ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? 作:氷水メルク
まさかポケマスがリーフにファイヤーを採用するとは……。
まさかリコロイ編でガラルファイヤーが出るとは……。
これはもう書くしかないでしょ!
……あぁ、ほんと。
普通に考えて絶望感しかない対面だ。
ファイヤーでライコウに勝てるはずがない。
ライコウからただならぬ威圧感がひしひしと肌を伝う。
相手が電気タイプだからか全身の羽が逆立つような気分だ。
「ライコウ! 光の壁!」
ライコウの眼前に薄桃色の透明な壁が展開された。
重い。
フシギダネとピッピがライチュウを倒し繋いでくれたバトンが。
重い。
エースとして今この場で羽ばたいているのが。
今まではずっと一匹だった。
一匹だったのがむしろ、俺の心を軽くしてくれた。
だって、俺が倒れればそこでおしまいなんだから。
吐き気がして、この場から逃げ出したくなるような緊張感。
でも今は、そんなの考えられないくらいの責任がある。
重くて、重くて、それでも負けられない。
託してくれた仲間のために負けられない!
「波動弾!」
ライコウの口に波動の塊が集中していく。
青と黒のエネルギー玉。
ひとつの惑星のように輪っかを付けたそれは、必要に俺を追い回す。
波動弾は必中。
飛び回るのは時間の無駄だと、俺は暴風で弾き飛ばす。
マチスとライコウの目が同時に光る。
「逃げても無駄ヨ! 熱湯!」
ライコウの熱闘は俺が弾き飛ばした波動弾を押し込んでくる。
俺の暴風の壁を正面から突き進み、目の前へと躍り出る。
熱湯を受けなくて良かったのか。
はたまた波動弾を受けた程度で良かったのか。
俺は心の中で舌打ちをひとつする。
前も同じだった。
技を組み合せて戦ってもライコウはそれ以上の威力でごり押してくる。
「そこ、十万ボルト!」
今までの準伝説ポケモンと比べてライコウには圧倒的に優っているものがある。
それは素早さ。
俺が回避するよりも早く。いや、回避しようとした時点で先読みしてくる。
十万ボルトの一撃が俺の身体を容赦なく焼き焦がす。
痛いなんてものじゃない。
激痛だ。
汗とかだらだら出てくるし、身体中のあちこちが炎タイプなのに熱くて仕方ない。
ここまで来ると電気を受けたって気分じゃない。
もしも溶岩に手を突っ込めばこれほどの痛みを再現できるだろうか。
身体中から神経、感覚が消えていく。
それでも俺は負けられない。
例え相性が不利すぎるとしても。
ここでやられたらリーフは終わりなんだ。
「ファイヤー! 燃え尽きる!」
ライコウからの攻撃に防戦一方。
思考がぐちゃぐちゃな状態で飛び回る俺に、冷や水の如き声が届いた。
リーフ。
リーフは自身たっぷりの表情で俺に一声かけてくる。
「信じて!」
信じて……ね。
一度や二度あるかもしれないけど、俺はリーフの言葉を疑わない!
「ギャーオ! (やってやる!)」
俺は全身を焦がすほどの炎を大放出する。
今このタイミングで俺の炎タイプは消失する。
燃え尽きるの炎は火の鳥のようにライコウへ襲い掛かる。
「その技を待ってたネ! ライコウ! 熱湯!」
炎を消すならその方が効率的だろうな。
けど俺の燃え尽きるは熱湯程度じゃ……って嘘だろ?
ライコウの熱湯は俺の燃え尽きるに容赦なく穴を穿つ。
「ファイヤー! 突っ込んで! カプ・レヒレの時みたいに!」
あの時のように?
やるしかないと俺は身体を折り畳んで熱湯へ身を投げる。
「ライコウ! 別方向から十万ボルト!」
放水を止めてライコウが俺の隣へ飛び出してくる。
身体中に電気が迸っている。
バチバチと怖気が走る。
すべてがスローに見えてくるほど集中力が高まった状態で……。
「ファイヤー! 熱砂の大地!」
ライコウが十万ボルトを放つのと、俺が熱した砂を飛ばしたのはほぼほぼ同時だった。
相打ち。
十万ボルト、二回目。
再び襲ってくる身体を焼き焦がすかのような鋭い激痛。
全身を一千度の針でただ突かれ、肌が逆立つかのような感覚。
もうほとんど意識がない。
ライコウはたった一撃、タイプ不一致抜群の攻撃を受けて倒れてくれるほど柔じゃない。
ライコウの眼前に光の壁が展開……されなかった。
切れるほどの時間は既に経っていたのか。
「ファイヤー、休んで!」
……休む?
