井川葵の友達やってます   作:嘘ドタキャン束縛カニカマ犬こんにゃく

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 フェス限か新年限定キャラで葵来てくれ〜〜〜運営頼む〜〜〜(土下座)



第七話 莉央の悩み

 

 

 

 神崎莉央は悩んでいた。

 

 はぁ……と、どことなく物憂げなため息が宙へ溶けていく。今日一日で何度も繰り返していたことだった。

 もちろん莉央も年頃の乙女だ。年相応の悩みは当然あるし、最近幅の増えたアイドルとしての仕事についても考えることは多い。

 新生LizNoirになってしばらく経ったとはいえ、未だ後輩たちにも手を焼いている。特にこころに関しては大分慣れたとは思うが、日頃からなにをしでかすかわからない爆弾を抱えている気分だった。この前だってレッスン直後の私の動画を勝手にSNSに載せて……なんて、苦虫を噛み潰したような表情で回想する。

 ファンからの反応は良かったからまだいいが、いつか本当にLizNoirとして致命的な失態を犯しかねない気がする。

 後輩たちに助けられている部分は確かに多いが、限度を覚えさせないといけない。また一つため息がこぼれた。

 

 しかし、そうではない。

 それも悩みの種ではあるのだが、本命は違った。

 莉央が抱えている悩みとは、莉央にとって最も大切なパートナーのこと。長年ずっと支え合って活動してきたかけがえのない相棒、井川葵についてだった。

 

 最近の葵はいつにも増して気合が入っている。

 以前から時々スイッチが入ったように熱中することはあったが、先日のライブツアー中は特にそれが感じられた。

 付き合いが長いとはいえ、基本的に自由で気ままな葵のことを全て理解している訳ではない。それでも莉央なりに葵の理解者でありたいと、パートナーでありたいと思っていた。

 だから、何が葵を熱くさせているのかを知りたい。純粋な興味も含めてそう感じるのは自然なことだった。

 そして莉央はそのことについて過去に一度、葵に聞いたことがある。ある日のレッスン終わりのことだ。

 

『葵、今日はやけに熱が入っていたわね。何かいいことでもあった?』

『? 別になにもないよ。あ、今日は占いで一位だったかも』

『なによそれ』

『ちなみに莉央は最下位だったよ。大丈夫、ラッキーアイテムはタオルだ』

 

 ほら、と言って愛用のタオルを差し出される。莉央は微笑みと共にそれを受け取り汗を拭った。ついでにはい、と渡された水で喉を潤し、わいわいと騒ぐ後輩たちを横目にクールダウンをすれば気分はどこか清々しい。事務所を出て、そのままみんなで食事に──

 

(──って、なにやってるのよ私!)

 

 神崎莉央、22歳。無性に叫びたくなった。

 

 結局なにもわかっていないじゃないか。もう少しこう、踏み込んだところまで聞くつもりだったのに。わかったことは占いの結果とラッキーアイテムだけだ。別にそんなことを知りたかったわけじゃないと、莉央は過去の己を叱責した。

 まあ、それはいい。理由はともあれレッスンやライブに熱意を滾らせるのはいいことだ。だから、過去に何度もあった葵のスイッチが入る現象を見送ってきた。

 そう、いいことだったのだ。今までは。でも、今回はそれが揺らいでいる。莉央の空のように広く、海のように底知れない悩みの種はそこにあった。

 

 事の始まりは先週のオフの日まで遡る。

 

 

 

 ●

 

 

 

 その日、莉央はカフェでパンケーキを食べていた。

 ライブツアー後の久々のオフということもあって、目をつけておいたパンケーキの美味しいカフェで休日を満喫していたのだ。

 ツアーファイナルのライブを最高の形で終えられたことに対する達成感と高揚感が胸を離れない。新体制になって以降、日々成長を重ねているLizNoirが魅せられる最高を魅せることができたと、心から思っていた。

 

 応援してくれているファンのことを考えると胸が熱くなる。

 一緒にステージに立っているメンバーのことを思うと未来への期待が膨らむ。

 そして、心からの労いの言葉をかけてくれるマネージャーのことを想うと──

 

