人理防衛戦Ⅰ 悪性断罪領域 アルダーク 副題「復讐の刃」
第5節 激突!殲・上弦衆!
【https://syosetu.org/novel/303505/60.html】の本編です
【推奨BGM:修羅ノ道】超昂閃忍ハルカより
「っ、はぁっ、やあああああっ!」
「くぬっ……!」
「しゃっ!」
「はあああっ!」
一人の胸板を拳で撃ち抜いた直後、その影より滅忍二人が姿を見せる。
「く、っ……!」
首筋と足首を狙う鉤爪に、前面に倒れ込むような形で空を切らせる。
「ええええええいっ!」
「ぐ、ぬ……ッ!」
「がはあっ!」
そのまま両手を地面に付いて、反動を付けた両足蹴りで一人を蹴り飛ばし、空中で反転してもう一人に拳を落とす。常のルビーならば、三人全員を行動不能に追い込むコンビネーション。であるというのに、未だに滅忍三人は戦闘態勢を保っていた。
「っ、まだぁっ!」
「うううっ、ち、力が、足りない……っ、手応えはあったのにっ……」
エナジー不足。リバース戦で消耗しているルビーには通常の滅忍ですら苦戦必至の強敵だった。
「ふふふっ、そぉら!」
カゲリがヒュッと呼気を吹いたかと思うと、周囲一帯に炎が噴き上がる。
「っ、このっ……! 相変わらず、インチキくさいっ……!」
「……あらまあ。強なっとる……あの黒いのと戦ったせいやろか」
空中で回転しながら炎の軌跡を掻い潜り、トパーズは刃を閃かせる。金色の光をキセルで払い除けたカゲリは、予想外の成長と実力に思わず口を滑らせる。以前は万全の状態ですら、四人がかりでようやく互角だったというのに。
「……せやけど」
「このっ……!」
振り抜いた件が空を切る。それと察した瞬間、トパーズの身体は地面を蹴ったが――――
「あ、あちちちっ……! ええい、火達磨が怖くてヒーローやれるかっ……!」
「ふふ。けど……あの”箱舟”の小娘はんがおらんかったら、うちは捉えられんねぇ……!」
「っ、ふん、全然余裕よっ。私らだけでもっ……!」
己を取り囲む滅忍を片付けたルビーが苦戦するトパーズの下に駆けつける。
「トパーズ! 平気!?」
「凌ぐ、じゃダメよ。あの子の所まで、行かなくちゃ……!」
「……っ……うん、っ……! オルバちゃんに……聞かなくちゃ。それに、あの……ディストバーンを……っ」
二人の視線の先には魔法陣の上に立つオルバの姿。その前に立ち塞がるカゲリが、全身に陽炎を纏いながら、凄絶な笑みを浮かべる。
「元気でええなあ。けど――――それなら、こっちも見したろか」
歪み、捻れ、侵す。殲忍カゲリの全身を青い炎が包み込み、その内から霊基再臨を果たした化性が姿を見せる。全身に走る赤い紋様、獣を思わせる複雑な色合いの双眸、その頭部に生えた一対の狐の耳。左手で狐の影絵を作り、コン! と手首を振る。
「うちの――――ふふ。本性、ちう奴を……!」
「っ……! え、っ…………!? み、耳、と、尻尾、っ……?」
「へ、変身したぁっ!?」
「ふふ……っ、ふっ!」
薄く笑みを浮かべたカゲリが、三方に跳躍した。
「っ、分身…………ッ!?」
「幻術……言うても、軽うないでっ……!」
「あああああぁぁっっ!」
窮地にあるのは、殲忍カゲリと対峙する二人だけではない。アルダークの怪人をギリギリの所で食い止めていたマリナと神騎ユユエルの下に、ハガネの命を受けた滅忍達が攻め寄せる。
「っ、いけない、これはっ……!」
「滅ッ!」
「「「滅、滅、滅ッ!」」」
「下がってください、ユユエルさん!」
廃ビルの壁を、滅忍達は手鉤で這い上がる。それをマリナの歌が落としていくが、疲労の色は隠しきれるものではない。連戦に継ぐ連戦に肺と喉を酷使したマリナの歌声は、彼女自身が自覚する以上にその音量と効力を下げていた。
(っ……でも、ここは……っ、みんなの希望、だからっ……!)
