さて、貴方はベルの師匠になったのは良いが困ったことがあった。
それは単純に誰かに何かを教えるということだ。
貴方がかつて狭間の地にいた頃は基本的には誰かから教えを乞う立場か独学とフィーリング。実践に次ぐ実践だった為に、誰かに何かを教えるという経験が少ないどころか皆無である。
これには貴方も悩んだ。それはもう悩んだ。
貴方の思考回路の9割9分の割合を占めるのは敬愛すべき主君のラニだが、残りの思考回路のほんとに消しカスサイズレベルを使うくらいには悩んだ。
そして、悩んで悩んで悩み抜いた末。貴方はシンプルな結論に至った。
──とりあえずボコるか
自分が体験したことと同じことをすれば間違いはないだろう。
やはり天才か? 天才だったわ。
貴方は自分の脅威の
なに、殺さない程度に殺す気でやれば
「あのう……師匠〜。今まで黙ってたんですけどここって深層ですよね?」
貴方がベルの
現在貴方はベルを連れて迷宮に訪れており、今いる場所は階層的には深層と言われてる場所だ。
トレントに乗せてくそ長い道のりを進むのは面倒だったので、試しに祝福間の転送が使えないかと試したところ意外や意外。ベルと共に来れたのだ。
なお、貴方にとってはそんなでも無いのだが、中層をすっ飛ばしての深層に連れてこられたベルからしたら堪ったものじゃない。
明らかに気配が自分の知る上層とは違い、死がすぐ隣にあるという気配。
姿は見えないが、今も自分の首筋を狙う怪物たちの静かな殺気。
出来るなら今すぐ逃げ去りたいが、自分程度の力ではできる訳もなく。唯一の安全地帯が貴方のすぐ側なので逃げたくても逃げられない。
怖い、無理、鍛えて欲しいとは言ったけどさすがにこれはないんじゃないかなあ!?
冷や汗が背中をぐっしょりと湿らせるが気にならないレベルでベルはビビっていた。
そして、別に貴方としては浅い階層でも構わなかったのだが、これからやろうとしている事としては余り人目に付くのも面倒なのでこうして道中の怪物を蹴散らしながらやってきたのだ。
貴方は立ち止まり、ベルに向き直ればルーンに還元していたとある物体を取り出す。
それは磔にされた女性の石像だった。
両手に抱えた石像を地面に置けば、重みにより僅かに沈み込んだソレをベルは興味深そうに貴方に尋ねる。
「これは何なんでしょうか?」
貴方はこれを使ってベルを鍛える旨を伝えれば、怪訝そうな顔をベルは浮かべた。
石像で鍛錬? 背中にでも括り付けて走り込みでもするのだろうか? 確かに重そうだが、わざわざ深層に来てまで走り込みなんてさすがにないと思いたい。
そんなベルを横目に貴方はその石像こと"マリカの石像"に触れれば何かを呟く。
瞬間、淡い光が2人を照らしたかと思えばそこには誰も居らずマリカの石像のみが残っていた。
「うわっ!?」
突然の浮遊感が来たと思えば、落下。そして臀部に衝撃が走り情けない悲鳴を上げる。
「こ、ここは!?」
ベルは顔を上げれば目に映る光景に絶句した。
ついさっきまで迷宮にいたと思えば、周囲を壁に囲まれた円形の広場に自分はいる。
それに、少し離れた位置には貴方が直立不動の姿勢で佇んでいた。
「し、師匠これは!? あの、どういうことなんですか!?
僕ら、さっきまで迷宮に!!
