ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!?   作:氷水メルク

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VSマチス2

 

 ボールからでも伝わる奇妙な緊張感。

 なんでこう胸がざわつくのだろう。

 フシギダネ、大丈夫だろうか。

 先手を取るのはリーフだ。

 

「フシギダネ、眠り粉!」

 

 フシギダネのつぼみから緑葉色の粉が飛翔する。

 確実にフシギダネの眠り粉はライチュウに襲い掛かり、

 

「エレキフィールド!」

 

 足元が電気に包まれる。

 眠り粉はライチュウに命中する直前で、バチンと弾かれ霧散していった。

 エレキフィールド、技枠として入れておくのは勿体ないと思うのは俺だからか。

 

「ライチュウ、ボルテッカー!」

 

「ツルの鞭で躱して!」

 

 電気を纏ったライチュウの捨て身の突進。

 ピカチュウ系統とドーブルくらいしか覚えられない電気技。

 その威力はワイルドボルトよりも上。

 

「ダネッ! (怖いね!)」

 

 フシギダネはツルの鞭で地面を叩いて上空へと飛び上がった。

 しかしライチュウはボルテッカーの勢いをその場で殺していた。

 

「メガトンパンチ!」

 

 ライチュウは飛び上がったフシギダネにメガトンパンチを打ち込む。

 衝撃をもろに受けたフシギダネは容易く吹き飛ばされ、フィールドへと叩きつけられた。

 マチスはさらに指示を飛ばす。

 

「アイアンテール!」

 

「種爆弾!」

 

 フシギダネの種爆弾は、しかしライチュウのアイアンテールによっていともたやすく弾かれる。

 爆発音が無意味に鳴り響く。

 さらにライチュウは威力を空中で一回転。

 

「ライッ! (軽い!)」

 

 直撃する。しなやかな鋼の尻尾が。フシギダネの頭へ。

 その威力たるやフシギダネを通してフィールドを砕いた。

 フシギダネが無事なのか俺は固唾を飲んで見守ることしかできない。

 

「ダネフシャ(まだまだ)」

 

 フシギダネは足元をよろけさせながらも立ち上がる。

 見るからに戦闘不能一歩手前だ。

 けれどその目に諦めは無い。

 フシギダネはどっしりと四本足でライチュウを見据えた。

 

「オー! ナイスガッツネ! けどそれもここまでヨ。ライチュウ! ボルテッカー!」

 

 ライチュウが距離を取る。

 電気を纏いフシギダネへ猪突猛進に走る。

 

「フシギダネ、宿木の種!」

 

 眠り粉、宿木の種、ツルの鞭と種爆弾。

 全部草技だけど、この場においてはむしろそれが良い。

 フシギダネのつぼみから小さな種が舞い上がる。

 

「ライチュウ、アイアンテール!」

 

 ライチュウはまたもボルテッカーを止め、アイアンテールで宿木の種を切り裂いた。

 宿木の種が消えた先。

 フシギダネは無防備。

 ライチュウはフシギダネに急接近して。

 そして、

 

「止めのメガトンパンチ!」

 

 ライチュウの爆発的な拳がフシギダネを抉りこまれた。

 

「ギャーオ! (フシギダネ!)」

 

 俺はボールの中からフシギダネの名を呼んでいた。

 流石にあれは耐えられない。

 粉砕音が鳴り響く。

 バトルフィールドの壁に叩きつけられたフシギダネは目を回していた。

 

「フシギダネ! 戦闘不能!」

 

 リーフが拳を握る。

 そう、これがジムリーダー。

 トレーナーの前に立ち塞がる圧倒的な壁。

 ライチュウはダメージらしいダメージを受けないまま拳を払う。

 威圧的な態度のままリーフへ眼光を送った。

 まさにそのタイミング。

 ライチュウの尻尾の先から茨が伸び、蝕むように全身へ広がっていった。

 あれは正しく、

 

「ヤドリギの置き土産。グレート!」

 

 マチスが手を叩いて称賛する。

 宿木の種、切り払われたわけじゃなかった。

 命中してフシギダネは後続にバトンを繋いでくれたのだ。

 俺は思わずホット息を漏らしていた。

 なんだか自分事のように思えて仕方ない。

 赤い光がフシギダネに飛ぶ。

 リーフは「ありがとう」と労いの言葉を投げかけ、次のボールへ手を掛けた。

 

