「ここの道に向かって、ここを曲がっていけばギルドです。それで、受付の人に登録の旨を伝えれば冒険者登録ができますよ! じゃあ、僕は迷宮に行ってきます!」
ベルは貴方にそう告げれば、手を振りながら元気よく走っていく。
貴方は軽く手を振り返しつつ、背中が見えなくなったところで廃教会へと戻っていく。
貴方がヘスティア・ファミリアの一員になった翌日、冒険者になるためどうすればいいかを2人に聞けばギルドという組織のある建物に行けばいいことを教わった。
ベルは貴方に地図と道の進み方を教え、迷宮へと走っていく少年を見送った後、貴方はまだ眠そうなヘスティアに朝食の作り置きを用意しておく。
渡された地図と目的地までの距離からざっとかかる時間を計算した貴方はオラリオを探索がてら早めに出るのであった。
迷宮都市オラリオ。それは遥か昔の時代にまで遡る。
とある大地にはとても大きく、深い穴があった。
その大穴からは凶暴な怪物たちが現れ、地上の人々を襲い抗うすべのない人々は日々を恐怖に脅えていた。
だが、それを見かねたのか人間の認識の埒外にある天界より超越存在"神"が現れた。彼らは力のない人々に恩恵を刻み、力を与えた。
恩恵を賜った英雄達は怪物を打ち倒し、大穴に封をする。
そして、時代は移ろい大穴の封の上には塔ができ、その塔を中心に人の生活領域が開発され気がつけば世界最大級の都市が出来ていた。それが迷宮都市オラリオ。
かつて人々が恐れた怪物は巨万の富を生み出す金脈となり、人々が一攫千金を夢見、神々が怠惰で退屈な日々の脱却を願う。
新たな英雄が生まれるのを夢見ながら日々を過ごす都市である。(オラリオ観光ブック冒頭より抜粋)
貴方はなんて書いてあるか分からない冊子を読み終え、パタリと閉じる。
視線をあげれば自分の並んでいた列が進み、ちょうど貴方の番がやってきたようだ。
「うわ、ごつい……ンンッ!! ……ようこそギルドへ。なにか御用でしょうか?」
貴方が進めば、カウンター越しに眼鏡を掛け、短く髪を切りそろえた顔の整った女がいた。髪から覗く耳の先端が僅かに尖っていることから何かの混種らしい。
職員は貴方を見て僅かにたじろいだように見えたが、すぐに持ち直して営業スマイルを貴方に向けて要件を尋ねた。
貴方はそのギルド職員に冒険者登録をしたい旨を伝えれば、職員は慣れた様子で引き出しの中から数枚の書類とペンを貴方へと渡す。
「こちらの書類にお名前、年齢、種族のご記入をお願い致します。
ファミリアに所属し、既に恩恵を賜っていた場合はこちらに所属ファミリアの名前とレベルをお願いできますか?」
貴方は頷き、サラサラと書類にペンを走らせていく。
ものの数分で必要事項を書き終えた貴方は書類を職員へと提出した。
「確かに受け取りました。では確認させ……て…………うぅん?」
職員は貴方から渡された書類の記入事項の確認のため、上から順に見て言ったのだが視線が下がっていくにつれてその整った顔が曇っていく。
はて、なにか不備があったのだろうか? 貴方は首を傾げて職員の反応を待っていればようやく口を開いた。
「……申し訳ありませんが共通語での記入をお願いできますか?」
共通語? 貴方は言われて頭の上に疑問符を浮かべる。貴方の書いた文字は狭間の地で使われていた言語であるのだ。……と、そこまで考えて貴方は理解した。
何故か言葉は通じているが、この世界の文字はそういえば読めないのであったことに。ならば逆もまた然りだろう。貴方に読める文字が逆にここの世界の住人が読めるという訳では無いのだから。
貴方は職員に謝罪して代筆を頼むことにした。貴方は思慮深い褪せ人だ。自分の思い通りに行かないことがあって暴れるのは南瓜頭の狂兵にもおとる愚者である。ワタシカシコイアセビト。バンゾクチガウ。
「かしこまりました。では御手数ですが、先程記入した内容を復唱して貰えるでしょうか?」
職員に促され、貴方は先程記入した内容を一語一句同じことを復唱した。
名前(覚えてないので適当なやつ)、年齢(覚えてないので適当)、種族(褪せ人って人間だよね)。
そして所属しているファミリアはヘスティア・ファミリアと言った所で。
「え、ヘスティア・ファミリア!?」
今度は一体なんなんだ? 貴方は突然騒ぎだした職員にジト目で見れば、自分に周囲の視線が集まってることに気がついたのか恥ずかしそうに顔を俯かせるのであった。
「す、すいませんさっきは取り乱してしまって」
ペコペコと頭を下げて謝る女職員、もといエイナ・チュールの謝罪を貴方は大して気にした様子もなく顔を上げるよう促す。