なにかの魔法なんですか!? それともスキル!?」
次々とまくしたてるベルだったが、貴方の返答はシンプルすぎるものだった。
何だか言ってることが違うって? ハハッ、気の所為である。
「!!?」
突然の悪寒に慌てて立ち上がればベルはバックステップ。
瞬間、自分のすぐ近くをナニかが通り過ぎれば鼻先から僅かに血が吹き出した。
そこそこ離れていたはずの貴方は気がつけばベルのすぐ目の前におり、右手は振り抜かれ手の中には奇妙な捻れた漆黒の刃をした短剣が握られていた。
──あ、コレガチで
ベルは察し、泣きそうな顔になりながら自分の武器を引き抜く。
貴方は振り抜いた姿勢で固まっており、ベルは即座に突撃。ナイフを突き立てようと……
キィン……!
澄んだ音。そして自分の体勢が崩れ、ゆっくりとなった光景の中に見えたのは左手に握られたダガー。右手にはさっきとは違う切ると言うより貫くといった細い刃の彫刻の刻まれた短剣を握る貴方がベルの心臓にその刃で貫く所だった。
刃が防具の胸当てを通過し、切っ先が皮膚を破り、筋肉を抵抗を許さず深々と突き刺さり、自分の心臓を貫き、自分の背中から冷たい刃が生えてくる感覚。
急速に自分の力が抜けていき、喉の奥から熱く鉄臭い液体が吹き出せば体を汚す。
「あ……っがっ……」
ひざを折り、血だまりに沈み呆気なくベルは死んだ。
月が妖しくオラリオ照らす中、都市中にいる
それの全長はおよそ30mほどだが、デザインが奇抜というか奇怪というか頭がおかしかった。
像の頭を持つ巨人像が胡坐をかき、すわっていたのだ。
このイかれた巨象のデザインのもとになったのは我らが神ガネーシャである。
神々は爆笑し、ファミリアの団員たちは死んだ目でその巨像を見つめる。もしここに貴方がいれば"こういうのもあるのか"と感心したことだろう。
そんなイカれた巨象の股下をくぐり、ガネーシャ・ファミリアの本拠アイアム・ガネーシャの中へと入っていく神々。
なぜこんなにも神たちがいるかというと、神の宴の主催者がガネーシャであるためにそのファミリアの本拠が会場となったのだ。
そして、当の主催者はド派手な外観とは打って変わり落ちついた内装のステージの上でスピーチを繰り広げていた。尚、ほかの神々は聞き流して適当に思い思いに駄弁っていた。
今回のパーティでは
そうしてると、
「久しぶりねヘスティア。てっきり来ないと思ったけど……」
「もぐっ……んむ? へふぁふぃふぉふ!!」
「はいはい口の中のもののみこんでからしゃべりなさい。行儀悪いわよアンタ」
神友の女神、顔半分を眼帯で隠し赤い髪が特徴のヘファイストスは呆れたように言いヘスティアは急いで口の中の食べ物をジュースで流し込めば嬉しそうに彼女のもとへと駆け寄る。
「いやぁ、よかったよ君がいてくれて!」
「なによ。もう1ヴァリスも貸さないわよ?」
「し、失敬な! もうそんなことはしないやい!! というか、今はいろいろあって生活に余裕ができたからそこまで切羽詰まってないよ」
「ふぅ~ん……どおりでタダ飯を食い漁ってないのね。それにそのドレスもそういうこと?」
「ああ……これは新しく入ってきた
ヘスティアは言い、自分の着ているドレスのスカートの端を摘みヘファイストスに見せる。
「へぇ……貴方のとこに新しい子がねぇ。酔狂な子もいたものね……」
「まあ大分……というかかなり変わった子だけどとてもいい子だよ! ご飯作ってくれるしね!」
「そうなの。よかったわね」
そんな会話を繰り広げてれば。
コツコツ、楚々と鳴らす靴音がヘファイストスの背後から聞こえてくる。
「ふふ、相変わらず仲がいいのね貴方たち」
「え……ふ、フレイヤ?」
現れたその女神を一言で表すなら、美に魅入られた存在、だ。
フレイヤと呼ばれたその女神は微笑みながらその銀髪を揺らし、ヘスティアの前にやってくる。
「な、なんできみがここに……?」
「すぐそこで会ったのよ。久しぶりー、元気してたー? って話してたらせっかくだしいっしょに回んない? ってかんじで」
「軽いよヘファイストス!」
「あら、私はお邪魔だったかしら?」
「いや、そんなことはないけど……」
ヘスティアは微笑を浮かべるフレイヤに対して口を曲げながら言う。
「僕は君が苦手なんだ……」
「フフッ、あなたのそんなところ私は好きよ?」
「おーい! ファイたーん、フレイヤ―、ドチビー!!」
そんなやかましい声が聞こえてくる。
「……まぁ君よりも大っ嫌いなやつがいるんだけどね」
「あら、それは穏やかじゃないわね」
ヘスティアが視線を切り、回れば視界に手を大きく振って歩み寄ってくる
朱色の髪にドレスを纏い、閉じられた目が特徴の女神ロキだ。
「あっ、ロキ」
「なんで君がいるんだよ……!」
「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんのか? 『今宵は宴ジャー!』っていうノリやろ?
