オラリオに褪せ人さんがくるそうです   作:タロ芋

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初投稿です


13 白兎と女神の逢瀬

 ストリートを駆ける、駆ける、駆ける。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」

 

 ドクドクと心臓が早鐘をうち、荒い吐息が口から零れ必死に酸素を吸い込む。

 

「神様! 大丈夫ですか!?」

 

「う、うん! そんなことよりもボクを抱えて走ってる君の方が大丈夫かい!?」

 

「なんとかっ!!」

 

 その腕に抱かれるのは敬愛する己の主神。

 いつも通りだったら羞恥心やらで絶対に出来ないだろう行為をしているには理由があった。

 

「ッ……!」

 

「ゴアァァァアッッッ!!」

 

 狭い路地を無理やり通り、障害物を粉砕しながらおってくる白い毛皮の追跡者。

 その瞳は爛々と光り、牙が覗く口からは汚らしい涎が零れている様から極度の興奮状態だとわかる。

 

 そして、その狙いは己が抱いている存在だと。

 

 なぜ、ベルとヘスティアの2人がこうなったかを説明するのに時はおよそ数刻巻き戻る。

 

 

 

「ルンルンルン〜ん♪」

 

 ご機嫌な鼻歌と共にスキップをしながらストリートを進むベル。

 

「ママー、あの人なんでスキップしてるのー?」

 

「シッ! 見ちゃいけません! お祭りだからちょっと頭がパーになってるのよ!」

 

「ママー、頭がパーってなにー?」

 

 地獄の鍛錬を乗り越え、精神が最高にハイッ! って奴になってるベルは子連れのマダムの言っていることに気が付かない。気が付かないったら気が付かない。

 

「さーて、なにしようかな〜♪」

 

 つい最近、自分の師匠がファミリアに入れた膨大なヴァリスから自由に使っていいと言われ、渡された麻袋には豪遊しても問題ない程度の金額が入っていた。

 とりあえずじゃが丸くんを買おう、そんなことを思っていると。

 

「ヘイ! ソコのプリティーな尻を持ってる白髪頭のボーイ! そう、オミャーだ!」

 

「人の往来のある場所で何叫んでんですかこの駄猫!」

 

「アダァ!? 何するニャ!」

 

 ゴスッ! と鈍い音を立てて後頭部をぶん殴られる猫人。そしてその猫人をぶん殴ったエルフの女性。

 その顔を見てベルは誰か気がついた。だいぶ記憶の彼方ではあるが、この2人は豊穣の女主人の従業員だ。加えて、今いる場所はあの酒場の軒先だった。

 

 ベルはなんだなんだと思いながら2人の元へと近寄り、尋ねる。

 

「えっと、なんでしょうか?」

 

「うん、オミャーにはこれを渡すにゃ」

 

「?」

 

 ベルの尻を狙ってる猫人は主語もへったくれもなく、見覚えのない財布をベルへと手渡す。

 

 ベルは反射的に受け取るが、意図が読み取れず『何言ってんだこいつ?』という感情が浮かんだ。

 

 そんな彼の思考を察したのか、隣にいたエルフがもう一度猫人の頭にゲンコツをする。

 

「アダァ!? テメェ、1度ならず2度までもぶん殴るたァいい度胸してるんじゃあニャいか!? 表出ろやゴルァ!!」

 

「説明不足がすぎるんですよこのバカ猫アーニャ。ほら見てください、クラネルさんが困ってるじゃないですか?」

 

 エルフの店員に名前を覚えられていたことに感動していると、バカ猫ことアーニャはへっ! と鼻で笑いながら返した。

 

「リューはアホにゃ! 店番サボッて祭りを見に行った癖に財布を忘れてったおっちょこちょいのシルに届けて欲しいだにゃんて、ンなこと言わにゃくてもわかる事だにゃあ。

 ニャア、白髪頭?」

 

「いえ、分かりません」

 

「ほら見なさい。このバカ猫が言葉足らずで申し訳ありませんでした」

 

「いえ。えっと理由はわかったので大丈夫です」

 

