ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
前も見ずに小走りしていたそよ風が、深層意識の中に潜っていた俺の意識をゆっくりと呼び覚ます。
小さく身体を身震いさせ、重い瞼を開いた俺の前に広がっていたのは黒く彩られた木々だった。
空は真っ暗闇な天幕どこまでも敷かれていて、川のように規則性の欠片もない星々が煌々と己が存在を主張する。
ほうっと息を吐いてみればどこか温かく。続いてざっと、土を踏む感触が足から脳へと伝ってゆく。
バチバチと火花が弾ける音が鼓膜を叩く。
見渡す必要もなく、俺を中心として焚き木を付けた時のような淡い光の影が広がっているに気づく。
どういうことだと思考が混乱する前に自分の視界が高くなっているのに気づく。
……マジでどうなってんの?
俺は確かに自分の部屋で、夏の布団の暑苦しさに耐えながら高個体値のヒバニー欲しさに孵化厳選をしていたはず。
そこまでは覚えている。
そのあとの記憶はいくら記憶の土を掘り返してみても見つかることは無く、恐らくあまりの出なさに寝落ちしてしまったのだろうと思考は行きついた。
しかしだ。
寝落ちしたとしてなぜ俺は今、見知らぬ森の中にひとりで放り投げられている。
「ギャーオ(訳が分からないよ)」
……うん?
自分で思っていたのとまるで違う声が口から飛び出した。
まるでいつも自分の手持ちの中にいて、なんだかんだ炎の身体によって孵化要員になっているファイヤーと同じ……。
「ギャーオ!? (いやこの翼ファイヤーじゃん!?)」
俺は自分の手を目の前に持ってくると、つい声を大きく叫んでしまった。
なんせ、考えていた五本の指が生えた薄橙色の皮膚を纏った人間の手はそこになかった。
代わりにあったのはメラメラと燃え煌めく炎を吹き出した赤熱の翼。
三本の爪? 指先の生えたこれまた朱色に染まったほっそりとした足。
紛れもない。
ガチパのポケモンでありながら、炎の身体が便利だったので、いつも孵化要員として手持ちに入っていた色違いのファイヤーの姿だった。
……待って、なんで俺色ファイヤーになってんの?
なんで気づいたら見知らぬ場所にいるの?
特性とか技構成とかそのままだったりするの?
なんでザシアンじゃ……いやそうじゃなくて。
色々思考がグルグルしだす。
自らの炎を灯に木々の間から、なんだなんだとコラッタやポッポ、ニドランのオスメス達が顔を覗かせる。
ああうん、どうやら俺はポケモンの世界に異世界転生してしまったらしい。
それもにらみつけるさんだとか、真・唯一神とかあだ名をつけられているファイヤーに。
面白そうとネットで情報を調べ、使ってみたら意外と強かったあのファイヤーに。
とりあえず一度思考をリセットしようと目を瞑ろうとしても、周囲のポケモンたちから突き刺さる視線の嵐。
どうにかして眠ろうとしても気が散って仕方がない。
さて本格的にどう眠るかと考えていたら、コツンと俺の足が何かを蹴る。
何だろうと首を下に動かした先に、青いワームホールをそのままボールにした物が転がっているのを目にする。
ウルトラボール……。
色違いのファイヤーを出した時に、特別なボールに入れたいという思いから捕獲に使ったボール。
試しにこつんとボールのスイッチ部分をくちばしで突いてみると、赤いビームが一直線に俺の身体へと突き刺さる。
何か強い力でボールの中へと引っ張られた俺が目にしたのは、何とも筆舌に尽くしがたい宇宙空間。
惑星や恒星が広がっているのだけど、そこへ飛び立つことはできなかった。
あくまで背景といったところだろうか。
ただ広がっているのを目にすることができるだけであり、赤や青、黒に白、翡翠といった様々な星々が点々と存在している。
上層は外の景色が見えるようで、夜空を一望できた。
この空間は無重力なのか、翼や足を広げてみても何かがぶつかることは無かった。
制御の利かない浮遊ってこういう感じなのだろうか?
俺はその場で翼をたたみ、うつぶせになるようにして横になる。
この空間内はどこまで広がっているのかとか疑問に思うが、厳選作業の疲れがぶり返してきて一先ずもう眠ってしまいたい。
瞼を閉じればポケモンをやっていた時の思い出が蘇る。
まさかトレーナーではなく、ポケモンになっているなんて。
これが昔流行ったポケモンダンジョンですか。
それからファイヤー、ウルトラビーストを捕まえる用のボールに入れてごめん。
今度ルアーボールかダイブボールで捕獲しようかなぁ、とか考えてマジすいませんでした。