むしろ理由を探すほうが無粋っちゅうもんや。はぁ~~~マジ空気読めへんよなこのドチビ」
「…………ッ~~~~~~~~~!!!?」
「すんごい顔になってるわよアンタ」
ロキの煽りに盛大に顔をゆがませるヘスティア。
ヘスティアとロキは仲が悪い。それはもう顔を合わせれば口喧嘩はいいほうでひどいときは取っ組み合いの喧嘩まで発展してしまう。
だが、ここでそれをしてしまえば目的の一つが達成できない。なので勤めて冷静に深呼吸を行いヘスティアは精神を落ち着け始めた。
「本当に久しぶりねロキ。今日はヘスティアやフレイヤにも会えたし、今日はめずらしいこと続きだわ」
「せやなぁ。……まぁ、久しくないのもここにおるんやけど」
ロキは薄く目を開き、フレイヤを見やるが給仕から頂戴したグラスを傾け、微笑みを崩すことはなかった。
「なに、貴方たちどこかで会ってたの?」
「先日にちょっとね。と言っても、会話らしいものはしてないのだけれど」
「よう言うわ。話しかけんなーっちゅうオーラ全開だったやろ?」
「ふーん。あ、ロキ。貴方のファミリアの名声よく聞くわよ? 上手くやってるみたいね」
「いやぁー、大成功してるファイたんにそないなこといわれるなんてうちも出世したわぁー。……といっても、ココ最近はちょっち痛い目見たんやけどね」
「あー、そういえば貴方のとこの子供が病院送りにされたんですって?」
「せやなぁ。先に手を出した手前、あんまし強いこと言えんのやけど……」
苦い顔となり、ロキは言う。
ツンとしていたヘスティアはこれ幸いと思い、ロキに質問する。
「ねぇ、ロキ。君のとこのヴァレン何某について聞きたいんだけど?」
「あっ、剣姫ね。私もちょっと聞きたいわ」
「あぁん? ドチビがうちに願い事なんて明日は溶岩の雨でも降るんとちゃうか?
ハルマゲドーン! ラグナロクー! みたいな感じで」
いちいち茶化すんじゃねーぞコノヤロウ、ヘスティアは毒づく。
「……聞くけど、その噂の剣姫には付き合ってるような男や伴侶ってのはいるのかい?」
「あほぅ、アイズはうちのお気に入りやぞ? 嫁にゃ絶対に出さんし、誰にもくれてやらへんわ。
うち以外の奴があの子にちょっかい出したら八つ裂きにしたるわ!」
「チッ!」
「なんでそのタイミングで舌打ちしてんのよアンタ……」
どうせならくっついてくれてたなら良いのに、ヘスティアのゲスな思考を展開する横でヘファイストスは呆れ返っていればロキの格好に意識が向いた。
「今更だけど、ロキがドレスなんて珍しいわね。いつもは男物なのに」
「あー、それはアレやでファイたん。どっかのどチビが慌ただしくパーティに行く準備をしてるって小耳に挟んでやったんやけどなぁ」
どこがつまらなそうな顔でロキは腰をおり、ヘスティアの顔に自分のものを寄せる。
「ドレスも着れない貧乏神を笑おうと思ってたんやけど……聞いとらんぞどチビィ!!
