人理防衛戦Ⅰ 悪性断罪領域 アルダーク 副題「復讐の刃」
第3節 欲望の断罪者
【https://syosetu.org/novel/303505/58.html】の本編です
――――その、姿。
他を圧する巨躯。物理的なまでに満ちる、殺意の圧。
アルダーク首領、ディストバーン。その異貌が、空を割り顕現していた。
「ディストバーン……あの時の……アルダークの、首領……」
「い、いきなり大ボスが来るの……? しかも、こんなタイミングで…………ん?」
何かに気付いたトパーズが声を上げる。
「ルビー、あれ……!」
「オルバちゃん……!? ど、どうして…………?」
「結局、アルダークだった……ってこと?」
「分からない、けど……でも…………」
ディストバーンに付き従う少女。褐色肌の全裸に、フード付きの黒い民族衣装に身を包み、背中側から回り込む獣の腕のようなものが胸と秘部の三箇所を覆い隠す。その服装とは対照的に近未来的な竜の頭部を模した杖。
彼女の名はオルバ。変身前の
「…………………………」
「ハガネ、ッ……」
想破上弦衆の裏切り者。エスカ・サファイアこと加古野ヒビキの実の兄。殲忍ハガネは、その配下の殲・上弦衆と共に超昂戦士を見下ろす。その瞳からは冷徹な色のみ感じ取れる。
「――――良い見世物であったぞ、超昂戦士ども。貴様等の勝利は些か意外だったが……いや、そういうモノ、か。貴様等は……」
重々しく……しかし、憎悪を隠すことなく、ディストバーンは呪いのように言葉を吐く。
「我がここに姿を見せた……その意味が分かるか、超昂戦士ども」
「……ッ…………!」
「ここで……人類を、終わらせに来たという事。今日ここで……地球人の歴史は、幕を閉じる」
「…………ディストバーンッ……!」
人理守護を尊名とする人理継続保障機関カルデア。
人理終焉の未来を防ぐ地球防衛組織ダイビート。
同盟関係にあるこの二つの組織には、その言葉は認める訳にはいかない宣戦布告そのもの。
『各種検知器で調べましたが……幻覚やホログラムではありません!』
『トリスメギストスもあれをディストバーンと断定した! あれは、紛れもなく本物のディストバーンだ!』
『ディストバーン……っ……もう、出てくるなんて……』
想定外の降臨にダイビート本部の司令室もにわかに騒がしくなる。
『フーマン、コマンダー、滅忍……数が多いです……! これは……!』
『ゆ、ユーノさん、どうしますかっ……長官も向こうですし、これじゃ……!』
『待機中の全スタッフに連絡。全員、いつでも動けるように出動準備!』
『は、はい!』
その時、火の点きそうな形相でモニターを凝視していたさやかが、ぽつっと呟いた。
『……………………っ……これ、もしかしたら……』
『さやかさん? どうかした?』
『ごめん。席外すね!』
『こんな状況で……!』
『こんな状況だから、よ! 説明は後回し! なんかあったら呼んで!』
『あっ…………もう。仕方ないわね』
取り合わずに走り去った彼女の背中を見送ったユーノは、モニターの向こうの、いつか復讐を誓った仇敵に鋭い眼差しを向けた。
『…………どうするの、トキサダ……』
「マスター、どうしますか?」
ユーノとマシュ、二人の言葉が重なる。
「……決まってる。そんなもの……」
空から睥睨してくる、巨大な姿に視線を噛み合わせ、トキサダは拳を握り締める。
「…………………………」
「ブーッ……」
「…………………………」
周囲は、奇妙な静寂に満ちていた。
無数のアルダークの怪人達も、傷だらけの超昂戦士達も。
統率者の号令を、固唾を呑んで見守っている。
「ちょっとマズい感じよね。戦うか、引くか……って言ってもね……」
「うん。だけど……やらなきゃ。長官さんがやるって決めたなら……」
「長官……」
その静寂を先に破ったのはディストバーン。
超昂戦士の中に立つ、一人の男、戦部トキサダを煮え滾るような視線で睨みつける。
「貴様が……ダイビートの長か」
「そうだ。戦部トキサダ。お見知り置き願おうか」
「思考メモリの片隅に置いておこう。今日滅んだ、愚者どもの頭としてな」
「さあ、そう簡単に行くかな」
口調は軽く。されど、抜身の刀の如きその眼光。二対の瞳が火花を散らす。
「未来から遥々と、邪魔者が来るとはな。このような反抗は、予定外だ……」
異なる時間軸の介入。その奇跡を可能とするだけの技術はこの地球上には存在しない。また、誕生する前に侵略が完了するはずだった。しかし、人理終焉の大偉業を覆す
「だが未来は変わらない。超昂の戦士は、全て滅ぶ。貴様と、諸共にな」
「そんなことを言っていた奴を、知っているよ」
「ほう…………?」
「だが、それは机上の空論だった。人が、戦う者が残っている限り、未来はいつだって白紙だ」
人理焼却。その始まりに、レフ・ライノール・フラウロスは人類史の終わりを告げた。
――――おまえたち人類は、この時点で滅んでいる――――
――――結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない――――
――――もはや誰にもこの結末は変えられない――――
未来は変えられる。結末は変えられる。確定した未来など何処にも存在しない。
「ディストバーン……お前には、聞きたいことがある」
「聞きたいこと…………?」
「地球ではなく、地球人でもなく……何故、超昂戦士に固執する?」
「…………ッ、ク、クハハッ…………」
「ただ、抵抗しうる戦力を狙うというでは、お前達がやっている事に説明が付かない。何か――」
「……フッ、フハ、フハハハハハハハ!!」
天が裂けそうな口を開き、幾本もの鋭利な牙を剥いて哄笑する。
「っ…………!」
「そのような戯れ言を……聞いてどうするというのだ、小僧!!」
血と同じような赫耀の瞳がトキサダを睨みつける。
「相互理解等と言うつもりか! その憎悪に凝った目で!! 殺意を込めたまま握られた拳で!!
