「なんだあの負け方は! ふざけてるのか!?」
「申し訳ありません。あの若いのが出遅れたばっかりに……」
「全くだ! いいか、京都新聞杯での敗因は、先頭を取られてしまったことだ。アイツは逃げてこそなんだからな。だから、菊花賞では、絶っっっ対に、ミホノブルボンに先頭を譲らせるな! 増永にもよく伝えておけ!」
「えぇ、よくよく、伝えておきます」
「菊花賞はこいつが逃げる。きっとブルボンと先頭を取り合うやろな。ハイペースになることを考えた方がええ」
「そうですね。ならダービーと同じく、後方に構えて差し切りを目指す感じで?」
「いや、ブルボンはただの逃げ馬やない。持たせてくるやろ。とすりゃあ、ダービーん時みたいな後方からの競馬じゃ間に合わんかもしれん。だから岡谷さん、次走のカシオペアステークスで、アイツに番手を追走する競馬を今一度勉強さしたってほしい」
「なるほど……わかりました」
「今年ブルボンに勝てるとしたら菊花しかないんや。ここはなんとしても勝つで」
「ブルボンはどうやった?」
「勝てましたけど、正直なところ、最後はもう一杯一杯でした。あと800m、距離が延びるとなると」
「……あの馬が怖いな」
「それだけじゃないですよ、皐月の2着馬も菊花賞では戻ってきます……それでも、僕たちは天皇賞へは行かない。菊の舞台へ行くんでしょう?」
「あぁ。これは私たちの人間の欲かな。ブルボンは走りたくないかもしれんが。生島君、頼んだ」
「はい」
「もし逃げ馬のキョウエイボーガンが出てくれれば、ライスシャワーでミホノブルボンを負かすことが出来ると思います」
「えっ、あ、そうなんですか?」
「見たところ長距離はライスシャワーの方が走れますから。ミホノブルボンはスタミナが持たない。他に逃げ馬がいるとなればなおさら。ですから菊花賞ではご期待ください」
「それはそれは……主人にお伝えしても?」
「えぇはい。それでは俺はこれで」
「はい、またよろしくお願いいたします。……珍しいわね、松場さんがあんな風に喋るの」
「了解しました。菊花も先行策で……ふぅー、ははっ、もう今から緊張しちゃってます」
「おいおい、この前の自信はどうしたんだ?」
「いえ、ハヤテなら勝てると思えばこそ、これで勝てなかったら俺のせいだなと考えてしまって、どうにも」
「ならばこそ、ハヤテを信じろ。大丈夫だ。澤山君はハヤテに乗ってさえいればいい」
「それはちょっとひどくありません?」
「はっはっは。もちろん澤山君の馬への負担が少ない騎乗あってのハヤテの走りだと、その点は信頼しているよ。でもまぁ滝澤オーナーもよく言っているが、ハヤテの好きなように走らせてやれよ。レースがどんなものなのか、アイツは理解している節がある。もし早くに行く気を見せたら、まぁよっぽどじゃなければ行かせてやれ」
「はい、わかりました」
菊花賞特集目次
・無敗三冠に王手! ミホノブルボン……P.11
・想像を超えていけ! キザノハヤテ……P.12
・不気味に頂点を狙うライスシャワー……P.13
・ノーザンテーストの大器マチカネタンホイザ……P.13
……
・母を失ったキョウエイボーガン……P.14
想像を超えていけ! キザノハヤテ
皐月賞の雪辱を晴らすべく、満を持してキザノハヤテが菊花賞に出走する。
今ではその実力は疑いようもない。前評判ではミホノブルボンとキザノハヤテが人気を二分している。
しかし、初戦の新馬戦では7番人気であったことをご存じだろうか?
