……入れていけたらいいな
死んだと思ったらまたもや生まれ変わっていた。
一度経験済みとはいえ、何とも不思議な感覚。前々世みたいな無念の突然死ってわけでもないからってのも余計そう感じるのかも。
キザノハヤテ号としての命が燃え尽き、意識が闇に落ちた後に急に光に包まれたんだ。そして自分の口から出た言葉が「おぎゃぁー」と産声になった時は人間に生まれ変わったのかと思った。
しかし、生まれてしばらくして頭頂部とお尻に不思議な感覚があることに気付き、はっきり目が見えるようになって自分の母親にケモ耳がついているのを確認して思い違いに気付いた。
というわけで競走馬キザノハヤテ号改め、ウマ娘キザノハヤテだよ! いえーい!
……これマジ?
つまりウマ娘のライスシャワー、いや呼び捨てなんて恐れ多い、ライスさんと会えるということ!?
いやいやまだ会えると決まったわけじゃないけどね? その可能性が生まれただけでも十二分!
三女神様ありがとう!!
そんなこんなでウマ娘としての人生がスタートし、なんやかんやあって中央トレセン学園に無事合格。
いよいよ出立の日となり、お母さんに駅まで送ってもらった。
「向こうでも元気でやるのよ。それと忘れ物はない? 電車の切符に、中央トレセンの案内状に……」
「いひひ、大丈夫だよお母さん。そもそも荷物の大半はもう昨日送ってるし。なにかあっても何とでもなるよ」
「でも、ハヤテちゃん変なところで抜けてるから心配で……」
「僕ももう高校生相当なんだよ? だいじょーぶ。それじゃあ、行ってきます」
はぁ。今世の母さんはやけに心配性で困る。
言いはしないけど、こちとら高校生どころか前世と前々世を含めれば母さんを上回る年齢なのだ。
人生経験豊富な僕に隙は無い……!
(電車に揺られること数時間後)
「お金忘れた……」
僕は駅で項垂れていた。orzのポーズだ。
電車の切符は持っていたので中央トレセン学園の最寄り駅まではたどり着いたのだけど、そこからバスに乗り換えるためのお金を持っていなかった。田舎出身なのでICカードなんて高尚なものも持ち合わせていない。乗る前に気付けて良かった……!
そういえば普段使ってるお財布、トレセン学園に送る小物類と一緒にしちゃってたかも。
「まぁ、走っていけばすぐ着く、はず」
僕は気を取り直して立ち上がった。
幸いトレセン学園は駅からそんなに離れた距離ではないのだ。
アニメでスぺちゃんが走ってトレセン学園に行こうとしていたことからそれは明らか。
スマホで徒歩のルートを検索して……あ、やべ、スマホの電池が残り15%切ってるじゃん。
うーん、やっぱりそろそろ買い替えの時期かぁ。
トレセン学園に着くまで電池持つかな? 持たなさそうだなぁ……そもそも10%前後になると突然電源が落ちるようになるし。
あ、落ちた。黒く塗りつぶされた画面に呆けた表情の僕の顔が映る。
今回は電源落ちるの早かったなー(諦観)。
「ま、まぁ? 地図アプリなんぞに頼らなくっても、僕なら大丈夫だし?」
世の人は、それをフラグという。
(トレセン学園を目指すこと数時間後)
「迷った……!」
やべぇよやべぇよ、もう日が傾いてきてるよ!
駅から脱出するのに時間を取られすぎた。都会の駅ってどうしてこう分かりにくいかなぁ!
そして駅から出た後もなんか同じような場所をぐるぐると回っているような気がしてならない。今、前方に見える交差点はもう3度くらい見たような気がする。
ぐぬぬ、ここは恥を忍んで道行く誰かに尋ねた方が良いか……というか始めからそうするべきだった。
「えぇと、優しく教えてくれそうな人……あ」
交差点の信号待ちをしている黒髪のウマ娘ちゃんがいるではないか!
大きなリュックサックを背負っている後ろ姿に、頭から突き出た耳をピコピコさせている。
ここら辺に住んでいるウマ娘ならトレセン学園がどこにあるのかはわかってるはず。若しくは今日入寮するお仲間かもしれない。
僕は意を決してそのウマ娘に道を尋ねることにした。
「あのー、ごめんください。道を教えてほしいのですが」
「ふえ?」
えっ、この声は……?
黒髪のウマ娘が振り返り、僕は彼女の顔を真正面にとらえた。
見間違えるはずもない。
右目を隠す漆黒の前髪。紫色の瞳、大きなウマ耳。可愛らしく、少しおどおどとした印象を抱かせるその顔立ち。
一瞬意識が飛びそうになったが、何とか持ちこたえた。
「そそそそっその、トレセン学園っは! どこですかっ!」
意識は持ちこたえたけど、口調がすんごいことになった。
「えっと、もしかして、貴方も新入生?」
「はひっ!」
「わぁ、ライスもそうなの! 一緒に行こう?」
あ、ダメ。尊みがキャパオーバー。
遠ざかる意識の中、僕はこれ以上にない幸福感を感じていた。
キザノハヤテ
葦毛で細身なウマ娘。
トレセン学園の生徒としては珍しく痩せぎすなウマ娘で、髪の毛はぼさぼさ、目元には濃いクマがあり、如何にも不健康そうな見た目。
そんな外見とは裏腹に、走りの才能はかなりのもの。
自分の才能を信じて悠然とレースに挑む。
「イマイチな体調でだって、誰にもなしえない大記録――打ち立てて見せますよ……!」
得意なこと 水泳、歌謡曲
苦手なこと 予定を立てること
耳のこと 潜水する時は水が入らないよう畳む
尻尾のこと ご機嫌で尻尾を振っていたら残像ができる
家族のこと 実は祖母が有名な歌手
秘密① レースと同じくらい泳ぐのも好き
秘密② 強敵を認識すると思わず睨んでしまう
ウマ娘編の書き溜めは全然ありませんがこちらの作品はウマ娘の二次創作です