お前なんでンな明らかに高そうなドレス持っとんねん!! 空気読めやドアホゥ!!」
(うっぜぇぇえええええええええええ!!!)
ヘスティアは心底理不尽な文句を言う
彼女のドレスは雪の結晶を思わせる刺繍が施され、腰にはリボンが巻かれ豊かな双丘を強調するデザインのそれは他の三柱から見ても見事なものだった。ひとつ言わせてもらえば結構露出が大きめなところだろうか?
さすがに我慢の限界だったヘスティアはその巨峰を強調するように上体を逸らせば言い放つ。
「フンッッッ! こいつは滑稽だね! ボクを笑うために自分の
「んなぁっ!?」
「あぁ! ごめーん! 笑いじゃなくて穴を掘る才能だったかなぁ? ……墓穴という穴を掘るためのさぁ!! アハハハハハッ!!!」
意趣返しとばかりに高笑いをすれば、ロキの顔は面白いくらいに赤く染めあげて歪める。
ロキのドレスはヘスティアのものと似たように露出が激しめのものだった。だが、ヘスティアと違いその胸部は悲しいくらいの格差社会が広がっていた。
デンッ! に比べてスンッ……である。
よく貧乳はステータスだ。希少価値だと言われてるが、夜の野郎共はほぼ巨乳派なのだ。
どちらも御歳
そして始まるキャットファイト。
騒ぎを聞き付けた他の神々は囃し立て、ヘファイストスはげんなりした。
「……ふ、ふん。きょ、今日はこんくらいにしといてやるわ…………」
そんなおり、決着したのかロキは酷く打ちひしがれた様子で言う。
ゴロゴロとのたうち回る幼女には目もくれず、ロキは身体を震わせてその場を離れていくその背が酷く悲しげに見えた。
「い、いたたた…………こ、今度現れる時はそんな貧相なものをボクの視界に入れるんじゃないぞこの負け犬めぇ!」
「うっさいわアホンダラァ! 覚えとけよぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
試合に勝ったというのにそうは見えないセリフを残し、涙を流しながらロキは会場を出て言ってしまった。
神達はやっぱりな、という様子で離れていく。
「ぐぬぅ……あんにゃろう本気でほっぺをつねりやがってすごく痛いぞぅ…………」
「はいはい大丈夫ヘスティア?」
「フフッ、それにしても本当に丸くなったわね彼女……」
「えぇ? あれは丸くなったというより小物臭しかしないのだけれど……?」
フレイヤはヘファイストスの言葉に笑い、髪を撫でつけた。
「下界に来る前までは暇つぶしの為に来る日も来る日もほかの神々に殺し合いをけしかけてたのよ?
今の方がずっと可愛げがあるもの。何より、危なっかしくないし」
「そりゃあ
そういえば、貴方とロキって付き合いが長いんだっけ?」
「ええ。貴方達とおなじくらいよ」
「腐れ縁よ私たちは。ほら、ヘスティア頬冷やしときなさい」
「うぅ、ありがとうヘファイストス……」
よたよたと立ち上がるヘスティアを支えてやり、給仕から受け取っていた濡れ布巾を手渡せばヘファイストスはフレイヤに苦笑する。
「ロキは子供たちが大好きみたいね。だから、あんな風に変わったのかもしれない」
「…………甚だ遺憾だけど、まぁ、子供たちが好ましいっていうのは
「へぇ、前まで『ファミリアに入ってくれないなんて子供たちは見る目がなーい!』なんて言ってたくせにねぇ?