(いけない。気が緩みすぎているわ)

 

 だらしなく上がりそうになる口角を抑え、運ばれてきたパンケーキを口に運ぶ。

 莉央のスマホが震えたのはその時だった。

 

「こころ?」

 

 なにかしら。そう心で呟いて、多少行儀が悪いとは思いつつも片手間にメッセージアプリを開いた。

 

『りおさん』

『莉央さん』

『たいへんです』

『大事件です』

『一大事です』

『葵さんが』

 

「……葵が?」

 

 こころらしくない焦っている様子で大事件だと伝えられ、パンケーキに伸びていた手が止まる。

 最高のコンディションと最高のタイミングでパンケーキを食べることを信条としている莉央が手を止めた。それほどの重要性がこのメッセージにあった気がした。

 これでいつものおふざけだったら許さない。そう思いながら莉央はメッセージを返していく。

 

『なにがあったの?』

 

『大変なんです』

『葵さんが』

『葵さんが男の人と二人で手を繋いでいたんです!!!』

『スキャンダルですスキャンダル!!!』

『熱愛報道間違いなしですよ!』

 

「はぁ!?」

 

 咄嗟のことに声が出てしまい、周囲のお客さんに謝罪を入れる。が、莉央の内心はそれどころではなかった。

 

(葵が男と二人で!? 手を繋いでいる!?)

 

『どういうこと』

 

 すっかり食い入るように液晶を見つめていた。

 なにか(ろく)なことじゃない気がする。莉央は背中がひやっとする感覚に襲われた。

 以前から葵は男性に対する警戒心が薄すぎる節があった。二人でLizNoirを結成した当初だって、控室に訪れた三枝さんの目の前でスカートを脱ごうとしたくらいだ。海に行った時はナンパについて行こうとするし、街を歩いていても「あれは僕のファンだ」なんて言ってすぐについて行こうとする。

 莉央としては正直たまったものじゃなかった。しっかり見張っておかないとどうなるかわからない。自由な葵の、自由すぎるが故の欠点だった。

 

『私もなにがなんだかわかりません』

『駅前で見かけたんですけど、すぐ見失っちゃいましたし〜』

『ただ、葵さんからその男性の手を掴んで連れて行ったような……?』

 

「どういうことなのよ……」

 

 頭がこんがらがりそうだった。ただ、やはり碌なことじゃないのは確かだ。

 

『なにかあったら教えて』

 

 それだけ伝えて莉央はスマホを置く。

 テーブルの上のパンケーキは冷たくなっていた。

 

 

 

 ●

 

 

 

 思い返しても頭が痛くなる。莉央は手を頭に添えた。少しでもこの頭痛を抑えようという意志が現れた行為だった。

 

 あの後、莉央は気が気じゃないままパンケーキを食べ進め、さりげなく駅の方を経由してから帰宅した。

 もやもやした気持ちを晴らそうとランニングをしてみるも、気持ちが晴れることはない。それに何故だか葵に事実を聞こうという気持ちにもなれず、当たり障りのないメッセージの応酬をして晴れない気分のまま眠りについた。

 どうして私がこんなに悩んでいるのよ、なんて文句が溢れるのも仕方がないことだった。

 

 オフが終われば再び仕事とレッスンの日々が始まる。

 未だもやもやした気持ちを抱えたままとはいえ、それで仕事のパフォーマンスに影響を及ぼす莉央ではなかった。如何(いか)なるコンディションであっても彼女のアイドルとしてのプライドが妥協を許さない。

 しかし、少しまずいかもしれない。そう思ってしまう出来事が先日に続き舞い込んできた。

 

 それは数日前のこと──。

 

 

 

 ●

 

 

 

 その日も莉央はカフェでパンケーキを食べていた。

 先日のオフでは思わぬ事態によってパンケーキを堪能することができなかったため、仕事の合間の時間に口直しに訪れたのだ。

 未だこころが見たという葵ともう一人の男の件については何もわかっていない。当の葵は普段通りの様子でレッスンに顔を出しているから、周りだけが勝手に意識して振り回されている状態だった。

