井川葵の友達やってます   作:嘘ドタキャン束縛カニカマ犬こんにゃく

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中学生編は各学年2〜3話くらいで書こうと思います。書きたいエピソードが多すぎるんだ。



第十話 ダンス少女とお泊まり(前)

 

 

 俺と井川の初喧嘩からしばらく経った。

 

 あの出来事以降、井川は遊ぶ時に帽子を被ってくるようになった。

 正直井川をよく知る俺からしたら変装というよりただのファッションのように見えたが、似合っているから良しと思うことにした。それに、被らないよりきっとマシだ。

 

 サングラスに関してはお互い議論を重ねた上で封印することにした。

 というのも、俺があいつのサングラス姿に笑いを堪えられなかったのだ。それに味を占めたあいつは不意打ちのようにサングラスをかけるようになり、それが悔しくてついに俺も自前のサングラスを購入。二人してお腹を抱えて転がり回った結果、両アイテムは箱に封印されて井川の家に奉られることになった。

 ちゃんと拍手と礼をした俺に、うちは神社じゃないんだけどね、なんてあいつは笑っていた。

 

 そんなこんなですっかり元通りの関係になった俺たちは今、我が家である如月家のリビングにいた。

 二人で並んで座りながら、必死になってテレビの画面に齧り付いている。

 夢中になって遊んでいるのは対戦形式のレースゲーム。俺と井川は一つしかないお高いプリンを賭けて壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

「よし、僕が一位だ。このまま勝つよ」

「させるかバーカ! 甲羅でも喰らえ!」

「くっ……それ、僕に当てるまで使わずにいたでしょ。ずるいよ。僕はずるいこととイソギンチャクは嫌いなんだ」

「とか言ってお前だって俺に寄りかかってるだろ! さっきからずっとやりにくいんだよ!」

「足が痺れちゃったんだ、仕方ないだろ。ほら、また越したよ」

「うわああああ! 間に合え! 間に合えぇッ!」

 

 特徴的なファンファーレと共に一位がゴールする。寄りかかっていた体を起こすと、井川は得意げな顔で俺を見た。

 映し出される結果は井川が一位、俺が二位。ほんの少しの差で俺は井川に追いつくことができなかった。

 

「どうやら僕の勝ちみたいだね」

「その宣言ムカつく……!」

「あはは、約束通りプリンは貰うよ」

「どうぞ味わって食えコノヤロー」

 

 ちくしょう、と呟いて俺はテレビ画面を見る。井川がプリンを食べている間、一人でもう一レース遊んでいようと思ったのだ。

 キャラクターと乗る車を選んだところで肩を叩かれる。振り向くと、目の前に井川の顔があった。

 

「なに一人で始めようとしてるの?」

「いやだってお前今プリン食べてるじゃん。大丈夫、一レースくらいならすぐ終わるから」

「いいの? 如月にはこれがあるんだけど」

 

 ほら、と言って差し出されたのは小さい袋だった。

 首を傾げながら向き直り、袋を受け取る。中にはクッキーが入っていた。

 

「今回はチョコチップ入りのやつに挑戦してみたんだ。味も見た目も僕が保証するよ」

「う、うおおお! すげー!」

 

 まるでお店で見るように完璧な見た目のクッキーがそこにはあった。

 目を輝かせて井川を見ると、あいつは悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。

 

「プリンは僕のだけど、それは如月のだ。一緒に食べようよ」

「井川、お前ってやつは……!」

 

 俺は感動していた。なんていいやつなんだ。前からお菓子づくりのおこぼれを貰うことはあったが、今回のそれはレベルが違った。

 聞くと、どうやら仲直り記念で気合が入ったらしい。そう思えば献上したプリンもなんだか悪くない気分だった。

 

 向かい合うようにテーブルに座り、それぞれおやつを食べ進める。サクサクとした食感に舌鼓(したつづみ)を打っていると、不意に井川がそうだ、と切り出した。

 

「如月、これ見たことある?」

「ん? どれ?」

 

 そう言って井川はスマホを取り出した。アイドルとしての連絡用にと買ってもらったらしい。飾りっ気のない新品のそれを見て、少し羨ましい気持ちになった。

 

「この動画だよ」

「長瀬、麻奈……? 誰?」

「新人アイドルの子なんだけどね、すごいんだ」

 

 どうやら井川が俺に見せたいのは長瀬麻奈というアイドルのライブ映像らしい。

 