貴方のファミリに入ったベルっていう子のお陰? それとも、新しく入った子のおかげ?」
「ふふん、まぁね! ボクには勿体ないくらい、すごくいい子達だよ!」
「確かベルって子は白髪で赤い目をしたヒューマンだっけ? ファミリアが出来たってあんたが報告しに来た時は驚いたなぁ
もう一人の子はどんな子なの?」
「彼のことかい? うーん……彼は正直よく分からないんだよね。
いつも全身に大きな鎧を着てて、ご飯が大好きってこととすっごく強いってことしか分かってないんだ
あー、あとファミリアにはいる時は『入ったらなにか特典あるのか?』って聞いてきた時は驚いたね。お陰でお気に入りの髪留めを1つあげることになったよ……」
「なにそれ、変なの」
ヘスティアが思わず遠い目をし、ヘファイストスが首を傾げる横でフレイヤが手に持っていたグラスをテーブルの上に置く。
「じゃあ、私は失礼させてもらうわ」
「え、もう? フレイヤ、貴方用事があったんじゃないの?」
「もういいの。確認したいことは聞けたもの」
「……貴方、ここに来てから誰かに聞くような真似してた?」
パーティで会ってから一緒に行動してたヘファイストスの問いかけにフレイヤは答えず、ヘスティアを見下ろせばこれまでとは少し違った形で微笑む。
ヘスティアはよく分からず、瞳を瞬かせた。
「……それに、ここにいる男は皆食べ飽きちゃったもの」
「「「「「「「さーせん」」」」」」」
「「…………」」
フレイヤの残した言葉にヘスティアとヘファイストスは顔を見合せ、なんとも言えない表情を浮かべる。
ヘスティアはあの女神のことが苦手だった。天界にいたころはヘスティアは処女神。だがフレイヤは自分の琴線に触れれば、だれかれかまず股を開く
「やっぱり、フレイヤも
「まぁ、アンタの司るものなら仕方ないわね。……けどまぁ、
あ、ちょっと思い出しただけで脳が破壊されたわ……」
「なんで君が自分でダメージ受けてるのさ……
はぁ、あれでも彼女は自分のファミリアを持つ身だろうに、自覚が足りなさすぎるっ。もしかしたら敵対するかもしれない神とだなんて……子供たちに愛想つかされるよ!」
「
そうは言っても、ヘファイストスは不満気な様子で眼帯を指でかく。
「で、アンタはどうするの? 私はもう少しみんなの顔を見に回ろうと思うけど……帰る?」
「あっ……」
ヘファイストスに言われ、ヘスティアがここに来た理由を思い出す。
「もし残るんだったら、どう? 久しぶりに飲みにでも行かない?」
「う、うん。えーっとー、そのぉ……」
しどろもどろとなり、言葉に詰まるヘスティアにヘファイストスは怪訝な顔を浮べる。
ヘスティアは何度か唸るような声を何度か出した後、覚悟を決めたようにか細い声で言う。
「そのぉ……ヘファイストスに頼みたいことがあるんだけどぉ…………」
「……」
ヘスティアがそう言った瞬間、目が細められ気配が切り替わる。
「この期に及んで、また頼み事?
アンタ、ついさっい自分がなんて口にしていたかよーく思い出してみなさい?」
「え、えと、なんだっけ……?」
「私の懐は食い荒らさらない……って、そう言ってなかったかしら?」
絶対零度の冷えきった視線にヘスティアは逃げたくなるが、ここでは引いてはいけないと愛しのベルの顔と貴方に言ったことを思い出した、顎に力を入れて耐える。
気持ちを奮い立たせ、ここで友と完全に縁を切ることになったとしても構わないと覚悟を決めた。
もともと、そのためにこの神の宴に来たのだから。
「……一応、話だけは聞いてあげるわ。私にナニを頼みたいって?」
ヘスティアの旧友、ヘファイストスは鍛治の神だ。当然、彼女のファミリアは鍛冶師のファミリア。
この都市の冒険者のほとんどの兵装を作る大大手。本来だったら自分のような零細とは話すことすらないのだ。
腕を組み、自分を見下ろすヘファイストスにヘスティアは大きな声で望みを言い放つ。
「ベル君にっ……ボクのファミリアの子に、武器を鍛えてほしいんだッ!!」
ドォン……!!
