ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
目を覚ますとそこは、見知らぬ宇宙空間だった。
ここはどこだと頭を悩ますこと数分。頭上から差し込んでくる光と景色に気づき、朧気だった記憶が鮮明になってくる。
そうだ、俺はファイヤーになってしまったんだった。
翼を広げて大きく伸びをする。
準とはいえ伝説のポケモンに似つかわしくない間抜けな欠伸をひとつ零す。
外へ出ようと翼をはためかせて上昇すれば、俺の全身が青い光に包まれる。
身体が分解され、再度構成されるかのような感覚。
きらりんエフェクトと共に飛び出した俺の前に広がっていたのは、見覚えのある森の中であった。
「ギャーオ(さて、マジでどうするか)」
改めて考えてみると俺はもう既に捕獲されている状態なんだよな。ボールに入っているわけだし。
誰のファイヤーかなんて、考えるまでもないだろう。
多分俺だ。
記憶とか知識とか探ってみても、このファイヤーに関するものは一切ないわけで。
つまるところ、孵化要員としてこうなる前の俺が使っていた色違いファイヤーという仮説の方がしっくりくる。
そうなると自分の技構成がどうなっているのか少し気になる。
まずは鬼火!
アニメで見たゲンガーのように手を合わせてみたり、木を狙いにして眼力を強くしたりしても何も起こらない。
鬼火を使うと念じてみても何も起こらない。
じゃあ次、暴風!
大きく翼をはためかせてもやっぱり何も起こらない。
竜巻が発生するなんてことは起こらず、ただ空気を少し歪ませる程度の強烈な風が突進していき、乱暴に木の葉を弄ぶだけ。
これじゃあせいぜい風起こしだ。
次、燃え尽きる!
……ダメか。
全身の炎が燃え尽きて、炎タイプを失ってしまうほどの大火力。
そんな感じの豪炎は一切出てこない。
念じてみてもダメ。
……なるほど、どうやらこのファイヤーは経験値不足らしい。
つまりはレベルが足りないと、そういうことなのだろう。
だから暴風や燃え尽きると強力な威力を誇る技たちはまだまだ使えないと。
ゲームでレベル100であっても、中身が何の対戦経験もない俺だとまた話は別ってことか。
……そうなると、逆に何の技なら使えるんだ?
まさか、睨みつけると火の粉、風起こしなんて言わないよな?
羽休めなら現在進行形で使っているような気はするが。
とりあえず試してみるかと自分の身体に身を任せ、三十分くらい経つ頃には驚きの事実が分かった。
「ギャーオ(使える技にばらつきありすぎだろ)」
まず技に関して、念じても使えないとは言ったけどあれは嘘だ。
自分の身に意識を向けてみると分かるのだが、本能的に現在何の技を使えるのか分かった。
多分、生まれたてのポケモンであっても火の粉とか水鉄砲だとか、遺伝技を使えるのと同じ原理なのだろう。
てっきり図鑑で使える技を調べているのかと思ったんだけどな。
そうだよな。図鑑で使える技が分かってもポケモン自身が使う方法を知らなければ使えないよな。
さらに深く掘り下げれば、なぜ赤ん坊のころから人間の言葉を理解し、翼で打つとか火の粉がどういった技なのか理解して放てるのか? という話になるから止めておこう。
そんなわけで一つ目、火炎放射。
瞼を閉じて身体の奥深くにだけ集中してみると、燃え上がる熱い鼓動があった。
身体の内側で形成される衝動に身を任せ、口から思いっきり息を吐きだすと勢いよく火炎が噴き出した。
威力的には紛れもなく火炎放射だと思う。
森で炎を吐くなとか怒られそうだが、森の中に10万ボルトやら雷を打てる電気ネズミがいるんだ。
これくらい別にいいだろって思う。
二つ目はエアスラッシュ。
何か飛行技は無いのかなとか考えていたら、翼の内で空気が逆巻くように動くのを感じ、振るってみたら突型のエアスラッシュが飛び出した。
今はこのエアスラッシュで刈り取ったリンゴと思しき果実をくちばしで突いているところだ。
自然で取れたリンゴは梨のように瑞々しい。
しっとりとした甘い果汁が口全体に広がっていくため、喉の渇きを潤し、腹を満たすことができた……と思う。
炎タイプが水飲んでも大丈夫なのかどうかは置いといて。
まぁ、水中に住んでいるくせに水タイプが弱点のマッギョとかいう奴がいるから深く考えるだけ無駄だろう。
ペリッパーだって電撃波覚えるしね。今更今更。
んで、三つめは地面タイプの熱砂の大地。
自分でもよく分かっていないのだが、熱気が翼に広がっていくのを感じて力のままに振るってみたら出てきた。
個人的に超意外である。
火炎放射、エアスラッシュと来て教え技の熱砂の大地。
強いには強いのだが、俺のファイヤーが使うとなると正直鬼火で十分という感想しか持てないのが何とも。
それでもって、四つ目は睨みつけるだった。
火炎放射! エアスラッシュ! 熱砂の大地と来て、最後に使える期待の大技!
