井川葵の友達やってます   作:嘘ドタキャン束縛カニカマ犬こんにゃく

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 友人(親友)枠を放り込むネタ、葵の "一問一答" 見た時から書いてみたかったんだ。



第二話 ダンス少女との出会い

 

 

 

 俺が都会に引っ越して来たのは小学四年生の頃だった。

 

「これが、都会……」

 

 コレガ、感情……なんて、人に触れてココロを覚えたロボットのようなことを考える。当時の俺はそういった内容の映画にハマっていた。

 

 俺の親は俗に言う転勤族というやつだった。

 今までも頻繁に引っ越しを繰り返していて、山から海から、色々な街で暮らしていた。しかし自然に囲まれることは多かったが、都会で暮らしたことは一度もなかった。

 何回繰り返しても引っ越しの後は新鮮な気持ちになるもので、多少心配されつつも俺は家を出て周囲を散歩することにしたんだ。

 

 俺はひたすら歩いた。方向感覚はしっかりしている自覚があるから、家から離れすぎない程度の距離をマップ埋めの感覚で散策した。

 テレビ画面の向こうでしか見たことがなかったビル群が遥か天まで聳え、巨大な交差点は数え切れないほどの人で溢れかえる。

 今まで体験したことのない非日常感と、これからここで暮らすんだという高揚感が体を支配したのを覚えている。

 

 都会は感動の連続だった。

 

 例えば、大きな道はひたすら大きいのに、少し路地に入れば嘘みたいに狭くなったり。

 例えば、ふと上を見ると四角い空が広がっていたり。

 例えば、何気ない標識に知っている有名な地名が書かれていたり。

 

 都会暮らし初日にして、俺はこの場所を満喫していた。

 今思えば全て可愛らしい発見だが、まだ子供だった心には本気で響いていた。

 

 とはいえ、小学生が歩いて行ける範囲などたかが知れている。

 疲れが出てきた俺は、たまたま見かけた公園で休んでから家に帰ろうとした。こんなにビルだらけの都会にも公園はあるんだな、なんてことを考えながら中に入る。それが始まりだったんだ。

 

 少女が踊っていた。

 

 誰だろう、とか、なんで踊ってるんだろう、なんて疑問は不思議と浮かんでこなかった。

 ただ、踊っている。まるでそれが当然といわんばかりの姿に呑まれ、俺は無言で少女に近寄った。

 

 俺の接近に気付いていないかのように少女は踊り続ける。よく見ると目を瞑っていた。

 あまりダンスには詳しくないが、ステップを踏み、ターンをし、腕を振る。その様があまりに自由で、楽しそうで。

 

 俺は歌い出した(唐突)

 

「!?」

 

 少女は見るからに驚愕していた。

 踊っていたらいつの間にか目の前に知らない男子がいて、しかもそいつが突然歌い出したんだ。当たり前だった。というか当時の俺頭おかしいよ。なにしてんだよ。

 

 そんな奇行を前にしても、しかし少女は踊るのをやめなかった。

 むしろ俺の出鱈目な歌に合わせて踊っていた。ちなみに俺が歌ったのは親の車で流れていた名前も知らない曲だった。

 混沌(カオス)な時間が過ぎていく。やがて俺が歌い終わると、少女もそこで踊りをやめた。

 

 少女から誰? とでも言いたげな視線が向けられるが、俺はそれを無視して拍手をした。そんなこと考えている余裕が俺にはなかった。

 あるのはただ感動のみ。まるで一流のパフォーマンスを見た後のような気分だった。それくらい少女の踊りに目を、心を奪われていた。

 

「すっげぇ……!」

「そ」

 

 交わした言葉はそれだけ。その時はそれだけで満足だった。

 その後は特にエピソードはなく、俺は公園を出て帰宅した。最後に振り返った時、少女は再び跳ねるように踊っていた。

 すげぇ、なんてタメ口使っちゃったけど年上だったらどうしよう、なんて小さいことを気にしながらその日俺は眠りについた。

 

 この少女と今後も関わり続けることになるなんて、その時点の俺は考えもしなかった。

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 翌日。

 俺は転校先の小学校の廊下に立っていた。先生が呼んだタイミングで中に入るように指示されたため、ぼーっと窓の外を眺めている。

 

