井川葵の友達やってます   作:嘘ドタキャン束縛カニカマ犬こんにゃく

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葵&怜フェス限おめでとーーー! 推し2トップだったので満面の笑みで確保しました。



第八話 ダンス少女と親友

 

 

 俺の密かな趣味の一つとしてスイーツ巡りがある。

 

 王道のケーキに始まりタルト、ブリュレ、カステラ、マカロン、カヌレ、クッキー、クレープなどなど、挙げ出すとキリがないほどその種類は多種多様で、それらを堪能することが欠かせない生活の一部と言っても過言ではない。

 過去に転々と暮らしていた田舎ではそういった店は少なかったが、今住んでいるここは都会。スイーツの専門店がこれでもかと立ち並んでいて、日々の癒しを求めて立ち寄ることは多かった。

 

 そんな俺の嗜好だが、なにも最初から甘味にまみれた頭をしていた訳じゃない。

 これは元を辿るともうかれこれ8年の付き合いになる愛すべき友人、井川葵による影響が大きかった。

 

 食べる方を趣味にしている俺に対して、あいつは作る方を趣味にしている。昔から、それこそ小学生の頃からよくクッキーなどを作っては俺に食べさせてくれていた。何故突然おかし作りに目覚めたのかは井川のみぞ知るところだが、とにかく最初はズタボロのものを配られたのをよく覚えている。

 しかしそこは井川。勘やセンスに頼るところは大きいが基本的に要領がいいあいつは、数ヶ月もすれば雑誌に乗っている完成イメージと遜色ないレベルのものを作れるようになっていた。

 とはいえ俺に渡されるのは毎回あまりのあまり、形の悪いものやクラスの友達に渡し終えた残りもののことが多かった。

 俺をなんだと思ってるんだ、とは思いつつ、それでも人からなにかを渡されるのは素直に嬉しかった。なんなら他のみんなとは違うものを貰っていることに特別感を覚えていたくらいだ。我ながらポジティブな頭である。

 

 とまあ、そんなこんなでお菓子を食べさせられ続けた俺はすっかりスイーツにハマってしまい、高校生になった今でも個人的に店に買いに行くことが多かった。バイト先だってカフェにしているくらいだ。もはや生粋のスイーツファンである。

 それでも井川が作ってくれるものが一番美味しいだなんて、友人の贔屓目が過ぎるだろうか。決して本人には言えないことだった。

 

 そんなこんなでぼーっと黒板を眺めていれば授業が終わり、放課後の時間が訪れる。クラスメイトとの雑談も程々に教室を出た俺は、帰宅するべく昇降口へと向かっていた。

 

「……お腹すいたな」

 

 どこかへ寄って帰ろうか。今日はバイトもないし時間は空いている。

 前から行ってみたかったシュークリームが有名な店にでも行くか? うん、アリかもしれない。少し遠いけど散歩だと思えばちょうどいい。よし、そうと決まれば行こう。

 この後の予定を即決しながら靴を履き替えて昇降口を出る。

 学校の喧騒を背に足を進めながら、俺はふとスマホを取り出した。

 

『放課後のお供募』

 

『この後レッスンだからまた今度ね』

 

 振られた(傷心)

 

 まあそうだよね。レッスンだよね。

 断られる前提で誘った部分もあったため、号泣する犬のスタンプだけスッと送り画面を閉じる。耳にイヤホンを突っ込んだ俺は黙々と目的地を目指した。

 

 今や腐れ縁のような関係の俺と井川だが、なにもしょっちゅう一緒にいるわけではない。小学生や中学生の頃はクラスが同じになることもあって一緒にいることが多かったが、高校になればそれもなくなる。井川は月出、俺は別。さらにあいつはアイドルの仕事もあって忙しいからなおさら一緒の時間というのは少なかった。

 それでもこうして俺から唐突にメッセージを送ることはあるし、井川から電話がかかって来ることもある。顔を合わせることは減ったものの、交流自体は途切れることなく続いていた。

 

