「あー、もう! ほんと散々な一日だったー!」
夕暮れ空の下、ティオナが叫び同意するようにティオネが頷きながらレフィーヤに問う。
「ほんとにね。レフィーヤ、傷の方はどう?」
「あ、はい。あの人の魔法のおかげで痛みも傷あともほとんどありません。このとおりピンピンしています」
小さく力こぶを作る彼女にティオナが案じつつ、少し前のことを口に出した。
「そりゃ良かった! にしてもアイツの喚び出したアレってなんなのかな? 魔法? それともスキル?」
思い起こされる赤金の騎士が喚び出した双子の存在。彼女たちはあの騎士が命じた内容を忠実に実行し、襲いかかってくる怪物を見事な連携で排除し幼子を守り続け、幼子の親らしき夫婦が現れると何も言わず姿を消してしまった。
それなりに長い間冒険者として過ごしてきたが、あのようなスキルもしくは魔法の存在は見たことがない。
加えてあの騎士は戦闘中にどこからともなく様々な武器を取りだしては持ち替えて戦闘を継続するということをしていた。
余りにも規格外、そうとしか言えない人物が今の今までこの迷宮都市にいたとは流石に悪い冗談と言えよう。
3人はあーでもない、こーでもないと憶測を述べていると不意にもう1人が会話に参加していないことに気がついた。
「どうしたの、アイズ? 何かあったー?」
「……ティオナ」
声をかけられ、漸く気がついたのかアイズは惚けたように顔を上げる。
どうやら今の今まで剣を見ていたらしく、その手には鞘から僅かに刀身が抜かれた見事な剣があった。
「そういえばアイツにその剣貸してもらってたんだっけ……?」
「……うん」
蚯蚓もどきの怪物との戦闘で破損した代替の武器の代わりにアイズが借り受けた剣。
夜と炎の剣をティオナは覗き込む。この剣は凄まじく、アイズの魔法で風を付与しても一切消耗することなく、斬った怪物どころかその後ろにあった建物や石畳を切り裂く程だった。
アイズの愛用している細剣のデスぺレートは業物だが、攻撃力は比べると流石に一段も二段も下回る。
これは不味いと思った彼女は途中から加減をしなければならず、久しぶりに武器に振り回されるという珍しいことに陥った。
その最中、剣から『下手くそ、もっとマシに振るえないのか?』のような不満が剣から伝わってきて驚きもした。
明らかに普通とはいえない武器を最低でも2本扱っていた持ち主の存在をアイズは思い出す。
初対面は人の皮を被った災厄のような印象だったが、次に会った時は1人の少女を護ろうと剣を振り、慈しむように少女の頭を撫でていた姿という余りにも真反対の姿にどちらが本当なのか迷う。
「……取り敢えず、お礼言わないと」
「助かったのは事実だからねぇ……あーあ、ウルガのお金もどうにかしないとなー!」
鞘を撫でながらアイズは呟き、次にゴブニュから渡された代替の武器を壊した剣をどう弁解しようかと頭を悩ませながら歩き出した。
余談だが、ロキが興味本位にアイズから夜と炎の剣を見せてもらったら『こ、これ神器やんけー!!?』という叫びが本拠に響き渡ったとか何とか……
〇
「はい、お上がりよ!」
ドンッ、カウンターに置かれた大盛りのパエリア。貴方は女将に礼を程々に言いつつスプーンを手に取り食べ始めた。
騒動が収束し、貴方は下手人らしき連中を取り逃したが大して気にする事はなくベルとヘスティアを回収した。
見事にボコボコにされていたベルに祈祷で傷を癒し、意識のないベルを抱えヘスティア共に帰路へつこうとした所に
彼女の提案で豊穣の女主人でベルを介抱することとなった。
現在ベルは従業員の居住区の部屋に寝かされており、ヘスティアはそんなベルと共にいる。
貴方は料理に舌鼓を打ちながら不意に懐から1枚の羊皮紙を取り出し、綴られた文字列へ視線を落とす。
それはベルのステイタスとやらの写しで、数日前のモノとは大きく離れていた。
数字横のランクらしき文字はEXとつき、数字は上限を超えたのか+と付けられている。
おまけに、"憧憬一途"というスキルの下にまたひとつ一文が追加されていた、
『暗月の大ルーン』
貴方がベルに与えた大ルーンがきちんと定着したらしいことを確信し、貴方は笑う。
「あら、何かいいこともあったんですか?」
食事の手を止めていると、不意にそんな声が聞こえてきた貴方ほそちらに視線を向ける。
そこには制服姿のシルがおり、何が楽しいのかニコニコと気色の悪い笑みを浮かべていた。
貴方はルーンに羊皮紙を還し、食事を再開させながら問いかける。
───茶番は楽しめたか? と。
「────」
