ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
「おっ、そこの嬢ちゃん。どうぞどうぞ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。こちらにおわす秘密のポケモンコイキングがい・ま・な・らなんとたったの500円。今しか買えない超お手軽価格で安いよッ!」
そういえばお月見山のポケモンセンターといえばコイキング売りのおじさんが居たよなぁ。
頭にねじり鉢巻きを巻いた白ワイシャツに腹巻の、江戸っ子みたいな服装をしたおっさんがハリセンを叩いてリーフに叩き売ろうとしている。
「いらない」
そんなおじさんの売り言葉をリーフは南極のように非常に寒々しい一言と眼光で突っぱねる。
せやね。誰だってそういう反応するわ。
コイキングとかカントー地方ならそこらへんで釣れるし。わざわざ買うメリットがない。
「それにそのコイキング跳ねるしか覚えてないじゃない」
リーフがポケモン図鑑を広げて解説を聞く。
世界一弱いとか情けないとか下水道でもどこでも生きていけるだとか、なぜ今も生き残っているのか分からないとか散々な図鑑説明を受けている。
止めろよ! コイキングだってレッドさんに勝てるんだぞ! それに世界一弱いポケモンはヒマナッツだから。
「ダイビング、飛び跳ねる、体当たり、じたばたも使えないんじゃ」
「そんなこと言わずに頼むよ嬢ちゃん。売れないとせがれに美味しいもん買ってやれないんだ」
「真面目に働けばいいじゃない。そのコイキングを使ってバトルに勝つとか」
身体を伏せ、目元を腕で覆い泣き真似をするおっさんに、それでも冷水の如き言葉をぶっかけるリーフ。
ぐうの音も言えない正論ぶつけてやるのヤメナー。
あとコイキングはドロポンもあるで。使い続けると意外と愛着湧くんよ。
それでもおっさんは諦めない。
「職場探すのにもお金が掛かるのよ。ほらっ、この通り。どうか頼むよ!」
おっさんは手を合わせてリーフに拝み倒す。
もうここまで来たら素直にジュンサ―さん呼んだ方が良くね?
10代の女子に買ってくれととにかく頼み込んでくる中年のおっさん。……これは酷いな。
このままだとリーフの腕にしがみ付くまであるんじゃないか? 流石に見ていられない。
「ギャーオ! (ここまで!)
色違い特有の光演出をまき散らしながらボールから出てきた俺は、リーフを翼に隠し、おっさんから庇うように立った。
「なんでいこいつは!?」
「ファイヤー!」
おっさんは準伝説の登場にか腰を抜かしていた。
リーフは嬉しそうな声と表情で俺の翼に飛び込んでくる。
……特性炎の身体なのに良く平然と飛び込めるなぁ。
まったくコイキングの押し売りには困ったものだ。
なんておっさんとリーフを引きはなそうとして気づく。
あの水槽にいるコイキング金色じゃね?
いやいやまさかまさか、金箔を貼り付けただけだろ。
そっとリーフの持つ図鑑に目を落とす。
……金色じゃねぇか。
「ギャーオ!? (
「どうしたのファイヤー?」
これ買った方が良いって! 500円で色違いは超お得だぞ!
えっ、マジでこれ色違いなの? 図鑑がミスっているとかそんなんじゃなくて?
えっでも、図鑑って変装とか見破れるよね?
キルリアに化けたニャースの変装を見破ったよね!?
じゃやっぱりこいつ色違いなんじゃ……。
目の前に広がる黄金のコイキングに目を丸くする俺に、リーフは退却の光を放ってボールに収納させた。
「ポケモンの売買は法律で禁止されているの。そもそもポケモンを売ろうとするとか何考えてんの」
「ッちぇ、マサラタウン出身の赤い帽子を被った坊ちゃんは買ってったのに」
「レッドの奴。今度会ったら引っ叩いてやる」
リアルファイトやんけ。
おっさんはリーフの頑固として買わない意思と、俺を見たことによって挫けたのだろう。
不貞腐れた様子で「冷やかしなら帰った帰った」と手を振っている。
リーフも「べぇー」と舌を出すとポケモンセンターから出ていく。
「ありがとファイヤー。なんだかんだ優しいね」
優しいソフトタッチで俺のボールを撫でてくれるリーフ。
天幕の大部分が暗く染まるのを俺は猛省しながら見ていた。
いやほんと、色違いという欲に目が眩んですいませんでした。
ついあなた様のご家族であるレッド君と同じことをしようとしていました。
如何せん色違いという釣り針はでかすぎる。釣られクマーだよ。
それでも心のどこかでつい思う。
やっぱり色違いを逃したのは惜しいよなぁ……と。
いよいよお月見山へと突入してゆくリーフ。
腰にはポケモンセンターのジョーイさんからは何かあったようにと手渡された穴抜けの紐を付け準備万端だ。
中は……結構明るい。というのも野性のポケモンが明かりの代わりになってくれているからだ。
三番道路とあんまり見栄えしないな。直近だからそんなにすぐ変わったらそれはそれでって感じだけど。
しいて言うなら格闘タイプが多くなってきた。マクノシタとか、600族の恥とか言われている普通に有能なやつの一番進化前とか。
お月見山事態も、急斜面になっているだとか崖ができているといった危険な場所はないので、登山初経験のリーフでも順調に進めているようだ。
目と目があったらポケモンバトルをしているくらい。
「ファイヤー! 火炎放射!」
バトルの中でリーフも成長しているのか、俺に対して技の指示を送るようになってきた。
変わらず火炎放射を撃つ方向とかは指示されていないけど、その辺はこちらのフィーリングだ。トレーナーの仕事じゃない、と勝手に思っている。
まだ威力が低い。もっともっと上げないと。上げて上げて上げないと!
このままじゃダメなんだ。火炎放射じゃダメなんだ! もっと!
熱くなれ! 燃やし尽くせ! 全身の炎を燃やしつくすほど!
「ファイヤー! もう相手倒れてる! 火炎放射止めて!」
「ギャ(あっ)」
新しい技の練習をしている途中で相手が先にダウンしてしまったようだ。
これは申し訳ないことをした。
火炎放射を止めた俺は、戦闘不能になったドータクンに頭を下げ、反省の意を示す。
相手トレーナーとドータクンは謝罪を好意的に受け取ったようで、「大丈夫」と笑いながら第二戦目を開始した。