貴方とベルは晴れて師弟となった。
だが、それまでろくに休憩を挟まずに進撃を行っていたベルは緊張の糸が切れたのか脳内物質によりごまかしていた疲労からその場でぶっ倒れて意識を失ってしまう。
貴方はそんな弟子の締まらない様子に苦笑しつつトレントを喚び出し、いつかのように背に乗せ襲ってくる怪物を蹴散らしつつ迷宮の外へ出れば廃教会へと帰還した。
「ベルくん……! よかった無事で……!!」
空はすでに白み、朝日が昇ってくる時間帯に廃教会にたどり着けば肌寒い外に体を毛布で包み震えながら佇んでいたヘスティアがいた。
どうやら寝ずに待っていたのか彼女の体は芯から冷え、顔には心配と疲労が滲ませながらも貴方に駆け寄る。
貴方はそんな彼女を宥めながらも地下室のベッドに泥のように眠るベルを寝かせ、リビングに向かえば蜂蜜と生姜を溶かしたホットミルクをちびちびと飲みながらソファに座るヘスティアが貴方に何が起こったかを尋ね、貴方は彼女に対面する形で座れば説明を行う。
豊穣の女主人という酒場で赤髪の貧相な体つきの女神のファミリアにいる混種に嘲笑され、貴方がいちゃもんをつけられたこと。
貴方がその混種を半殺しにしたこと。
ベルが迷宮に潜り、無茶な行軍を行ったこと。
それがとある人物の隣に並び立つため、強くなるためだったこと。
彼の強くなりたいという叫びに貴方が応えてやりたくなり、鍛えることにしたこと。
最初のところを聞いたときのヘスティアの顔を見てる分には面白いくらいに真っ青になり、話が進むごとにだんだんと彼女の顔は沈痛な面持ちとなり終えるころには深く顔を伏せていた。
「君はそんなに追い詰められていたんだね…………」
ようやく口を開いた言葉はそれだった。万巻の思いを込められたソレには貴方がどれだけこの女神があの少年を思っているかうっすらとだが理解できる。
やがて、何か意を決したかのような彼女は机の下からいくつかのある羊皮紙を取り出し、机の上に置いた。
「君にだけは教えておくよ。まずはこの写しを見て欲しいんだ」
彼女が言うにはこの羊皮紙は冒険者たちの力の源ともいえる恩恵の写しというのらしい。
一番左端のものはベルが初めて恩恵の刻まれたもので、数行にもわたり数列が書かれていた。その値はどれも低く確かに駆け出しといえよう。
右に進めていくごとに数日の上りは微々と評せる上がり幅だったが、ある部分を境に異常ともいえる上がりを見せていた。
貴方がこれを尋ねれば、ヘスティアは頷き口を開く。
「君の言う通りこのステイタスの上昇は可笑しいんだ。伸びがいいのは最初だけで、だんだんと頭打ちになって燻っていくものが大半なんだ。
だけど、ベルくんは違う。これは成長じゃなくて最早飛躍だ。この原因は分かっている。とあるスキルが原因だ」
ヘスティアの小さな指が指した箇所の部分は滲んだような部分があり、おそらくそれが彼女の言う原因のスキルなのだろう。
「このスキルの名は"
その説明を聞き、貴方が想ったのはたった一つのシンプルなものであった。
────チートすぎない?
なんだその羨ましいものは。つまりあれかね? 戦えば戦うだけ、ラニ様
貴方がそんなことを思っているかは露知らず、ヘスティアは神妙な顔で貴方に言う。
「このスキルはほかの
ガネーシャやヘスティアは貴方から見ても善人と評せる存在だ。だが、基本的に暇を持て余した
貴方はヘスティアの言ったことには特に異論はない。
「それともう一つ。このスキルは確かにベルくんを強くしてくれる。今よりもずっとはるか高みへ至れるだろう……」
できることなら何でもする、彼女はそんな思いを込めて貴方に乞う。
「君がベルくんを連れて帰ってきたとき、いままでにないほどボロボロで血の気が引いたし死んでしまったら……って思ってしまった。不安で怖くて今思い出しても震えが止まらない。
こういっては何だけど、ボクはもうベルくんに迷宮なんて行ってほしくないなんて思ってしまった。
だけど、それはベルくんの英雄になるという夢を壊してしまう選択だ。あの子は優しい子だからきっとやめてしまうだろう。そんなボクの勝手な願いでそんなことをすれば絶対にベルくんは後悔を引きずってしまう。
…………ボクはベルくんの強くなりたいという意思を反対しない。尊重するし、応援もする。手伝えることなら何でもするし、力を貸してあげたい」
一拍おけばヘスティアは深く、深く貴方に頭を下げた。
「どうか、無理をさせないと約束してほしい。もうあんな思いを僕はしたくないんだ……!
