ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!?   作:氷水メルク

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野宿

 

 ファイヤーとリーフがいなくなった先ほどの広場では、まだトレーナーたちによって騒然の波が押し寄せていた。

 やはりポケモンを奪い、あまつさえ兵器化の処置を施すなんて考えられたものではなかったのだろう。

 さらにはシングルやダブル、トリプルといった明確に厳守されるべきポケモンバトルのルールを破り、トレーナーの方まで技の標的にする。

 それを組織だって行っている可能性があると来たものだ。

 

 自分たちはあのファイヤー使いの少女のように、凶悪な力を持ったポケモンたちを一同に相手することができるのだろうか? 

 もしも負けてしまったらどうなってしまうのか。

 自分と相棒ポケモンの仲は切り離され、最悪相棒ポケモンに忘れ去られてしまうのではないか。

 トレーナーたちは気が気ではなかった。

 

 そんな中、リーフからポケモンを受け取った青年はひとり呟く。

 

「ほんと、許されることじゃねぇだろうが。あのクソ団員は。サカキ様に頼んで別の部署にでも飛ばしてもらうかぁ」

 

 青年は腰に付けたボールを大上段に放り投げる。

 青い光を伴い、中から現れたのは常にガスを噴射させる紫色の風船みたいな形をしたポケモンだった。

 途端に鼻を摘む臭気が一面に広がっていく。

 

「ドガースよぉ、煙幕だぜぇ」

 

 命令されたドガースは口から有害な毒ガスを吐き出す。

 トレーナーたちの視界は遮られ、続いて動く黒い影の手によって次々と気絶させられていく。

 

「ふはは、口封じ完了」

 

 青年の顔がぐにゃりと動く。

 それはやっぱり駄作だと作者自身に断じられた粘土作品のように。

 青年の顔は徐々に不定形の青い身体を持つ一体のポケモンに変化していく。

 代わりに青年の顔は見る見るうちに紫髪の泣きぼくろが特徴的な男へと変貌してゆく。

 

「あのファイヤー、随分と有用性高いじゃねぇか。俺ならもっと使いこなせてやれるのによぉ!」

 

 だが今作戦にあのファイヤーは入っていない。

 惜しいところだが今回は泳がすことに決めたようだ。

 紫髪の親父はポケットに手を突っ込むと、欠伸交じりにお月見山の入り口目指して歩き出す。

 その傍らには捕まえられた紫のオーラを放つポケモンたちが入ったモンスターボールいっぱいを手に持った、ポケモンが沿うように立っていた。

 黒い二足歩行の身体、ポニーテールのような髪型をしており、シュシュが作られた先は真っ赤に彩られていた。目元や口元を化粧するかのように赤く濡らした狐のポケモンは、モンスターボールを手渡すとボールの中へと戻っていった。

 

「ロケット団に幸あれってな!」

 

 紫髪の親父は高らかに宣言すると、そのまま洞窟の闇へと溶け込み消えていくのだった。

 

 *  *  *

 

 どこにあの男がいるのか探すこと何分か。

 結局あの特徴的な服装をした雑魚が見つかることなく、俺とリーフは昼頃にお月見山の広場に到着していた。

 

 この世界すごいな。バトルを断れるんだから。

 リーフが「今急いでいるから後にして」って言ったら、相手の方も「しゃーないか」といった感じで引いていったぞ。

 やっぱり合意の下行われているんやなって。だというのにゲームときたら。

 

 話は戻って広場にいるトレーナーによると、この広場から行ける秘境でピッピが三日月ならぬ満月の舞をするのだとか。

 場所は毎回変わるようで、前発見されたときとは必ず違う場所で行われるらしい。

 だから見られるのは奇跡に近いのだという。

 分かることは決まって夜にピッピたちが集まること。

 その舞を見ることができれば、幸運の証としてピッピから月の石を貰えることもあると言っていた。

 

 ここに集まっているトレーナーはみんな、そのピッピの踊りを見るために集っているらしい。

 見れば商魂逞しくレジャーシートを引いて出店を開く者や、テントを張って野宿の準備をしている者もいた。

 当然というべきか、暇を潰すためにトレーナー同士集まって、自慢のポケモンで火花を散らしている人たちもいる。

 そしてその多くは俺の姿、色違いファイヤーを見るや否や、物珍しそうに近寄ってくる者や、トレーナーのリーフに許可を貰ってからフラッシュを炊く者もいた。

 