 転校に対する緊張感はない。そんなものとうに感じなくなってしまった。わはは、俺のメンタルはダイヤモンド並みにかちかちだぜ、なんて当時は考えていたが、今思えば衝撃で壊れやすいある意味貧弱なメンタルを誇っていた。

 

「如月さん、入ってください」

 

 先生に呼ばれたため、ガラガラと横開きのドアを開いて教室に入る。前まで住んでいた場所が田舎だったのもあってか、物珍しさを含む視線が集中した。

 

「初めまして、如月です。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。如月さんは何か好きなものや嫌いなものはありますか?」

「え、うーん……好きなものはゲームで、嫌いなものは勉強です」

「ははは、みんなでたくさん勉強しましょうね。じゃあ如月さんはあそこ、後ろにある席に座ってください」

「はい」

 

 この時の俺は真面目に自己紹介をする気がさらさらなかった。だって、どうせまたいなくなるんだ。みんなと仲良くする気がないわけじゃないが、無難な挨拶を選んだのは確かだった。先生もある程度事情を知ってか、そんな俺をフォローするように質問を投げかけたんだろう。

 

 そして指を指された席に向かうと、どこか見覚えがある少女が隣に座っていた。

 

()()()()、如月さんはわからないことだらけだと思うから色々教えてあげてね」

「ええ……」

 

 横を向くと、明らかに嫌そうな顔をしている少女と目が合った。というか、そいつは昨日公園で踊っていた少女だった。

 

「なあ、昨日公園で踊ってなかった?」

「踊ってたけど。それが何?」

「昨日見かけたから。ダンス、すごかったな」

 

 やっぱり昨日の少女だった。まさか同じ学校だったとは。しかもなんの偶然か同じ学年の同じクラスだ。

 普通なら何か運命的なことを考えるのかもしれないが、俺はとりあえずタメ口()いた相手が年上じゃなくて安心していた。

 

「……ああ、思い出した。君は途中でいきなり歌い出したヤバいやつか」

「おい言い方。否定できないけどさ」

「まさか転校生だったとはね。さてはストーカー?」

「ちげぇよ」

 

 ちげぇよ……いや本当に。本当だからそんな目でこっち見んな。

 

「ま、なんでもいいけどさ。先生にも言われちゃったしわからないことは聞いてよ。面倒だけど教えてあげる」

「正直なやつだな、お前」

「よく言われるよ」

 

「こらそこ、打ち解けるのはいいけど静かにね」

「「……はい」」

 

 君のせいで怒られたじゃないか、とでも言いたげな視線を向けられるが、それはこちらの台詞でもあるので『いーっ』と歯を出して威嚇しておいた。ふんっ、転校生だからって甘く見るなよ。

 

 とまあ、そんな感じで良好とは言えないスタートを切った俺の小学校生活だったが、思ったより苦労は少なかった。学校のことは大抵聞けば井川が教えてくれたし、勉強についても特に前の学校と範囲は変わっていなかった。

 もしかしたら文化や流行りが違うかも、なんて心配も杞憂に終わり、田舎も都会も同年代に大した違いはないんだと知った。

 

 そんなこんなで授業中。俺はせっせと板書された内容をノートに写していた。

 鉛筆を動かしていると、隣の井川が口を開いた。

 

「最初に勉強嫌いって言ってた割にはちゃんと授業受けるんだね。寝てばっかりなのかと思ったよ」

「本当は嫌だけどね。つまらないし。そっちこそダンス以外に興味なさそうなのにちゃんと受けてるじゃんか」

「僕だって退屈してるよ。本当はすぐにでも踊りたくてうずうずしてるんだけどね」

「踊っちゃえよ。大丈夫、庇ってやるから」

「今君が一曲歌ってくれるなら踊るよ。信じていい。僕は嘘とこんにゃくは嫌いなんだ」

「フッ……国家、斉唱──」

「ぷっ、ふふっ……」

 

 俺と井川はいつの間にか軽口を叩き合うようになっていた。そのせいで先生に怒られることも多いが、それも含めて楽しくて仕方がなかった。井川も転校当時より笑うことが増えたように思う。あんまり笑ったりふざけたりしないタイプだと思っていたから、こういうくだらない事で笑い合えるのがどうにも嬉しかった。

 

 ちなみにこの後二人でしっかり注意された。井川は当然のように裏切った。許さない。

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 ある日、学校が終わってあの公園に行くとすっかり見慣れた姿があった。

