オラリオに褪せ人さんがくるそうです   作:タロ芋

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息抜きに書きたくなったので。


1 貴方、兎と出会う

 ──ここはどこだ? 

 

 貴方は周囲を見渡し首を傾げる。

 目につくのは薄ぼんやりと光る岩壁と奥まで続く枝分かれした通路。

 突然の出来事に貴方は困惑を隠せず、思わず唸ってしまう。

 

 貴方は褪せ人の義務とも言えるような装備集め(マラソン)をしており、漸く目当ての装備を手に入れ意気揚々と別のマラソンのために祝福に触れ転移した───までは、いい。

 

 気がつけば貴方は見たことも無い地点に飛ばされ、記憶の中にある洞窟(ダンジョン)のどれにも合致せず、困惑しながらも足元にある祝福に触れるのは経験からの無意識ともいえる。

 

 とりあえず、祝福が指し示す黄金の導きの先を見つめた貴方はそちらに向けて歩き出す。

 

 すると、程なくして暗闇からノシノシという足跡が聞こえてきた貴方は即座に身をかがめ気配を断つ。

 じっと目を凝らして観察してみれば、先には人間の体に牛の頭が生えているという珍妙な格好の生き物が歩いていたではないか。

 

 ──なんだ、あれは? 

 

 強いて似てると言えば忌み子だろうか? だが、しかし忌み子にも角が生えているとはいえ、あのようにThe・牛の角と言うよりも牛そのものの頭はなかったはずだ。次に近いのは忌み潰しだ。だが、あれは頭を仮面で覆っており、目の前にいるやつの首には仮面と生身の境目が見えない。

 貴方は見たことの無い存在──後にこれは"ミノタウロス"と知る──に警戒を抱き、装備をマラソン用からボス用に切り替えると左手に握られた聖印を掲げ自身に強化(バフ)を掛けまくった後に右手に巨大な槌"巨人砕き"を呼び出す。

 貴方は巨人砕きを掲げ戦技"王騎士の決意"を発動し、準備の終えた貴方は忍び足でミノタウロスの背後へと近寄ると、力を貯めて跳躍、空中で一回転し遠心力の載せた重い一撃を無防備な背中へと叩き込んだ。

 

 ドガァン!!! 

 

 抵抗すらできず、無警戒の一撃を食らったミノタウロスは跡形もなく洞窟の染みへと変貌し、攻撃の余波で地面には大きなクレーターが出来ていた。

 そんな貴方の感想は一言、『弱ッ……』である。

 貴方の知っている敵はこの攻撃をくらっても余裕で耐え、貴方に手痛い反撃どころかワンパンをかましてくるような連中ばかりだ。手応えの無さに貴方は少々……いや、かなり拍子抜けしてしまう感情の中で貴方はキラリと光るモノを目ざとく見つける。

 

 それは拳大の大きさの紫紺の石だ。貴方はそれを拾い上げてマジマジと観察した後にソレをルーンへと還元し、歩き出した。

 

 

 

『うわぁぉぁぁぁあ!!!』

 

 貴方はどれくらい時間が経ったか分からないほど洞窟を歩き続け、襲いかかってくる敵を全て殺して何十回目の坂を登った辺りで洞窟の壁に反響する悲鳴を捉えて立ち止まる。音のしてきた方向ではどうやら、自分の後ろかららしい。

 貴方はジッと声の聞こえた方向に険しい視線を向け、腰に提げていた剣の柄に手を添えてやってくるであろう存在をじっと待つ。

 そして、

 

「うわぁぁぁあ!!! へぶぅ!!?」

 

 猛ダッシュでやってきたのは全身を返り血で真っ赤に染めた赤茄子(トマト)のような少年であった。あまりにもあんまりな存在に貴方は思わずギョッと目を見開き、刀身を鞘に収めたまま赤茄子に向けてフルスイング。赤茄子(ボール)は見事に吹き飛び数十メートルくらいの地点でゴロゴロと地面を転がる。

 

 やっべ、貴方の胸中に占める言葉はそれだった。いくら鞘でぶん殴ったとはいえ、最大(カンスト)まで肉体を強化した貴方の一撃は雑魚なら一撃で粉微塵になってしまう。事実、ここに来るまで貴方に襲いかかってきた連中は全て一撃で倒してるために慌てて貴方は赤茄子少年に近寄った。

 

「う、うぅ……」

 

 どうやら生きてるようだ。横一線に真っ赤な痣が出来ているが、生きているならノーカウント。OK? 