お願いだから、僕を一人にしないでほしい……!!」
はっきり言ってなめているとしか言えない願いだ。強くなるのにはどう足掻こうとも無理をしなければならない場面は必ず訪れる。それは貴方の狭間の地を旅してきた経験からくる事実だ。
言ってしまえばいい、と貴方の理性がささやく。あまったれている馬鹿にどれだけ強くなるのが難しく険しいか懇切丁寧に教えてしまえと。
貴方はヘスティアに向けて、口を開いた。
ヘスティア自身、虫のいい話だと分かっている。だから、ぎゅっと目を閉じ、来るのを待つ。
────確約はできない。けれど、善処はしよう
「ッ……! ありがとう……!!」
狭間の地にいたころでは有り得ないセリフに、言った貴方自身驚きを隠せなかった。
どうやら、短い間にこの女神のお人よしっぷりと少年の人畜無害さに貴方は随分と絆されてしまったらしい。
今でも貴方は神は嫌いだし、可能なら今すぐ首を刎ねてやりたい。けれど、この目の前の小さな女神くらいなら見逃すことをラニに忠言するのも悪くないだろう。
そんなことを思いつついれば、ヘスティアが戸棚の上から書類が雑多に詰め込まれた箱を取り出し、まさぐり出せば丁寧に包装された便箋を一枚引き抜いたでは無いか。
貴方はソレがなんなのか尋ねてみれば、ヒラヒラと便箋を揺らしながらヘスティアが答える。
「これは神同士の交流と近況報告を兼ねたパーティの招待状さ。本当だったら行く気はなかったんだけど、君にばかり頼ってちゃいられないからね。
ボクはボクのやり方でベルくんの力になりたいんだ。これはそのための1歩かな」
その説明を聞き、貴方は頷く。貴方には貴方のやり方。ヘスティアにはヘスティアのやり方がある。道理である。
それはそうとして、貴方はヘスティアにドレスはあるのか聞いてみた。すると、彼女は面白いくらいに挙動不審となり冷や汗をダラダラと流し始めたでは無いか。
貴方はそんな様子を見てマジかコイツ? という貴方の視線に耐えれなくなったヘスティアが叫ぶ。
「し、仕方ないじゃないか! 今の今まで食うに困るくらいの極貧生活だったんだからドレスなんて用意出来るわけないだろう!?
それとも何かい? そんなことを言える君はドレスの一つや二つ持ってるとでも!?」
これこそ正しく逆ギレと人は言う。貴方は適当に女神をあしらいながらルーンへ還元していた手製のドレスをいくつか取り出せばヘスティアに渡した。
「え、どこからそんなドレス出したの!?」
どこからって、ここからですが?
なんだか前にも似たようなことがあった気がする貴方だが、瑣末な事だと結論づければヘスティアに試着をさせた後に気に入ったものを彼女に合うように特に胸周りを仕立て直すのだった。
狭間の地でも手に入れた鎧などの装備品を仕立て直したりしてきた貴方にとってこれくらい難なくできるのだ。ポック? あぁ、彼は良い奴だがわざわざ頼む必要あるかね?
付け加えていうなら、渡したドレスも本来は敬愛するラニの為に貴方が生地から厳選して仕立てたものなのである。(尚、ラニ本人からは露出が多いと言われ泣く泣くルーンの肥やしになってた模様)
そしてヘスティアは招待状に書かれていたパーティの開催日がちょうど今日の夜だったため。
「何日か留守にするかもだから、その間はベルくんを頼むよ!!」
慌ただしくドレスと招待状片手にヘスティアは出ていくのだった。
貴方はそんな彼女を見送り、すっかり空高く昇っている太陽を見つめながら地下室へ戻る。
ベルはもう起きているだろうか? そんなことを思い、貴方は寝室の扉を開けば。
「ふぉおおぉおおおおお……!!!」
頭を抱え、ゴロゴロとベッドの上を転がる弟子(の予定)の奇行が見えてしまった。
───え、なにあれ、怖っ……
扉をそっ閉じし、貴方は距離をとる。
貴方とて頭のおかしい奴とは距離をとるのだ。例えるなら"しろがねの覆面"を装備して裸の変態がフレイルや松明をブンブン振り回して近づいてきたらどうする? つまりはそういう事だ。
アセビト、ヘンタイコワイ……
とりあえず朝食を作るか、貴方はそそくさと台所に引っ込むのであった。
感想、評価、待ってるよ!!
ラニ様を出す?
-
出す
-
出さない
-
イマジナリーラニ様なら居るだろバカ