 ベルに切り捨てられ、愕然とした表情のバカ猫(アーニャ)を無視する2人。

 そこでふと、シルがサボったという気になることがあったのでベルは聞いてみると、リューは快く教えてくれる。

 

 住み込みで働いてる自分たちとは違い、彼女は定期的(シフト)に働いているため今日はたまたま休みだったのだ。

 そして、その休みを利用してお祭りに行ったらしい、

 

「えっと、確か怪物祭でしたっけ?」

 

「はい。今回はそれを見に行くために向かったらしいです」

 

「そうなんですか……僕、ココに来たのって最近ですから詳しいことは知らないんですよね。

 今朝見たチラシでお祭りがあることを知ったくらいで……」

 

「フッ、なら無知なボーイに教えてやるのが世の情けニャ!」

 

 気を取り直し、アーニャは語る。

 

「怪物祭ってのは年一でガネーシャ・ファミリアが主催で開くドでかい催しニャ! 闘技場を丸一日占領して、ダンジョンから引っ張ってきたモンスターを調教するのニャ!」

 

「調教……ですか?」

 

 ベルは迷宮にいる凶暴なモンスターたちを浮かべ、面食らう。

 一応、身近にいる人物でモンスターを使役している師匠(貴方)の姿と有角の馬(トレント)を思い浮かべた。といっても、彼の相棒はモンスター等ではなく、霊馬というれっきとした生物なのだが、それを訂正する人物はここにはいない。

 

 ともかく、怪物祭は貸し切った闘技場で迷宮から引っ張りだしたモンスターを衆人環視の中で調教する見世物……つまりはサーカスだ。難易度のほうは推して知るべしだが。

 

 そして、シルは仕事で祭りに行けない彼女たちのためにお土産を買ってくると宣言したはいいのだが……

 

「お財布を忘れてしまった……と」

 

「そーだニャ。まったく『お土産は任してくださいね! キリッ』って敬礼しておいてこの体たらくだニャー。おっちょこちょいニャ」

 

 ふー、やれやれと呆れたように首を左右に振るがリューがお前が言うなという意を込めて溜め息を吐くのをベルは苦笑するしかできなかった。

 

「と、まぁこういう事ですので……クラネルさん。頼まれてはくれないでしょうか? 

 勿論、貴方の都合がつくならです」

 

「いえ、構いませんよ。今日は迷宮に行かないで遊ぼうって思ってたので」

 

「そうですか……そういえば、貴方のお連れの方が見えませんね。

 今日は別行動ですか?」

 

 ふと、リューがベルの後ろを見やりとある人物が居ないことを指摘する。

 それにベルは考える素振りを見せた後に答えた。

 

「師匠ですか? 多分、師匠もお祭りを楽しんでいると思いますよ」

 

「そうですか。……師匠ということはクラネルさんはあの人と師弟関係ということですか?」

 

「はい! ……まぁ、師弟になってから数日なんですけどね」

 

「……数日?」

 

 ベルの言葉にリューは訝しむ様に整った眉根を僅かに寄せた。

 

「どうしましたリューさん?」

 

「……いえ、なんでもありません。そろそろ立ち話もアレですし、終わりにしましょう」

 

「それもそうですね。お財布、必ずシルさんに届けますね。じゃあ!」

 

「はい。お願いしますクラネルさん」

 

「頼むにゃ白髪頭〜」

 

 道を走り出し、それを見送る2人。そして、そんなベルの背中が見えなくなったところでリューがポツリとつぶやく。

 

「……たったの数日であそこまで変わるものですか?」

 

 初めて見た時のあの少年の纏う雰囲気はまさに駆け出しと言っていいほど初々しいものだった。けれど、今の雰囲気はどうだ? 

