【オールカマー】1年9か月ぶりにキザノハヤテ快勝!
春シーズンは振るわない成績だったキザノハヤテだが、秋シーズン初戦のオールカマーではその実力をいかんなく発揮して見せた。
スタート直後は先頭と競り合って逃げ馬のペースを崩し、道中は序盤のリードを活かして後続馬のスタミナを消耗させ、3コーナーからの早仕掛けでレコード勝負にもちこんで他馬をすりつぶす。
舞台や距離は違えど、菊花賞での走りを思い出させるレース展開だった。
出走メンバーには重賞馬も少なくなかったが、2着馬には6馬身差をつけるなど格の違いを見せつけた形だ。
ラジオたんぱ杯3歳S以来、1年9か月ぶり2度目の重賞勝利をあげ、勢いに乗ることができたキザノハヤテ。次走は天皇賞(秋)を予定している。
オールカマーで僕は久々の勝利を上げた。一昨年の12月以来の勝利だ。
しかも2着以降には結構な着差がついての圧勝だったらしい。
僕の記憶では最終直線で競り合って僕と僅差でゴールに飛び込んだであろう『栗毛の馬』がいたような気がするのだけど……
よくよく考えればターボより内側から馬が上がって来れるだけのスペースはなかったはずだし、出走メンバーに栗毛の馬はいたもののそれらとは明らかに別人(別馬?)だったし、というかアレはどう見ても『アイツ』だった。アイツはまだ現役引退はしていないとはいえ、今もなお休養中だろうから中山競馬場にいるはずもない。
つまり幻覚を見ちゃってたらしい。まぁ皐月賞と同じ舞台で記憶が刺激されたのかも?
幻覚の中とは言えアイツに勝てたのは大分嬉しい。自分の成長を実感できたというか、過去の呪縛を振り切れたというか。兎に角ちょっと自信が付いた。
この調子で秋の天皇賞からGⅠ戦線でライスと闘い、ライスか僕が勝てば世代的に強かったんだと証明出来て、強いてはライスの種牡馬入りにつながる……んじゃないかなと思っている次第。
ライスの勝利だけでなく、僕の勝利も目標に加えたのは競走馬として僕もただで負けるつもりはないという決意と、あと、オールカマーでの勝利を経て、まぁ少し思うところがありまして。
僕の本来の大目標からすればライスが勝って勝ちまくるのがベストなのは間違いない。理性的な面ではそうだとわかってる。
でも、久々に勝ったら僕の関係者の皆の喜びようがすごかったのだ。
翌日は皆してお酒臭かったし、それに加えて特に澤山さんと宮尾君なんか口角が上がっぱなしで正直ちょっと気持ち悪いくらいだった。
あとは滝澤さんが高級そうな箱に入った梨を持ってきてくれた。めっちゃ美味かった。
さらにはファンレターもいっぱい来て馬房の向かいの壁にたくさん飾られた。細かい文字で読みにくい部分もあるけど、一応張り出されたファンレターには全部目を通している。これまでもファンレターはちらほらと送られてきていたけど一度にこんなに多く貰うのは初めてだ。
これだけ喜んでもらえるとこっちも嬉しいやら恥ずかしいやらむず痒いやら。こんな経験をしてしまっては、感情的な面で、ちょっと欲目が出てきちゃうでしょ?
今回、僕を応援してくれる皆に勝利をプレゼントすることができて、本当に良かったと思う。
そして誰より僕が勝利をささげたい存在と言えば。
『聞いて聞いて、僕久々に勝ったんです!』
「ぶひん」
『そっけないライスかっこいい!』
「……ひひん」
もちろんライスだ。
オールカマーでの勝利から2週間後。レースの疲れもほどほどに抜けてきたところで、放牧場から美浦トレセンに戻ってきたライスと併せ馬する機会が設けられたのだ。
「こら、落ち着けハヤテ。飯山調教師、今日はよろしくお願いします」
羽田さんよ、そうは言うけど推しを目の前にしたオタクが落ち着いていられるとでも? いいや落ち着けるわけがない(反語)。
若干ライスから呆れた視線を感じるけど、ライスの前では僕は常にフルスロットルですよ!