 貴方は誰に聞かせるでもなく、そんなことを思いながら聖印を掲げて祈祷"大回復"を使用。自分を含む周囲に金色の暖かな光が放たれ、少年の痣やあちこちの傷が時を戻すかのごとく消え失せる。

 

 貴方はつま先で赤茄子少年の頭を小突き暫し待つ。だが、起きる気配がなく、どうやら貴方の一撃が相当キマったようで目を覚ますのにはまだ時間がかかりそうだ。

 仕方なく、貴方は少年の荷物で地図か何かを持ってないか確認するためゴソゴソと弄りだした。アイテムがそこにあるなら例え返り血だろうが、毒沼だろうが、糞まみれだろうが必ず取ろうとするのは褪せ人として当たり前の行動だろう。

 

 ──MAP FOUND──

 

 些か血に汚れてるが貴方は目的のブツを手に入れて満足である。どうやらココは複層にもなる超巨大ダンジョンらしく、あと数層上に登れば出口に出れるみたいだ。

 貴方は地面に伸びてる赤茄子少年を見つめた後、指笛を吹く。

 

「ヒン」

 

 虚空から現れたのは有角の霊馬トレント。狭間の地を共に駆けた大切な愛馬である。

 貴方はトレントの体を撫で、少年を乗せることの許可を願うとトレントは快く了承してくれたことに僅かに安堵する。

 流石にいくら歴戦の猛者たる貴方でも、荷物(文字通りの意味)を抱えて戦うのは些か面倒がすぎるものだし、わざとでは無いとはいえ自分が気絶させてしまい挙句には放り投げたまま見殺しにするのは少々後味が悪い。貴方はソレを少々で済ます辺りは流石褪せ人クオリティだろう。

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 揺れにより目を覚ます。

 少年、ベル・クラネルは僅かに痛む頭を振るとボヤけてた視界が緩やかにクリアになっていった。

 

 ──確か、ミノタウロスから逃げてたんだよね。それで、壁際に追い詰められて……あの綺麗な人に助けられ、て…………

 

「逃げたんだった!! いっつっ〜!!?」

 

 体を起こそうとしてズルリとナニカから転がり落ち、顔面から地面に着地したベルは痛みに悶えてると、なにやら生暖かい風が頭部を撫でた。

 

「ん?」

 

「ブモ」

 

 顔をあげればそこにはドアップの角の生えた馬がいた。

 

「馬!? なんで!!? って、角? 魔物!?」

 

 慌ててバックステップで距離を取ろうと飛び跳ねたが何やら硬い物体にぶつかり恐る恐る振り返る。

 目につくのは自分よりも高い身長、全身を覆う赤みがかった金色の重装鎧(フルプレート)、腰から下げられた見るだけで業物とわかる2振りの片手剣。自分の初心者向けの装備と違い、遥か遠くに位置するのがわかる装備を全身に装備した存在がそこにはいた。

 その人物は少しの間、ベルと視線が交差し金色にも赤色にも暗い蒼へと変わっていく瞳に若干だけたじろぐ。

 そして、その大鎧の男(推定)は片腕をゆらりと上げたかとおもえば……

 

 ────HEY! 

 

 と、気軽な声で挨拶をするのであって。

 

 

 

「本当にありがとうございます!!」

 

 少年ことベル・クラネルは綺麗に九十度、腰を折って貴方に向けて頭を下げる。トレントを霊体に戻した貴方はその礼を受け取る。

 事の顛末はこうだ。貴方が魔物と戦っていたところ、その余波に巻き込まれ気絶していたベルを介抱したという感じだ。もちろん、大嘘だが。でもバレなければいいのサ。

 そんな貴方のクズい考えを知らない真っ白な兎くんはしきりに礼を言い、命の恩人という立場を利用して貴方は彼から情報を手に入れることにした。

 

 まず、貴方がいた場所は迷宮(ダンジョン)。貴方の知っているモノと違い、ここはどうやら()()()()()らしい。紫紺の石こと魔石というモノを核とした魔物(モンスター)を壁の中から生み出し、生息させる。そして、それらを倒したりこの迷宮を探索するベルたちのような者たちを冒険者。

 さらに加えて、その冒険者たちが集まって徒党を組んだモノをファミリア。ファミリアというものは複数の種類があり、迷宮へと挑むことを目的としてる探索型。鍛冶や農業などの製作型。例外もあるが国として機能するモノもあるらしい。

 だが、それよりも驚いたのは神がいるという事だ。神。超越的存在。唯一不変であり畏怖対象。そして、褪せ人が褪せ人となった原因、女王マリカ。それらと同じような存在が沢山いるというのだ。

 それを聞いた瞬間に貴方はおもわず狂い火が漏れかけたが、理性のある褪せ人な貴方はそれを抑えることに成功した。狂った頭のおかしい血の指(イカレポンチ)共とは違うのだよ。

 

 ともかく、貴方は以上のことを総括して結論づけたことはココは狭間の地とはどこか別の場所ということだ。祝福同士の転移になにか不具合でも起きたのか、こうして知らない場所に飛ばされて今に至っている。

 

 別にそこまで困っている訳では無いし、貴方は特に迷うことはせず飽きるまではこの世界を満喫することに決めた。

 ついでに何かお土産を見繕って貴方の主君たる彼女が喜べばいいなー、と打算的な考えも無きにしも非ず。

 

『ふむ、私に贈り物か……。フフッ、いい心がけだな我が王よ。できれば私が喜ぶようなものにしてくれよ? 武器とかいらないからな? いいな? フリではないぞ? フリじゃないからな?』

 

 あなたの脳内にいるイマジナリーラニに褒められる様を想像した。これは俄然ノってきたではないか。彼女が喜ぶようなモノはなんだろうか。やはり珍しい武器か? 珍しい武器だな。貴方は確信した。

 アセビトマチガワナイ。ブキモラウヨロコブ。(根拠の無い自信)

 貴方はウキウキとした気持ちでベルの後ろを歩いてついて行くのであった。




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