 一度は途切れかけた縁なのになぁ、なんて、少しセンチメンタルな気持ちになる。

 ふと、灰色が聳える空を眺めた。嫌になるほどの晴天だった。

 

 そうしてしばらく歩いていると目的の店にたどり着く。ドアを開けると甘い匂いが出迎えた。

 

「おお……」

 

 光輝くショーケースが目に映る。店内のお客さんはまばらで、ちょうど()いているタイミングで来ることができたらしい。ラッキーだ。

 シュークリームが有名な店ではあるが、他にもモンブランやマカロンといった定番のスイーツも並んでいる。そのどれもが心を擽ってきて、自然と笑みが浮かんだ。

 おまけに目当ての品も残っているときた。

 しばらくキラキラとした目でショーケースを眺めていた俺だったが、今日来た目的を果たすべく顔を上げた。

 

「すみません、この限定ザクザクシューを1つ──」

「すみません、この限定ザクザクシューを4つください!」

 

「「あ」」

 

 声が被る。反射的に隣を向いた俺は、相手の姿を見て固まった。

 

「す、すみません! どうぞお先に!」

「……」

「えっと、あの……?」

 

 咄嗟のことで頭が回っていない俺に対し、困惑したような視線を向けてくるのは一人の少女。

 つり気味な目、長い髪、特徴的なサイドテール。

 いつも画面越しやステージの向こうで眺めていた存在、LizNoirの小美山愛がそこにいた。

 

 緊張で表情が固まっていく。なんでここに小美山さんが? なんて、考えても仕方がない問答を頭の中で繰り返す。

 そしてふと、その姿に目が行った。

 

「……そっか、月出だったっけ」

「? 知ってるんですか?」

「まあ、月出は有名なので」

 

 それに、知り合いも月出に通ってるんです、なんて加えれば、愛想の良い相槌が返ってきた。

 月出のシンボルとも言える黄土色のブレザーに身を包む小美山さんを見て、制服姿の井川が頭に浮かぶ。と言ってもあいつは普段からパーカーを着ているから、ブレザー姿を見たことは数回しかなかった。

 今度頼んで着てもらうか、なんて考えたところで、俺は自然と自分の頬が緩んでいることに気づいた。先程まで感じていた驚愕や緊張はすっかり鳴りを潜めている。

 よし、落ち着いた。井川が精神安定剤として優秀すぎるな。

 

「先にどうぞ。俺は後でいいので」

「そんな! 私たちの方が後に来たのに……」

 

 それに……と呟いて、小美山さんは気まずそうにショーケースへ視線を振る。中に見えるシュークリームは全部で4つ。俺が1つ、小美山さんが4つだから、どちらかが買ったらもう片方は望みの数を買えなかった。

 

「やっぱりお先にどうぞ! 私たちは3つで十分ですので!」

「でも、それだと一人食べられないんじゃ?」

「そ、そこは私が我慢すればいいんです! うぅ……」

 

 自分で言って悲しんでいる小美山さんの姿に頬を掻く。

 大方、リズノワのみんなで食べる用の4つなんだろう。なら、尚更小美山さんに譲るべきだ。俺が買わなければ推しアイドルの幸せが実現するのだ。考えるまでもない。

 

「すみません、モンブランを1つください」

「えぇっ!? いいんですか!? シュークリームが食べたかったんじゃ……」

「今、急に、どうしようもなくモンブランが食べたい気分になったんです。だからシュークリームはどうぞ」

「わあぁ……! ありがとうございます! この御恩は忘れません!」

 

 そう言って小美山さんは嬉しそうに笑った。花が咲いたような笑みだった。

 うんうん、笑顔が一番だよね。微笑ましい気持ちになりながら小さく頷く。

 ちょうど箱詰めされたモンブランを受け取ったタイミングで、背後から新たな声が聞こえてきた。

 

「愛ちゃ〜ん? まだ〜?」

「あっ、こころ」

「早くしないとレッスンに遅れて莉央さんにお説教されちゃうよ?」

 