 足運びや重心、目線などが荒削りだが明らかに修羅場をくぐった者特有のものに変化していた。

 元冒険者としてそれなりに活躍していたリューはベルを鍛えた存在に僅かに驚きと畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 2人と別れベルが街中をシルを探しながら歩いていると背後から聞きなれた(ひと)の声が聞こえてきた。

 

「おーいベルく〜ん!」

 

「あ、神様! おかえりなさい!」

 

「ただまーベル君!」

 

「はい! でも、どうしてここに?」

 

「んふふ〜、君に逢いたかったから……って言ったらどうする?」

 

「うぇ!?」

 

「あはは! んも〜、可愛い反応しちゃってこのこの〜!」

 

 初心な反応をするベルにヘスティアは心底嬉しそうにする。処女神のくせしてとんだ浮かれぽんちである。

 

「そういえば、彼はいないけどどうしたんだい?」

 

「師匠ですか? 多分師匠もお祭りを見て回ってるんだと思いますよ」

 

 とりあえず立ち話もなんだ、と感じで横並びとなって2人は歩き始めた。

 色んな屋台を見て周り、冷やかししたり。時々ヘスティアがベルに食べさせてもらうのをせがみ、頬を赤く染めたり。

 

 そうしていると、話の内容はベルがどんな鍛錬をしていた話になったのだが。

 

 

「どんな修行してたのかボク気になるなー?」

 

「修行ですか? 修行……しゅぎょう……しゅぎょ……アガガガガガガガガガゴガ!!」

 

「うわ!? ベルくん凄い震えてる!?」

 

「アバババババババババッ!!!!?」

 

 目の焦点が明後日を向き、奇声を上げながらガタガタとバイブレーションをするベルにヘスティアがドン引きした。

 明らかにヤベー状態になってしまった原因にだが。

 

「(一体君はベル君をどんな鍛え方をしたんだー!!?)」

 

 軽く数千回ぶっ殺しました(文字通りの意味)

 

 そんなことがありつつ、祭りを楽しみながらベルの担当アドバイザーのエイナと出会いヘスティアと何やら話をしたり、彼女にシルの所在を尋ねたりしたが色良い返事がなかったり、ヘスティアに探してる人物の事を聞かれ、答えたら何故か不機嫌になったり。

 

 そんなことがありつつも祭りを楽しんでいると、不意にベルは背筋に冷たい違和感が走る。

 

 あの人に数えるのも億劫になるほど殺され、無意識のうちに刻まれた殺気を浴びせられた感覚に似ていたソレを。

 

 そのすぐ後に鋭い切羽詰まる悲鳴を捉え、同時にツンザく大声が響き渡る。

 

「モ、怪物(モンスター)だぁぁぁぁぁあっ!!!!」

 

 そして、ベルは見る。闘技場の方面から石畳を激しく蹴り叩きストリートを疾走する純白の毛並みを持つ狒狒を。

 

 

 〇

 

 その怪物(狒狒)は全身の血液が沸騰し、視野が狭まり心臓が過去最高の速度で刻み、脳内には多量の興奮物質が分泌されていた。

 

 口腔の奥からは荒く湿った熱い息を何度も吐き出しながら手足を躍動させて進む、進む、突き進む。

 

 自分の心を射抜いたあの『女神』を探す。黄金比とも呼べるバランスで整えられたあの艶めかしく、妖しい肢体。

 

 たなびかせ、光を反射させる銀の神。ひとつ嗅ぐだけで中毒性をもつほどのかぐわしい匂い。

 

 今まで抱くはずのなかった胸の内から湧き上がる思い! 想い!! 謂いッッッ!!!!! 

 

 情欲、色欲、愛欲、性欲。

 

 生命としてもつ当然の欲求。迷宮から生み出された己にはなかったそれが己を突き動かす。

 

 既に手がかりとなるあの匂いはあやふやとなるが、それでも微かに記憶されたソレを頼りに狒狒は探し続け、邪魔となる物を壊して進む。

 

 赤金の何かを拳で殴り飛ばし、行く宛てもなく彷徨い続けた所に狒狒は立ち止まる。

 

 ────見ツケタ

 

『小さな女神を追いかけて?』

 

 囁かれた言葉を思い出し、本質を大元を同じとする存在に向け、狒狒は力強く踏み出した。

ラニ様を出す?

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  • 出さない
  • イマジナリーラニ様なら居るだろバカ
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