ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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9.宮尾君とラジオと宿敵

 

 自分の実力不足を痛感した僕はこれまで以上に調教に真剣に取り組んだ。

 とはいえ調教量のコントロールは羽田さんたちが行うものだから、絶対量は変えられない……と思っていたらなんか増えた。ついでにトレーニング方法もちょっと変わった。

 今までは筋肉にくる感じのトレーニングが多かったけど、今はどちらかと言えば心臓や肺にくる感じのトレーニングというか。ガーッと走るんじゃなくて、タッタカタッタカとペース配分を意識する感じだ。

 なんで調教内容が変わったのかは謎だが、もっと調教を積みたかった僕としてはありがたい限りだった。

 調教を終えた後はこれまで以上に羽田さんが僕の体に異常がないのかを確認しているけど、今のところ全く問題はない。

 

 そうして毎日ヘトヘトになるまでたっぷりトレーニングをした後のご飯はとてもおいしい。うまうま。馬だけに! (激馬ギャグ)

 でも飼い葉だけってのは物足りないなぁ~? もうちょっとこう、変化をだね。具体的には甘味とかくれてもいいのよ。

 宮尾君どっか行っちゃったけど、果物持ってきてくれたりしないかな。

 なんて思ってたら宮尾君が戻ってきた。しかも何か持っているぞ……ん、おお! 灰色で四角いアレは! 

 

「ハヤテー、ラジオ聞かせたるっすよー」

 

 待ってました! フゥゥウウ↑↑

 宮尾君マジ神ですわ! 

 ……ンっうん。失礼。ちょっとテンション上がりすぎた。

 でもそれも仕方ないことなんだよ。

 元人間、しかも娯楽に溢れた環境に慣れ親しんでいる現代日本人の頭脳が入っている僕にとって、馬の生活というのはものすごくヒマなのだ。

 かといって馬房の中を足でかいたり、身体を左右に揺らしたりして遊ぶのは馬の健康的に良くないことらしく、やると注意される。結果、僕は馬房の中でボーっと瞑想モドキをして過ごすしかない。暇つぶしのためにご飯はすごくゆっくり、少ーしずつ食べることを覚えたほどである。

 ヒマに押しつぶされそうな僕を救ったのが、宮尾君をはじめとする厩務員の人たちが聞くラジオだ。

 元はと言えば、宮尾君たちが馬のことを放って厩舎内で競馬のラジオを聞いていたのが事の発端だった。

 馬房から顔を出して宮尾君の手元のラジオをじーっと見ていたら、ラジオに興味があることをわかってくれたらしく、以来宮尾君は度々こうしてラジオを聞かせてくれる。

 最近は他の厩務員たちも集まって一緒にレースの実況を聞いたりもすることも増えた。

 

「これからお前と同期のジュニア王者を決めるレースがあるんすよ。オーナーの意向でお前は回避したけど、これから先、ここに出たやつらはきっとお前と闘うことになるぞ~」

 

 と言いつつ宮尾君がラジオの電源を付けてチャンネルを合わせる。

 ジュニア王者決定戦と言えば朝日杯……ええと、フューチャリーステークスだっけ? ちょっと違った気がする。でもなんかそんな感じの名前のレースだったはず。12月前半にやる数少ないジュニアGⅠタイトルだ。

 というか僕、その朝日杯フューなんちゃらは回避したんだ。初耳。

 宮尾君はいつものようにラジオの横に新聞を置き、今回のレースの出走馬が記載されてるところを開いた。

 ラジオからは出走馬の紹介の音声が流れている。

 

「今日俺が注目してるのはマチカネタンホイザ。ほら、お前が前のレースでちょっと見てた馬な。あのあと府中3歳ステークスに出て勝ったんすよ。初戦の勝ち馬といい、ハヤテには相馬眼があるんじゃないかと思ってな」

 

 ふむふむ、マチタンが出てるのか。

 というかなに? 僕がいちょうステークス出た後、僕が次のレースで走るまでにマチタンはレースに2度出ていることになるのか。わぁお、ハードスケジュール。いや、そうでもないか? いちょうステークスからもう1か月くらいたってるし、あと昔は割とレースにいっぱい出すのが普通だったとも聞くし。うろ覚えだけどオグリキャップなんかはウマ娘でも再現できない超過密ローテでレースに出てたんだよな。

 

「最終的には3番人気か。まぁそこそこかな。1番人気は変わらずミホノブルボン──」

「ヒヒーン!? (ブルボンだって!?)」

「うぉっ、どうした!?」

 

 宮尾君が僕の嘶きに驚いて、そしてすぐに馬房の中の僕を見て異常がないかを確認している。

 対する僕といえば心臓バックバクで鼻息も荒くなっている。

 ミホノブルボン。無敗二冠馬になる馬。そして僕が倒すべき宿敵。

 そうか、僕が回避してしまったレースに出てるのか。出来れば早めに彼我の実力差も把握しておきたかったのだけど。

 いや、実力差がどうとか、そんなことは関係ないか。僕は僕のベストを尽くせばよいのだ。

 

「どうしたんだ急に興奮しだして……ん? まさか新馬戦と同じ……いや、考えすぎか」

 

 

 その数十分後、ミホノブルボンはGⅠ馬となった。

 僕はそのミホノブルボンに、勝たねばならない。

 




朝日杯フューチュリティステークスって言いづらい、言いづらくない?
なお1991年当時の名称は朝日杯3歳ステークスの模様。言いやすい。

投稿直前に内容確認してたんですけど、中央の厩務員が中央の馬券買うのは違法みたい?
慌てて宮尾君が馬券を買ってたという描写を消しました。危うく宮尾君を犯罪者にしてしまうところだった……
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