ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
やばい、やばい、やばい。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
炎って水に消されるとき何を思うんだろうか。
色んな物を飲み込み、燃やし尽くし、人に恐怖を植え付け、高圧的に己が力を振りまくだけの暴虐が、唯一人為的に発射される天敵を前に何を思うのか。
多分、俺と同じだと思う。
散々甚振り尽くした報いを受ける。
濁流が俺の意識を搔っ攫う。
圧倒的水の暴力が俺を沈み込ませ……なかった。
落ちていく俺の背中が押し出されるかのように、意識が急上昇していく。
「ギャ!」
はぁ……はぁ……。
気づけば俺はマリルリとブロスターを前に目を覚ましていた。
全身がびしょ濡れで、さっきの攻撃が嘘ではないと脳が理解する。
「おいおい、なんで耐えられんだよ。炎タイプに水タイプは弱点のはずだろぉ!」
そうだ。
俺は炎タイプ。相手は水タイプ。
それもポンポコして力の限り先制技を連打するだけで勝てるやばい奴と、特に目立たないけど火力だけならやばい奴。
二匹の攻撃を同時に受けたのに大丈夫って、どういうことだ。
「もしかしてピッピの指を振る?」
なんだそれ。
リーフの考察通りなら、たまたま運よく花粉団子、たまご産み、癒しの波動、癒しの願い、三日月の舞辺りが出たってことか?
何百種類もある技の中から。そりゃ、運が良いことで。
けどおかげで動けるようになったわ。
指を振り終わったピクシーとピッピは、途端に舞を止めて逃げ出し始める。
その様子に雑魚は舌打ちする。
「またかよ。またてめーは! 俺の邪魔をする! うざってぇんだよ! ファイヤーだけ置いて帰れやクソ女がッ!」
ははは、リーフに暴言吐くな。普通にキレるぞこの野郎。
ファイヤーだってなぁ、ダイマックスで状況が合えばカプ・レヒレにだって勝てるんだぞこの野郎……。
はぁ……流石に何回も幸運を引けるほど甘くない。
俺にもう一回突っ込めるよ! といった雰囲気を出すマリルリと銃口を降ろし、真っ赤な目でただ俺を見下すブロスター。
ほんと、主に命令されたことしか実行しないんだな、こいつらは。
「止めを刺してやれぇ! マリルリ、アクアテール! ブロスター、水の波動!」
だからこそその隙を突ければ……いや無理か。
どう足掻いても、現状の俺じゃこの絶望的な状況を打破できない。
ならばやるしかない。あの技を。
やらなきゃその時点でゲームオーバーだ!
俺は飛んできた二つの技を上空に飛び立つことで回避する。
二匹の技は地面を抉る。だがそれでも威力を相殺しきれていなかったようで、小さな水飛沫が宙を舞う。
こいつらも超強化されていんのか。ほんと厄介だな、紫のオーラ!
「ギャオ! (リーフ!)」
「分かんないけど、ファイヤー! エアスラッシュ!」
「そんなゴミ技が効くものか! 受け止めてやれ!」
ほんとに分かっていないけどトレーナーとしては正解だ。
俺のエアスラッシュをマリルリとブロスターは受け止める。
軽く仰け反っているぞこいつら。無表情なのが不気味だが。
「あの雑魚に思い知らせてやれ! マリルリ、アクアテール! ブロスター、龍の波動!」
「ギャオ(まずいな)」
ブロスターはまだいい。
だがマリルリはダメだ。マリルリの攻撃を受けたら一発ツモ。間違いなく今度こそ終わりだ。
雑魚のくせに、ポケモンだけはいっちょ前かよ!
ほんとこういう時、空を飛べるっていうのは便利だ。ひっじょうに卑怯なのは分かっている。
分かっているけど、高く飛べばマリルリの攻撃が届かない! こうなればブロスターの攻撃だけに注意すればいい。
ただ問題なのはこのマリルリ。
「何やってる! そんくらい跳べよ馬鹿ウサギ! あほみたいに腹叩いてっから馬鹿になんだよ! お前を使ってたトレーナーもよぉ!」
飛び跳ねるが使えるんだよな。
というかこいつの技構成アクアジェット、アクアテール、飛び跳ねる、腹太鼓かよ。
はっ、腹太鼓馬鹿にするとかこいつの方がよっぽど馬鹿だろ。
空を飛んでいる間も、俺は何回も攻撃を加える。
躱すという行為は指示されなくてもできるようだ。アクロバティックな動きでステップを踏んだり、飛び跳ねたりしてマリルリは攻撃を避ける。
一方のブロスターは噴射孔を地面へ向け、器用にジェットがわりにしている。
それでも攻撃は被弾している。
マリルリとブロスターには間違いなくダメージが積み重なっているはず。
はずなのに変わらず表情が崩れない。動きにも一切の衰えが見えない。
攻撃、通じているのか?
こんなことしなくても、あの技を使えれば幾分か楽になるのに!
「ファイヤー? 水タイプに火炎放射は」
「降りてこねぇくせに舐めプかよ……。ふざけやがって、ふざけやがってふざけやがってふざけやがって! 俺はエリートに成れる逸材だぞ! ポケモン如きが俺を見下してんじゃねぇぞぉぉ!」
おぉお、分かりやすい小物だことで。
そんで段々哀れに思えて来たわ。このマリルリとブロスター。
せっかく強ポケ、強技をしているのに。思考を戦闘特化にされて。こんな雑魚の命令にも一切の抵抗なく従って。
リーフも俺と同じように感じたんだろう。
「マリルリ! ブロスター! なんであんな奴の命令を聞くの! なんであんな、ポケモンを道具としか見てない奴に従っているの!」
「無駄だ! こいつらはシャドウ。ロケット団の科学力によって意思を奪った生物兵器だ! 生物としての感情を捨てた。俺たちが捨て去ってやった! 単なる道具なんだよ!」
「うっっさい! アンタラそれでも人間!?」
「そうだ、それが人間。大人のビジネスなんだよ。強いポケモンを創れればそれでいい。……そうだ、良いこと考えた。お前らの言う絆ってもの、利用してやんよ」
雑魚は下水道のヘドロすべてを煮詰めたかのような、醜悪な顔を浮かべリーフを見やる。
けらけらと綺麗ごとを嘲笑う悪魔のようなにやけ笑みと共に、リーフを指だし木霊させる。
「マリルリ、ブロスター! その女にアクアテール、水の波動!」