その名も睨みつける!
うん、知ってた。
だろうな、とは思ってた。
俺を警戒して周りを囲んできたポケモンたちが一睨みで逃げ去っていくんだから。
まったく、特殊技しか使えないのに睨みつけるとか覚えていたって意味ないだろうに。
ソーラービームなんか使えねぇんだから。
それから特性が炎の身体なのも分かった。
リンゴをくちばしで突いていたら10個中3回くらい焼きリンゴと化したから。
焼きリンゴって食べ物はあるけど、ただ炎で焼いただけだとあんまり美味しくない。
食べないのは勿体ないので食べるには食べて、この先どうしようかと思考する。
俺は色違いのファイヤーで、それも夢特性の炎の身体。
珍しいなんてものじゃない。色違いの時点で多くのトレーナーがせわしなくボールを投げてくることだろう。
そう考えると既に捕獲されているこの状況はどうなんだ?
持ち物として持っているウルトラボールに俺自身が登録されているから、誰かに捕獲されることは無い。
かといってトレーナー無しでも自分でボールから出てきたり閉じこもったりできる。
控えめに言ってどうなんだ?
……まぁいいや、面倒くさいことは後回しで。
一先ずこの先どうするかだけ決めてしまおう。
なんてこの時、俺は空を飛ぶという行為を完全に舐めていたことに気づいた。
どのくらいの速さで、回数で、強さで、角度で腕を動かせばいいのか分からない。
そもそも俺は元々人間だ。鳥じゃない。鳥人間でもないただの人間だ。
自分の両腕が両翼になっている時点で気づくべきだったのだ。
簡単に空中を自在に飛び回れるはずがないと。
ボールの中は無重力だったからついつい忘れてしまっていたのだ。
「ギャッ(あっ)」
空中で体制を立て直すことができなかった俺は、地面目掛けて自由落下していく。
固い土が緩やかにキャッチをしてくれるなんて甘い話はなく、ズシンと小さく地響きを伴い身体を立て打ち付けた。
いってぇ……。
準伝説のポケモンでも空から落ちると痛い。よく分かった。
このファイヤーの型だとそんなに痛くはないはずなんだけどな。
俺結構ポケモンのこと甘く見てたかも。
翼で飛ぶのも技を放つのも苦労しているのな。簡単にできるものじゃないんだな。
正直言って尊敬するわ。
失敗だと首を持ち上げてみると、ふと茂みが左右に揺れ動いた。
人間の手。
草がかき分けられ、顔を出したのは女の子だった。
長い髪の毛に水色のノースリーブの服に赤いミニスカート。
そしてその顔立ちといえば、リビングレジェンドレッドを女体化させたようだった。
「ファイ……ヤー……」
俺を目にした少女は長いまつ毛を細かに揺らし、目の前に映る存在を確かなものへと昇華させるかのように声を震わせた。
この子、見覚えがある。
もしかして、かつてあまりの存在感の無さやシリーズによって名前が変わることから不遇と呼ばれた女主人公、リーフなのでは?