ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
食べ終わった後、リーフはフシギダネと一緒に使った食器を片付け終える。
本当便利だ、この世界。
汚れを綺麗に洗い流す水を出す小型の機械が存在しているようで、それを使って清潔にしていた。
んで、この水だがとあるタンクから転移してきているんだと思う。
ゲームに会ったワープゾーンを人ではなく、水に対して使っているんだと思う。
ご丁寧に下水道へと転移する排水溝まであるようだ。
アニメだとどうやって綺麗にしていたのか描写が無かったし、ゲームだとそもそも片付ける描写が無いしね。
川の畔で流すにしても自然を汚す元凶になりかねないし。出張スイクンとかやらないためにもこういう道具は必要になるんだろうね。
あと、テントには簡易のトイレがついているようだ。この先はもう言わなくても分かるだろう。
テレポーターって重宝するよなって話です。
バッグについても、細かいことを気にしていても仕方ないだろう。
ポケモン世界では常識に囚われてはいけない。
……そういやあの巫女はピカチュウを知っているんだっけか。
まぁ、違う作品のことは置いといて。
食事を終えたリーフは他ポケモンを捕まえることなく、ただ空を眺めていた。
リーフの透き通る水晶の瞳に映った雲が流れてゆく。
最近、リーフが虚空を眺めることが多い気がする。
「ねぇ、ファイヤー」
「ギャオ? (なんだ?)」
「私といない方がファイヤーのためになるんじゃないかな?」
「ギャーオ(それはどうして)」
「だってファイヤーは私より強いもん。一匹でトレーナーもいらないし。それに私じゃなくて、もっと強いトレーナーの下なら活躍させてあげることもできるし。タケシにも言われたし」
そう言われてもなぁ。
俺ぶっちゃけエンジョイ勢出しなぁ……。ガチで勝ちに行くスタイルじゃ無かったし。
初めはみんなそんなもんだよ。俺なんてリーフの考えの領域になるまで16年くらい掛かったし。
特に気にする必要はないよと、俺はリーフの帽子に翼を被せてやる。すると久しぶりにボッ! という何か点火する音が耳に届いた。
「熱ーい!」
「ギャオ(やっば)」
慌ててパタパタと帽子の火を消すリーフ。
申し訳ないやらなんやらでいっぱいになる俺が見たリーフは、どこか崩れるほど脆い笑みを浮かべていて。
「懐かしいね。この感じ」
「ギャオ(ほんとにな)」
「やっぱりファイヤーは——」
と続きの言葉を紡ごうとしたリーフにフシギダネが突撃!
おもっきし腹部に直撃したフシギダネの突進は、リーフを仰け反らせ尻もちをつかせた。
「ダネ! (ダメ!)」
「フシギダネ? どうしたの?」
「ダネ! ダネダネ! (もっとファイヤーの言葉を聞いて!)」
「フシギダネ?」
いや無理あると思うぞ。言葉伝わらないんじゃ。
だから行動で示すしかない訳なんだけど……、どう伝えればいいのか分からんのよねぇ。
そもそもの話さ。
「ギャーオ! ギャーギャー(リーフについていくと決めたのは俺だ! 俺を思ってのことだったら無駄だから止めろ)」
嫌だったらとっくに逃げている。
逃げないのは俺たち廃人と違って、リーフがポケモンを思いやる心を持っているからだ。
ロケット団に対して本気で怒ることができるからだ。
というかな、正直俺は廃人のようなポケモンの扱われ方をされたくない。
あんなの地獄だろ! なんかよく分かんない栄養ドリンクを何20本も飲まされて羽を突き刺されて、なお使えないと判断されたら切り捨てられて。
だったら美少女の下で活躍できる方が何倍も嬉しいわ! できるなら男の下で働きたくないわ!