競馬記事を10年以上書き続け、当日新潟競馬場に居合わせていたはずの筆者でさえ、初戦では全くのノーマークだった。
そう、キザノハヤテは当初から注目されていたわけではないのだ。
そもそも、血統からして2流だった。
父サクラシンボリは、重賞勝利はGⅢエプソムカップのみ。ダービー馬サクラショウリの全弟であることを見込まれ、種馬入りした背景がある。が、産駒成績としては1992年9月現在、キザノハヤテ以外は条件馬が精々。
母側も同様だ。母ヒバリコチは7戦して未勝利。兄弟・伯叔父母にも勝利馬が見当たらず、2代母で漸く未勝利戦勝利、その兄弟で条件戦勝利馬が出てくる程度。その上の世代も際立った成績は残していない。
さらに、初戦にはそれ以外の不安要素も重なった。
調教タイムこそ当時から光るものはあったものの、パドックでは大きく嘶いて入れ込むわ、発汗もすごいわ、馬体も貧相に見えて、「この馬はダメかな」なんて思わざるを得なかったのだ。
その不安を的中させるがごとく、初戦は8着に沈んだ。
しかし最後尾から3頭抜いた最後の末脚は目を見張るものがあった。
走る気にさえなってくれれば、大物になるのでは。そんな筆者の予感はすぐに証明されることになる。
新馬戦を連闘するとあっさり勝ち上がり、ききょうS、いちょうS、そして2000m重賞のラジオたんぱ杯3歳Sまで4連勝。そして皐月賞では写真判定に持ち込む大接戦を演じてみせた。
ミホノブルボンに一番近い馬は、名実ともにこのキザノハヤテで間違いないだろう。
正直、不安要素を上げればきりがない。両親がともに内国産馬であること、西高東低が嘆かれる関東調教馬であること、調教師・騎手ともに中長距離の実績に乏しいことも懸念点だ。夏を経てもブルボンに比べるとトモの張りはなんとなく頼りない。ようやく葦毛らしく白い毛が混じり始めた体毛を見ると、一昔前にはよく言われていた『葦毛は走らない』との言葉も思い起こされる。
しかしそんな想像を超えてくれそうな『何か』が、この馬にはある。
菊花賞で見事下剋上を果たし、新たな時代の潮流となれるか。
【小物馬主の独り言】世紀の一戦、菊花賞!
地方の小物馬主が中央競馬を好き勝手批評するこのコーナー、今回の話題は今週末の菊花賞!
もしかしたら俺たちは歴史の目撃者になるかもしれない。もうドキドキしちゃうね。
さて、そんな菊花賞で俺がイチオシに挙げるのは……
ライスシャワーだ!
いやそこはミホノブルボンじゃないんかーいってな。
俺としてもそうしたいのはやまやまだが、やっぱり血統的に厳しいと思う。
その点、ライスシャワーの父リアルシャダイは、昨年と今年の天皇賞(春)で3着に入るステイヤーを排出しているから安定感がある。母父マルゼンスキーの産駒には菊花賞レコードを保持しているホリスキーもいるから、血統面での長距離適性は抜群と言えるだろう。
あと、関東住まいとしてはやっぱり関東馬に勝ってほしいなぁと……
おいおい関東馬ならキザノハヤテはどうなんだって話になるが、正直ここはかなーり迷いどころ。
ただ、二冠馬を子に持つダービー馬の全弟が父っていっても、結局父親のサクラシンボリ自体の勝鞍は2000mだから、3000mまで行くと流石にどうかなって思うんだよなぁ。
そんなわけで俺のイチオシ馬はライスシャワーだ!
僕の不完全燃焼な前哨戦の翌週。
ミホノブルボンは京都新聞杯を制した。
ブルボンの二冠を奪えず、そして無敗も崩せなかった。
無敗の二冠馬は、人々の期待を一身に背負って、菊の舞台へ向かう。
史実通りに行けば、菊花賞はライスが勝つ。
そしてライスは祝福されない。
ブルボンの無敗三冠を阻んだ憎き敵として、人々に、競馬史に、記憶されてしまう。
そうしないために取れる手段は……もう一つしかない。
出来ればライスの勝鞍を奪うことなんてしたくなかった。でもどうかライス、許してくれ。汚れ役を請け負うのは僕でいい。
菊花賞──僕が、勝つ。
それぞれの思いが交錯する菊花賞が、やってくる。
ある程度史実エピソードを織り交ぜたつもり。
実際の人物像を知らないので性格が違う人がいるかもだけど、そこは大目に見て。