現在、貴方たちは個室の面談スペースにいた。さっきの出来事の後に貴方は彼女に案内されたのだ。
話を聞いたところ、どうやら彼女はベル・クラネルの担当アドバイザーと言うやつで彼が冒険者になった頃から何かと世話を焼いている間柄らしい。
それに、たまたま彼の所属しているファミリアが貴方と同じくヘスティア・ファミリアだったので驚いたのだそうだ。
それも仕方ないだろう。ヘスティア・ファミリアの構成員は実際は駆け出しのベル1人に主神がバイトで生活費を稼いでる零細も零細の貧乏ファミリアだ。
それが、貴方のようないかにも手練といった風体の存在が入るだなんてよっぽどの物好きか酔狂な人物と思ってしまうだろう。
まぁ、別に貴方の考えとしてはヘスティアから貰った髪留め程度しか居座る気はないので、貴方の琴線に触れるようなものがあればすぐにでもヘスティア・ファミリアからは去るつもりだ。
貴方はエイナ・チュールと世間話を程々にササっと冒険者登録をしてもらえば目的のひとつをやってもらうことにした。貴方はエイナに換金は可能か? と尋ねてみれば。
「ええ、可能ですよ。ギルドの業務内容は多岐にわたりますが基本的には冒険者の皆様が迷宮で手に入れた魔石や怪物の素材などの買取、サポートが主ですから」
ならば話は早い。貴方は迷宮内で獲得し、ルーンに還元していた多量な魔石や素材の数々を取り出した。
小さいものや大きいもの。まさに多種多様なそれらはゴトゴトと大きな音を立てて机の上に落下し、重さに耐えきれなくなったのかミシミシと机の足が音を立てて破壊された。
それでも出てくるのは終わらず、小部屋のスペース全てを埋め尽くす速さで放出を行う。
「へ…………?」
突然の出来事にエイナの目が蛇人みたいに点となる。
突如貴方が手を掲げたかと思えば、机の上に虚空から落下する魔石や素材の数々。中には小指ほどの大きさの魔石から小人族位のモノ。在り来りな怪物の素材だったり更には教本でしか見たことの無い深層域のものだったり、挙句には見たこともないようなもの見える。
気がつけば机の足が壊れ、足元を埋めるほどの素材が転がってくるが貴方は放出する手を止めることは無い。
どうやってこれ程のものを? そもそもどこに持っていた?
いや、その前にこれはスキルなのか?
エイナの頭の中にはそんな疑問が現れては消えていく。半ば現実逃避のように思っていたが、目の前の光景は何度瞼を瞬かせても消えることは無い。
エイナは段々と思考が追いついてきたのか、それともコトのやばさに本能で気がついたのか慌てたように声を上げる。
「と、止めてぇ!! お願いだから止めて下さぁい!? ほんと、とめ、と……止めろって言ってんでしょ!?」
叫び、エイナは足元に転がっていたなナニカの角を掴んでフルスイング。
火事場の馬鹿力だろうか、普段なら持ち上がらいような重さのソレは見事なフォームで振りかぶったかと思えば、これもまた見事な軌道を描いた。
空気を割いて飛んでいくソレは丁度貴方の頭があるところにぶつかった。
小気味良い音を上げ、貴方の首はグキリと嫌な音を立てたかと思えば、割とヤバメな感じで曲がったでは無いか。
貴方は作業の手を一旦止め、兜の角飾りを掴んで強引に首の向きを直す。
ゴキ、ゴキ、ゴキッ! と少々不安になるような音を立てて首は元の向きに戻り何度か動かして感覚を確かめれば貴方はエイナに向け、なんですかコノヤロウ? と感情ののせた視線を送るのだった。
「なんですかコノヤロウ、じゃないんですが!? なんですかこの沢山の素材や魔石は!?
というか明らかに隠してました、という量じゃありませんよね!?
どんな手品ですか!?」
見ての通りですが何か? 貴方はエイナの疑問に
目の前の現実を素直に受け止めないのは頭が悪い証拠である。可哀想に……。貴方は心底哀れみを込めてヤレヤレと肩をすくめる。まったく、こういう輩との会話は実に疲れるものだ。
「ッッッ!!?」
そんな貴方に対し、エイナは何かを叫ぼうとしたが。
「一体何事だチュール! こちらにまで騒ぎ声がきこ、え…………なんだこれはぁ!?」
突如として面談スペースの扉が開かれたかと思えば、そこからはでっぷりと肥え太り、たるんだ腹を揺らして額に脂汗を浮かべテラテラとした光沢を放つ醜い存在がいた。
貴方はサイズの縮んだ神肌の巨漢のようだと思いつつ、
感想、評価お願いしますね
ラニ様を出す?
-
出す
-
出さない
-
イマジナリーラニ様なら居るだろバカ