その言葉を聞いた瞬間に雰囲気が変わり、口角が耳まで裂けたのかと錯覚するほどの嗤いを
「ええ、大変満足です。あの少年は素晴らしい輝きを見せてくれましたよ。
加えて、貴方のおかげで長い間燻り、停滞していた
───気色悪いやつめ
これだから貴方は神というものが好きになれんのだ。自分勝手な都合で他者を巻き込み、場をめちゃくちゃにする。これはラニも毛嫌いする訳だ。
剣の柄頭を小突き、貴方はこの
こういう手合いはのさばらしても害にしかならない。後々のことを考えるならばこの場で首を断つのが利になる……が、そこまで考えて貴方は手を下ろした。
「おや、抜かないのですか?」
貴方は鼻を鳴らし、ゴミに吐き捨てる。
この場でこの肥溜めを殺すのは手っ取り早いが、ベルのことを考えれば手頃な壁を態々用意してくれる便利な駒を失うのは惜しい。
楽をできるなら楽をする、それが貴方のポリシーのひとつ。
汚らしい野グソでもそれは時間を置けば肥料になる。
せいぜい糧になれ、貴方はそれだけを言い残し会話を打ち切り食事に意識を集中させた。美味な食事でストレスを打ち消すのが1番だからだ。
その後、食事を終えた貴方はベルの容態が気になり見に行けば何故かヘスティアと抱き合ってる場面を目撃し一悶着があったりと騒がしくも1日を終えるのだった。
〇
そこは深く、暗く、蒼く、冷たい世界だった。
天幕は無数の輝きが浮かび、どれだけ値打ちのある芸術品であろうと決して叶うことの無い幻想的な穹が広がる世界。
その中心に佇むようにソレはいた。
「……ふむ、我が王が視えなくなったと思ったが繋がりはきちんとある。
くまなく狭間の地を探しては見たがそれでも居ないとなると影の地へ飛ばされた……か?
いや、それならば多少手間だが見つかるはずだ。それでも居ないということは少なくとも狭間の地にはいないことになるか……」
白い雪を思わせる衣装に身を包んだ小柄なその人物はよく見てみれば人ではないとわかる。
肌の色は青く、袖から覗く手の数は四。
整った顔の右目は潰れ、それに重なるように半透明の顔が寄り添っていた。
そしてなによりも、所々の肌はヒビ割れ、関節部分には何かの紐のようなモノが見えることからその体は肉の体ではない人形であることが理解出来る。
人形……否、彼女の名は"暗月の女王ラニ"
エルデの王の伴侶にして主君。
狭間の地に冷たい律を掲げ、人々を見守ることを選択した冷たく優しい慈悲深き女神である。
そんな彼女は今はここにはいない誰かを探しており、視線は空に浮かぶ満月を介して何処かを視ていた。
「……全く、我が王の収集癖には困ったものだ。使うならまだしも大半が使用することなく死蔵してしまっているだろう?
そんなことに時間を割くくらいなら私と共にいてくれても良くないか?
……いや、夫の趣味を容認してこそ良き妻だな。母上もよく
だが、それはそれとして妻を蔑ろにするのは許せんな。見つけたら誰のモノか解らせないとならんな、うむ」
整った眉を僅かに寄せて拗ねるように独り言を零すラニは普段見せる荘厳とした超然的なものではなく、普通の夫にヤキモキさせられる妻そのものだった。
周囲に冷気を漂わせながらラニが満月を見つめていると、不意に肩を揺らしてなにかに気づいたように視点を固定させる。
「……うん? この反応は…………ふむ、次元の揺らぎか。
そうか、こことは異なる世界に飛ばされればどれだけ探しても見当たらないのは道理だな。
王との繋がりはあるから、それを起点にして知覚範囲を拡張させれば良い」
4本あるうちの腕の1つを軽く動かすとラニは僅かに微笑んだ。
「うむ、ここにいたのだな我が王。夫を迎えに行くのも貞淑な妻の勤めというやつだ」
暗月の女王は緩やかに立ち上がればその身体は霞み始める。その数瞬後にはその場には誰もおらず、ただ幻想的な景色だけがあるのみ。
離れ離れだった王と女王の再会は近い。
これで原作1巻までの内容は終わりです。一旦これで区切りにして別の作品に注力したいと思います。
感想評価お待ちしておりますね。
もしくは感想欄に( ゚∀゚)o彡゚とでも投げてくれるととても嬉しいです。ではではー
ラニ様を出す?
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出す
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出さない
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イマジナリーラニ様なら居るだろバカ