ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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この話の前半いる?
迷ったけど設定使わないのもアレなので



27.沈む気持ち、軋む身体

 

 これは、夢、か。

 

 明晰夢だ。

 俯瞰視点というか、宙から眺めるような形で、人間だったころの僕を眺めている。

 久しぶりに見る人間の僕はひどく意思が希薄だった。

 仕事に対する情熱はなく、ただ毎日を浪費するだけの投げやりな人生。ヘラヘラとその場を取り繕うばかりで、その内心はいつだって空虚で、常に何かに対する罪悪感を持っていた。

 そんな卑屈な人間だったから、交友関係なんかもないに等しい。

 いったいいつからこんなふうに僕はなってしまったのか。

 

 

 場面が切り替わる。

 中学生の頃の僕だ。

 友人と共に試験勉強を頑張っている。

 でも楽しそうだ。あぁ、この頃はまだ情熱があった。

 唯一無二のその友人とは、一緒の高校を目指していた。

 僕は合格ラインぎりぎりの友人に勉強を教える立場で、彼がよくよく努力しているのを間近で見ていた。そんな友人を見ると、僕も頑張ろうって思えて、互いに切磋琢磨しあえる関係性だった。

 受験直前になれば友人も合格ラインより上の点数を取れるようになっていた。

 そこで僕は勉強詰めで疲れただろうと、友人を遊びに誘った。受験の一週間前に他のクラスメイトも交えてパーッと遊んだ。

 あの時は楽しかったなぁ、前世で一番輝かしい記憶で……一番なかったことにしたい記憶だ。

 

 

 場面が切り替わる。

 高校入試の結果発表の日。

 目指していた高校に、僕は受かって、友達は落ちた。

 

 一緒に見に行った合格発表の場で、僕は友達に声をかけられなかった。

 下手な慰めは傷つけてしまうような気がして。

 何より僕が受験前のあの大事な時期に遊びに誘ったせいで、油断してしまったせいで、友人が落ちてしまったんじゃないかと思うと、友人に責められるんじゃないかと怖くなった。

 友人と碌に言葉を交わさないまま帰宅して、母さんに自分が合格したこと、友人が落ちてしまったことを報告した。

 そしたら母さんはこう言ったんだ。

 

「あら、それは可哀そうにねぇ」

 

 僕はあんまり『可哀そう』って言葉、好きじゃない。無責任な同情を寄せる言葉で、ただの自己陶酔だ。

 それに友人はあんなに努力していたんだぞ? それこそ僕以上に。あの高校に行くべきだったのは、僕じゃなくて、あの友人の方がふさわしいと思えるほどに。

 それを、そんな、たった一言で、すませていいのかよ。

 僕は友人の受験結果を通して『努力が報われるとは限らない』という、当たり前の世の法則を悟った。

 あぁ、そうか。

 それで前世の僕は、真面目に生きるのが馬鹿らしくなったんだ。

 

 

 場面が切り替わる。

 レース場。

 芝生の上に、一頭の馬が倒れている。

 その傍にいるのは……おや、澤山さんじゃないか。必死に倒れている馬に呼びかけている。

 何寝ぼけてるんだか。さっさと起きろよ。

 見た感じ息はしてるんだし、死んでるわけじゃねぇだろ。

 だから澤山さん、泣きそうな顔をするんじゃないよ。

 そんなやつのことなんか忘れてしまうといい。代わりに僕が今度レースで1着をプレゼントしてやる。

 

 そう、菊花賞、その1着だ。

 ブルボンにもライスにもマチタンにも勝ってな! 

 これまでの努力の成果、見せてやるよ! 

 

 

 ……あれ、菊花賞ってもう走らなかったっけ? 

 

 

 

 

 

 

 嫌な夢だった。

 もう菊花賞を走ってから1ヶ月も経とうというのに。

 目を覚ました僕は辺りを見回して慣れ親しんだ羽田厩舎の馬房の中であることを確認した。

 思わずため息が漏れる。

 前世と状況は全然違う。そうわかってはいるのだけど。でも結局、頑張っても歴史は繰り返すんだな。

 努力は実らない。

 ライスはヒールになる。

 全身の鈍痛に現実を突きつけられた僕は、もう一度大きくため息を吐き出して気持ちを誤魔化した。

 

 

 僕は菊花賞で反則負けしてしまった。

 最終直線で、外側に大きく斜行していたらしい。全身全霊を尽くして走った結果、自分が気付かないうちに斜めに走っていたのだ。

 さらにレース後、詳しく調べてもらったところ骨が欠けてしまうほど脚を酷使していたようで。あわやレース中に骨折していたかもしれない状態だった。欠けた骨片を取り出す手術なんかもされる一大事となってしまった。

 復帰するとしても半年くらいの長い休養が必要らしい。

 今から半年と言うと……春の天皇賞はかなり厳しそうだ。

 

 菊の冠は2位入着のライスがとった。

 レース後、ほとんど歓声はなかったそうだ。まぁそりゃそうだよな。

 ブルボンの無敗三冠がなくなり、1着で入着した奴が明らかに反則負けで、そしてレース後にぶっ倒れたのだ。声が上がったとすれば悲鳴か落胆の声だろう。

 ライスを史実以上に微妙な立場に、他でもないこの僕が、させてしまった。

 一体、僕がしてきたことって何だったんだろうなぁ。

 

 僕は怪我の影響でトレーニングもあってないようなもので、馬房の中で独りむなしく過ごす時間が多いので、どうにもならないことを考えてしまう。

 まぁ怪我がなくても今はトレーニングはしたくないかな。

 努力したところで……って考えが出てきてしまう。燃え尽き症候群というか、無気力状態というか。

 

 あと、そのせいか何だかわからないけど、急に僕の毛並みに白い毛が目立つようになってきた。そう言えば僕って葦毛でしたっけ。

 ははっ、真っ白な灰のようになってしまった僕には相応しい色合いじゃないか……

 

「ハヤテ、曳き運動行くぞー」

 

 おや宮尾君。もう日課のリハビリの時間か。

 まぁ、もう起きてしまったことは変えられないからな。どうしようもない。

 今はただ、僕のケガを治すことに注力しよう……

 

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