休むって何?
もう良いよってこと?
また負けるってこと?
それだけは嫌だ。
絶対に嫌だ!
けど、俺の思いに反して羽は全く動かない。
フィールドに叩きつけられる。
飛べる翼を捥がれた俺は冷たい地面の感触を味わうのみ。
「ファイヤー! そのまま動かないで! 今は飛ばないで!」
リーフは俺にそう指示を飛ばしながらもモンスターボールを使わない。
……せめて最後の足搔きとばかりにライコウを睨みつけてやろう。
首だけ動かしてライコウを睨みつける。
睨みつけるさんの睨みつけるだぞ。
防御力を下げられただろうか? 意味無いけど。
ライコウは俺の睨みつけるを鼻で笑う。
……まだ諦めたく……ないのに。
「ファイヤー、戦闘——」
「ストップ!」
審判の判定が止められた?
しかもあの声はリーフじゃない。
今度こそリーフの声が聞こえてくる。
「立ってファイヤー! あなたはまた、空を飛べるはず!」
空を飛べる?
そんなわけ……あれ、身体が軽い。軽いぞ!
十万ボルトを受けた後なのに、妙に身体が軽いぞ!
「やってくれたネ、ガール。羽休め」
「こうでもしないと勝てそうにないから」
羽休めか。
このタイミングで覚えるんだ。
そもそも羽休めって羽を休めればいいのだから覚える技かどうかといっても怪しいんだけど。
けどこれでまだ戦える。
「本当はねファイヤーに申し訳なく思っているの」
攻撃が休まる。
マチスとライコウが共にリーフの言葉に耳を傾け始めた。
「アタッカーでもないのにエースをやらせていること。それに気づかなかったのと、今までファイヤーに無茶を強いていたこと」
「ギャーオ(初めに岩、次に水、今は電気だからね)」
「サント・アンヌ号で、指示を出すようになってから分かったの。ファイヤーがどれだけすごいことをしていたのかって。トレーナー並みに戦況をその場で把握してバトルしていたんだって」
俺の場合、廃人知識とアニメたっぷりでのバトルだけどね。
奇想天外なバトルをしてきたわけじゃない。
アニメでサトシ君がやっていた戦法をそのまま真似ているだけ。
「本当にずっとずっと甘えてた。ファイヤーなら勝てるって。どんな相手が来ようとも必ず勝てるって。けど、そうじゃない。ファイヤーも同じポケモンだったの」
バンギに負けるわヌオーにも勝てないわ。
トドンはギリ行けるけど、それでも先手でドリュウズとかに岩雪崩を打たれたら無理だし。
アニメみたいに無双できるポケモンじゃないんだよね、準伝説って。
「だから私は、今日ここで改めて始める! ポケモントレーナーを!」
リーフの宣言をマチスが楽しそうに柏手を鳴らす。
「ウェルカムトゥ! 歓迎ヨ、トレーナーワールドに!」
「はい! だからここで、絶対に勝ってバッジを貰うよ! ファイヤー! 熱砂の大地!」
風が舞い、鳴き声轟くあのバトル。
十分回復も果たした。
俺は羽ばたいてライコウへ熱々に熱した砂を飛ばす。
「光の壁!」
しかしまた、ライコウの眼前に薄透明の壁が展開される。
熱砂の大地は壁によって威力が半減されてからライコウへと突き刺さる。
やはり効いていない。
風船じゃないだけマシか。
ライコウは相変わらず余裕そうな顔で俺を見下し、ボッ! っと身体から火が巻き起こった。
「ギャオ(火傷した)」
「火傷した」
「ライコウ!?」
ライコウの火傷。
まだまだライコウの目から見て余裕そうだ。
だけどたかが火傷、されど火傷だ。
俺はすっと笑みを溢した。
……本当に諦めないと希望が訪れるものだ。
俺のファイヤーは耐久型。
どれだけ泥臭くても、どれだけ害悪だろうと、勝てば官軍だ!
