第1話 王道的召喚
「ん?」
俺は町の本屋に新しい本を買いにやってきていた。
俺、
物心が付いた頃には、自分が前世の記憶を持つ転生者であると自覚した。それからは筋トレを中心としたトレーニングに励みつつ、何らかの事件が発生するのを警戒する日々を送っている。
未だにこの世界の【原作】は判明してないが、突然、【がっこうぐらし!】のような大事件が起きる可能性は否定できない。
というわけで、何らかの事件が起きた時の為に鍛錬は欠かせないわけである。
今のところ、それらしい事件は何も起きていない。
インターネットで【冬木市】等の架空の地名の有無を調べてみたり、【スマートブレイン】等の架空の企業の有無を調べてみたり、前世の記憶を頼りに調査をしているものの、それらしい情報は未だに見つからない。
これが【原作】も何もない平和な世界ならば別にいいのだが、裏でデスゲームを見世物にしている謎の特権階級や上位存在が存在していたり、【ゲート】のように突然異世界勢力から侵略を受けたり、【ありふれ】のように異世界に召喚される可能性は否定出来ないのが怖いところだ。
考えすぎ? それで痛い目を見た転生者の前例は星の数ほど存在している。
突然、頭の中で「あなたは転生者と認定されました」という声が聞こえたあの日から、俺は【転生者互助組合】という組織に所属している。【勇者互助組合 交流型掲示板】を元ネタとするこの組織の掲示板には、平和な世界と油断していた転生者が事件に巻き込まれた前例が幾つもある。
そして、俺がその例に当て嵌まらないという証拠は何一つとして存在していない。事件が起きた時のために身体を鍛えるのは当然のはずだ。
さて、話は脱線したが、その日、俺は町の本屋に本を買いに来ていた。
前世知識を悪用……ごほんっ、頼りに株を買い占めることで、人生を十回くらい豪遊できるほどの財産はある。どうせ、ソシャゲの課金くらいしか贅沢をすることがない俺は、定職に就かずに悠々自適な日々を過ごしている。
前世から筋金入りのオタクである俺は、有事に備えてトレーニングに励みつつ、様々なゲームやアニメ、ラノベに囲まれた生活を送っているわけだ。
今日もまた、新しいラノベを仕入れるために本屋に来ていた。
前世の作品のパク……オマージュ作品のようなものが殆どではあるが、中には前世で見たことのない面白い作品が見つかることもあり、掘り出し物を探すような感覚で意外と楽しいんだ。
でだ。
事件はこの後に起きた。
俺はファンタジー作品を扱っているコーナーへ目を通していた。
一冊の本等には纏められないほどに、ファンタジー作品の歴史は豊潤だ。某世界最大の宗教の聖書もファンタジー小説のようなものだからな。
「四聖武器書?」
一冊の本が本棚から落ちてきた。その本には、やけに見覚えのあるタイトルが書かれている。
まさかこれは、と思いつつ四聖武器書を拾い上げた俺は、頬を引きつらせながらその本の内容を確認することにした。
これが本当に予想通りの産物ならば、逃げたところで意味が無いからだ。
具体的には、何度本棚に戻しても床に落ちたり、家に帰るとなぜか部屋に置いてあったり、他の場所に捨てたり燃やしても戻ってきたり、挙句パソコンにプログラムとして現れたりとしつこく付き纏うはずである。
ペラ……ペラ……。
世界観の説明から入る話だ。
要約すると、とある異世界で終末の予言がなされた。
その終末は幾重にも重なる災厄の波がいずれ世界を滅ぼすというもの。
災厄を逃れるため、人々は異世界から勇者を召喚した。
そして、召喚された勇者は四つの伝説の武具を所持していた。
剣、槍、弓、そして盾。
「うん?」
予想していた内容と少しだけズレている。
四人の勇者……ではなく、四つの武具を所持する勇者? もしや、俺の思い違いなのか?
等と思いつつ、続きを流し見ていく。
勇者は力をつけるため旅立ち、己を磨き、災厄の波に備えていった。
「ふわぁ……」
ヤバイ、眠くなってきた。
これ、やっぱり予想通りのやつみたいだ。なら、少しでもこの本から情報を……。
そう考えた俺は必死に四聖武器書を読み込もうとしたのだが。
「……マジか」
ページを捲った俺は思わず声を上げた。
そこには何も書かれていない。世界観の説明しか書かれてないのだ。
どうやら、四聖武器の精霊はハードモードをお望みらしい。
「……ここ、【盾の勇者の成り上がり】の世界かよ」
そう呟いたのを最後に、俺の意識はスーッと遠くなっていった……。