐かれているみたいだがな。ジム戦は子どものお遊戯会じゃないんだ」
「それは今から証明して見せるって言ってるのよ! それにそっちのレジロック、ちょっとやばいんじゃない?」
リーフの指さしたレジロックには何か焦げた跡が残っていた。
焦げた跡は未だ熱を持っているのだろう。
小さな炎を弾けさせてレジロックの体力を奪った。
火傷だ。
ここに来てレジロックは炎の身体によって火傷したんだ!
だが、タケシはやれやれとでも言いたそうに首を振る。
「眠れ、レジロック」
……レジロックの点字が点々と光る。
最後、眠りにつくかのようにすべてのHが明滅した後、レジロックの点字から光が無くなった。
同時に俺からも希望が無くなった。
岩石封じ、鉄壁、ボディプレス、眠る。
これが冒険を始めたてのトレーナーに使うポケモンかよぉ。
ポケモンリーグは新人トレーナーを育成するための組織じゃないのかよぉ。
これじゃあ誰も勝てないだろ。
「レッド君とグリーン君だったかな。彼らは俺という壁を乗り越えたぞ」
「えっ……。準伝説級のポケモン無しで」
「さぁ、どうするチャレンジャー!」
なるほどな、ジムリーダーはチャレンジャーの実力に見合ったポケモンを使う。
俺はてっきりジムバッジの数で使うポケモンを変えているのかと思ったけど。
別にそうじゃないんだな。
自分の判断で変えていいんだな。
俺というファイヤーがいるから、タケシはレジロックを繰り出してきた。
俺がいるからこそ、タケシはさらにでかい壁を築き上げたんだ。
これはきっと、俺の失態だな。
俺がいるせいでエクストラモードになったんだ。
後ろに繋ぐなんて甘い考えじゃダメだ。
こいつは俺が倒さないと。
「ギャーオ! (やってやる!)」
「ほらっ、ファイヤーも気合十分! 眠るというなら、起きる前に倒しちゃえば良いのよ! ファイヤー、レジロックに熱砂の大地! とにかくぶつけてぶつけてぶつけまくって!」
よっしゃやってやる。
それとひとつ、ひっじょぉぉぉぉぉぉうに、うっすい勝ち筋が思い浮かんだ。
いやほんと、やるならトゲキッスじゃないとできないことだけどな!