ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!?   作:氷水メルク

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バンギムドー

 カスミとリーフはお互い、ポケモンにボールをかざす。

 赤い光に包まれた俺が見たカスミは、なんというか納得のいかない顔つきをしていた。

 気持ちは非常に分かる。俺だってファイヤー1匹に水タイプが全滅とか、それなんてクソゲーって思うし。

 躱せってやっぱクソですわ。

 カスミはフィールドを一周し、リーフの近くまで歩いてくる。

 両手にあるのは黒い豪華な箱。ここからでも、赤いクッションに座らされた雫を模ったブルーバッジが見えた。

 

「はいブルーバッジ! 負けは負け。素直に認めるわ」

「ありがとう! ブルーバッジゲットよッ!」

 

 あぁ、確かになんかこれは違うわ。

 必死に頑張って喜ばしいの反面、リーフが受け取るものであるかどうかと問われたら首を捻る。

 初めの方こそ指示は出していたけど。後半俺の自由意思で動いていたわけだし。

 俺が悪いんかなぁ……。

 勝手に動くせいでリーフを混乱させているのかもしれない。

 

「これ忠告。あなたそのままだと、次のマチスには絶対に勝てないわよ」

「大丈夫! それでも今まで何とか——」

「断言してあげる。絶対に無理よ。あなたからはプロやポケモンを育てるのに必要なポリシーを感じられない。ファイヤーだけいれば勝てる。なんて思ってない?」

「勝てるよ! この子なら。だからあなたにもタケシにも勝てた!」

「そっ、ポケモンの力を自分の力と勘違いしない方が身のためよ。あなたはまだ、トレーナーに成れていない」

 

 マチス……。

 ああもう考えないようにしていたのに! 

 電気タイプの準伝説って軒並みファイヤーより速い奴しかいないんだぞ! 自慢の躱すという戦術は取れない可能性の方が遥かに高い。

 ここがもう、着地点かもな。

 少し機嫌を悪くしたリーフはカスミに礼を告げ、ハナダジムから飛び出した。

 

「ファイヤーなら勝てるよ。三回も不利なタイプに勝って見せたんだから」

「へぇ~、よく分かっているじゃん。さっきの試合、カスミに勝ったのはファイヤーだ」

 

 凛とした鈴の音に幼さが交じり合ったような、頭の奥に響くよく眠れそうな声。

 急所を突かれたかの如く目を丸くしたリーフは、声の主に顔を向ける。

 

「君はボクと同じタイプだ。トレーナーが指示を間違っても、ポケモンは優秀だから何とかしてくれる」

「いきなり何? 自己紹介もなしに」

「ああ、ごめんごめん。ボクはメルク。ポケモンがいなければ何もできないトレーナーさ」

 

 腰まで届く仄かに煌めいて見せる銀色の髪。

 祈祷師や巫女とは一線を画す、アニメキャラクターのコスプレのような黒い巫女服は、スカート部分がひざ丈より少し上くらいだ。

 脇が開いたこの巫女服を、小学生と間違う体形のこの子が着ていると、何とも危ない絶妙な際どさを醸していた。

 メルクは両頬に指を置き、にこっとリーフにあざとい笑顔を浮かべた。

 

 ……何この性癖バーゲンセール娘。

 簡単に言えばXYの黒振袖みたいな服着ている幼女って……。やばない? 

 メルクはリーフの腕を取ると、有無を言わさずポケモンセンターへと向かおうとする。

 

「何々? 一体何なのあなた」

「見ていたよ、カスミとの試合。すっごい」

 

 ——酷い試合だった。

 メルクははっきりとそう言って見せる。

 

「なんですって?」

「カスミはすっごくやりすぎだけど、それにしたって交代しようって考えることもできた。なのにしなかった。なんで?」

「なんでってそりゃ——」

「ファイヤー以外を信用していない。ファイヤーさえいれば勝てる。ファイヤーのレベルを上げればいい。なんて考えているんじゃない?」

 

 リーフの瞳孔が開いた。メルクはクスクスと口元に手を当てて笑うと、怪しく口をにぃと開く。

 