 

「はぁ……」

 

 いけない。そのことは一度忘れて息抜きをしようと決めたはずだ。

 思わず溢れてしまったため息にはっとなり、莉央は意識を切り変える。ちょうど運ばれてきたパンケーキだけに集中しようとした。

 莉央のスマホが震えたのはその時だった。

 

「愛?」

 

 なにかしら。そう心で呟いて、莉央は猛烈な嫌な予感に襲われた。

 デジャヴを感じる。そう、まるで先日のような──

 

『お疲れ様です!』

『ちょっとご相談したいことがありまして』

 

『……どうしたの?』

 

 ごくり、と唾を飲む音がする。悲しいのは、それが目の前のパンケーキに対してのものではなく、愛からのメッセージに対してのものだということだ。

 僅かな緊張が莉央を支配していた。

 

『私、見ちゃったんです』

『葵さんが』

『葵さんがレッスン室で男性の方と電話しているところを!』

 

「はぁ!?」

 

 またもや咄嗟のことに声が出てしまう。周囲のお客さんに流すように謝罪を入れ、莉央は液晶を食い入るように見つめた。

 

『どういうこと』

 

『この前のレッスン終わりにレッスン室に忘れ物をしちゃって、取りに戻ったんです』

『そしたら葵さんがまだ残っていて、、』

『電話をスピーカーにして誰かと話していたんです』

 

 汗をかいて震えるナルトのスタンプが送られてきて、考える。さっきは驚いて声が出てしまったが、今の莉央は冷静そのものだった。何故か得意げな笑みさえ浮かべている。

 

『お兄さんや弟さんじゃないのかしら?』

 

『私も最初はそう思ったんですけど、どうも違うというか、、』

『葵さん、すごく楽しそうだったんです』

『リズノワの時とは違う感じでずっと笑ってたんです』

『相手の方に君がマネージャーだったら面白いだろうね、って』

『盗み聴きなんて良くないってわかってるんですけど、つい聞いてしまって』

『あああ、私は一体どうすれば!』

 

 莉央から笑顔が消えた。僅か数秒の出来事だった。

 この事、葵さんには秘密でお願いします! というメッセージと共にごろごろ転がるナルトのスタンプが送られ、そこで会話が途切れた。

 

「……なんなのよ」

 

 さまざまな感情が混ざり合った呟きだった。

 街で二人でいるだけじゃなく、連絡先も交換している相手……? 

 誰なんだろう。会話からして兄弟でもマネージャーでもない、葵に近い男の存在。そんな人物のこと、莉央は聞いたことがなかった。稀に葵が話題に出す友人はいるが、それは()()()()()()だろうし。

 なにがなんだかわからない。それが現時点で出せる精一杯の結論だった。

 

(葵、貴方は一体……)

 

 莉央はそこで考えるのをやめた。

 テーブルの上のパンケーキは、やはり冷たくなっていた。

 

 

 

 ●

 

 

 

 改めて振り返ってみて、ここ最近の出来事は散々なものばかりだ。鬱屈とした気分を誤魔化すようにため息が口から逃げていく。完全に無意識の行為だった。

 

 こころは言っていた。葵が男と二人で手を繋いでいたと。

 愛は言っていた。葵がレッスン室で恐らく兄弟以外の男と電話していたと。

 

 莉央が実際にそれらの瞬間を目にしたわけではないが、莉央の中である確信めいたことがあった。

 

(葵に近づいている男がいる)

 

 思えば、葵は以前から時折スマホを眺めて頬を緩めている時があった。それが何に由来するものなのか気にしたことはなかったが、今回の件と全くの無関係ではないのかもしれない。

 では、もし仮に。葵に近づく男がいたとして、どうすればいいのだろう。

 というか、その男は一体誰だ? 葵のファン? それとも全くの他人? 一応LizNoirは世間で名の知れたアイドルだ。ファンじゃなかったとしても認知されていて不思議はない。

 

 もし、その男が悪質なファンだったら。

 もし、葵がその男に騙されていたら。

 もし、上手く懐に入り込まれて葵が酷いことをされたら。

 もし、もし、もし──。

 

