ライスシャワーを救うためにできること。   作:さんさか

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4.やり直し新馬戦

 再び新潟競馬場芝1000mに出ることとなりました、キザノハヤテです。本日は真面目に走ります。よろしくお願いします。

 新馬戦の後のレースだから未勝利戦ってやつだな。

 走る距離もレース場も同じだが、今回は1枠1番と最も内側からスタートすることになった。前回は8枠11番だったので真逆だ。

 

 そういえば新潟芝1000mと聞いて僕はてっきり直線コースを走るのかと思っていたのだけど、前回走ったコースは普通にコーナーがあった。無論、今回走るコースも同じだ。

 スタートは向こう正面、つまり観客席から遠い直線からで、時計回りにコーナーを回って、観客席前の直線でゴールに飛び込む形になる。

 新潟芝1000mはウマ娘では唯一の直線コースだったから印象的だったんだけど、記憶違いで別のレース場だったのだろうか。

 ……前世の記憶はもう体感2年以上前のことだし、記憶があやふやになってきてるかもしれない。

 そのくせブラック企業で2か月連勤した思い出や、上司に理不尽に叱られたことや、友達と絶交したことや、受験に落ちたことや、両親を泣かせたことや、4回連続でメジロマックEーンを作ってしまったことやらなんやら、嫌な思い出ばっかりはっきり思い出せて嫌になる。スタミナ回復薬を使ってまでマックEーンになってしまったあの時のやるせなさは筆舌に尽くしがたい。

 

「とまーれー」

 

「今日は落ち着いてるなぁ……流石にこれで負けは許されないな」

 

 号令がかかって澤山さんが僕の元へとやって来た。

 おっとそうだった。これからレースなんだった。

 前世は前世、今世は今世だ。しっかり気持ちを入れ替えねば。

 

「ぶふぅ(今日はちゃんと走るよ!)」

「よしよし。今日こそお前の走りをみんなに見せてやろうな」

 

 鼻息で答えると首筋をポンポンと優しく叩かれる。

 本馬場へ移動し、スタート地点まで返し馬をし、しばらく輪乗りをしたのちにゲート入りとなった。

 最内の僕が真っ先にゲートに入り、他の馬のゲート入りを待つ。

 少し手間取っていたようだけど、全員がゲートに収まり。「ガチャン!」との音と共に手綱が扱われる。

 

「よし、勝った」

 

 スタート直後にフラグ建築するのやめてくれません? 

 とはいえ、澤山さんがそう言うのもわかる。

 抜群のスタートを決めた僕らは、数秒間走っただけで他の馬たちから馬の体2つ分、つまり2馬身の差がついているのだ。短距離のレースでこの差は大きい。

 澤山さんが手綱を扱う様子を見るに、今日はこのまま逃げ切る感じみたいだ。

 いくら前世でウマ娘をプレイしていたことがあると言ってもリアル競馬はにわかな僕なので、騎手さんの指示がないとどのくらいの速度で走ればいいのかよくわからない。

 最近は自分でもどのくらいのペースで走ればいいのかは薄々わかってるんだけど、基本的には騎手の澤山さんにお任せ。

 調教し始めの内は、よく飛ばしすぎと窘められたものだ。

 

 先頭を維持したままラチ沿いにコーナーを走り抜けていく。勢いあまって少し外に持ち出してしまうが、多少の距離ロスがあっても僕の先頭は揺るがない。

 そして最終コーナーを抜けたあたりで澤山さんからスパートの鞭が入り、それに従って速度を1段階上げると、後ろに続く馬たちとの差がどんどん広がっていく。うーん、まだ全力じゃないんだけど。まぁ、こんなもんか。

 僕以外の足音が遠ざかる一方のまま、ゴール板前を先頭で駆け抜けた。

 楽勝ですな。

 

「走る気になればコレか……すごいな、コイツは」

 

 褒めても何も出ませんぜ。

 なんたってここは通過点に過ぎない。

 ミホノブルボンの無敗を崩すと決めたのだ。

 相手は前世の史実で無敗二冠になる馬なのだから、めちゃくちゃ強いハズ。ブルボンを倒すためにはこんなところなんぞで足踏みしている暇はない。

 さぁ次だ次! 

