ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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28.誓い

 

 宮尾君に曳き運動で連れられて行った先。

 そこにはなんと先客がいた。

 

「ひーん」

『へっ!?』

 

 黒鹿毛の小柄な馬。ライスだった。傍らには厩務員らしき人が手綱を握っている。

 菊花賞を終えてからライスと対面するのは初めてだ。

 

「ひーん」

 

 しかもどうやら僕の体調を気遣ってくれているようである。

 ライスに心配してもらえるとは……! 

 嬉しいような恥ずかしいような申し訳ないような。

 

「お前は相変わらずだな……ありがとうございます、わざわざ時間作ってもらっちゃって」

「テキたちも了承してますから。それで、その、そちらは大丈夫なんですか?」

「ま、ぼちぼちっすね。ライスシャワー号を見て元気出ると思うんで、大丈夫っすよ」

「えぇ? あ、じゃあもしかして、この前のアレって──」

 

 宮尾君と、ライスの担当厩務員の人だろうか? が話している。

 しかしそんな方に意識を割くことはできない。今、僕はライスとのお喋りで忙しいのである。

 

『ハイッ! 元気です! ご心配をおかけして申し訳ありませんでした!』

「ふるる」

『え、いや、嘘じゃないですよ? 毛色が変わったのは単純に体質ですし、ただ、ちょっとしばらく走れないというか』

「ぶふぅ」

『あ、まぁ確かに馬基準だとそうですよね。走れない=元気がないってことですよね。ハイ』

 

 おぉぉぉ、かつてないほどに会話が弾む。いや話題的に弾んでいるって言っていいのか? いや弾んでいる(確信)。

 これまでに2度併せ馬をする機会はあったけど、その時はほとんど言葉を交わさなかったし、レース前なんてみんな真剣そのもので会話をできるような雰囲気ではない。

 そんな薄い関わりだったのでライスからは特に意識されてないんだろうなと思ってたんだけど、これほどまでに心配されているとは。

 なんぞこれ、夢? 夢を見てるのだろうか? 

 あ、そうだ。菊花賞優勝のお祝いを言わねば。

 

『えっと、それで、あの、菊花賞優勝、おめでとうございマス……』

「……? ぶひぃん」

『え、でもレースの結果としては僕の負けなんですけd』

「ぶひひん、ぶるっるぅ!」

『ひえっアッハイそうですね! 仰る通りです! えーと僕のケガは半年後の夏、あの、とっても暑い時期とかになれば、なんとかなりそうです。あ、いや、その時期はデカいレースがないし、実際レースで戦うのは秋、えっと葉っぱが枯れる頃になってきてから、かも。あぁ、いやいや、併せ馬をすることがあるかもしれないから、それよりかは早いかも?』

「……」

『とにかく暑い時期を過ぎた後です!』

「ひん」

『ハイッ、また戦う時はよろしくです!』

 

 こんな僕とまた勝負をしたい、今度は負けないと言ってくれている。口調はメンチ切ってるヤンキーそのものみたいな感じだが。

 ライスに望まれている以上、この怪我は気合で治さねばなるまい。

 

「ハヤテー、いつまでも見つめあってないで運動するぞ、運動」

「ライス、そろそろ帰ろうか」

 

 は? 宮尾君テメェ僕とライスの時間を終わらせようってか? 

 宮尾君でもそれは流石に許せない。

 嫌だっ、僕はもっとライスとお喋りしたいっ! 

 ライスもそう思うd……アレ!? えっ、行っちゃうの!? 

 ライスは素直に厩務員さんにひかれて帰路へ向かってしまう。

 追いかけたいところだが宮尾君に引っ張られ、そして未だに続く全身の鈍痛が僕をその場にしばりつける。

 

『あ、最後に一つだけ! 僕はあなたのファンなので! ずっとずっと応援してます!』

 

 僕の知る史実以上に微妙な立場にいるライス。きっと世間からは厳しい目が注がれることだろう。

 でも、たとえライスが世間から応援されなくなっても、僕だけは必ず応援し続けると誓おう。

 だってライスは僕の推しだから。

 それになにより、ライスシャワーは――

 

『貴方がホントに強い馬なんだってこと、見せつけてやってください!』

 

 僕の呼びかけに対し、ライスは立ち止まってチラリと僕の方に振り返って尻尾を一振りした後、何も言わずに再び歩き出した。

 漢は背中で語るってか、カッケェ……!! 

 

 

 

 その後、今日のリハビリを終えて厩舎に戻ったら、僕の馬房に等身大のライスの写真が貼ってあった。

 宮尾君が用意していたらしく「これでハヤテは元気出ること間違いなしっすよ!」とのことだった。

 いや確かにライスを毎日見れるのは嬉しいけどね? 

 それはそれで恥ずかしいというか。

 というか宮尾君はどこからこの御尊影を調達したの? ちょっと入手ルートを詳しくお教えいただけませんかね……

 

 





 ライスと会えたことで、とりあえずハヤテのメンタルは危険域を脱しました。推しは人生(馬生)の栄養素。
 さぁここで馬のライスシャワーの気持ちを想像してみましょう!

①「にんじんたべたい」
②「ライスと一緒に走ったからハヤテさんが怪我を……ライスのせいだ」
③「アレで勝ったつもりになんてなれない。今度一緒に走ったら絶対負けない」
④「応援してるとかなんとか言って、なんか舐められてね? マジムカつくんだが」


次回、ヒトの回想+αを入れてクラシック編完結。
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