ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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3.ライスをヒールにしないためにできること

 そもそも競走馬ライスシャワー号は史実において、いや、『前世の』史実において悲劇の馬として有名だ。

 レース中に脚を骨折し、安楽死処分がとられる馬なのである。

 それだけではない。

 GⅠを3勝したにも関わらず、そのうち2勝は勝利を祝う声より対戦相手の敗北を惜しむ声が多く、祝福されなかった馬なのだ。

 現役時代は悪者、ヒール役として。死亡前後はブームを起こすほど悲劇の馬として人々の記憶に残った。

 その実力よりも、悲劇的な面ばかりが注目されて。可哀そうな馬として。

 僕はあんまり『可哀そう』って言葉、好きじゃない。無責任な同情を寄せる言葉で、ただの自己陶酔だ。それにライスにはもっと評価するべき部分があると思うんだ。

 

 可哀そうだと言われてしまう、そのきっかけとなるのが、ミホノブルボンの無敗三冠を阻んだ菊花賞での勝利だ。

 日本競馬で特に由緒正しい格式高い3つのレース、皐月賞、日本ダービー、菊花賞。これらはクラシックレースと呼ばれ、競走馬の一生で2度と走れない特別なレースだ。

 それゆえに、この3つの冠を手にしたものは三冠馬と呼ばれ、最大級の賛辞を向けられる。

 この三冠に王手を、しかも無敗二冠で王手をかけることになるのが、ミホノブルボンという馬だ。

 無敗三冠はこの時代前例がまだ一つしかない。それほどまでに達成が難しい大記録。ファンは無敗三冠馬の誕生に期待していた。

 しかし、それをライスシャワーが破るのだ。人々の期待を裏切って。

 その結果ライスシャワーには賛辞ではなく罵倒が向けられる。悪者・ヒール役のイメージが付く。それが後世から見ると『可哀そうな出来事』になってしまう。

 

 これが僕の『前世』での歴史。だが、『今世』の歴史はこれから紡がれていくものだ。

 

 ライスをヒールにしないためにできること。

 つまりライスが人々の期待を裏切らない様にすればよい。

 正確には、人々の期待がミホノブルボンに集中しない様にすればよい。

 僕にできることは、ミホノブルボンの無敗を破ること。あわよくば、二冠のどちらか、皐月賞か日本ダービーでミホノブルボンを破れば、人々の期待はミホノブルボンに一極集中することはないはずだ。そしたら、菊花賞を制したライスシャワーにも祝福の言葉が降り注ぐことになるだろう。

 それが僕の今世の目標だ。今そう決めた。

 

 歴史改変していいのかだって? 

 ここを前世のパラレルワールドだと仮定すれば、歴史が変わる事はむしろ必然では? 

 むしろ僕が介入するまでもなくミホノブルボンが負けるかもしれないし、そもそもブルボンが存在しない世界線という可能性もあるかもしれない。

 それに第一、前世では僕、競走馬キザノハヤテ号がいたかどうかもわからない。僕が存在している今の時点で既に歴史が変わっている可能性もあるんだ。

 だからそんなの考えだしても、もう時すでにお寿司。きっと大丈夫さ! 

 

「ぶるるん! (てなわけで澤山さん、今後ともよろしく!)」

「おぉ、今日もやる気満々じゃないか。よし、行くぞ」

「ぶるぅー(いくぞー!)」

 

 新馬戦から数日後。今日も今日とてトレーニングをする日々である。

 降ろされるかもと心配していた澤山さんだったが、どうやら乗り替わりにはならなかったようだ。良かったね。

 ちなみに、澤山さんは中堅どころの騎手らしい。10年以上騎手をやっていて、GⅠに出たことも何度もあるそうで。

 そんな彼からダービーを取れるかもと言われたのだ。これはやってやるしかねぇよなぁ!? 

 

 

 

「今日はよく走りましたね。スパートの指示にも素早く反応してくれています」

「そうなんだよな。パドックであんなにイレ込んだヤツとは思えない」

 

 トレーニングが終わり、厩務員の宮尾君にブラッシングしてもらっている横で、騎手の澤山さんと調教師の羽田さんが話している。

 どうやら先日のパドックでの奇行の訳を探っているらしい。

 でも言い訳させて。いきなり自分の推しと出会ったら挙動不審になるやろ? ならんか? ならよく覚えとき、それがオタクの生態なんや。

 

「普段はこんな大人しいんすけどねぇ」

 

 宮尾君は口ではなく手を動かしてもろて。

 そんでもうちょい前の方ブラッシングしてくんない? 

 

「考えられるのは……臆病なのかもしれない。人や馬が多いのは苦手なんじゃないか。厩舎で嫌に大人しいのも、周りに馬がいるから萎縮しているということも考えられるな」

 

 宮尾君の言葉を受けて、羽田さんが持論を展開する。

 いいえ、違います。ただのオタクです。

 でも確かに厩舎の馬房はほぼ満員御礼状態だ。いつも馬の鼻息や嘶きが絶えない。僕はそこまで気にしないけど、他の馬にとってはストレスな環境なのではないだろうか。

 あぁ、もしくは馬は寂しがりって聞いたことあるし、逆にこういう環境の方が落ち着くのだろうか? 

 今度隣の馬房にいる先輩馬にどう思ってるか聞いてみよ。

 

「そうっすかね? むしろコイツは図太い気がしますけど。俺としちゃ、コイツが見てた馬の方が気になるっすね」

「あぁ、8番の……レース中もほぼずっと見てましたよ。鞭入れても最後走る気になっても」

「そうなのか? えぇと、ライスシャワー号だよな? ……牡馬だったよな? もしかしてソッチか? 種馬になったら大問題だぞ」

 

 ソッチじゃないよ。あ、宮尾君はそっちでいいよ。そこ気持ちいいわぁ。

 羽田さんからまさかのホモ馬疑惑を掛けられてしまった件。

 流石にそんなことはないと思う。ウマ娘で実装されてた馬の名前で、かつ最推しのライスだったからこそあそこまで大きく反応してしまったのだ。

 

 でもまぁ牝馬を見ても何とも思わないのは確かなんだよねぇ。

 だって元が人間だもの、そもそも馬をそういう目で見るってことが僕にはできない。

 まぁ繁殖とかやるとしても当分先の話だろうし、それまでにはなるようになるやろ。

 

「……まぁそれは今考えても仕方ないか。なんにせよ、レース終盤で見せた末脚は良かった。次のレースだが、オーナーサイドとも相談して今週末の新潟に出し直すことに決まった。澤山、行けるな?」

「大丈夫です。今度こそ、コイツの力を引き出させてやります」

 

 おや、次のレースが決まったっぽい。

 流石に今度は勝たないとね。

 そして目指すは打倒ミホノブルボンだ! 

 





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