ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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24.菊花賞で勝つためにできること:菊花賞2

 

 皐月賞でわかった僕の長所。それはミホノブルボンを上回るスタミナだった。

 思い出せば、これまで僕はレース中に自分のスタミナの限界というものを感じたことがない。

 

 対して、速さの限界を感じたことはある。

 

 新馬戦。ゴールまでの距離が短かったのもあるが、最後方から3頭抜くのが限界だった。

 いちょうステークス。女の子と競り合うのが精いっぱいだった。

 スプリングステークス。重馬場の中ブルボンに追いつけなかった。

 皐月賞。なんとかブルボンに追いつくことはできたものの、競り負けた。

 つい最近の京都大賞典でだって、結局あと少しで届かなかったではないか。

 

 これまで負けたり苦戦したりしたのは、全部スピードの限界だった。実はそのいずれのレースであっても、僕はまだ走れるスタミナが残されていた。

 羽田さんや澤山さんは僕の末脚が良いというが、本当にそうだろうか? 

 2,3番手という好位に付けて最後に差し切るためには、他の馬を上回る速度を出さないと勝てないのに、僕はその速さへの自信が揺らいでいた。

 

 代わりに、スタミナに対する信頼は深まっていた。

 怪我の影響でプールにばかり行っていたからだろうか? 秋になってからは走って息が苦しくなることが少なくなった。

 皐月賞前のトレーニングを倍以上こなしてもへっちゃらだった。

 速さはもう上がらないが、スタミナならまだ上がるという、確かな実感があった。

 

 今日のパドック。馬の本能から見たライス、それと意外にもマチタンも僕以上に、いや正直、ミホノブルボン以上に強く見えた。

 僕のこの馬の本能は、馬の強さ、つまり速さがなんとなくわかるというものだと思っている。

 その馬が最高速度を出せたとき、どれだけ速いかという目安。

 僕は今日、ライスとマチタンをパドックで見て、スプリングステークスや皐月賞でミホノブルボンに感じたような速さの『差』を感じてしまった。

 

 スピードで負けている以上、ライスやマチタンと同じポジションにいたら、確実に負ける。スパートの速さが足りずに負ける。スピード勝負では勝てないのだ。

 菊花賞では、確か2頭とも先行のポジショニングをしていたはずだ。マチタンはうろ覚えだが、ライスは間違いなくそうだった。

 澤山さんたちの作戦を取れば、ブルボンには勝てるかもしれないけど、だがしかし、ライスには絶対に勝てない。

 ライスにだけは、負けちゃ駄目だ。そうなったら、結局史実から何も変わらない。

 

 だから、僕に残された手段はこれしかなかった。

 

 

「飛ばしすぎだ! 落ち着いて……クソ、『暴走』か! なんでっ!?」

(澤山さん、このまま『逃げ』るぞ! スピードじゃなく、スタミナ勝負に持ちこませる!)

 

 よりによってライス相手にスタミナ勝負を仕掛けなくてはならない。史実を知っているのになんでそんな選択をしてしまったのか、(バカ)を笑う自分もいる。しかし僕はもう覚悟を決めた。

 澤山さんは一度は手綱を引いたものの、僕が走る気を収めないことを早々に悟ったようだった。

 淀の坂もなんのその。

 他馬を置き去りにして、僕は先頭を駆ける。

 しかし内からから僕に並ぼうとしてくる馬がいる。

 ブルボン……ではないな。ゼッケンにはキョウエイボーガンと書かれている。そのボーガンの上に乗る騎手が狂気に取りつかれたようにボーガンを鞭で叩いている。

 僕に並び、そして追い抜かそうとしている。

 凄いな、僕これでも全力の8割以上のペースで走ってるんだけど……その僕を上回る速度で追いついてくるのだから、きっと向こうはほぼ全速力だ。

 流石に彼と張り合い続けるのは危険、かもしれない。もう3コーナーに入ろうというところなので、ここから追い抜かすのはちょっと堪えそうだし。先を譲って後ろからプレッシャーを掛けたり、風よけにしたりしたほうが良さそうだ。

 

 僕はそう判断して下り坂を脱力しながら下り、ボーガンに先頭を譲った。

 そして4コーナーに向けて内側を確保するべく、ボーガンのすぐ後ろへと徐々に移動する。

 その下り坂を下り終えた頃には、澤山さんも覚悟を決めていた。

 

「好きなように走らせろ、か。いやでも流石にこれはなんて言われるか……」

(謝るときは僕も謝るからさ、すまんな!)

「ここから位置取りを下げるのはハヤテの機嫌を損ねそうだからダメ、そんなことをすれば惨敗間違いなしだ。となると前残りで勝つしかない。それを目指すとして、出来ることは……向こう正面で息を入れさせるか。坂の前では仕掛けづらいだろうし。息を入れさせるくらいなら機嫌を損ねないと思うし。幸いボーガンが前に行ったから、これをブルボンに見立てて……いやでも、スパートを出す位置は早めた方が良いのか? いやむしろギリギリまで体力を温存……?」

 

 事前に組み立てていた作戦が僕のせいで全ておじゃんになってしまった澤山さんは必死にここからとれる作戦を考えているようだ。でも今回は僕が全部やるつもりだから難しく考えなくてもええんやで。

 澤山さんたちのことは信頼しているけど、でもこの菊花賞だけは、どうか僕のわがままを通させてほしい。前走みたいな不完全燃焼はごめんだ。

 観客席前の直線を駆けて行く。

 観客席からは歓声……と、かなりのブーイングや怒号が聞こえる。

 そりゃあブルボンに勝ってほしい人たちからしたら、ブーイングでも投げたくなるよね。

 予想はしてたけど、ちょっと心にダメージが来る。

 そして同時に、絶対にこの矛先をライスに向けさせてはならないとの意思が強固になる。

 

 ボーガンに続いてコーナーへ入っていく。

 そこでチラリと後ろを伺うが、ブルボンとの距離が思ったよりも離れていない。最初にかっ飛ばしたから5馬身以上は離れていると思っていたけど、2、3馬身くらいとそれほど距離がないような状態だった。

 やっぱり先頭を取られてかかっているらしい。

 うん、ブルボンには勝てる、と思う。

 問題は──

 ブルボンのだいぶ後ろ、馬群に先んじるようにして走る黒い影。

 見たのは一瞬だけだったが、視線があったような気がしてゾクッとする。

 狙われている。

 ジワリと焦燥感が募った。

 

 

 ──・──・──

 

 

『最初の1000mのタイムは……58秒ほどだ! 1分を切っている! 

 3000mの菊花賞としては破滅的なハイペース、先頭集団の3頭は大丈夫か』

 

『スタンド前を駆け抜けていきました、現在キョウエイボーガンが先頭、その後ろピッタリつけてキザノハヤテが追走、2馬身差でミホノブルボン3番手』

 

『その後ろは5から6馬身離れてメイショウセントロ、そしてまた4馬身位離れましてマチカネタンホイザ、さらにはライスシャワーがまた4馬身ほど離れて現在6番手であります。

 続けて──』

 




明日の更新で決着。
次回、誰も知らない明日へ進め
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