『おいまたアイツがやらかしたぞ!!』
『消火急げー!!』
『またビックリドッキリメカ作ったのかよ!』
「……アンタ、いつまでそうしてるつもり?」
ヘファイストスの執務室、なにやら外が騒がしいが彼女はそれを無視しながら床に跪いて頭を床に擦り付けてる物体に声をこぼす。
ヘスティアがヘファイストスに頼んで丸1日、こうして彼女が頭を下げ続けていた。
神の宴の時はすぐに突っぱね、追い払ったがそれでもしつこく付きまとってきた。
げんなりとした彼女はもう、諦めるまで好きにさせることにして放置したのだ。
放置したのだが、仮眠をとってあるあいだもこうして平伏しており目覚めたら変わらずの体勢だった時は流石にドン引いた。
今まで散々頼ってきたが、今回は様子が違う。
今回は強い執念。意志というのが感じられたのだ。
「……はぁ、あんた昨日から何やってるの? それに、なんなのよ、その格好」
「……土下座」
「ドゲザ?」
「極東に伝わる最終奥義……ってタケから聞いた」
「タケ……?」
「タケミカヅチ……」
その名を聞き、親交のある神の顔を思い浮かべて、何余計なこと吹き込んでんだあの野郎、と悪態をついた、
流石にヘファイストスもゲンナリとした様子で処理していた書類を投げ、作業を中断させる。
夕日の指す街並みを窓から見れば、ヘファイストスは視線を戻して姿勢を正す。
ずっとこちらに後頭部を晒すヘスティアにヘファイストスは静かに尋ねた。
「……ヘスティア、教えてちょうだい。どうして、貴方がそうまでするの?」
自身の眼帯を細い指先でなぞり、声を投げる。
「……あの子の、力になりたいんだ」
ヘスティアは土下座を崩さず、絞り出すように万感の意を込めて吐き出した。
「今、あの子は変わろうとしている。1つの目標を見つけ、ベル君は高く険しい道のりを走り出そうとしてる!
今もあの子は彼に鍛えてもらっているはずだ!
だから、そのためにあの子の道を切り開ける武器が!!」
「ボクはあの子に今まで助けてもらってばかりだ! ひたすら養ってもらってる!
新しく入ってきたばかりの彼にもだ! ボクはあの子たちの主神なのに、神らしいことは何一つできちゃいない!」
「……何もしてやれないのは、嫌なんだっ……
ボクにもできることが……成すべきことを為したいんだ!!」
長い、長い吐露だった。
だが、なんの混じりっけのない純粋なヘスティアの願いは確かに今、1人の女神の心を動かすに足る熱となった。
「……わかった」
「ッ!」
ヘスティアが顔を上げれば、ヘファイストスは微笑む。
「作ってあげるわ。……アンタの子にね。
それに、私が頷かなきゃ梃子でも動かないつもりでしょ?」
「……うんっ、うん! ありがとう、ヘファイストス!!」
こうして、なんの力のない小さな女神が自分に出来る精一杯の願いを鍛治の神を動かした。
これから先、白兎とともに歩む刃を鍛える最中に迷宮の底では……
「はぁ、はぁ…………」
黄金の光が放たれ、満身創痍のベルが闘技場の隅に現れる。
何度目かも分からない復活。全身に傷は無い。だが、精神的な疲労と苦痛にベルは苛まれる。
その様を貴方は無感情に見下ろしていた。
体感でおよそ数日、貴方とベルはずっと時間の流れが分断された闘技場で戦い続けていた。
だが、その内容は戦いとは言えない一方的な蹂躙だ。