 どうせまた集中して踊ってるんだろうな、なんて思いながら俺は近くのベンチに座った。

 特に目的があって来たわけじゃないため、ただぼーっと空を眺める。耳に届く井川がステップを踏む音が妙に心地よかった。

 

 不意に聞こえていた音が止んだ。向くと、ラフな服装の井川が手を振りながら近づいてきていた。

 

「やあやあ。また会ったね」

「やっほー。よくここで踊ってんの?」

「特に決まってないよ。僕は踊りたくなった時に踊ってるだけだし」

 

 でも、そうだな、と井川は続けた。

 

「なんだか今日は無性にここで踊りたい気分だったんだ。そしたら君が来た」

「虫の知らせ的な?」

「君の方が虫かもね…………なにか言いなよ」

「無視だけに、ってな」

「ふふっ……つまらないよ、それ……ふっ」

「はいお前の負けー」

 

 堪えるように笑う井川につられないよう、こっそり奥歯を噛み締める。ここで俺まで笑ったら格好がつかないと思った。

 

「あーあ。君といると退屈しないよ。まさかこんなに面白いやつだったなんてね」

「俺もお前がこんなにツボの浅いやつだとは思わなかったよ」

 

 お互いに素直な気持ちを吐き出し合う。俺の隣に腰を下ろした井川は眩しそうに空を見ていた。つられて俺も上を向く。すっかり見慣れた四角い空だった。

 

「そういえばさ、君はいいの?」

「なにが?」

「他の人たちと遊ばなくていいの? って聞いてるんだよ。いつも僕と一緒にいるだろ、君」

 

 僕はなんでもいいんだけど、気になってさ。なんて、井川は空を見たまま言った。

 

 思い返してみると、確かに俺は教室でもそれ以外でも井川といることが多かった。

 

 もちろん他のクラスメイトとも遊ぶことはあるし、何度も放課後に遊びに誘われている。

 明るいやつ、愉快なやつ、怒りっぽいやつ、真面目なやつ、頭脳派なやつ。クラスにはいろんなやつが沢山いた。

 でも、何か物足りないんだ。他のやつらと遊んでいても、ここに井川もいればな、なんて事を考えてしまう。

 もちろん井川がそうやって大勢で遊ぶようなタイプじゃないのはわかっている。こいつは一人で自由に踊ることが好きな変わり者だ。

 

 だから、そう。俺がこいつと一緒にいるのは本当にシンプルな理由で。

 

「お前と遊んでるのが一番楽しいからいいんだよ。なんて言うか、気楽なんだ」

 

 気楽。その一言に尽きた。

 井川のなにが俺にそう感じさせているのかはわからない。性格なのか、容姿なのか。なんにせよ、井川葵という友人と過ごす時間が俺は何より好きだったのだ。

 まだ付き合いも短いのにな、なんて考えて不思議な気持ちになった。

 

「変わり者だね、如月は」

「わはは、お前もな」

「? そうかな? 僕は変わってるとは思わないけど」

「そういうところを言ってんだよ変わり者」

 

 突っ込みながら俺は笑い出した。当の井川はなんでかわかってないようだったが、笑う俺を見てうっすら頬を緩めていた。

 そうこうしていると、不意に井川が立ち上がった。

 

「また踊るのか?」

「うん、君といたら踊りたくなったんだ。一緒にどう?」

「え、しゃるうぃーだんすってこと?」

「それもいいけど……違うよ。また君に歌って欲しいんだ」

「よし、そういうことならとっておきを披露してやる」

 

 井川が踊り、俺が歌う。

 そんな穏やかな放課後が今日も過ぎていった。

 

 

 

 ● ○ ● ○

 

 

 

 それからの時間の流れはあっという間で、気付けば数ヶ月の月日が経っていた。俺と井川は相変わらず一緒にいることが多く、その仲はさらに気安いものになっていた。

 転校して来てから何度も席替えをしたが、何の偶然か俺と井川の席が近くなることが多かったのも影響しているだろう。

 俺が前、井川が後ろになった時はしょっちゅう背中にイタズラをされ、逆の立場になればやり返しが始まり、再び隣の席になった時にはお互い「またお前(君)か」と苦笑いが浮かんだ。

 

「おい井川、次黒板消すのお前だぞ」

「そうだっけ? 後でやっておくよ」

「今やれ! お前そう言ってこの前も俺のせいにしただろ!」

「めんどくさいなぁ……」

 