 あまり人の評価に頓着しない井川がすごいというくらいだ。ダンスがズバ抜けて上手い人なんだろうか? そう思って画面を見ていると、動画が再生された。

 そして、目を見開くことになる。

 

「……!」

「あはは、すごいよね。初めてこれを見た時の莉央みたいな顔してるよ、君」

 

 ステージを跳ねるように踊り、歌う姿に息を呑む。

 歌や踊りに詳しくない俺には技術的なことはわからないが、それよりも目を惹かれる何かがこの人からは放たれていた。

 

 あっという間に曲が終わる。

 いつの間にか井川も俺の横で画面を眺めていた。

 

「……すげぇ。こんな人もいるんだな」

「この子、三枝さんが見つけた子なんだってさ」

「三枝さんが? でもあの人バンプロ辞めたって言ってたろ。確かストーカーでお縄にかかって」

「僕も隠居して壺でも作るのかと思ったんだけどね。作ったのは壺じゃなくてプロダクションだったみたいなんだ」

「へー、じゃあこの人はそのプロダクションの人なのか」

 

 ストーカー、もとい三枝信司というマネージャーが井川の所属しているバンプロダクションという事務所を辞めたのは、数ヶ月ほど前の出来事だ。

 

 その頃はちょうどLizNoirがアイドルとしての軌道に乗り出した時期で、ライブ後に突然退職宣言をされたという話を井川から聞いていた。

 そもそも、井川をアイドルにスカウトしたのは神崎さんと組ませてそのポテンシャルを引き出すためだったとかなんとか。詳しいところは知らないが、まあそんな感じのことを聞いた覚えがある。

 

 気が立った莉央を(なだ)めるのは大変だったよ、なんて呟く井川に苦笑いが溢れる。芸能界ってめんどくさそう、なんてストレートな感想が浮かんだ。

 

「キラキラした人だったな。高校生くらい?」

「確か莉央と同じのはずだよ。それより、如月はこういうキラキラして髪の長い子がタイプなの?」

「なんのタイプだよ。別に違うけど」

「……ふーん。じゃあ莉央はどう?」

「タイプとかじゃねぇ、って言うとなんか失礼な気がするな……別に普通だよ。あ、印象って意味なら神崎さんはキラキラってよりギラギラっていうか、カッコいい感じだな」

「へー。けど、僕も同意見かな。莉央はもっと肩の力を抜くべきだよ」

「その言い方で俺と同意見って言うな」

 

 全然違うだろが、とツッコミを入れてみても、あいつはよくわかっていないようだった。

 いつか致命的な食い違いをしそう、なんて将来を案じていると、じゃあさ、僕はどう? なんて問いが投げられる。

 お前はもう少し肩に力を入れとくべきだと思うと素直に伝えれば、井川は途端に不満げな顔になった。

 

「君は莉央みたいなことを言うね」

「わはは、客観的な意見ってやつだ」

 

 でも、そうだな。

 

「お前は好き放題踊ってるのが一番似合ってるよ。なんていうか、その方がお前って感じがする」

「……くすっ、そっか。僕もそう思うよ」

 

 気が合うね、とでも言いたげな井川に頷きを返し、残りのクッキーを食べ進めていく。

 

「ん、最後の一枚」

「如月が食べなよ。僕は作ってる時にいっぱい食べたから」

「ならそのプリンと交換だ。ちょうどあと一口っぽいし。それに、こんな美味しいもの食べとかないと後悔するぞ」

「……はぁ、負けたよ。はい」

「よし、交渉成立……ちくしょう、美味いな」

「あはは、それが勝利の味だよ」

「けど敗北の味の方が美味かったからいいや」

「嬉しいことを言ってくれるね。君は毎回美味しそうに食べるから作り甲斐があるよ」

「もっと作ってくれてもいいぞ。そうだな……次はプリンとかだと嬉しい」

「ちゃんと根に持ってるね」

 

 あはは、と二人して笑い合う。

 それからもあーだこーだと雑談を続け、思い出したようにゲームをしたり、流行りのおもしろ動画を鑑賞したり、飛ぶように時間が過ぎていった。

 

 

 

 ●

 

 

 

「あー、楽しい。もうこんな時間か」

「一瞬だったな。そろそろレッスンの時間じゃね?」

「うん。もう少ししたら帰るよ」

 

 騒いでいれば時の流れはあっという間で、時刻は夕方。時計の短針が5の辺りを指していた。

 

 今日は休日だが、井川はこの後レッスンがある。

 俺の両親が仕事で不在だったから家で遊んでいたが、その時間ももうすぐ終わろうとしていた。

 

