ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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90年代当時の調教タイムがわからなかったので途中の記事はかなり適当


13.キザノハヤテ、ライスシャワーに惚れている説

「どう判断したものか……」

 

 羽田は厩舎に備え付けられた事務室で、先日のライスシャワーとの併せ馬の録画を見ながら悩んでいた。

 騎手の澤山からは「ハヤテは長い距離の方が力を発揮しやすいかもしれない」と報告を受けた。ここにきてハヤテの中長距離適性は疑いようがないが、今更ながら皐月賞のステップレースにスプリングステークスの瞬発力勝負にかけたのは見当違いだったかもしれないな、と少し後悔を覚える羽田であった。

 もう少し早く放牧を切り上げるようにすれば無理なく弥生に間に合わせられたのだが……まぁ過ぎたことを後悔しても遅い。

 なんにせよそれは羽田が悩んでいることの本題ではない。

 では何を悩んでいるのかと言えば。

 

「結局、ライスシャワーとのブッキングを回避するべきか否かがわからないんだよな」

 

 これに尽きる。

 キザノハヤテは今現在、羽田厩舎唯一の現役重賞馬であり、なおかつ厩舎初のGⅠタイトルに手が届くかもしれない、期待の馬なのだ。

 わずかでも勝てる確率が上がるように尽力したい。

 そうして不安点を考えていったとき、ライスシャワーと同じレースを走らせると新馬戦の時のように走る気をなくしてしまう恐れがあるのではないか、と考えた。

 トレセン内ですれ違った時の反応を見れば、キザノハヤテにとってライスシャワーが何かしら特別な相手であることがわかる。新馬戦敗北の理由はライスシャワーが関係している可能性が高い。

 

 同世代、そして共に牡馬である以上、共に勝ち進めばブッキングする恐れは非常に高い。高いが、それでも何とか回避できることもあるだろう。

 そうするべきなのか別に気にしなくてもよいのか、その判断材料を欲して併せ馬をしてもらったものの、依然興奮はするし、でも新馬戦とは逆に勝ててしまった。

 同じような状況で全く違う結果。

 羽田には何が何だか分からなくなってしまった。これならいっそ併せ馬の時も全く走る気をなくしてもらった方が単純明快で悩む必要もなかった。

 いやまぁ、そうなったらそうなったで困るのだが。

 うんうんと唸っていると、事務室の扉がノックされ、キザノハヤテの担当厩務員の宮尾が入ってくる。

 

「お疲れさまっす。テキ、ハヤテのことなんすけど」

「どうかしたのか?」

「この前ライスシャワーとのブッキングを心配してたじゃないっすか。それを俺なりに考えまして」

「ほう?」

 

 この前と言わず現在進行形で悩んでいた。

 馬と接する時間が多い担当厩務員からの意見となれば大いに参考にできるだろう。

 羽田は居住まいを正した。

 

「で、宮尾君はどう考えたんだ?」

「やっぱハヤテはライスシャワーに惚れてるんすよ」

「……は?」

 

 羽田の頭の中に「何言ってんだコイツ」との言葉が浮かんだ。

 そんな羽田には目もくれず、宮尾は言葉を続ける。

 

「新馬戦の時に一目惚れして、で、併せ馬の時と、その前に会った時っすか、そこは好きになってもらおうと自分をアピールしてたんすよ」

「いや、牡馬だぞ? ライスシャワー号は。ハヤテが本当にソッチだってことか? もし種牡馬になったら大問題じゃないか」

「そうかもしれないっすけど、ちょっと思ったんすよね。ライスシャワーって少し小柄だから、牝馬だと見間違えたのかもって」

「いやいやいや。馬同士、あれだけ近寄ればオスメスの違いくらいわかるんじゃないか?」

「それでもなお、お近づきになりたいくらいライスシャワーがハヤテの好みなんじゃないすかね」

「えぇ……」

 

 謎の持論を展開していく宮尾。

 羽田は全くもってその理屈を理解できなかったが、しかし宮尾の意見を否定せずに受け止めることにした。ハヤテは人間ではなく馬。自分の理解できない感情や考えを持っていたとしても、何ら不思議ではないのだ。

 

「はぁ……まぁわかった。それで? 結局、宮尾君としてはブッキングは避けた方がいいと思うか?」

「むしろブッキングさせた方が良いんじゃないっすかね。澤山騎手とも話したんすけど、ライスシャワーを意識させてやればハヤテはカッコいいところを見せようとやる気出すかもしれないなって」

「ううむ……まぁやる気を出すかどうかは兎も角、ブッキングしても問題ないという宮尾君を信じよう」

 

 信じるという言葉とは裏腹に羽田はまだ内心半信半疑といった心持ちだった。なので実際はただの問題の先送りだ。

 ついでに、もし種牡馬になったときに本当にソッチ(ホモォ…)だと発覚したらどうしようという不安も先送りにしておく。それについては競争能力に影響はない……はずなので。