 ある日は日直の仕事をサボる井川をしばき。

 

「如月、次の授業理科室だよ。起きて」

「ん……もうちょい……」

「間に合わなくても知らないよ。僕はもう行くから」

「んー……」

…………はぁ、仕方ないな

 

 ある日は授業に遅刻して二人とも叱られ。

 

「お前、本当にこんにゃく嫌いだったんだな」

「僕が嘘をついてると思ってたのかい? そうしないと世界が滅ぶくらいにならないと僕はこんにゃくは食べないよ」

「目が本気すぎるだろ。食べないなら俺にくれよ、こんにゃく好きだし」

「……正気? じゃあ、はい。代わりにその揚げパンは僕が食べてあげるよ。残ってるし嫌いなんだろ?」

「好きだから残してあるんだよ……っておい! パン返せ! 井川! パン! うわあああああああ!」

 

「「「「そこうるさい」」」」

 

 ある日は給食中に大騒ぎしてまた怒られた。

 

 そんな馬鹿馬鹿しくも楽しい日々が毎日続き、俺と井川はすっかりセットで扱われるようになっていた。

 何をしても「またあの二人か」で片付けられる。それについて井川は納得していないようだったが、俺的には納得しかしていなかった。それくらい俺たちは二人でいることが多かった。

 

 秋が過ぎ、冬になり、年が明け、新学期が始まり、それもまたすぐに終わる。

 春休みを終えた俺たちに待っていたのはクラス替えだった。卒業までのクラスが決まる一大イベントだ。

 生徒玄関の前に張り出された紙を、俺と井川は遠目で眺めていた。

 

「すごい人だかりだね。早く見ても遅く見ても結果は変わらないのに」

「なー」

 

 気の抜けた返事だった。

 

 井川の言う通りだ。クラス替えなんて最初から結果は決まっている。それが望み通りだったかそうじゃないかで一喜一憂するなんて下らない、馬鹿馬鹿しいと、そう思っていた。

 今までの俺なら。

 

「けど、気持ちはわかるな」

「……ふーん」

 

 またいつ転校することになるかなんてわからない。

 そんなの親の都合で、俺にはどうしようもないことだ。だから、これからの話なんてしても仕方がない。

 でも、それでも。

 たとえいなくなるとしても、それまでの間でいいからまたこいつと騒がしい日々を送りたい。同じクラスになりたい。

 そう思ってしまう程度には、俺は井川に気を許してしまっていた。

 

 そんな俺の内心などつゆ知らず、井川は興味なさげに呟いた。

 

「そろそろ空いてきたね」

「俺らも行くか」

 

 玄関に向かって近づいて行く。今年から五年生になる俺たちは、五年一組、五年二組と書かれた紙の中から自分の名前を探し始めた。

 

「き、き、如月……っと、二組か」

 

 どうやら俺は二組らしい。

 ついでに井川の名前も探そうと視線を動かしていると、隣から手を引かれた。

 

「なんだよ。俺は二組だったけど、そっちは?」

「奇遇だね。僕も二組だったよ」

 

 また一緒か、なんて井川は笑った。

 そう言われて紙を見直すと、俺の数個隣に確かに井川の名前があった。なんとも言えない高揚感が体を支配した。

 

「不思議だね。クラス替えでこんな気持ちになるのは初めてだよ」

「こんな気持ち?」

「……うん。なんというか、こう、悪くない気分だ。君は?」

「俺もだよ。また先生に怒られまくるんだろうな」

「君のせいでね。いい加減にして欲しいよ」

「お前のせいでもあるんだよ。いい加減にしてくれ」

「ぷふっ、あはは」

「わはは」

 

 俺たちはひたすら笑い合った。

 もっと面白いことなんていくらでもあった筈なのに、何故か笑いが止まらなかった。

 

 こうして俺と井川の長い長い友人関係は始まった。

 

 




■如月くん
本作主人公。大人しい系かと思ったら意外と騒がしくて周囲からギャップを感じられていた。

■井川葵
本作ヒロイン(?)。如月とは意外と気が合った。

■先生
最初は如月を心配していた。なお最初だけ。

推しグループは

  • 月スト!
  • サニピー! サニピー!
  • トリトリトリエル
  • LizNoir
  • ⅢX
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