「また今度来てもいい? ゲームの続きをしようよ」

「もちろん。次までに修行しとくよ」

「それは楽しみだね」

 

 ()けているテレビに映る適当な番組を眺めていると、不意に家の電話が鳴った。母親からの着信だった。

 なんとなく要件に察しをつけながら電話に出る。想像通り、伝えられた内容は至ってシンプルなものだった。

 

 曰く、父も母も仕事が立て込んでいて今日の帰りは遅くなりそうだということ。

 曰く、家に帰れるのは何時になるかわからないということ。

 曰く、夕飯は自分で買って食べてほしいということ。

 曰く、それに対して申し訳ないと思っていること。

 

 なんてことのない、よくある電話の内容だった。

 

「わかったよ、大丈夫。仕事頑張ってね」

 

 そう言って電話を切る。

 強がりや我慢なんて一つもない、心からの言葉だった。

 

 両親が多忙なのは小さい頃から知っている。そしてそれが俺や家を守るためだということも、当然わかっている。

 だから、それに対して労う気持ちはあれど不満に思うことはない。むしろ、俺のことを気遣わせてしまうことを申し訳なく思っていた。

 

 俺は全然大丈夫だ。心配なんていらない。

 

 そう唱えつつ、俺はリビングにある戸棚を開けた。

 取り出したのは一つの封筒。こういう時に使うお金が入ったものだった。

 中身を見てニヤリと笑う。よし、まだ結構あるな。これだけあれば当分は大丈夫そうだ。

 俺はこういう時に豪勢に一人でパーティーを開くようなタイプじゃないから、依然封筒の中身はたっぷり潤っていた。たまにはぱーっと大人買いをするのもアリかもしれない。

 

 今日の夕飯は何にしようかな、なんて考えていると、井川から声がかかった。すっかり放置してしまっているのを忘れていた。

 

「……どうしたの? さっきの電話から様子が変だよ」

「親からの電話だったんだけど、どっちも忙しくて今日はかなり遅くなるんだってさ。たまには夕飯にパーティーでもしてやろうかって思ってたところ」

 

 ピザでも取るか? それとも寿司? 料理はそこまで得意じゃないしな。一人焼肉、なんてのもいいかもしれない。今まで一回もやったことがないし、経験としても面白そうだ。

 わくわくしながらそんなことに思いを馳せていると、ふと井川が立ち上がった。そろそろレッスンに行く時間だった。

 見送りのために玄関に向かおうとすると、なぜか井川に阻まれる。首を傾げていると、黄金の瞳が俺を見た。

 

「如月、出掛けるよ。準備して」

「え? いや、お前これからレッスンだろ」

「それが、どうやら僕の思い違いだったみたいでさ。今日じゃなかったのを今思い出したよ」

 

 そう言って困ったように笑う井川に焦っている様子はない。どうやら本当に思い違いをしているようだった。

 

「なんだよ。ならもう少しゲームする? 門限何時だっけ」

「それもいいけど、とにかく着替えて来なよ。なんなら僕がここで脱がせてあげようか?」

「わーやめろやめろ。わかったよ、今着替えてくるからちょっと待ってろ」

 

 一体なんなんだ、と思いつつも素直に従うことにする。なんだかそうしないといけない気迫が井川から放たれていた気がした。

 わかればいいよ、なんて満足げな井川に見送られ、俺はリビングを出る。薄暗くなった廊下に電気を点けて、そのまま二階を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──もしもし莉央? 僕だよ。急で悪いんだけど、今日のレッスンは休みたいんだ。うん。()()()()()()()()()()()が入っちゃって。うん、うん。大丈夫。ありがとう。じゃあね」

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

「──で、どこに行くかと思えば」

「このスーパーはよく来るんだ。晩御飯の買い出しをするよ」

「なんでこうなった?」

 

 見渡す限りの肉、魚、野菜、惣菜、調味料、飲料。

 如月家から場所は移り、俺たちは徒歩十数分のところにあるスーパーに来ていた。

 あまりにトントン拍子に事が進むから未だに状況を飲み込めていない俺のことなど置いて、井川はどんどん店内を進んでいく。

 手に持つカゴが井川の機嫌を代弁するようにゆらゆらと揺れていた。

 

「如月、あんまり料理しないんでしょ? なら今日の晩御飯は僕が作ってあげるよ。どうせ家に誰もいないんだ。いいよね?」

「マジかよ。俺は全然いいけどさ。お前はいいの?」

「おかしなことを聞くやつだな。僕の方から聞いてるんだよ。さぁ、ついて来て」

「はいはい。で、何作るんだ?」

「カレーとかどう?」

「最高」

「くすっ、決まりだね」

 