貴方はひたすらベルが攻めてくるのを迎撃し続け、ベルを殺し続けた。
その度にベルは復活し、貴方が殺す。
これが貴方の考えた鍛錬だった。教えるよりもこうして肉体に刻んだ方が手っ取り早いからだ。
貴方が使ってる短剣もベルが使う得物に合わせ、見て動きを盗ませていた。
そのおかげか、最初の頃のベルの動きと今の動きは遥かに洗練されている。
貴方はベルに休憩も程々に辞めるか? と尋ねれば。
「まだ、です。……もう一度、お願い、しますっ」
仰向けから立ち上がり、膝が笑うのを無理やり従えさせてベルは強い意志の籠った瞳で貴方を射抜く。
貴方はそれに対し、短剣を構えればベルも同じように構え両者は無言で対峙する。
数秒の静寂。
「……ッ!」
疾走。地面スレスレまで体を下ろし、ベルは白い閃光となって貴方に迫る。
貴方は先手をベルに譲った。
「ハァッ!」
逆手に持ったナイフでベルは斬り掛かる。
貴方は短剣で受け止め、火花が飛び散り受け止められたベルは貴方の首を刈り取るように蹴りを放てば、貴方は左手の手甲で受け止めた。
いつかの犬っころよりも軽い衝撃。貴方はベルの足を掴もうとする。
その寸前でベルは距離を取り、貴方にいつの間にか持っていた小石を投擲。
最小の動作でそれらを避け、貴方はベルを追わず停止。
ベルは再び疾走。すれ違いざまに貴方を切りつけ、その度に貴方はそれをいなす。
真正面からの斬り合いはベルは勝てないことを何度も殺されてとうの昔に理解している。
唯一貴方に勝ててるのはこの素早さだけだ。
故に、ベルは攻め続け貴方を防戦に徹せさせる。
貴方に攻め手が移った瞬間、簡単にこの勝負は決着する。
薄氷の上で成り立っている。だが、全力というのは出し続けられるものではない。
「(だから、次で決める!!)」
覚悟を決め、ベルは一際大きく貴方のナイフがぶつかり合った瞬間にワザと弾き飛ばされ、闘技場の壁に着地。
「ハァァァァァツッ!!」
一際大きく力を込めて踏み込み、突撃した。
奇しくも、ソレはベルの憧れる存在の必殺の一撃と同じような攻撃だった。
一筋の閃光となったベルは貴方と交差する。
「ぶへっ!!?」
着地できず、ベルは顔面から落下し衝撃により意識を飛ばしてしまう。
カランッ……!
甲高い音を立ててベルの顔のすぐ側に黒き刃が突き刺さり、貴方は空を握る手をゆっくりと下ろした。
バフも盛らなければ戦技すら使わない。オマケに1歩も動かず、使い慣れた武器種でもないというハンデにハンデを重ねた貴方にとってのお遊びにも等しい児戯。
それでも、こうして貴方から武器を弾いて見せたベルに貴方は素直に賞賛を送る。
伸びてる弟子に貴方は近寄ればゆっくりと腕を掲げ、内にあるソレを呼び起こした。
幾つもの円が重なり、膨大な力を宿す、世界すら意のままに構築できる巨大な黄金のルーン『エルデンリング』を。
貴方はエルデンリングの一部を砕き、小さな欠片を何を思ったかベルの背中へと置けば沈み込んでいく。
ベルの背中が淡く光れば、エルデンリングの欠片が定着したことを確認した貴方はベルの体を担げば足元にある祝福に触れる。
すると、貴方は視界が切り替わり迷宮の中に立っていた。
そのまま足元の祝福に触れ、貴方は迷宮を後にするのだった。
ラニ様を出す?
-
出す
-
出さない
-
イマジナリーラニ様なら居るだろバカ