ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!?   作:氷水メルク

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やりたいこと

 

 段々と俺はリーフと思しき少女の目に星が浮かぶのを幻視する。

 間違いなく、目の前に準伝説であるファイヤーがいるからだろう。

 そして今何歳なのかは分からないが、リーフは原作にてまだ子ども。つまり次にとる行動は恐らく。

 少女は感情を抑えることなどできないといった様子で駆け出した。

 

「ファイヤーだぁ!」

「ギャァ!?」

 

 ちょっまて、落ち着け! 

 一般的なファイヤーの特性はプレッシャーだけど、俺のファイヤーは! 

 止まるように声を出しても、出会ったばかりのポケモンと人間じゃ意思疎通なんて図れるはずもなく。

 無邪気な笑みを浮かべた少女は俺の頭に手を伸ばし、

 

「あっつーい!」

 

 そのまま引火して燃え上がった手を押さえつけて飛び上がった。

 

 がむしゃらに手を振って火を消した少女は、まだ火傷が痛むのか手を抑える。

 いやごめんよ。特性に関してはどうすることもできないからさ。

 不本意とはいえ、少女のシミひとつない手を火傷させるのは心が痛む。

 

「ギャオ(大丈夫か?)」

「えっと、心配してくれているのかな? だいじょーぶ! これくらい慣れっ子だから」

 

 幼くてもスーパーマサラ人ってことか。

 いやピカチュウの10万ボルトを受けても平気な人が多い世界だから、これくらいは本当に何ともないのかもしれない。

 

「おぉ、すごーい! ほんとにファイヤーだぁ! 初めて見たぁ!」

 

 少女は周囲を跳ねまわるようにして俺の身体を観察する。

 顔を近づけても手は伸ばさない。文字通り記憶に焼き付けるかのように純粋な瞳を向けてくる。

 何だろう。これで飛べないのバレたら幻滅されそうだ。

 一通り見て満足したのだろう。少女は顎に手をやりながら小首を傾ける。

 

「そういえばなんでここにファイヤーが?」

「ギャー(それは俺が聞きたいわ)」

「トレーナーが近くにいるとか?」

 

 その疑問に俺は首を横に振る。

 捕獲はされている。

 けどトレーナーは自分自身だからいないも同然だし。

 

「違うと。うーん、何してたの?」

 

 空を羽ばたこうとして転びました。

 少なくとも準とはいえ伝説のポケモンが言うような答えじゃないよなぁ……。ダサすぎる。

 とりあえず俺は身体を起こし、二本足で立ち上がる。

 すると少女は目ざとく俺の腹部にある傷跡を見つけたようで、「ちょっと待ってて」と声を掛けると黄色いショルダーバッグからスプレーを取り出した。

 

「少し染みるよ」

 

 そう言うと少女は俺の傷口にスプレーを吹きかけた。

 そんなに無かった痛みの感触が完全に引いていく。傷跡もきれいさっぱり無くなっていき、元の綺麗な赤熱した身体に戻っていった。

 これって傷薬か? 

 1ダメージくらいしか受けてはいないけど使ってくれるなんて。

 ありがとうの意味を込めて鳴いてみれば、少女は「どういたしまして」と手を振った。

 

「ポケモンから攻撃を受けた感じの傷じゃなかったなぁ。もしかして空から落っこちたとか? それも飛べなかった」

「ギャッ!? (なぜ分かったし!?)」

「あはは! もしかして図星だった? 明らかに野性ポケモンにつけられた感じじゃなかったし。まぁこれくらい、トレーナーなら知っていて当然。それに野性のポケモンは遠巻きに見ているってのもある」

 

 少女は額に手を当てて、その場で一周しながら見渡す。

 確かに野性ポケモンは俺を怖がっているのか、木々の隙間からこっちを覗いてくるだけで何かをしてこようとする気配はない。

 あのポッポですら近づいてこないのだ。

 確かにこれで野性ポケモンから攻撃を受けたっていうのは厳しいか。

 

 少女は今にも楽しそうな口調で「随分と間抜けな準伝説級のポケモンもいたんだね!」笑い出す。

 

 ……うん? 準伝説級? 