 そんな台詞と共に現れたのはピンクの髪に特徴的な角を生やした小悪魔的な少女、赤崎こころだった。

 大人気アイドル、LizNoirのメンバーの二人が揃っている状況に俺はまたもや困惑して──なんて、そんなことはなかった。

 一度慣れてしまえばなんてことない。相手はオフ。ならば彼女たちと俺はアイドルとそのファンじゃなく、ただの他人同士だ。それに、さっきから小美山さんが『私たち』と言っていたから、もしかしたらとは思っていたのだ。

 

 小美山さんと話しながら赤崎さんが俺をじっと見た。どこか怪訝な表情だった。

 

「むむむ、どこかで見たような顔ですね……」

「こころ、お知り合いの方?」

「そういうわけじゃないんだけど……うーん……絶対どこかで見たってこころセンサーがびんびん反応しておーる」

 

 なにやらうんうん唸っているが、俺が一方的に知っていることはあっても向こうが俺を認知しているとは思えない。

 ライブは行ったが握手会には行っていないし、対面するのもこれが初だ。

 普通に気のせいだろう。そう伝えれば、それもそうかと呟いていた。しかしその表情は納得しているように見えない。一体誰と勘違いしてるんだろうか。わからん。

 

 商品を買ったことだし、会話も程々に店を出る。ドアが閉まる前に改めてありがとうございましたと声が聞こえて、律儀な人だという感想が浮かんだ。人の良さが滲み出ている。

 モンブランの箱をぶら下げながら帰路に着く。自分から譲ったとはいえ、悲しいことに未だ舌はザクザクのシュークリームを求めていた。

 

「……また今度来よ」

 

 自然とそんな呟きが溢れた時、ポケットの中のスマホが通知で震えた。井川からのメッセージだった。

 

『スイーツづくりのレパートリーを増やそうと思ってるんだけどさ』

 

『シュークリーム』

 

『なにか案ない?』

『って、即答すぎない?』

 

『シュー生地がザクザクのやつ』

 

『はいはい、わかったよ』

『挑戦してみる』

『また感想聞かせてね』

 

『井川最高』

『井川大好き』

『井川愛してる』

『これからもずっと俺にスイーツ作ってくれ』

 

『え』

『なに』

『急に』

『如月』

『からかってる?』

 

『楽しみにしてる』

 

『ちょっと』

『こもるよ』

『こまるよ』

 

『井川葵から着信がありました』

『井川葵から着信がありました』

 

『ちょっと』

 

『井川葵から着信がありました』

 

『ねえってば』

 

 

 

 ●

 

 

 

「──いらっしゃいませ。こちらメニューになります。ご注文のほうお決まりでしたらお呼び下さいませ」

 

 うん、我ながらなかなかな接客対応だ。ここ数ヶ月ですっかり成長した自分を自賛しながら仕事をこなしていく。

 

 今はバイトの真っ最中。休日ということもあって混み合っている店内を見ると、つい苦笑いが浮びそうになる。

 さすが有名店、なんて心の中で呟きながらカウンター内に戻ると、作業場では他のスタッフが忙しなく調理に取り組んでいた。

 

「あっ、如月君こっちもできるよね? 4番テーブルの方の調理お願い」

「その前に生クリーム切れそうだから持ってきといて。頼んだよ如月君」

「その前にそっちに店長いるか確認して如月君。いたら呼んで」

 

「はいっ!」

 

 店内は優雅というかお洒落でエレガントな雰囲気なのに、その裏ではこの有様だ。いよいよ苦笑いが浮かんだ。

 こんな感じで忙しないアルバイトだが、それが憂鬱なものかと聞かれればそうでもない。むしろ楽しいとさえ感じている。それは(ひとえ)にここが趣味の延長の場であることと、スタッフのみんなの人が良いのが大きかった。

 店長の所在を確認し、冷蔵庫から生クリーム以外にも足りなくなりそうな食材を補充し、作業場のテーブルを軽く拭きながら頼まれた調理に取り掛かる。

 助かるわ〜、なんてしみじみした声を受けながら、伝票に書かれている料理を作り始めた。

 