 嫌な想像ばかりが頭を回る。莉央なりに大切な葵を守りたい。でも、そこに踏み込むためのあと一歩の勇気が出せずにいた。

 最も最悪なパターンは葵がその男に依存させられている場合だ。男が悪質なタイプだったとして、葵を守ろうとする行為事態が葵に拒まれる可能性もある。

 

「あー、もう!」

 

 ダメだ。思考が固まっている。私の勝手な憶測だけで話を進めるのはよくないことだ。熱くなって視野が狭くなっていた。

 これではいけないとかぶりを振り、深呼吸をした。

 結局、一人で考えたってなにもわかりはしないのだ。思い浮かぶそれはただの想像でしかないのだから。

 

「お待たせいたしました。オリジナルブレンドコーヒーになります」

「……っ、ありがとうございます」

 

 コーヒーが運ばれてきてはっとなる。

 そうだ、ここ最近はパンケーキを楽しめていなかったから、今日は楽しみに来たんだった。すっかり思考の海に潜ってしまっていた。

 今いるのは半年ほど前にできた大人気カフェ。日替わりのパンケーキがどれも絶品で、どの時間も混雑すると話題の有名店だった。

 

 これ以上悩んでも仕方がない。そう気持ちを切り替えると、店員さんと目が合った。

 

「あの、何か?」

「いえ、すみません。パンケーキの方、もうしばらくお待ちください」

 

 柔らかい笑みを浮かべてその男性店員は戻っていく。

 店は人で賑わっていて、どの席も埋まっている。莉央は外のテーブル席に座り、パンケーキを待ちながらただ肌を撫でる風を感じていた。

 

 しばらくそうしていると目当てのものが運ばれてきた。

 今度こそ最高のタイミングで食べるのよ。そう心で決め、ナイフをパンケーキに入れていく。連日のことで少しむきになっている莉央は、スマホをマナーモードにして通知を遮断していた。

 パンケーキを切り取って口に運べば、果物の酸味とケーキの甘さが口いっぱいに広がった。

 

「〜♪」

 

 自然と上機嫌な声が出る。

 これだ。この瞬間を莉央は心待ちにしていたのだ。ここ最近味わうことができていなかった感覚だ。幸せの味。今はそれだけを噛み締める。

 パンケーキもさることながら、コーヒーも美味しい。甘さに調和するような苦味が舌に広がり、これだけで無限に食べ続けられそうだった。

 すっかり夢中で飲みきってしまったため、コーヒーのおかわりを注文することにする。席に来たのは先程の店員だった。

 

「コーヒーのおかわりですね……お口に合いましたか?」

「ええ、驚いたわ」

「そうですか、よかったです」

 

 途端、店員さんはほっとしたように息を吐いた。その姿がなんだか素直で微笑ましい気持ちになる。

 おそらく年下の高校生、葵と同じくらいの歳だろうか。

 

「これは貴方が?」

「はい。まだまだ勉強中ですが、淹れさせていただきました」

「そう。とても美味しかったわ。同じものをお願いします」

「かしこまりました」

 

 恭しく礼をして、彼は店内へ戻っていく。

 

 丁寧な人だな、と思った。

 こういったカフェで働いていることもあって身なりは清潔感があり、整っている。言葉遣いもきちんとしていて、所作や姿勢もスマートだ。彼自身の性格もあるのだろう、そこに年相応の素直さが加わって人を惹きつける。

 少し見ていれば、彼は他のお客さんにも同じように接していた。温かい雰囲気が店を包む。人気の理由はパンケーキの味だけではないのかもしれない、なんてことを思った。

 

(いいお店ね)

 

 気付けば莉央の頬も緩んでいた。

 今度葵たちも連れて来よう。そう思うと胸のもやもやが少し晴れていく気がした。

 

 




■パンケーキ
LizNoirの不動のセンター。ぽんこつ。

推しグループは

  • 月スト!
  • サニピー! サニピー!
  • トリトリトリエル
  • LizNoir
  • ⅢX
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