憎き相手の血を浴びなければ収まらぬ、臓腑の滾りを抑えられぬ! それが貴様の本性であろう!!」
その言葉を最後に興奮を抑え込んだディストバーンは、まるで自分のことのようにトキサダの心中を暴き出す。
「…………嬉しかろう? 我が……手の、拳の届く場所に在るのが」
「……そこまで、お見通しか…………」
トキサダの瞼の裏には、彼を生かし、ここまで立たせるために犠牲になった……未来の人々の姿浮かんでくる。仲間、恩人、師匠……家族同然の相手もいた。その全てが、目の前の化け物に奪われた。
その胸に湧き上がるのは燃え滾るような人類愛だ。或いは、人類悪と定義付けられてしまうかもしれないほどの人類愛が、戦部トキサダという一人の人間をこの場所に立たせている。
「……ディストバーン。あの男は、殺してはダメ。そう言われたはず」
「生きておればいいのだろう。どのような形であれ、な」
オルバの忠告に、仕方が無いとばかりに応じるディストバーン。
「……総員、動ける準備をしておけ。合図を出すぞ」
「了解しました、マスター」
「っ……あ……は、はいっ……!」
構えを取る超昂戦士達の姿に、ディストバーンはさも愉快そうに笑い出した。
「クク。どうするというのだ、怨敵を前に。さあ――――」
「あぁ――――――――決まっている! ユーノ!」
『いつでも!』
「よし、プランC! 超昂戦士! ――――全員撤収だ!!」
「了解、撤退しますッ!」
地面に倒れ伏すハルカリバースを閃忍ナリカが抱え上げる。そのままアルダークとは別方向に逃げ出したナリカに、トキサダの指示に、ルビーが困惑したように声を上げる。
「へ!? え、え……!? で、でも…………っ!」
「若頭領の命令だ、走れルビー!」
「え、サファイア…………あっ……!」
サファイアが指で自らの耳元を叩く仕草を見せ、ルビーはハッとして、慌てて地面を蹴った。
「ッ、なんだと……尻尾を巻くかッ……!」
「そうとも。今戦うのはリスクが高い。怒りに任せて特攻するとでも思ったか?」
軽く肩を竦めてから、トキサダもエスカリバースの身体を抱えて踵を返す。
『……そうだ。それでこそ、ボクたちと一緒に人理修復を成し遂げた戦部トキサダだ。玉砕はキミらしくない。ここはもう少し、力を溜めておくべきだ』
その姿に、ロマンは満足そうに笑みを零す。
「…………? これは……」
「アルダーク、出撃せよ! 超昂戦士どもを一匹残らず追い、殺せ!」
「ははっ! 突撃ーーーー!」
「キセル行為許さじである! 出動っ!」
「メネメネメネッ!!」
「ブー! ブブブブーーーーー!」
号令一下、大量の怪人達が地上に降下し、トキサダ達の背中目掛けて走り出す。
「戦部、トキサダ……ッ……! 貴様は我直々に、臓腑を引きずり出して――――」
「ッ…………! 今だ、ユーノ!」
『ええ! 磁力ウェブ、射出!』
『了解っ! 磁力ウェブ、起動っ!』
「――――ッ!? これはっ……うおおおおおおおっ!?」
「ディストバーンっ……!?」
ディストバーンを挟み込むように左右から強力な磁力が放射されて、その巨体を包み込む。
下手をすると魔神柱級……少なくとも、
更に、万能の天才。レオナルド・ダ・ヴィンチの技術協力を得た磁力ウェブは、ディストバーンの出力でもそう簡単には破れない。
「ぐ、ぶーーーーっ!? 動けぬっ…………これは……っ……!」
「アレは奴でもそうそう破れない。時間は稼げる」
「あんなのが、あったんだ……」
『では……ナビゲートします、ルビーさん! プランC、開始です!』
「はいっ!」