「その考え、ここで折ってあげる。ファイヤーが可哀そうだもん。他のポケモンも可哀そうだもん」

「ふん、良いわよ! やってやろうじゃない! バトルするんでしょ!」

「話が早くて助かるよ、お姉ちゃん!」

 

 そうして始まったバトルは、もう既に夕方過ぎであった。

 雲が差し掛かる。綺麗な夕暮れの空は、一瞬のうちに暗雲が立ち込めた。

 それはまるでリーフと俺にこれから訪れる不幸を告げるかのようで。

 俺はこの日初めて、圧倒的なまでの敗北を味わうことになる。

 

  *  *  *

 

「使用ポケモンは3体でいいね?」

「良いわよ、それで」

 

 バトルはこうして始まった。

 不詳な笑みを浮かべるメルクは断層になった海をプリントした、ダイブボールを手に取った。

 下から上へ投げるフォームで繰り出されたのは、1枚の鋼色と三枚の赤が連なる少々特殊な形状をした翼を持つ鎧鳥。

 舞うようにエアームドが現れると、メルクとリーフを旋回するように飛翔した後、ゆっくりとメルクの下へと降りてくる。

 対してリーフが繰り出すは俺だ。いつも通り色違い特有の光る演出を引き連れて登場する。

 

「エアームド……。鋼タイプって馬鹿にしてるの?」

「それは水タイプに炎タイプを出すのと同じ。エアームドだって岩石封じを覚えるよ。ふざけているわけじゃないさ。エアームド、ステルスロック」

 

 オワタ!

 エアームドの翼から放たれた小さな岩石は、宙を浮遊し溶け込むように透明化する。

 こう見えないんじゃ恐怖でしかない。それでも戦うしかないのは分かっている。

 俺は身に潜む恐怖を打ち消すように咆哮する。

 

「ファイヤー! 燃え尽きる!」

「エアームド! 吹き飛ばし!」

 

 オワタ2!

 もうエアームドの仕事は終わってしまった。完遂させてしまった。

 この勝負、リーフの、いや俺の負けだ。

 俺の全身から放たれた夜の闇をも飲み込む巨大な炎は、一瞬にしてエアームドを飲み込んだ。

 それでもエアームドははっきりと、俺に照準を定めた。

 頑丈だ。

 次の瞬間、俺はエアームドの放つ強風によってボールへと戻された。

 代わりに現れたフシギダネ。

 対戦の経験があるのかどうか定かではないが、いきなり戦場に引きずり出されたフシギダネは何が起こったのか分からないといった様子で左右に顔を向ける。

 それはバトルだと致命傷に他ならない。

 

「戻ってエアームド。いってらっしゃい、バンギラス」

 

 バンギムドーやんけ。何年前の構築だよ。

 フィールドが砂嵐に吹き荒れる。

 もうここからは言わずとも分かるだろう。

 6回も龍の舞をしたバンギラスは、一瞬にしてフシギダネを倒し、ステルスロックで弱った俺の意識を刈り取り、続くピッピも指を振ることすらさせず地に伏せさせた。

 

 本当は、本当はジムリーダーも手加減していたのではないだろうか? 

 本当はいくつも思いついていたのではないだろうか? 空中にいる俺を撃墜させる方法を。

 メルクが使ったポケモンは二匹だ。その二匹に俺たちは全滅した。

 ほとんど最小の手で全滅した。

 リーフは目を丸くする。へなへなと力なくその場にへたり込み、何も言わず地面に顔を落とした。

 勝ったメルクもほとんど同じ表情をしていた。

 小首を横に倒し、予定が狂ったとでも言わんばかりの顔つきで「あれっ? 勝っちゃった」と呟いた。

 メルクは小さく唸る。目を閉じて、何かを逡巡した様子でリーフの肩をポンと叩いた。

 

「あまり痛くないね。ファイヤーの攻撃」

 

 リアル追撃をかまされたリーフはメルクの手をパチンと叩くと、すぐにポケモンセンターへと駆け込んだ。

 ボールの天幕から見えたメルクの顔は、そんなに怒っていなかった。

 むしろ叩かれた手をボーっと見つめた後、リーフの後ろ姿に手を振っていた。

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