そうして始まった併せ馬は僕が先行する形で一回、少し休憩を挟んだ後、今度は逆にライスが先行する形でもう一回行われた。
結論から言ってしまえば一勝一敗。
先行した方が勝つという互角の結果に落ち着いた。ただし、着差で見ると僕が勝った時は割とギリギリ、ライスが勝った時はそれよりちょっと差がついての決着だったので、総合的にはライスの勝利と言えなくもない。
しかしそんな曖昧な決着では満足しないのが我らがライス。
「ぶひひん」
『えっと、本番ですか? 多分ライスは次の次のレース、だと思いますけど……?』
併せ馬が終わってお互いの息が整ってきたところですぐにレース本番はいつになるのかと聞いてきた。
僕はこの後天皇賞へ直行だけど、ライスは京都大賞典を挟むかもって話だったような。
コース脇に待機している二人の調教師の元へとライスと連れ立って歩いていくとちょうどその話をしていたので耳を澄ましてみる。
「──ところで、ハヤテの次走は秋の天皇賞で決まりですか」
「そうですね。オールカマーで勝てたので、天皇賞、ジャパンカップに有馬と、GⅠで使っていく予定です。ライスシャワーは天皇賞前に京都大賞典に行かれるんだとか?」
「はい。今のところ体調面の心配はなさそうですし、予定通りレースで一叩きしてから天皇賞に行こうかと。いやはやしかし、天皇賞では西の強敵に加えキザノハヤテも完全復活ですか。ここまでは何とか勝ててきましたが、秋シーズンは一筋縄ではいかなさそうです」
『うん、やっぱりライスは次の次になるみたいです』
「ぶふぅ」
『いやそれはちょっと出来ないです……』
「ひん」
次のレースに来いと言われましても、どのレースに出るのかは人間が決めるので僕には如何ともしがたいのですよ。僕としても走れるんならライスと一緒がいいのだけど。
併せ馬の後は一緒に
でも折角なら散歩だけじゃなくて一緒にプールも行ったりしない?
プールこそクールダウンにぴったりだよ。
何よりライスの水着姿とか見てみた──いや、よく考えたらプール行っても行かなくてもお互い全裸だったわ。虚しい。
そうしてそれぞれが日々のトレーニングを重ねていき。
『最終直線入って先頭ライスシャワー、外並んでメジロマックイーン! やはりこの二頭だ、3番手以降は大きく離れたぞ。ここでマックイーンが僅かに前か、ライスシャワーも喰らい付くが、いや、ここでまたライスシャワーが抜き出た! メジロマックイーンは力尽きたか2番手後退! ライスシャワーだ、ライスシャワー淀の坂から押し切ってゴールインッ! もはや敵なし、圧巻の6連勝です!』
ライスは京都大賞典を見事に勝ってみせた。
もはやここにきてライスの強さを疑う者はいなくなった。なんてったって去年の菊花賞での勝利から負けなしだ。
ライスの調教師さんと付き合いがある羽田さん始め、ライスの勝利は美浦トレセンの雰囲気を少し明るくした。
自分たちの管理馬ではないにせよ、美浦トレセンという大きな括りで見れば仲間も同然。
特に最近は関西の栗東トレセンにやられっぱなしだった関東勢にとって、現役最強馬の地位を確固たるものにしたライスシャワーの存在はまさにヒーローだった。
そしてライスと闘って惜しくも2着となってしまったマックイーンについて、京都大賞典の翌々日に残念な報せがあった。
「マックイーンが引退っすか」
「らしい。レース後に故障が見つかったとは聞いていたが……まぁ種牡馬になるみたいだし、いいタイミングだったのかもしれんな」
僕の馬房の前で羽田さんたちたちが話しているのを聞くに、マックイーンは京都大賞典の後、程なくして故障が発覚。引退するとの発表があったらしい。
史実でもマックイーンは今年の天皇賞(秋)には出馬できずに引退している。故障したこと自体は史実通りだ。
ただ、うろ覚えの記憶ではマックイーンの故障ってもっと天皇賞の直前だったような。アニメだとどう描かれていたっけ? ううむ、思い出せぬ。
「テキ、宮尾さん、おはようございます」
「お、澤山君おはよう」
「おはようっす」
「二人ともこれ見ました? マックイーンの話」
「あぁ見た見た。私も昨夜その記事を読んでな、ちょうど今宮尾君とその話をしてたところだ」
「おや、それじゃあわざわざ買ってくるまでもなかったですね。あ、ハヤテも読むか?」
澤山さんが新聞を差し出してくる。
お、天皇賞の記事か。『メジロマックイーン電撃引退。それでも天皇賞は混戦模様!?』との大見出しが掲げられている。
ふむふむ?