「ッ、滅っ! もらったぞ、小娘ッ……!」
「っ、後ろからっ……!」
影から背後に回り込んだ滅忍が致命の一撃を突き出す。回避不能。己の命を確実に奪い取るその一撃を前に、歌姫は顔を歪めることしかできない。神騎ユユエルの妨害も間に合わず、超昂アイドルは別次元で生涯を終える。
「えぇいっ! 火弾撃!」
「ぬぐはっ!?」
「ナリカちゃん!」
その未来に介入する者が一人。炎の弾丸を浴びた滅忍と入れ替わるように、大型手裏剣を携えた紅の閃忍が舞い降りる。続け様に火遁の術を放つナリカの姿に、マリナは喜びの声を上げた。
「閃忍ナリカ参上っ! てね。こっちに敵が増えたって聞いて!」
「た、助かりますっ……!」
「登ってくるのをやればいいのかな……っ、あ……!」
穴の空いた階下を覗き込んだナリカが、警戒の声を上げる。
「…………………………」
「ふんふふーん」
数人の滅忍と共に階下に佇む、二人の少女。
片や、古い装丁の本を右手に抱えた、黒い着物を身に纏う幼い風貌の少女。
片や、腰と背中に刀を携える、うさ耳リボンを身に付けた金髪の少女。
(女の子……? ううん、忍びだっ……!)
「開口は二つ。滅忍は二箇所に分けて、外壁を上がって。成功したら、そのまま制圧」
「「「承知!」」」
黒い少女の目配せを受けて、滅忍達が動き出す。
「正面は……行って、コテツ!」
「はいはいはーーーーいっ! キクリちゃん! んじゃ、どーん!」
コテツと呼ばれた金髪の少女が、一目散に穴の直下まで走り出す。
「風鉤……!」
黒い少女…滅忍キクリの持つ術書が独りでに開くと、その中の一枚が風を逆巻いて飛んでいく。
「あ…………!?」
頁は独りでに数枚の札に分かれ、まるで意志があるかのように、穴の近くで滞空した。
「わはーーーーー!」
コテツはその札を足場にして上階……ナリカ達の居る階層まで迫っていく。
「あっ、やばっ……!」
「おりゃーーーーー!」
「ッ、つう……! なんて力っ!」
「おおー、強い!」
ナリカの振るう巨大手裏剣が、コテツの大刀と火花を散らす。幼い容姿からは想像できないコテツの圧倒的膂力に、迎え撃つナリカは苦悶の表情をする。高い敏捷性と忍術の技量で敵を翻弄するのを得意とするナリカには、目の前の少女剣士は些か以上に分が悪い。
(それに、今……相打ち狙いだった? あっぶない……!)
「悪いクセ……こっちでフォローも、限界があるからね!」
「キクリちゃんやっさしー」
(……やば。他に目を届かす余裕無いかも……淫力も足りないし……!)
ナリカとコテツ。二人の忍びが対峙する裏では、マリナとユユエルが奮闘していた。
「っ、マリナちゃん! 今度はこっち、左側!」
「はいっ! 大丈夫です、任せてください!」
フロア中を駆け回りながら、マリナは迫る滅忍を打ち落としていく。
「ふう、このペースなら今の所、大丈夫……」
と、そこまで口にしたところでユユエルは違和感に気付く。
(…………? おかしいわ。敵の数が少ない…………?)
