ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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今となっては言い訳というか負け惜しみにしかならないのは重々承知ですが、どうかこれだけは言わせてください。
この展開を思いついたのは2021年の11月か12月あたりなんです。
作者の遅筆が憎い。



36.出口:宝塚記念2

 

「ウ、ウチがついにこんなところまで来てもうた……! アカン、手が震えるで」

 

 輪乗りの最中に鞍上から震えた声が聞こえる。

 あぁー、どうしてこんなことに。

 絶不調に加えて騎手が乗り替わるという特大ハンデ。

 いつにも増して、もはや走り出す前から体が重いような感覚さえある。

 宝塚記念のファンファーレが鳴ると、鞍上の守田さんの緊張感が極限にまで高まる。

 ガッチガチに緊張していやがる。

 皐月賞や菊花賞の時の澤山さんがしていたような良い緊張感じゃない。これはスプリングステークスの時みたいな悪い緊張だ。

 うん、決めた。

 最初から最後まで、守田さんのことは気にせず、僕の裁量で走ろう。守田さんに任せてしまったらスタートダッシュすら出来なさそうだ。

 いくら体が重いとはいえ、出来ることをしないで負けるなんて嫌だ。

 勝てないとしても、出来ることをやりきって、すがすがしく負けたい。

 

「オヤジもオカンも見に来てくれてるっていうし、出遅れだけはせぇへんようにせんと……!」

 

 いや、君に任せてたら絶対出遅れる。澤山さんの魂をかけてもいい。馬自身だけで抜群のスタートを切れる僕だったことに感謝した方が良いぞ。

 順調にゲート入りが進んでいく。全頭収まった、な。スタートに向けて力を溜める。

 この重圧に負けない様に、そして前回のレースみたいな不甲斐ないスタートを切らないためにも、気合を入れねば。レース結果は伴わずともせめて、せめて、スタートだけは。

 

 スターターが旗を振り、「ガチャン!」との音と共にゲートが開くと同時に、僕は守田さんの指示を待たずに一瞬で全身の筋肉を躍動させた。

 

「ゥワッ!?」

 

 

 その時、ついさっきまで体にまとわりついていた重圧が、ふっと消えた。

 

 宝塚記念でスタートダッシュを自分一人で決めた僕は驚いていた。

 身体が軽い。

 今までの重圧が全く感じられない。

 あっという間に僕が先頭に立つ。

 守田さん覚醒したのか!? 乗っていることを感じさせない騎乗だ、急に上手になったねぇ! 

 いや、守田さんはやればできる奴だって信じてましたよ(手の平返し)!! 

 

 ちらっと鞍上を見ると、空が広がっていた。

 

 ……あれ? 

 

 身体が軽い。

 まるで誰も乗っていないかのように。

 

 ……

 

 ……うん。

 

 やっちまったァー! 

 スタートダッシュで守田さん振り落としたっぽい! 

 すまん! 

 勝手にスタート切ったのは悪かったけど振り落とすつもりはなかったんだ。わざとではないから許して! 

 

 いやでもこれどうしよう!? 

 僕、もう先頭に立っちゃってるよ? 

 これで急に止まりでもしたら危ない。後続を巻き込んだ玉突き事故を起こしてしまう。

 つまり走るしかない! 

 全力で逃げろ!! 

 

 誰も載っていないのをいいことに、僕はぐんぐん速度を上げて飛ばした。

 身体が本当に軽い。

 

 後続との差が2馬身、5馬身、10馬身と開いていく。

 僕以外の足音が小さくなる。

 

 あぁ。なんかこれ、イイな。

 

 雨を受けて青々としている芝を蹴って走る。

 もっと速く、もっと速く。軽やかな身体は風と同化してゆく。

 のろまな風を追い越し、切り裂き、疾風となって駆け抜ける。

 

 

 あぁ、そうだ。

 走るのって、こんなに楽しかったんだ……! 

 

 

 よぉーし! 

 もうこれは最速で駆け抜けてレコードタイムを出すしかないな! 

 ハッハァー! 

 誰もなしえない大記録、叩きだしてやるぜぇ!! 

 

 ペースもくそもヘったくれもなく『全力で』走り続け、真面目にレースをしている面々を突き放し、ダントツの1位でゴール板を通り過ぎる。観客席からはどよめき混じりの歓声が上がる。

 どうよこれ、確実に宝塚記念の、いや、芝2200mの世界記録(?)を更新しちゃったな……! 

 ゴール板の先で独りでに速度を緩めつつ振り返ると、後ろではようやくマックイーンらがゴールしたところだった。うん、優勝はやっぱりマックイーンみたいだ。

 コース上にいたら邪魔だな。コースの外側に移動して、皆が通り過ぎてから帰るとしよう。

 

 止まった僕を真面目にレースした面々が僕を追い越していったあと、地下馬道へ繋がる出口に向けて足取り軽やかに向かう。スキップでもしたい気分だ。

 ただまぁ流石に真剣勝負を繰り広げる競馬場でそんな浮ついた行動をするのもなと自制。

 そんなことを考えていたら出口のところから宮尾君が出てきた。僕を見つけるなり手綱を片手に慌てた様子で駆け寄ってくる。まぁ今の僕、放馬しちゃってるからね。

 

「ハヤテ、こっちに来るっすよ。よぉしよし」

 

 いやぁお手数おかけします。大人しくお縄につきますよ。

 手綱を繋いで宮尾君はホッと一息ついた。

 

「はぁ、全くお前と言うヤツは……しかしまぁ随分楽しそうに走ってたっすね」

『いやぁ、なんか走るのが楽しくなっちゃって』

「これでトラウマが消えてたりしたら、めっけもんなんすけど」

 

 あぁそういえば。

 言われるまでそんな感情を抱いていたことを忘れてた。

 トラウマが消えたかどうかはわからない。

 わからないけど……へへっ。

 今、確実に言えるのはこれだけだ。

 

 走るのって楽しいな! 

 

 

 

 


 

 1993年6月13日10R 宝塚記念 芝右2200m、雨、良馬場 12頭立て

 1着 メジロマックイーン 2:17.6

 2着 イクノディクタス 2:18.1

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 9着 ニシノフラワー 2:21.1

 10着 メジロパーマー 2:21.3

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 競争中止 キザノハヤテ

 






 ……ちょっと愚痴らせてください。

 シルヴァーソニック君さぁ! 事実は小説より奇なりを地で行かないでくださいよぉ! なんで騎手もなしに番手の良いポジションを確保しきってたんですかねぇ! 
 あとドゥラエレーデ君もさぁ! 独りでにコースの出口へ向かうの笑っちゃったけど、お話の作者としても馬券的にも笑えなかったんですが!?

 ……なんもかんも作者が悪いのです。
 チマチマ書き溜めを作っては微修正し作っては微修正し、書き溜めたら書き溜めたで色々気になる点が増えて大きく書き直したりして、投稿しようかなどうしようかなと優柔不断な気持ちに整理をつけていた時間が長すぎました。
 現実のパクリじゃないと言い張っても後出しだから言い訳にしかならんのです。
 以上、愚痴でした。


 作者はシルソニ君とエレーデ君を応援しています。
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