 実際にカフェで働いてみて、スイーツ作りって大変なんだなぁ、なんてことを心底思う。

 今まで俺はずっと食べている側だった。作る側がこんなに気を使って調理するなんて知らなかったし、こんな繊細な作業が求められるなんて考えてもみなかった。

 自分がその立場になってみて初めて感じる苦労は計り知れない。それでも、だからこそ自分が作った品を食べた人が喜んでいるとこっちも嬉しくなるし、笑顔を見ると頬が緩む。

 

 井川も今までこんな気持ちだったんだろうか、なんて考えて、俺は首を傾げた。

 

 ここ最近、あいつの様子がどこかおかしい。

 よそよそしいと言うか、そわそわしているというか。いつもマイペースで好き勝手やっているあいつをよく知る俺からしたら、気にするなと言われる方が無理だった。

 何か悩みでもあるのかもしれない。でも、それは俺が聞いてなんとかできるものかどうかわからない。今までだってそうだった。俺に言ってこないということは、俺は必要ないのだ。そう頭ではわかっていても、どことなくもやもやが晴れない。

 だから、俺はある計画を考えていた。

 

 ──それはズバリ、今度は俺がスイーツを作って食べさせてあげよう作戦だ。

 

 あいつは俺ほどスイーツ好きではないが、まあそこそこ食べる方だ。

 以前からもリズノワのメンバーであり相棒の神崎さんとパンケーキを食べにいろいろな店に行ったと聞いている。店ごとの味の違いがわからない、なんて言っていたから、違いをはっきりさせてやるのも挑戦しがいがあっていいかもしれない。

 とまあ、そんな企みもあってここ最近のバイトは特に熱が入っていた。今だって目の前の2種類のパンケーキの調理に全身全霊を費やしている。

 俺が何かスイーツを作ってみたとして、それを井川に食べさせてあげたとして。あいつはどんな反応をするだろうか。

 

 あの如月が? なんて驚くだろうか。

 ありがとう、と小さく笑って喜ぶだろうか。

 へえ、ありがたく貰うよ、なんてあっさりしたものかもしれない。

 普通だね、僕の方が上手いよ、なんて言葉が飛んできて、料理対決に発展するなんてこともあるかもしれない。

 

 なんにせよ、普段通りのあいつに戻ってくれればなんでもいい。楽しみだな、なんて気持ちに頬が緩んだ。

 

「お、なんか楽しそうだね。いいことでもあった?」

「いいことはないですけど、やりたいことを見つけたって感じですね」

「いいぞ若者、なんでもやってみなさい! でも、その前にそのパンケーキをちゃんと作るところからね」

 

 さっきも人気俳優さんが来店してたっぽいよ、なんて言葉を受けて気が引き締まる。

 そうなのだ。ここはスイーツが人気なカフェとしてかなり有名だから、数多くの有名人が来店する。それは俳優だったり、企業の方だったり、アイドルだったり。

 

 そういえば先日も神崎さんが来てたっけ、なんて当時の記憶を遡る。

 オフだったのか一人で来店して、彼女は外のテーブル席に座っていた。なにか悩みでも抱えているのか、難しい顔をして虚空を見つめていたのを覚えている。

 そんな神崎さんに対して俺が取った対応は当然スルーで、一店員として事務的に接するように努めていた。服装からしてオフだったからね。幾らファンを大切にしていると言ってもオフにまで絡まれるのは大変そうだ。俺ならダルい。

 

 それでもいくつか犯してしまった失敗はあり、苦虫を噛み潰したような表情で自分を戒める。

 

 一つは客席に神崎さんがいることに驚いて、本人を前に呆然としてしまったこと。

 二つはまだまだ勉強中のコーヒーをよりによって神崎さんに提供することになってしまったこと。ほんの一言だったとはいえ、味が不安で思いっきり私情を挟んだ会話をしてしまった。

 

 そういえばついこの前も小美山さんと赤崎さんに遭遇したっけな。

 最近のリズノワ運はどうなってるんだ、なんて嬉しいような恨めしいような気持ちが湧いて出る。どうやら思っている以上にこの都会は狭いらしい。

 