 ああ、これが色違いを粘るときの俺の姿か。なんて妙な既視感を覚えつつ、されるがままになる。

 一通り楽しんだトレーナーたちは、蜘蛛の子のように散っていく。

 

 初めてもみくちゃにされた俺はバトルの時と違う、妙な疲れを覚えていた。

 そんな俺に対して乾いた笑みを浮かべる美少女、リーフ。

 

「大人気だね、ファイヤー」

「ギャオ(疲れた)」

「……テント張ろっか」

 

 それは俺じゃなくフシギダネに言ってくれ。

 この翼じゃなんもできんわ。テントがモエルーワ! 

 

 ……そういえば初の野宿なのではないだろうか? 

 なんだかんだ言ってトキワの森も一日で抜けていたし、必ずといっていいほどポケセンで寝ていたもんな。

 テントはポケモン世界のバッグが基本四次元仕様だから入るとしても。

 

 ちゃんと張れるのか? 

 俺は張り方とか知らないぞ? と心配してみたものの、すぐにそんな必要なかったと思い知る。

 リーフは何かこう大きなビニールプールのような正方形のテントを取り出すと、無造作に地面へと放り投げる。

 瞬間、それは空気がパンパンに入り込んだかのように膨らんでいく。

 俺があっと驚いている隙に四方から杭が飛び出し、地面に食い込んでテントが完成した。

 

 ……ナニコレ? ポケモンの世界ってこんなものあるの? 

 しかも中は人だったら三人くらい余裕で入りそうな広さを誇っているし。

 やっぱりポケモン世界のバッグは四次元だ。どこにこんなのが入るんだか。

 

「さっ、ご飯にしよっ!」

 

 その言葉と共にボールからフシギダネを外に出した。

 リーフはフシギダネに手伝ってもらい木の枝を集めた。

 これまたどこから出てくるのか。物理現象を無視して出てきた食材群を切り終えると、シチューの素と一緒に鍋へぶち込む。

 最後、俺が薪に火をつけて焚火の完成である。

 

 どうでもいいけどさ、水もいったいいつの間に用意しているんだろうね? 

 そしてさ、軽く4リットルもある水を平気な顔して運んでくるリーフは何? スーパーマサラ人なの? 

 

 ちなみにできたシチューですが、フシギダネに頼んで口に運んでもらいました。

 皿じゃ食えんのよ。くちばしじゃ食えんのよ! 

 

「ギャオ(いや悪いな、ほんと)」

「ダネ(いいのいいの)」

「ギャーオ? (男に食べさせるのっていやじゃないか?)」

「ダネ? ダネフシャ! ダネ、ダネダネ! (男? 僕はメスだよ! あと、君もメスだよ!)」

 

 まさかのフシギダネ僕っ娘だった! 

 てかなに? 俺メスなの? 確かにファイヤーはメスとして描かれることが多いってよく聞くけど。

 じゃ何か? 俺も類にもれずメスなのか? 知らぬ間に性転換してた。いや騒ぐことなんだろうけど、人間じゃないって部分でそこはもうどうでもいいって感じだった。

 

「ダァネ! (それよりご飯美味しいね!)」

「ギャオ(それで良いならもう良いんだけどね)」

 

 何だろう。この子穏やかそうって言ったけど、やっぱり暢気な気がしてきた。

 あらあらウフフ、って感じじゃないもんな。あと普通に植物が肉食っている。

 

 色々と気になることはあるけど、リーフの作ったシチューは良くできていた。

 一口大に切り揃えられた野菜や肉たち。口に入れた瞬間、野菜はその身体を崩壊させていった。

 肉は鶏肉だろうか。なんのポケモンの肉なのかはもうこの際置いとくとして、非常に柔らかい。ファイヤーの力を持ってすれば簡単に噛む? ことができた。

 シチューの方はといえばこれといった特徴がない。食べればシチューだっていうのが分かる程度の存在だと思う。

 温度に関して、リーフがフーフー息を吹いてシチューを覚ましているのだから非常に熱いのだ分かる。

 けど不思議とまるで熱さは感じない。むしろぬるいくらいで炎ポケモンの体温について伺い知れるものを感じていた。

 ちなみにフシギダネちゃんも冷ましています。あの子草タイプだからね、大丈夫かね? 

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