……実況難しい。
『阪神レース場、本日のメインレース、芝2000mラジオたんぱ杯3歳ステークスです。
改築されたばかりの阪神レース場では、これが今年最後の重賞競走となります。
3歳牝馬レースの一角を担ってきました本競争ですが、今年より3歳戦線が大きく改訂されて本競争は牡馬・騙馬限定戦となり、距離も3歳馬戦では数少ない2000mとなりました。
新生ラジオたんぱ杯の王者に輝くのはどの馬になるでしょうか。
それでは出走馬の紹介です──』
──・──・──
ミホノブルボンを倒す決意を新たにしてから2週間ほど。
僕の中距離初挑戦の日がやって来た。
ラジオたんぱ杯。周りの話を聞く限り、GⅢの重賞らしい。
でも、ウマ娘でこの時期にそんな名前のレースあったっけ……? この時期の中距離重賞と言えばホープフルステークスしか思いつかない。でもあれはGⅠだったはず。うーん、よくわからん。
人の出も、前走のいちょうステークスの方が多かった気がする。本当に今日のレースは重賞なのだろうか? なんちゃって重賞だったりしない?
それはさておき、今回も中々手強そうな雰囲気を感じさせる面々が集まっている。
芝2000mに挑む馬たちだけあって、来年のクラシック三冠を見据えているのだろう。
「ぶひっ、ぶるるぅ(ウマ娘になってる馬は……いなさそうだな)」
「ほれ、ハヤテ、止まらない」
「ひん(引っ張らないで)」
パドックで馬のゼッケンに書かれたお名前を何時ものごとく確認していたのだが、宮尾君に手綱を引っ張られた。それ急に引張られると案外痛いのよ?
まぁいいや、名前は一通り確認できた。今日はウマ娘になっている馬はいないらしい。
それなら楽勝──なんて思わないし、もう思えない。
ウマ娘になっている馬(=僕が知っている馬)なんて、本当にごくわずかなのだ。僕がまだまだ知らない強者がいるかもしれないのに、油断なんてできるはずがなかった。
油断していると足元をすくわれてしまう。前世でそのことは嫌と言うほどによくわかっていたはずなのに慢心してしまうとは。全くもって情けない。
前世の史実を変える覚悟を持つのなら、まず僕自身が前世から変わらなければならなかったのだ。
もう後悔しない様に。
僕は全力を尽くそう。
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『各馬ゲートに収まって。スタートしました。ややばらついたスタートになりました。
真っ先に飛び出たのは5番キザノハヤテ、ですが外から10番ナリタヒーローが出鞭を使って先頭に立ちます』
『最初のコーナーに入っていきます、ナリタヒーロー。
およそ2馬身離れて二番手争いは5番キザノハヤテに7番ハヤノキックと12番トキオレジェンド。
また2馬身程離れて9番ツルマルタカオー、その外13番スタントマン。
距離を置かずに内に1番フローリスエリート。続いて2番アラシと、3番ヤマフエスパシオンも追走。
第2コーナーに入っていきます。
一番人気の8番ノーザンコンダクトはこの位置。やや後方に位置取っています。
さらに1馬身離れて、5番ラガーサイクロンに6番マロンデューク。
最後尾は11番マイネルキャプテンとなっています』
『13頭の若駒が向こう正面を駆けて行きます。先頭から最後方までは10馬身程。
先頭は依然ナリタヒーロー。これにキザノハヤテが並ぼうかというところ。
今1000mを通過しました。通過タイムは……64秒ほどです。ややゆったりとしたレース展開となっています。
先頭2頭に続くのはトキオレジェンド。その後ろハヤノキック。さらにツルマルタカオーがここに並んでくる。その後ろはスタントマンを先頭に団子状態です』
『第3コーナーを回っていきます。先頭は入れ替わってキザノハヤテ。っと、ここでスタントマンが捲って上がってきた、先行集団にとりついていく。さらにノーザンコンダクトも大きく外を回って位置取りを上げてきた!
最終コーナーに入って動きが激しくなってまいりました!
先頭は未だキザノハヤテ。2馬身差のナリタヒーローは少し苦しいか! 早めに仕掛けたスタントマンが並んできている! さらには外からノーザンコンダクトがぐんぐん上がってくる!』
『残るは最終直線、各馬鞭が入る! っキザノハヤテ! ここで鞭が入ったキザノハヤテ急加速! 後ろを突き放しにかかる! スタントマン差が詰まらない! ノーザンコンダクト食らいつくがこれは届くのか!?
キザノハヤテ先頭! 追いかけるノーザンコンダクト! 寄せ付けない! むしろじりじり差が広がっていく!! 坂でも止まらないっ!
突き抜けた!! キザノハヤテ1着!!』
『隠し持った末脚で見事逃げ切りましたキザノハヤテ。4連勝で来年のクラシックへ向け、その強さを見せつけました。
2着はノーザンコンダクト、3着はスタントマンとなりました』
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「勝てちまった……」
最終直線、鞭が入った途端にキザノハヤテはトップスピードに乗り、一気にゴールまで駆け抜けた。
羽田調教師は恐ろしいものを見たかのように固まっていた。
元はと言えば馬主の意向のため、渋々出走した中距離戦だった。
下手に走って消耗させてもいけないと考え、騎手の澤山にも勝ち負けにはこだわらず馬を第一にするように、と言った程だ。
最低限戦えるようにはしてきたつもりだったが、元々羽田は中距離以上でまともに戦える馬を持ったことがなかったので、今回も順当に負けてしまうだろうと思っていた。
しかし今になって思えば、中距離用にトレーニングをしても、ハヤテがへばっている様子はあまり見られなかった。タイムだって良いものが出ていた。ただ、見て見ぬふりというか、それよりも馬を故障させてしまわないかを恐れて、情報を正しく認識できていなかったのだ。
今までがダメだったのだからと、羽田はキザノハヤテの才能を自分でも意識できないうちに見限っていた。
だがこの勝ちっぷりはどうだ。あの末脚は格が違う。逃げ切りというよりも、もはや逃げて差すといった具合だ。
羽田の脳内で「クラシック三冠だ」と言った滝澤の言葉が思い出される。
「ハハッ、ひょっとすると……ひょっとするかもしれないか?」
2000mの重賞を勝った。ハヤテが短距離で収まる器ではないことは明らかだ。
となれば、これまで考えていた出走予定を一から考え直す必要がある。
「こりゃ困ったな」
言葉とは裏腹に、羽田は笑っていた。
1991年12月21日11R ラジオたんぱ杯3歳ステークス 阪神芝右2000m 晴、良馬場 13頭立て
1着 キザノハヤテ 2:05.5
ラジオたんぱ杯3歳ステークスレース後コメント
1着キザノハヤテ(澤山騎手・美浦・羽田厩舎)
久々の重賞勝利でまずはハヤテに、そしてオーナーや厩舎の皆、応援してくださったファンの方々にお礼を言いたいです。ありがとうございました。
ハヤテは想像以上に強い走りをしてくれました。今回は最後まで気を緩めずに走りきれたので、精神的にも成長してきたのかなと感じています。
まだまだ底知れなさを感じる馬なので、これからも期待が持てると思います。
ジュニア編、完!