「ファイヤー?」
じっと俺はリーフから目を放すことなく真正面から向き合ってやる。
リーフはそっと俺のボールを手のひらに乗せて差し出してきた。まるで何かを待っているかのように。
風がリーフの髪を攫い流れてゆく。重たい雰囲気が一帯を包み込む。
心臓の音がうるさいほど耳に伝わってくる。
それでも俺はもう一度、リーフの持つボールに翼を重ね合わせた。
赤い光を照射したボールはそのまま俺を飲み込んだ。
「……ファイヤー。……そうよね、あぁぁぁぁ──ー! もう止め止め! らしくないったら! 出てきてファイヤー!」
そう、らしくないぜ。最初のレッドとグリーンにも言ったように、相手を捻りつぶす気でいないと。
あっ、握りつぶすじゃダメだぞ。それだとキッサキ神殿の粗大ゴミになっちまう。
リーフも元に戻ったことだし、これから俺たちはロケット団をどう捕まえるのか話始めていた。
* * *
「いた?」
リーフの言葉に俺は静かに頷いた。
夜の闇、煌々と視野が広がる程度には明るい炎の翼はピッピの捜索を容易にさせた。
あちらからは間違いなく気づかれているだろう。普通に目が合ったけど、何も気にせず満月の舞を踊ろうとしていた。
こういうことが良くあったんだろうなぁ。
ほんと、ピッピは慣れた様子で俺を指さしながら「あっ、ファイヤーだ」だとか「トレーナーさんのかなぁ?」といった会話をしていた。
こいつらも非常に暢気なようで。
けどその様子はまだロケット団には見つかっていないという裏付けにもなった。
ピッピの近くまでリーフを呼び出し終えた俺は、静かにボールの中で待機する。
フシギダネは念のために外で待機だ。夜の山だからか寒そうに身体を震わせているけど、今はまだ我慢していて欲しい。
そうこうしているうちにピッピたちが全員集合したようだ。中には進化系だからかピクシーなんかも混じっている。
ピィはいないみたいだけど。
祭壇のように積み重なった石壇にピクシーがやってくる。
さぁダンスの始まりだと言わんばかりにピッピがピクシーを囲い込む。
「ピックシー」
ピクシーが満月に向けて指を伸ばしたのを号令に、周りのピッピも指を上げた。
「「「「「「「「「「ピッ」」」」」」」」」」
ピクシーがクルンとターンすると、ピッピたちもステップを踏む。
クールで冷静沈着の美しい月から零れ落ちた光の涙が、目下の妖精たちを祝福するかの如く降り積もる。
ピッピたちのダンスは決して激しいものじゃない。
ブレイクダンスだとか、アイドルの踊るものとも違う、細かな所作を必要としない単純なものだ。
指を振りながらピクシーの周りを踊るだけ。よく分からないけど身体の重心も、足の動きもブレブレだ。
くるっと回り、小さな羽をパタパタとさせ、また飛び回る。
本当にただそれだけで、他に目を引くものは無い。
なのになんでだ。なんでこんなにも、
「綺麗」
リーフは瞳を潤わせながら、心の中で思ったことがそのまま喉から零れたようだった。
そう、幻想的だった。目の奥を通り、脳へと無理やり焼き付けられるかのような。
「ピックシー」
「「「「「「「「「「ピッ」」」」」」」」」」
ピクシーの落ち着いた低音と、ピッピの子どもらしい元気な歌声がぶつかることなく調和し、ひとつの音色として共鳴する。
俺、音楽はゲームしか嗜んだことないんでめっちゃ適当考えているけど。
そして、なんでだろうかね。
こういう良い気分に浸っている時にこそ、邪魔されると本当にイラッと来る。
例えばそう、邪魔な雑魚がやってくるとか。
「マリルリ、アクアジェット! ブロスター、水の波動!」
紫のオーラを放つ、ポンポコジェットウサギと片腕だけ肥大化したロブスターが、ピクシーたちの踊りに文字通り水を差す。
リーフが俺のモンスターボールを投げるよりも先に飛び出し、二匹の攻撃から庇うように降り立った。
直後、地獄が俺を塗りつぶした。