「行って! ピッピ!」

 

 次に登場するはピッピ。

 指を振りながらの登場だ。

 ピッピといえば……昔は妙に強かったような気がする。

 なんだろう、ダブルバトルとかやったことないから分からない。

 今度はこっちの番だとばかりにマチスが先手で指示を飛ばす。

 

「ライチュウ、アイアンテール!」

 

 速攻で決めに来た。

 ライチュウが駆ける。しなる尻尾を鋼色に染めて。頭上高く飛び上がった。

 

「マジカルシャイン!」

 

 ピッピを中心として強烈な光がドーム状に広がる。

 ライチュウは怯むことなくアイアンテールを光に叩きつけた。

 ……押されている。

 ライチュウに。

 

「ピッピ、避けてッ!」

 

 マジカルシャインが解けるとほぼ同時、ライチュウの尻尾がフィールドに突き刺さった。

 地面を砕く音が響く。

 ピッピにアイアンテールは効果抜群。

 進化の輝石を持っていれば耐えられるかもしれないけど……。

 あれを受けたら一撃アウトだ。

 ライチュウを蝕む茨が赤く光る。

 宿木が吸い取った養分はピッピへと流れていく。

 

「メテオビーム!」

「ボルテッカー!」

 

 ピッピの手先に宇宙のエネルギーが収束していく。

 まずは特功上昇。

 けどそれよりも早く動いたのはライチュウだ。

 ライチュウのボルテッカーがピッピへクリーンヒット。

 ロクな防御姿勢を取れずもろに受けてしまった。

 メテオビームだったエネルギーが霧散していく。

 同時にエレキフィールドが切れる。

 

「アイアンテール!」

「メテオビームで受け流して!」

 

 またメテオビーム? 

 溜め技じゃすぐに発射できないのに。

 ライチュウのアイアンテールに合わせて、ピッピは収束したエネルギーを盾にする。

 

「ライッ! (軽いっての!)」

 

「ピッ! (……なんで!)」

 

 ライチュウの尻尾はガラスでも割るかのような気軽さで、ピッピのメテオビームを打ち砕く。

 受け流すどころか盾にすらなっていない。

 

「リピートしても無駄ネ!」

 

 その場でもうひと捻り加えるライチュウ。

 天蓋がいきなり黒く覆われる。

 僅かに見える外。

 移動していないことから、恐らくリーフが俺のボールを握っているのだろう。

 

 出すなら早く! 

 俺ならアイアンテールを受けきれる。

 ボルテッカーも多分躱せられる! 

 サント・アンヌ号でのバトルなんて、ほとんどずっとレイドバトル状態だったんだから。

 しかしリーフは俺のボールから手を放し、不敵に笑って見せた。

 

「ピッピ! マジカルシャイン!」

 

「ピッ! (たあ!)」

 

 苦し紛れに放たれる強烈な光。

 だが間に合わない。

 さっきと一緒。

 吸い込まれるかのようにピッピへアイアンテールが伸びていく。

 数秒が数分に思えるほど時間の中、俺は目撃する。

 マジカルシャインがギリギリ間に合ったのを。

 けれど力任せにアイアンテールが押し込まれていき、

 

「ライッ? (あれ?)」

 

 弾かれたのはライチュウだった。

 ドシン! と強い衝撃音と共に背中からフィールドへ叩きつけられていた。

 何が起きたのか分からない。

 ライチュウはそんな表情をしている。

 すかさずリーフは次の指示を下す。

 

「月の光!」

 

 ピッピの頭上に現れた月から光が零れ落ちる。

 光は傷をどんどん癒していく。

 まだまだ完璧とはいかないけどほとんど回復し終える。

 

 そこでようやく俺はリーフの狙いに気が付いた。

 メテオビームだ。

 あれは溜めたタイミングで特攻が上がる。

 分かっていたんだ最初から。不発に終わることが。

 マチスも俺と同じ考えに至ったようで、初めて余裕の表情を崩した。

 ヤドリギが着々とライチュウの身体を蝕んでいく。

 立ち上がるのも苦しそうなのに、それでも立ち上がってくる。

 

「ピッピ、火炎放射!」

 

「ダッシュしながら、エレキフィールド!」

 

 ピッピの指先から放たれた火炎放射からライチュウは逃げ回る。

 そのついでに足元に電気が駆け巡っていく。

 体力的にも後一撃。

 マチスの表情、ここで決めてくる気だろう。

 