「……よし、完璧」

「じゃあついでにそのお皿テーブルまで運んじゃって」

「わかりました」

 

 パンケーキの乗った皿を両手に作業場を出る。店内のお客さんに愛想良く笑顔を浮かべ、外のスペースへと出た。

 4番席だったよな、と確認しながら足を進める。

 

「あれ」

 

 思わず声が出た。

 近づいて行くとその席には二人の女性客の姿が見える。

 その片方にどうも見覚えがあって、一瞬足が止まった。

 

 見つめる視線の先。そこに座っていたのは──

 

 

 

 ○

 

 

 

 その日、莉央は葵をカフェに呼び出していた。

 

 場所は先日訪れたコーヒーの美味しいあのお店。あれから幾ら悩んでも一向に答えが出ない葵の謎に痺れを切らし、意を決した莉央から声をかけたのがきっかけだった。

 雑談を交えながらいつ本題を切り出そうかと内心ひやひやしている莉央のことなどつゆ知らず、葵はいつも通りにスマホを弄っている。こころに勧められたSNSを眺めているようだった。

 それを見て莉央の気が抜けていく。どうして私がこんなに悩んでいるのよ、なんて、もう何度目かわからないため息が溢れた。

 

「葵、あなたは何にする? 私のおすすめはこのブレンドコーヒーなんだけど」

「じゃあそれで」

「そう。私はこれと……スフレパンケーキにするわ」

「なら僕はこの日替わりのやつにするよ」

 

 店員さんを呼び、注文を伝える。休日ということもあり繁盛しているのか、店内はどれも満席だった。店員さんたちが(にこや)かに、それでいて忙しなく動き回っている。

 

(あの店員さんはいるかしら)

 

 前回訪れた際にいた男性店員のことを思い浮かべる。

 コーヒーの淹れ方を勉強中だと緊張混じりに言っていた彼の姿を探してみるも、接客をしている様子はない。

 まあいいか、と素直に流し、まず世間話から入ろうと考える。普段はわざわざ話題を選んで葵と会話をしないため、なんだか居心地の悪いような気持ちになっていた。

 

「ねえ莉央。少し相談したいことがあるんだけど、いい?」

「えっ……?」

 

 意外なことに、先に口を開いたのは葵の方だった。

 

「め、珍しいわね。あなたが改まって相談だなんて」

「僕にだって悩みごとの一つや二つはあるよ」

「……それで、相談って?」

 

 虚をつかれた形になった莉央は内心どきどきしながら葵の言葉を待つ。

 もしかしたら、これから自分が聞こうとしていた内容に関するものかもしれない。

 固唾を飲む。莉央に緊張が走った。

 

「……その、友達と話そうとするとおかしな気分になるんだ」

「とも、だち?」

「うん、友達。莉央には何回か話したことがあったよね」

「え、ええ。確か……如月さんだったかしら?」

「そうそう」

 

 ──如月さん。

 

 以前から葵が時折話題に出す人物で、なんでも古くからの友人なんだとか。()()がきっかけでお菓子作りを始めるようになったり、ゲーセンにハマったり、葵にさまざまな影響を与えてくれている人だと認識している。

 昔に川で遊んだとか、一緒にドラム缶風呂に入ったとか、意外と歌が上手いとか。多くを聞いたわけではないが、その口から語られるユニークなエピソードは絶えない。

 きっと大切な友人なんだろう。葵自身も彼女を親友だと言っていたし、その話をする時の葵の表情からなんとなくそれは伝わってきた。どうやら今回はその彼女のことでの悩みらしい。

 

 想像していた内容とは異なる相談に肩の力ががくんと抜けた。

 

「はぁ、なんだか気が抜けたわ」

「お気楽でいいね。僕は悩んでるっていうのに」

「私だって最近はずっと悩んでることがあるのよ。あなたの話を聞いたあとで私の話も聞いてもらうんだから」

 