「…………!」
「ユユエルさん!?」
「いけない……! 滅忍達が、上に…………!」
「…………!」
左右の開口からの侵入を試みる滅忍、そして正面の少女。その全てを囮にして、開口からでは見えない角度から滅忍達が屋上を直接目指していた。先程、黒い少女が滅忍達に侵入の指示を出していたのも、この本命に気付かせないための策であったことをユユエルは悟る。
「当然。任務はそれだもの」
「そだぞー。なんだか知らないけど!」
侵入経路は三つ。正面はナリカ、開口はマリナ、ならば外壁は――――
「っ……! 仕方ない。わたしが、少しでも……!」
「ユユエルさん!? 無理です、そんな……! エナジーももう無いのに……!」
「飛べるわたししか追いつけないわ。ほんの僅かでも、時間を稼げるなら……!」
「それは…………っ、きゃああぁぁ!」
「マリナちゃん!?」
空を飛ぶユユエルに気を取られるマリナの間隙を突き、開口から入り込んだ滅忍が廃ビルの床にマリナを組み伏せた。
「っ、ぁ、くうううっ…………!」
「ふん、ただ殺すのも惜しいがッ……!」
「…………っ……!」
「これで終いだ、小娘ッ!」
脆い壁を登ってきた鉤爪が、そのままマリナの命を抉ろうと振り下ろされた。
殲・上弦衆。想破上弦衆を裏切り、超昂戦士の敵になった忍の集団。その参戦により、ダイビートは苦境に立たされた。殲・上弦衆の頭領、殲忍ハガネと対峙する三人もまた、その強敵を前に苦戦を強いられていた。
「……っ、はぁっ!」
「ちっ、思ったよりも厄介だ……が!」
大盾の表面に長槍を滑らせるようにして、盾の超昂戦士の脇をハガネは駆け抜ける。
「しまっ……!」
「貴様にはどうあっても、その命……差し出してもらう!」
「悪いが、そう簡単に渡せる命じゃない……!」
長槍を紙一重で躱したトキサダは、魔力を纏わせた拳を胸板に叩きつける。
その威力を後ろに身体を傾けることで受け流したハガネは、勢いのままトキサダの顎に向けて強烈な蹴りを打ち出した。
両腕を交差させて蹴りを受け止めたトキサダは、そのあまりの衝撃に数歩ほど後退りする。
「っ……閃忍達を出し抜いて、タカムネ様を暗殺しただけの事はあるっ……! 次は、俺が狙いかっ……!」
「ああ、その通りだ。未来人よ……この世を貴様の、玩具にされる気はないッ!」
「玩具、だとっ……! 心外だなッ……地球を守りに来た、というのにっ」
「それを誰のためだ、何のためだ……! 貴様自身の為だろう!」
「っ…………!」
「く、耳を貸さないでください、若頭領! その男は……ッ!」
「……己が、今戦える相手を見分けることもできんかッ……!」
「あっ! あぐ、く、あぁっ!」
「サファイアっ……!」
「サファイアさんっ!」
追いすがるサファイアが投擲する苦無を意にも介さずとばかりに弾き落としたハガネは、弾丸のような勢いで棒手裏剣を放つことでサファイアに痛打を与える。気にする素振りすら見せずに、目の前の怨敵に長槍を振るう。
「この時代の者が貴様の時代に救いを求めたか? 時を越え、助けてくださいと、頭を垂れたか?」
「――――っ、く……!」
「逆だろう。貴様は自らの救いに縋る為に、我らの時代を乱しにきた! 力の足りぬ者に力をちらつかせ、己の駒とする……アルダークと、どう異なる!」
「ならば、そのまま侵略された方が良かったと、でもっ……!」
「大きなお世話だという事だッ……それで生じる、淀みを――――!」
その言葉に、賢王の言葉がトキサダの脳裏を過ぎる。
『だがな。
『貴様らはこの時代に現れた異物。いや、余分な要素だ。不要とすら言えるほどのな』
『ウルクは
『天が砕け地が裂けようとも、貴様らに
だが、目の前の男と賢王の言葉の間には大きな違いがある。
ガキィィンッ!
「ならば問いましょう――――誰があなたに、彼を排除してほしいと頼みましたか?」
「何ッ…………!」
長槍の軌道に割り込んだ少女が、今、この時代を生きる者として問いかける。
「彼を殺してくださいと、頭を垂れましたか?」
「っ、くっ…………!」
「あなたはこの
爆発的な魔力が放出される。盾が旋回し、ハガネの長身を打ち据える。
「っ…………ちっ!」
空中で俊敏に身を立て直し、直ぐ様、ハガネは槍を構え直す。
「あなたの主張はこの星に生きる大多数の戦うための力を持たない人々の意志を蔑ろにしたものです! そんなあなたの言葉に、正当性はまったくありません!」
「――――ッ……! ぐっ……! が…………!」
その時には既にマシュは懐に飛び込んでおり、その大質量の盾を勢いよく振り抜いていた。
「即座に言い返せぬ時点で、貴様の主張の価値は地に落ちたも同然だな」
「…………っ、何者だ」
「我はファヴニル。”皇帝”、ファヴニル・ジークフリート8世」
第三者の声。闖入者に視線を向けた四人が目にしたのは、紫色の長槍を携えた戦士の姿。
「…………この男に、借りを返しに来た者だ」