「ライチュウ、ボルテッカー!」

 

「ピッピ、マジカルシャイン!」

 

 エレキフィールドの恩恵を得て、今まで以上の電気を纏ったライチュウの一撃。

 その一撃は今までの比にならない。

 ライチュウの目が霞んでいた。

 重たそうに瞼を開け、それでも駆け抜ける。

 例え足の動きが不自然でも、それはまさに雷渦巻く捨て身の一撃。

 迎え撃つはマジカルシャイン。

 特功を二段階上げ、フシギダネの宿木の種の補助まで受けたピッピの光。

 

 始まりは無音だった。

 まるで嵐の起こる前兆のように。

 遅れて衝撃波が吹きすさぶ。

 炸裂音と表現するのには生ぬるい、雷と光の乱舞を引き連れて。

 ライチュウとピッピを中心として力の乱流がリーフとマチスへと逆巻いた。

 ああ、リーフとマチス、二人とも楽しそうだ。

 本気で心の底からバトルをしている。

 俺がバトルを代行していた頃と全然違う。

 リーフの帽子が空中を舞っていた。

 

「ライ……ライ……ライライライライライライライ! (負けるか……負けるか……負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか!)」

「ピッ……ピッピ! ピッピ! ピッピッ! (押される……。けど負けない! 負けたくない! 負けられないッ!)」

 

 ライチュウは止まらない。

 ピッピの勢いも止まらない。

 互いの意地が拮抗していた状況に終止符が訪れる。

 

「ライライライライ! (負けるか負けるか負けるか負けるもんか!)」

 

「ピッ! (噓!)」

 

 なんとライチュウの足がマジカルシャインを押し始める。

 やがてピッピ目掛けて飛び出てきた。

 おいおいおい、ラスターパージとボルテッカーがぶつかり合った回みたいになってるじゃん!? 

 

「ライチュウ! ゴ────ー!!」

 

「ライッ! (おりゃあ!)」

 

 一際強力な爆発がドーム状に広がった。

 衝撃波により発生した煙はフィールドから逃げ出していく。

 煙のいなくなったバトルフィールド。

 立っていたのはライチュウだった。

 リーフが震える手で口を押える。

 

「……ピッピ」

 

 ピッピは目を回していた。

 勝ち誇ったような表情で振り向くライチュウ。

 審判が判定を下そうとした時、ライチュウは小刻みに震えて背中から地面へとダイブした。

 

「ピッピ、ライチュウ、共に戦闘不能!」

 

 引き分けだった。

 フシギダネとピッピ、二人掛かりの接戦。

 見事という他無かった。

 

「ハハハ! 実にエキセントリックネ! ライチュウを倒すナーンテ!」

 

「まだまだ、フシギダネとピッピの頑張り、無駄にはしない」

 

 驚かされたのはこっちだよ。

 そのライチュウ、そこまで強いとは思わなかった。

 いや、俺が戦った時でもボルテッカーを四発ほど当ててきそうになっていたし、強ポケなのは違いないんだけどね。

 

「その良きデースネ! しかしミーのラストポケモン、イージーに勝たせる気はありまセーン!」

 

 マチスが最後のボールを手に取った。

 ハイパーボール。

 来る。最後の一匹が。

 来る。今までの回避戦法の通じない相手が。

 俺もリーフと一緒、フシギダネとピッピの頑張りを無駄にする気はない。

 だから、リーフは俺のボールを手に取る。

 

「泣いても笑っても最後の一匹。行くよッ、ファイヤー!」

 

 クルクルと高く舞い上がるボール。

 天高く飛翔した俺は裂ぱくの気合をあげた。

 

「ともに気合十分ネ! ミーのポケモンナンバーワン! ラストスタート! ゴー、ライコウ!」

 

 マチスから繰り出されたのは黄色の虎。

 背中からは先端が渦のようになっている紫色の雨雲が伸びていた。

 身体中に電気のような黒い模様。逆立った毛や電気の尻尾と全体的に雷神を虎に落とし込んだかのような見た目。

 ライコウが吠えると呼応するかのように雷が落ちた。





 参考までに
 フシギダネLV14
 ピッピLV13
 ライチュウLV28
 
 フシギダネが種爆弾を覚えるのに必要なレベルは18
 ピッピが月の光を覚えるのに必要なレベルは24
 
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