 それで、話って? そう問いかけたと同時、注文していたパンケーキが運ばれてきた。

 よく見るとその店員さんはあの時の彼だ。相変わらず人懐っこい笑みを浮かべていた。

 

「来たわね。続きは食べながらにしましょう。──葵?」

 

 何故か葵が固まっていた。その姿に首を傾げていると、お皿を持った店員さんがすぐそばまで近づいてくる。

 その彼は葵を見て、ぱあっと表情を変えた。

 

「おー、やっぱ井川だった。やっほー」

「……え?」

 

 咄嗟のことにうまく反応ができない。丁寧な印象だった彼の気安い態度に困惑する莉央に対して、葵はまた別の意味で困惑していた。

 

「え、()()……? なにしてるの? というかなんで?」

「なんでってバイトだよバイト。カフェでやってるって言っただろ?」

「聞いてないよ。いや、聞いた気はするけど……ここだとは聞いてない」

「そうだっけ? ならサプライズだな。ハッピーバースデー」

「僕の誕生日はもう過ぎてるよ。まったく、なんで言ってくれないんだ。君がいるって知ってたらもっと色々……ああ、もう」

「? 何言ってんだお前……ヒッ!?」

 

 彼──如月の喉から悲鳴が漏れる。視線の先では鬼のような表情をした莉央が如月を見つめていた。

 

「す、すみません。大変お待たせいたしました。ふわふわスフレパンケーキと本日の日替わりパンケーキになります」

「──それより。貴方は?」

「は、はいっ!」

 

 有無を言わさぬ様子で莉央が問いかける。如月は姿勢を正し、改まって莉央に向き直った。

 

「俺は──いえ、私は如月といいます。そこの井川とは小学生の頃からの昔馴染みで……友達……腐れ縁……? なんだろうな。付き合いの長い知り合い、みたいな感じです」

「どんどん遠ざかってるじゃないか。親友だろ、親友。何度も言ってるじゃないか」

「バカおまっ、火に油注ぐな!」

「大袈裟だなぁ。大体、僕は間違ったことは言っていない」

「それでも! 状況ってもんがあるでしょーが! 

 ああ、騒いでしまってすみません。このバカから話はよく聞いています。神崎莉央さんですよね。どうぞごゆっくり。こいつの言うことはあまり信用せずにお願いします」

「失礼なやつだな。僕は本当のことしか言わないよ。嘘とカニカマは嫌いなんだ」

「井 川 も ど う ぞ ご ゆ っ く り !」

 

 失礼します、と頭を下げて如月が席を離れていく。

 その場に残ったのは呆然とする莉央と楽しそうに笑う葵。

 あまりに情報量が多すぎて、何がなんだか理解できない。莉央の頭はパンク寸前だった。

 

「あー、楽しい。ごめんね莉央、勝手に盛り上がっちゃって」

 

 相談のことは忘れてよ。なんでかもう平気そうだ、なんて、あっけらかんとした様子で言い放つ葵の姿に莉央の中の何かが切れた。

 

「……この際もういいわ。ただし、しっかり話を聞かせてもらうわよ」

「莉央、もしかして怒ってる?」

「怒ってないわよ!」

 

 やっぱり怒ってるじゃないか、なんて呟きは葵の喉で消えた。

 代わりに、莉央の望み通りの話をしようと過去に記憶を巡らせた。葵の中に大事にしまってある、大切な日々の記憶だ。

 不機嫌な様子で手を進める莉央に倣い、葵もナイフとフォークを握る。

 口に運んだパンケーキとコーヒーは甘くて、苦くて、それでもとても温かかった。

 

 

「そうだな、どこから話そうか──」

 

 

 




■如月くん
知らない間に胃袋を掴まれていた。甘党。

■井川葵
テンパると誤字る。

■パンケーキ
本作品の被害者枠。今日はスフレの気分。


この作品をここまで読んでくれてる少数精鋭のマネージャーの皆様! 評価&感想待ってます!
来年もよきアイプラライフを!

推しグループは

  • 月スト!
  • サニピー! サニピー!
  • トリトリトリエル
  • LizNoir
  • ⅢX
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