 アニメとかゲームだとファイヤーは伝説のポケモンと言われていたはずだけど……。

 準伝説、禁止伝説で区分しているのは外の世界のポケモントレーナーだよな? 

 もしかしてこの少女、転生者か? 

 少女は俺の隣に座りこむと、両腕をぐっと伸ばし、俺の顔を見上げた。

 

「バトルフロンティアの試合はいつも盛り上がるの! 夕ご飯の時とか、レッド、テレビに貼りついちゃってさ。もう目をキラキラさせてるの」

 

 なるほど、どうもこの世界にはバトルフロンティアがあるようだ。

 だから準伝説級って言葉があるのだろう。うん、多少なりと納得した。

 そしてもう一つ分かった。

 この少女、リーフで確定だ。

 夕ご飯を一緒に食べているとか、話にレッドが出てくるとことか。

 楽しそうに語る少女だったが、途端に浮かない顔つきとなって肩を落とす。

 

「レッド、グリーン、私。半年後にはトレーナーになるの。二人はちゃんと、最強のトレーナーになるって目標を持っててね。なんだか幼馴染とレッドに置いていかれそうな感じがして、つい私も冒険する! って言っちゃったんだけど、自分でも何をしたいのかまだ分からなくてね」

「ギャーオ(別に普通のことじゃないか?)」

「聞いてくれてありがとう。ほんと私、何をしたいんだろうなー。将来、何になりたいのかなー。分かんないや」

 

 リーフは何でもないように言うと、仰向けになって寝転がる。

 どこか遠くを見ているのか、その目は空ではない何かを映しているかのように思えた。

 ゲーム本編では決して見せることのない、年相応の少女らしい憂愁を帯びた顔つきを見せた。

 

 なんでいきなり相談されたのだろうか。

 俺がポケモンだったからか、人間ではない誰かに聞いてほしかったのだろうか。

 それは分からないけど、リーフの語る言葉は今の俺にも刺さるものがあった。

 

 俺はこの先、何をしたいのだろうか。

 

 いきなりポケモンの世界に放り出され、ポケモン、ファイヤーとしての生を歩むことになって。

 何の目的も持っていない。

 もしもファイヤーに対して真・唯一神(笑)とかふざけたことを抜かす世界だったら存分に布教してやるところなのだが……。

 あいにくと外に出る理由がない。

 出たとしてもそれはトレーナーのファイヤーとしてではなく、野性のファイヤーとしてでしかなく。

 結局のところファイヤーの布教活動などできるはずもない。

 俺も少女に倣って空ではないどこか遠くを見つめていた。

 

「ギャーオ(俺も何をしたいんだろうな……)」

「よしっ、決めた。ファイヤー、特訓しよう!」

「ギャオ? (はい?)」

 

 いきなり上半身を上げたかと思いきや何を言い出すんだこの子は。

 少女は俺の身体をびしっと指さすと、煽るかのように宣言する。

 

「空を飛べて困ることは無い! 私、傷薬まだ持ってるから! それに、準伝説級のポケモンに飛び方を教えてあげたなんて、一生自慢できる!」

「ギャオ! (理由が割と自分本位!)」

 

 あと人……ポケモンを指さすな。

 いや割と指さしているトレーナー多かったわ! ジラーチとかよく進む道を指さしていたわ! 

 少女は天真爛漫な笑顔を浮かべ、「ほらやろうよ!」と手で促してくる。

 

 どのみちか。空を飛べるようになれば、俺も困ることは無い。

 そうして空を飛ぶ練習を始めてから数日経った。

 少女はあれから毎日俺の元へとやってきては、空を飛翔する特訓を手伝ってくれた。

 この頃くらいから、俺は翼をどの程度の強さと回数、速度で羽ばたかせればいいのか分かってきた。

 一か月経つ頃には、違和感なく自在に空を飛ぶことができていた。

 これもすべて、ひとえに何度空から落ちてもそのたびに傷薬やオレンの実、オボンの実を使ってくれた少女のおかげだ。

 たまに混乱木の実が混じっていて、頭の中がぐちゃぐちゃになるような感覚を覚えたのはご愛嬌だ。

 空を飛ぼうとするたびに少女が応援してくれたってのも、俺が頑張ろうと思えた要因のひとつかもしれない。

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