ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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39.取り戻す

 

 放牧先でライスと出会えたと思ったらまたすぐに引き離されたでござる。

 悲しみが深い。

 

「ひぃーん(ライス元気かなぁ)」

「また黄昏てる……ほれ、ちゃんとご飯食べるっすよ」

「ひん(はーい)」

 

 痩せちゃったのが原因らしいのだが、でも、ライスと一緒にいられる時間を食事なんかで浪費してしまうなんてもったいないじゃないか。僕は団子(ご飯)より(ライス)派なんだ。

 しかしそんな僕の気持ちを人間が理解してくれるはずもなく。ライスと一緒に暮らせたのはたったの一週間だった。

 トレセンに戻されるかもしれないとわかっていれば、若しくは事前に「ご飯食べないとトレセンに戻されちゃうよ」と忠告してくれれば、ちゃんと食べたのに! 

 そんなこんなで美浦トレセンの羽田厩舎に戻され、こうして体重を戻す日々を送っている。

 うぅっ、やけ食いしてやる。宮尾君おかわりプリーズ! 

 

 一週間だけだったとはいえ、ライスと再会できたこと自体はとても嬉しい。

 それに、なんと前回あった時から半年以上経っているのにもかかわらず、ライスが僕のことをちゃんと覚えてくれていた。僕は前回あった時からさらに毛の白化が進んでいるはずなのだが、ライスが僕を認識した途端「見つけたぞ……!」的な感じの熱視線を送ってくれたのだ。一目で僕が僕だと認識してくれたらしい。

 それだけでもう嬉しさ爆発ですよ。推しに覚えてもらえているとかこれ実質両想いでは??? 

 

 嬉しさのあまり飛び回ってたら、勝負の誘いかと勘違いしたライスと突発的に勝負したりなんかもした。

 なお、結構な広さのある放牧場とはいえ競馬場やトレセンの練習コースほどの大きさがあるわけではないので、勝負はライスの最大の長所であるスタミナが発揮される前に終わってしまい、大体僕が勝った。

 放牧場での勝負は条件が僕に有利すぎるので、本当の勝敗を決めるのはレース本番に持ち越しだ。

 ライスもライスでレースが本番だという認識があるようで、「皆と一緒に走る時(つまりレースのこと)は負けない」との宣言をしていた。その勝負、受けて立ちますよ! 

 

 以前は僕がでしゃばってライスの評判を落とすのではとか考えたりもしたが、真剣勝負をご所望なライスに手加減だなんて出来るはずもない。

 レースでカチ当たったときには、僕も頑張って走るつもりだ。

 で、ライスとの直接勝負は天皇賞(秋)になるだろうとの話。というのも──

 

 む、この足音は。

 最近聞いていなかった、されど聞き慣れた足音。これは……! 

 

「ハヤテ! 久しぶりだな!」

「ひひーん! (おぉ、澤山さん!)」

「はは、すっかりハヤテも元気になったみたいだな。良かった」

 

 ついに退院したんだな! 

 見た感じ足取りも軽そうで、とても入院していたようには見えない。すぐにでも騎手として復帰できそう。

 澤山さんの後ろから羽田さんも一緒にやって来た。

 

「ふぅむ、良かったな澤山君。ライスシャワーと同じくらい好かれてるかもしれんぞ」

「嬉しいような嬉しくないような……まぁ良いことだとは思いますけど」

 

 え、ライスと同じくらい……そこまでは別に澤山さんを好いてはいないよ? 

 

「馬から気に入られ、オーナーからも気に入られてるんだ。オールカマーはその期待に応えて見せろよ」

「はい!」

 

 ──そう、僕の次走はオールカマー。『あのオールカマー』だ。

 そしてライスはそこには出てこないらしい。

 あの……ツインターボが劇的勝利を収める、オールカマーに。

 

 

 一緒の放牧場に出されていた時、ライスの調教師さんがライスの様子を見に来たことがあった。

 牧場の人と話していた内容が偶然近くにいた僕にも聞こえてきたのだけど、ライスは天皇賞直行か、状態次第では京都大賞典をステップにすることも考えているとの内容だった。

 牧場の人が「オールカマーはどうなんです?」と聞くと、「確実に勝利を期するなら中山よりも京都のほうがライスには合うだろう」とのこと。史実的に京都競馬場のほうが得意だったらしいってやつだろうか。それがわかっているなら史実では何故オールカマーに行ったのかという疑問はあるが、そういうことらしい。

 ということでライスは史実とは異なり、オールカマーには出走しない。

 

 正直なところ、僕がそこに向かう予定と聞いて、かなり思うところがあった。

 ウマ娘の知識くらいしか競馬を知らない僕だけど、ウマ娘の元となった競走馬の特筆すべき偉業くらいはわかる。

 スペシャルウィークならダービー優勝と凱旋門賞馬を破ってのジャパンカップ勝利。トウカイテイオーなら無敗二冠と挫折を乗り越えての有馬記念優勝。

 ツインターボなら……大逃げでオールカマーを勝利。

 後世で「悲壮感なき玉砕」ともいわれたツインターボの人気は、多大にこのオールカマーでの勝利に起因していると思う。

 ウマ娘のアニメ2期でも大々的に取り扱われたそのレースに、僕はライスの代わりと言わんばかりに出場することになったのだ。

 

「そのためにも俺はリハビリと……あとは減量を頑張らないとですね」

「ん、なんだ太ったのか?」

「病院食は全部食べきりなさいって恵子ちゃん……よく世話してくれた看護婦に口酸っぱく言われちゃって。運動もあまり出来なかったから2キロくらい……」

「おいおい、今度は前みたいには重くならないぞ、大丈夫か」

「ハヤテに乗る分には大丈夫だと思うんですけど、新馬とかだとちょっと怪しいかもしれません」

 

 ツインターボとの対戦は新潟大賞典以来2度目。

 前回は絶不調だったこともあってボロ負けしてしまったが……僕の調子は前回とは比べ物にならないほどに良い。

 あの時、新潟大賞典で見た時のツインターボの印象は、正直そこまで強そうではなかった。今の僕なら十分勝機はあると言える。

 もし、僕がオールカマーでツインターボを破ったら……ウマ娘のツインターボは、アニメは、それ以前に馬のツインターボ自身は、どうなってしまうのだろうか。

 

 しかし、だからと言って僕が委縮する道理はないのだ。

 そんなことで悩むようならそもそも「ライスを救おう」ってのはどうなるんだって話だし。今となっては僕とは直接関係なく史実からGⅠの勝鞍を失ったメジロパーマーだっている。

 もはや歴史が変わることは止められないのだから。

 あとここで僕が負けると、巡り巡って世代の評価を押し下げ、強いてはライスの評価が下がることになりかねない。

 新潟大賞典と宝塚記念の失態を返上して、堂々とライスとの再戦の場、天皇賞(秋)に向かいたい。

 そのためには、この勝負は負けられないのだ。

 

「ぶるぅ、るるぅ(前世は前世、今世は今世だもんね。恨んでくれるなよ、ターボ)」

「ハヤテに痩せろって言われてるぞ」

「みたいですね。はぁ、しばらくご馳走はお預けか……」

 

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