 

「そういえば宮尾君。わかってるとは思うが明日は身なりを整えておけよ」

「へ?」

 

 羽田が話題を変えると、宮尾は素っ頓狂な声を上げた。

 どうやら明日の予定を忘れているらしい。

 

「おいおい、取材だよ、取材。今度ハヤテの取材で宮尾君と澤山君も同席させるって言っただろう」

「……あぁっ!!」

「完全に忘れてたなお前」

「いひひ、すみません……」

「まったく」

 

 取材の申し込みがあった時は、厩舎の皆で驚いたものだ。

 なんせ羽田厩舎に直接取材が入るのなんて数年前に重賞を初制覇した時以来なのだから。ハヤテがラジオたんぱ杯3歳ステークスを勝つまでは、重賞勝利はそれが唯一で、それ以降低迷期をむかえたため長らく取材とは縁遠い厩舎だった。なので取材の依頼も最初はいたずら電話かと思ったものだ。

 今更ながら羽田はハヤテがこの世代を代表する一頭になりつつあることに実感が伴ってきていた。

 

「ハヤテが活躍すればこれからはバンバン取材が入ってくるようになるぞ。今のうちに慣れとけよ」

「なんか感慨深いっすねぇ」

「あぁ。凄い馬に巡り合わせてもらったもんだ。競馬の神様に感謝だな」

 

 

 

【スプリングS】キザノハヤテ、クラシックに向け気合十分

 昨年のラジオたんぱ杯3歳ステークスを勝利したキザノハヤテ(牡4、美浦・羽田厩舎)がスプリングステークス前の追い切りを実施した。オープン馬のカタフラクト(牡8、同)と併せ馬を行い、強目に追って5F68.4、ラスト1F11.5秒と好タイムをマーク。年上相手に2馬身差をつける快走だった。

 羽田調教師は「ハヤテはテンの良さと末脚のキレを両立する馬。クラシックに向けて気合も高まってきている」と自信をのぞかせる。

 キザノハヤテが昨年敗れたのは最初の新馬戦のみ。以降は「レースがどんなものか理解した(羽田調教師談)」走りで重賞1勝を含む4連勝をあげている。レーススタイルは羽田調教師も語ったスタートの有利を活かす先行押し切り型を得意とする。

 また、騎手の指示にも素早く反応する操縦性の良さも持つ。主戦騎手の澤山は「自分の手足のように動いてくれるからすごく乗り心地が良い。風を切る感覚がたまらない」と笑顔。クラシックの意気込みについては「行けるところまで」と不敵な答えを返した。

 担当厩務員の宮尾に普段の様子を聞くと「すごく大人しい。大抵の事には動じない悠然とした感じがある」とのこと。好物は梨を筆頭に甘い果物に目がない。他にもラジオを聞くのが好きで、ラジオを流し始めると動きを止めて聞き入るという。「聞き分けもいいですし、手のかからない利口な馬。あとはデカいレースで勝ってくれれば」そう語った宮尾厩務員の横で、任せろと言わんばかりにキザノハヤテが鼻息で応えた。

 今年のクラシック戦線はこのキザノハヤテと、昨年最優秀3歳牡馬に選ばれたミホノブルボンの2強であるとの見方が強い。

 その2頭が本番を前にスプリングステークスで激突する。

 今年の主役にいち早く名乗り上げるのは誰か。注目の一戦だ。

 

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

 中山競馬場からこんにちは、久々のレースでワクワクが止まらないキザノハヤテです。

 しかもそのレースがなんと! 彼のスプリングステークスですよ! 

 このスプリングステークスには史実において長距離のライス、中距離のブルボン、短距離のサクラバクシンオーと得意距離の違う馬が一堂に会したレースだ。

 その3頭に加えマチタンも出走していたので、ウマ娘実装組の馬が4頭もいるという点も僕としては見逃せない。

 そして僕としては遂にブルボンと直接対決! 

 これまでしっかりとトレーニングしてきたんだ、余裕かませられるほどではないだろうけど、それでも勝って見せる! 今朝もぐっすり眠れて体調も気合も絶好調! 準備万端! 

 この小雨降る曇天のように、ブルボンを曇らせてやるぞ! 

 

 さて、パドックでいつもの出走馬の確認だ。ブルボンはどこかなーっ、と……

 

 

 ……

 

 

 は? 

 

 

 

 なんだよ、アレ。

 

 

 

 僕を含めた15頭の中で、1頭だけ『化け物』がいる。

 一目でわかる隔絶した実力差。

 ゼッケンに書かれた名前は、

 

 

 

 

 ミホノブルボン。

 

 

 

 

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