 我ながら適応能力の高いやつだと思う。

 ここまで井川と過ごして来たせいなのか、はたまた元からこうだったのか。なんとなく、この気遣いや遠慮のない話の進み方が気持ちよかった。

 

 そこからは井川が言う材料をひたすら俺がカゴに入れていく作業が続いた。

 カレーといえばある程度使われる材料は定番化しているが、井川はその他のスパイスなんかも覚えていた。ふとした瞬間に垣間見える井川の料理スキルがなんだか面白くて、俺は小さく笑っていた。

 

「玉ねぎ」

「はい」

「じゃがいも」

「ほい」

「にんじん」

「うい」

「お肉」

「あい」

「ルウは……如月、どっちがいい?」

「辛口に清き一票」

「中辛にしておこうか」

「俺の票は?」

「ふふっ、スパイスはこれとあれを」

「笑ってんじゃねぇか。はいよ」

 

「あとは──」

 

 テンポ良く買い物が進み、カゴがいっぱいになった辺りでレジへ向かった。

 お支払いは当然俺。キメ顔ですっと大きい札を払う俺を、井川は横から呆れ混じりの笑みで見ていた。

 

 そして今。

 

「ほら、早くしないと信号変わっちゃうよ」

「ちょ、待って! 早い! ストップ! 井川ストップ!」

「あはは。君はいちいち反応が面白いね」

 

 あーあ、間に合わなかった、なんて笑う井川に恨めしげな視線を振る。

 じゃんけんで負けた俺は意外と重い買い物袋を両手に持たされていた。息をつく俺に合わせて袋もがさがさと鳴いている。この世の理不尽さを嘆いているみたいだった。

 俺も体力作りを始めるべきなんだろうか。一応部活は運動部に入っているから危機的状況というわけじゃないはずなのに、井川の身体能力を見てると自信を失いそうになる。

 そういう意味も込めてもう一度視線を振るも、やっぱりあいつは楽しそうにしていた。

 

 そうして井川に振り回されながら帰路を辿り、ようやく家にたどり着いた頃にはすっかり暗くなっていた。

 夕飯時ということもあって既にお腹はぺこぺこだ。どうやらそれは井川も同じらしく、俺たちはさっそくカレー作りに取り掛かった。

 すぐ隣でエプロン姿の井川が腕まくりをしている。

 

「なかなか様になってない? こう見えて僕は結構家庭的なんだ」

「? うん、そうだな。それで俺は何すればいい?」

「……」

 

 井川が家庭的なのはとっくに知っている。お菓子だって作っているし、小学生の頃に行った祖父の家でもそれは目にしていた。

 それでもそんな俺の返しに納得がいかなかったのか、井川は俗に言うジト目で俺を見た。変顔なのかと思って俺も薄目で井川を見ると、あいつは吹き出すのを誤魔化すように咳をした。今回は俺の勝ちらしい。出直して来な。

 

 そうこうしながら幕を上げた俺と井川のカレー作りは、思った以上に順調だった。

 俺が洗って皮剥きした野菜を井川が切り、その間に俺は鍋を沸かせたりゴミを纏めたりする。思えばこうして二人で料理をするのはこれが初めてのことだった。

 

「カッコいいな」

「台所には立ち慣れてるからね」

 

 昔は俺だけ外で薪割りをさせられたから見ていなかったが、こうして見ると井川の包丁さばきはすごいの一言に尽きた。

 かつて、井川は忙しい両親に代わり兄弟と一緒に炊事洗濯を行なっていると言っていた。その境遇に密かに親近感を感じていた部分はあったが、こうも改めて料理スキルを見せつけられるとなんだか差を感じる部分があった。

 

「……俺も料理を覚えるべきか」

「いいんじゃない? 意外と楽しいもんだよ」

 

 そこからは初心者でも簡単に作れる料理を井川が挙げていく時間が始まった。

 いろいろ言っていて正直全て覚えることはできなかったが、とりあえず今作っているカレーのレシピだけは覚えておこうと心に刻む。

 気付けば台所にはいい匂いが充満していた。

 

 そろそろかな、と小皿にカレーを少し取って味見をすれば、井川は満足げな顔でうんうん頷く。

 俺にも差し出されたそれを受け取ると、スパイスの風味が口の中に広がった。

 

