ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
「なっ!?」「ギャッ!?」
マリルリの尻尾が淡く光った。ブロスターも噴射孔をこれ見よがしに構えて見せた。
矛先はどちらもリーフ。
「そのモンスターボールを破壊すればファイヤーはロケット団の物だ! ついでに俺を化け物扱いしたその女にも痛い目を見せてやれるゥ! 一石二鳥だぁぁぁぁ! はっはっはっ!」
「あんたホントに!」
「さぁ庇ってみろよ焼き鳥! 最も庇ったらどうなるか知ったことじゃないがな! お前らのき・ず・な。見せてみろよ!」
ブロスターの噴射孔がきらりと光る。水が発射されるのにそう時間は掛からないかもしれない。
マリルリは右足で踏み込むと、一息で身体を捻り、遠心力を重ねて威力を上げる。
エアスラッシュと熱砂の大地じゃ水の波動に対抗できない。
けど、炎技でも水タイプと相打ちになることは分かっている!
俺は全力で羽ばたき風を切る。強く強く! 周りの音が消え去るほど!
逃れられないブロスターとマリルリからの魔の手から庇うように、リーフの間に割って入る。
肺がいっぱいになるほど空気を吸い込み、俺の全身全霊、渾身の火炎放射を放つ!
足りない。
この程度の威力じゃ! ぶつかり合いにすら持ち込めない!
ブロスターとマリルリは止まらない。一秒たりと。無表情で。
二匹は俺の放つ火炎を意に返さない!
「無駄だ! マリルリには普段から馬鹿力を使うよう命令している!」
「五つ目の、技?」
「そうだ! 俺はポケモンに5つ以上技を覚えさせてんだよ! 天才な俺ならこんくらいできんだよぉ! 無能共と違ってな!」
「……ファイヤー! 火炎放射! 頑張れぇぇぇぇぇ!!」
ああ、そうだな。
まだだ。まだ火力が足りない。
ならもっとだ。もっと引き出せ。もっと燃やせ! もっと、もっと、もっと!
俺の、ファイヤーの中にある炎はこの程度じゃないはずだ! もっと引き出すんだ!
先ほど水技を食らったばかりだからか、身体の内側が悲鳴を上げる。
空気を欲しているせいか、一度息継ぎしようっていう邪念が心の中に生まれる。
それを俺は何とかして抑え込む。
もう、俺の炎の音だけが耳の中で木霊する。それ以外は何も聞こえない。
吹いて、吹いて、吹きまくって。それでもなお俺の炎は底の方で燃え滾る。
口からじゃ足りない。翼と足、俺の全身に至るまで! もっと炎を噴射させてやる!
「キャァァ──ーオォォ! (これが俺の全力だぁ!)」
「馬鹿めッ! そんなことしたらお前の炎は【燃え尽きる】! わざわざ自滅を選ぶなんて、お前は我がロケット団のアジトで再調教してやる!」
高笑いを続ける雑魚。
馬鹿なのはそっちだろ!
スカッと吹き出した炎が消えていく。徐々にほとぼりが冷めていく。
俺の中の炎はもう、最低限翼と頭から吹き出す分しか残っていない。
俺は完全に燃え尽きた。火炎放射はもう……使えない。
だからこそ、俺は初めてこいつらに勝てる。
初めて、こいつらの土俵に立つことができる!
俺の燃え尽きるはマリルリとブロスターを押し返すだけの威力は誇っていたようだ。
飛びのいたマリルリ。その目はしっかりと俺を見据えていた。
「奴はもう飛ぶのもやっとのはずだ! マリルリ、ブロスター! 止めのじゃれつく! 竜の波動!」
両手を振り回し、高速でボコボコと力任せにじゃれついてくるマリルリ。
さらにマリルリもろとも、ブロスターから発射された竜のエネルギーは俺を飲み込んだ。
「ファイヤー!」
大丈夫だ。
まだ飛べる。まだ立てる!
俺はエネルギー波の中から彗星のような尾を引いて飛び上がる。
「しつこすぎんだろぉがよぉ! いい加減くたばれよ!」
雑魚は「もういい!」と息を吐くと、モンスターボールを二つ踏みつぶした。
こいつまた!
リーフは感情を露わにする。
「アンタほんとに!」
「うるせぇぇぇぇぇぇ! こうなったら月の石だけでも!」
雑魚はピッピたちに首を向け、その方向から
「ピッピとピクシーが援護を」
ピッピとピクシーが!?
ビームの直撃を受けたマリルリとブロスターは、数回バウンドした後、崩れ落ちる。
顔色に変化はない。
けどダメージを感じさせず、いくら攻撃を加えても起き上がる様にはもう、ゾンビとしか形容しようがない。
こいつらは本当にポケモンなのか? 紫のオーラが人形のように動かしているだけなんじゃないのか?
なんて俺の不安は、二匹同時に倒れてようやく払拭された。
それでも二匹はまだ身体を動かしている。
……もしかして、いやまさか、
——あの雑魚の命令で無理やり身体を動かされている?
そんなのまるでじゃない。
完全な機械。
シュルシュルと横回転しながら飛んできたモンスターボールが、マリルリとブロスターの胴に突き刺さる。
地面に落ちたモンスターボールは、一度として揺れることなく3つ星を吐き出した。
リーフはボールを拾いながら、雑魚に向かって口を開く。
「5つ以上技を覚えさせるとすべての技の威力が半減する。どころかポケモンに無理な負荷が掛かって身体を弱くしてしまう。誰も5つ以上技を覚えさせないのはそういう理由よ。これくらい、子どもでも知ってること」
「そんなのシャドウにはかんけぇねぇ! 技による負荷も技の威力も! シャドウなら無理やり引き出せる! シャドウこそが最強なんだよ!」
「違う! そんなの最強じゃない! アンタらロケット団は間違ってるッ! ファイヤー、あいつを!」
俺もこいつは許せねぇ。
リーフの指示もあって飛び立とうとするも、俺は自分に訪れた不調に気づく。
……飛べねぇ。
こんな時に!
雑魚は「あばよっ!」と捨て台詞を吐くと、ファイアローを繰り出し、この場から離脱していく。
速い。ファイアローの名の通り、
怒りからか、それとも不甲斐なさからか、歯を強く噛んだリーフはぐっとマリルリのボールに目を落として握りこむ。
溢れだした涙は頬にひとつの筋を描き、ボールの上へと零れ落ちていった。