「そうだ。ちょうどハヤテの関係者が集まったから言っておくが、来週の月曜、またハヤテの取材が来ることになった。宮尾君は大丈夫だよな、澤山君は都合どうだ?」
「来週ですか……もう予定入れちゃってたんですけど」
「それならいい。私と宮尾君で対応するよ」
「あのー、俺に選択権はないんすかねー……?」
羽田さんたちが会話を続ける中、僕は澤山さんから破らないように気を付けつつ新聞を口で受け取り、馬房の床に置いて新聞を読む態勢に入る。
記事を読む限り、マックイーンが天皇賞に出走できなくなったことを大きく報じているようだ。
まぁ今の競馬界ではライスとマックイーンが頭一つ抜けてるような印象だしね。マックイーンの不在が明らかになった今、記事の中ではライスと、恥ずかしながら僕との対決に焦点を当てているようだ。
ふむふむ、リベンジに燃えるキザノハヤテとミホノブルボンか。こんなふうに書かれるのはちょっと照れ臭いね。
……?
ちょっと待て。
リベンジに燃えるキザノハヤテとミホノ……ミホノブルボン!?
アイエエエ!? ブルボン!? ブルボンナンデ!??
えっなにどういうこと!?
えーと、えーと……『天皇賞(秋)でミホノブルボン復活なるか』!? エッ、復活!?
ライスだけでなく、アイツとも戦えと!?
ライスシャワー、歴代最多重賞連勝記録に並ぶ
京都大賞典ではライスシャワーがまたもやメジロマックイーンを下して京都の重賞を勝ち取った。
レースではメジロパーマーがハナを奪うと、ライスシャワーはそれに続く2、3番手を追走。淀の坂の上りから前へと進出し、坂を下っていく中で単独先頭に。最終コーナーでは一時マックイーンに並ばれたものの、直線に入ってからは力強く前へ進出。直線で伸びあぐねたマックイーンに2馬身差をつけて優勝を果たした。タイムは2:23.0とまたもやレコードタイム。
これでライスシャワーは菊花賞から重賞6連勝とした。この記録は、オグリキャップやタマモクロスと並んで中央競馬の重賞連勝記録として歴代最多タイ。しかもそのうち3勝はGⅠなのだから、ある意味では先の2頭を上回ったといえる。
現役最強馬を飛び越え、日本競馬史上においても有数の名馬となりつつあるライスシャワー。今後は天皇賞(秋)からジャパンカップ、そして連覇もかかる年末の有馬記念とGⅠ戦線に挑む予定だ。強敵集うGⅠでどこまで記録を伸ばせるか、注目していきたい。
天皇賞(秋)でミホノブルボン復活なるか
皐月とダービーの2冠によって昨年の年度代表馬にも選ばれたミホノブルボンが、天皇賞(秋)への出走を正式に決定し、およそ1年ぶりにレースの舞台に戻ってくることになった。
ミホノブルボンは3着になった菊花賞の後、故障によって長期休養を余儀なくされていた。一時期はクラシック戦線で覇を競い合ったキザノハヤテと共に常磐支所で過ごす等していた。身体の傷を癒す中、恩師戸崎調教師が逝去。
戸崎厩舎の調教助手で今年調教師試験に受かったばかりだった盛が厩舎を引き継ぎ、ミホノブルボンも盛の下で復帰を目指していた。
9月からは栗東トレセンで調教を再開。秋競馬には参戦してくるのではないかとの噂が現実になった。
現在のミホノブルボンの状態について盛は「まずは出走することが大切」と慎重な態度。坂路調教は1日2本までとミホノブルボンにしては控え目な調整に留めており、未だ本調子ではないとの見方も強い。
しかし天皇賞(秋)の距離は2000mと、スピードに優れるミホノブルボンにとっては有利な舞台。強力なライバルと目される同期のライスシャワーやキザノハヤテはスタミナに優れるステイヤー気質の馬なので、勝機は十分にあるはずだ。
(マックイーンの引退という一大ニュースに気を取られ、ハヤテが平然と新聞を受け取って読んでることに気が付かない澤山さんたちの図)
本作はこの秋の天皇賞で〆る予定です。盛り上がりには期待せずに今しばらくお付き合いをば。
それと、終わりが見えてきた結果どっかにねじ込もうと思ってたけど結局ねじ込めそうにない閑話の一部分をセリフのみで書き残します。
物語の裏側で 1
1993年1月頃
「キザノハヤテが温泉でのんびり……なんやこの記事は」
「うちのも、行かせてみたらどうかと」
「うちの……ブルボンのことか? 何言うとんのや、そろそろ状態も良うなってきたて言うたやないか。また悪うなったんか」
「そうではありません。しかし、一度しっかり休ませることも重要だと思います。それで宝塚か秋の天皇賞辺りを目指してはどうかと」
「……はぁ。わかった。どうせ俺はもうすぐ逝く。そうなりゃ俺たちの馬はみんなバラバラや。お前が合格でもしない限りな。ま、それまでお前の好きなようにやってみい」
「ありがとうございます」