 

 

 

「ハヤテ、よくやってくれた! ご褒美の梨だぞ~」

 

 レースから数日後、いつもの厩舎に戻ってきて、馬主の滝澤さんからカットされた梨を手渡しで食べさせてもらっているところだ。うまうま。馬だけに!(激馬ギャグ)

 というか馬って梨食べれるんだね。馬になってから初めて食べたわ。

 人間だったころ、果物の中では梨が一番好きだったんだ。だからこのご褒美は滅茶苦茶嬉しい。

 馬になってもこの好物は変わらなかったようだ。

 

「オーナー、次のレースですが」

「ちょっと待ってくれ。今はハヤテの食事中だ」

 

 テキが滝澤さんに話しかけたけど、滝澤さんがそれを止める。

 なんかすまねぇな。さっさと食べきっちゃった方がいいのかな? 

 でもせっかくの梨だから少し味わわせて。

 体感2年以上となる久々の大好物を噛み締め(物理)、しかし馬の大きな口で食べているとあっという間に滝澤さんが用意していた1玉分の梨を食べ終えてしまった。

 ごちそうさま! 

 

「待たせたな。それで次のレースの話だったか」

「はい。以前お話しされていた新潟3歳ステークスですが、今からですと中2週での調整となります。新馬戦を連戦したこともありますので、一度間隔を置くべきかと」

 

 どうやらテキは僕を休養させたい模様。

 でも僕はまだまだ全然いけまっせ。

 元気さをアピールするためにぶんぶんと首を縦に振る。すると滝澤さんが僕の様子を見て頷く。

 

「うむ、ハヤテも頷いているようだしな。少し休ませよう」

 

 違う、そうじゃない。

 

「で、そう言うってことはどこか出したいところでもあると?」

「9月29日のききょうステークスを考えています」

「コース条件はどんなだったかな」

「中京レース場の、芝1200mですね。ハヤテはあまり移動を苦にしていないようなので、移動については問題ないかと」

 

 あー、次走が勝手に決められていくぅー。

 言葉を話せないってのはただただもどかしいね。

 ま、もし話せたとしても、どんなレースを走るべきかは結局わからないし、羽田さんや滝沢さんに決めてもらう形になりそうだけど。

 

 というか次も短距離レースか……まぁ走る距離が短いぶん、疲れにくいからその点はいいけど。

 でも確か、バクシンオーが活躍する前の短距離路線ってなんか賞金的にあんまり良くないんじゃなかったっけ? 

 あと、短距離戦ばかりしているとクラシック路線に行けなくなったりしない? 大丈夫? ミホノブルボンに挑戦すらできないのは嫌だよ? 

 

「1200mか……では、ききょうステークスの次はもう少し距離を伸ばしたところで使いたい」

 

 おっ、滝澤さんナイスゥ! 

 うんうん、短距離だけじゃなくて、もうちょっと長い距離も行ってみようぜ! 

 

「あー、ききょうの1週間前に1600mの芙蓉やコスモスがありますね。次走はそちらにしますか」

「それもあったか。いや、まずはききょうステークスでいい。ゆっくり体を作っていこう」

 

 そういうことなら了解。じゃあまずは短距離レースでしっかり地固めして行こう! 

 





1991年8月17日3R 3歳新馬 新潟芝右1000m 晴、良馬場 5頭立て 
1着 キザノハヤテ 0:58.1


当時は何回か新馬戦に出せたっぽいですね。調べて初めて知りました。ハヤテ君は未勝利戦だと思っていますが、大した違いはない……よね?
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