「うおおお! うっっっま! すごいな井川!」

「お手のものだよ。さ、盛り付けよう」

 

 おう! と弾かれたように動き出し、収納から皿を取り出す。ちょうどそのタイミングで炊飯器が米を炊けた合図を高らかに鳴らした。

 カレーを盛り付け、ついでに買った野菜で作ったサラダも準備して席に着く。テーブルの上には普段一人の時じゃ考えられないような食事が並んでいた。

 

 いただきます、と手を合わせてカレーを食べ進めていく。何回も美味い美味いと繰り返す俺を、井川は妙に優しい目で見ていた。

 

「そんなに急がなくてもなくならないよ。おかわりだってあるんだ」

「よっしゃ!」

「カレー一つで子供みたいだな、君」

 

 井川の呟きにうるせぇ、と返しておかわりを盛り付けていく。

 自分でもテンションが最高潮に達しているのがわかる。そのくらいこのカレーが美味しくて仕方がなかった。それに、初めて俺たちだけで作った料理だ。俺の家で二人で夕飯を作るというシチュエーションに新鮮さを感じているせいもきっとあった。

 

「ふぅ、それにしてもお前も結構食べるんだな。体型とか大丈夫なのか?」

 

 一応アイドルだから色々あるだろ、なんて続ければ、井川はやけに神妙な面持ちになった。

 

「大丈夫だよ。それに、必要なのは脂肪なんだ」

「そっか……ん?」

「牛乳だって毎日飲んでる。そろそろ成長してくるはずだよ」

「井川??」

「如月も楽しみにしててよ。いつか驚かせてあげる」

「井川???」

 

 とりあえず、食後に牛乳を渡しておいた。

 

 

 

 ●

 

 

 

「はー、ごちそうさま」

「うん、ごちそうさま」

 

 その後もカレー食べ続けた俺たちはすっかり満腹になっていた。

 現在、俺はソファーでくつろぐ井川を見ながら皿洗いや片付けをしている。最初は井川も手伝うと名乗り出たが、ご飯を作ってくれた感謝もあったため休んでもらうことにした。

 洗い物は嫌いじゃないからスムーズに片付けが進んでいく。小さく鼻歌を歌っていると、隣に井川が寄ってきていた。

 

「こうして二人で家事を分担しているとなんだが変な感じがするね」

「な。二人で暮らしてるみたいだ」

「如月はいいお婿さんになるね」

「婿入りするのかよ。そこはいいお嫁さんを貰うね、とかだろ普通」

「そうかな?」

 

 うんうんとなにか考え込む井川を横目に、洗い物が終了する。二人してソファーでテレビを眺めていると、また家の電話が鳴り響いた。

 

「ご両親?」

「かも」

 

 着信相手を見れば、またもや母親の名前が映し出されていた。

 電話の内容を簡潔に纏めると、どちらも今日は帰れないとのことだった。しかし、夕飯を食べてしまえば帰って来ようが帰って来まいが特に変わりはない。

 既に夕飯を食べ終えたことを伝えれば、母は安心したような声音になった。

 

 じゃあね、と電話を切ってソファーに戻る。

 今度はなんて言われたの? と視線だけで問いかけられた。

 

「今日はどっちも帰ってこないってさ。まあ、よくあることだよ」

 

 実際、帰りが遅くなるという電話の時点でなんとなく察してはいた。だから今伝えられた内容にも「そっか」程度の感想しか抱かない。

 そろそろ井川も帰らないといけない時間だな、と時計を見れば、時刻は20時に差し掛かろうとしていた。外は闇に包まれている。

 

「ねぇ、如月」

「……今度はなんだ?」

 

 わざとらしい沈黙が続く。

 なんとなく、俺は笑いが込み上げて来ていた。井川の考えていることが伝わってきたからだ。

 そして、そんな俺を見て井川も口角を上げていく。お互いに笑いが堪えきれなくなったタイミングで、口を開いたのは井川の方だった。

 

「ふふっ、お風呂の準備をしよう」

「わはは! 言うと思った! お前泊まる気だろ!」

「察しがいいね。満腹になったらなんだか帰るのが面倒になっちゃってさ」

 

 泊まらせてもらうけど、いいよね? なんて。

 まるで決定事項のように宣言するから、俺も同じくらい弾んだ声で高らかに返した。

 

 

「おう!」

 

 

推しグループは

  • 月スト!
  • サニピー! サニピー!
  • トリトリトリエル
  • LizNoir
  • ⅢX
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