マチスは笑みを深くする。
「面白いネ! このまま羽休めをされ続けたら負ける……。その前に決着をつけるヨ! ライコウ! 十万ボルト!」
「ファイヤー! 暴風!」
風に煽られた電撃は高く舞い上がり、天井を突き破りなお進み続ける。
「ファイヤー! 羽休め!」
「させないヨ! 波動弾!」
羽を休めようにもライコウの波動弾が阻止してくる。
休めようにも休む隙が無い!
「まだまだこれからヨ! 熱湯!」
「熱砂の大地!」
もうここからは互いに意地のぶつかり合いだ。
今度は熱湯と砂の球体の衝突。
熱湯は熱砂の大地によって蒸発し、白い蒸気が宙を漂う。
ほの熱い風が翼を伝う。
だがこんな蒸気、空を飛ぶ俺には関係ない。
「ファイヤー! 暴風!」
「光の壁!」
蒸気を払い、俺の暴風がライコウへと突き刺さる。
だが既にライコウは光の壁を貼った後だ。
余裕綽々の顔で未だ健在。
やっぱり……ファイヤーでライコウを相手にするもんじゃねぇーな!
「これで決めるヨ! 十万ボルト!」
ゴガァァァァ──ーンンっと、どえらい雷轟を響かせてライコウの全身から電気のエネルギーが迸る。
その余波だけでもジムの電気機器すべてに影響を与え、そしてライコウを中心として黄金色に輝いている。
おいおいおいおい、これをどうにかしろって?
ただでさえ身体中が危険信号を発信しまくってて、鳥肌が立ちまくっているってのに?
無理だ。これは躱せない。
熱砂の大地を使おうが、暴風だろうが、このエネルギーを正面から何とかする力を持っていない!
……だからかな?
「羽休め!」
電撃が俺の目と鼻の先まで到達する。
これを受けろと?
上等、やってやんよ!
耐久型ファイヤーの底力、見とけや!
ドゴォォォ──ンっと、俺の全身を電気エネルギーが包み込む。
土煙は舞い上がり、天高く雷の柱が空へとそびえ立った。
衝撃はいつまでも俺から離れない。
針で下からも上からもめった刺しにされている気分だ。
それでもこれを耐え抜けば勝ちなんだ!
「頑張って!! ファイヤー!!」
リーフの思いに応えるためにも、ここで負けるわけにはいかないんだ!
「ギャァァァァオオオ!!!」
俺は電撃を振り払い、飛翔する。
全身に痺れが残ってる。
だがそれがなんだ!
そんなのが俺の、俺たちの動きを阻害出来ると思うな!
「面白いネ! ユーたち、ほんと最高ネ! 十万ボルト!」
「ラライー(しまっ)」
だが、二射目が飛んでくることは無い。
ライコウの身体から炎が噴き出し、膝をついた。
ここに来て火傷が生きた!
この隙を見逃すはずがない!
「ファイヤー! 急降下して熱砂の大地!」
「ギャーオ! (これが俺の持てる全てだ!)」
俺は空中から翼を折り畳んで急降下。
風を突っ切り、狙うはライコウの顔面!
「光のか──」
「ギャーオ! (貼らせるか!)」
それよりも早く、俺は熱砂の大地を蹴り飛ばす。
熱砂の大地は一気に加速し、光の壁を貼る直前のライコウの顔面を貫いた。
二度、三度、地面をバウンドしてライコウは地面に横たわる。
同時に俺も地面に崩れ落ちる。
それでも目だけはライコウを見据えて。
「ライコウ!」
「ファイヤー!」
ぴくりと、ライコウの足が動いた。
ゆっくりとだがその足は確かに地面を付く。
「ラライ────ー!!!」
四つ足を地面につけたライコウは、太陽に向かって大きく吠えた。
初めて対峙した時と全く変わらない声量。
そしてライコウは身体中から炎を吹き出し、
「ラライー(見事)」
再び地面に崩れ落ちた。
翼を動かせないながらも、二本の足で俺は立ち上がった。
静寂の空気が流れる。
しかしそれも、一本の針が突き刺されたことで破裂する。
「ライコウ、戦闘不能! ファイヤーの勝ち! よって勝者! リーフ選手!」
今頃リーフとファイヤーをネタにした作品がいっぱいなんだろうなぁ!
本来読宣なので大好きなファイヤーが流行るのは超嬉しい!