第0発目・石原砲代という男
酷い悪臭。
薄暗い部屋。
男が一人、胡座をかいていた。
1944年✖︎月✖︎✖︎日フィリピン・マニラ
わしは独房にぶち込まれた。
こんな蒸し暑い、汚い独房に。
理由は単純じゃ、上官を殴った。
思いっきり。
追い討ちもした。
どうせ座学程度しかやらんかったんじゃろ、馬乗りになってボコボコにしてやった。
後悔はしとらん。
奴さん、現地の女子を言い詰めて犯そうとしておった。
それが許せんかった。
だから殴った。
13人くらいの憲兵やら、一等卒やらがわしを止めようと躍起になった。
全員殴った。
全員倒した。
落ち着いた頃には、周りが銃で囲まれとった。
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わしはすぐに軍法会議にかけられた。
じゃが、結果は目に見え取った。
後で聞いた話じゃが、あの上官はまぁまぁお偉いやつだったそうじゃ。
「ーよって、被告、石原砲代を独房送りにする。」
「なんじゃぁ!このタコが女子襲おうとしとったんじゃぞ?!軍規に違反しとるのはこいつじゃ!」
傲慢に奴さんはわしを見下してとる。
意味が分からん。
百歩譲ってわしが裁かれるのは分かる。
じゃが…
何故このクズはお咎めなしなんじゃ!
頭に血が昇る。
許せん。
一体何が悪いんじゃ。
こんのハゲズラ。
「黙れ!上官を殴る奴があるか!ましてや馬鹿などと……ヒィ!?」
裁判官…いや、大佐が怯える。
なんでじゃ。
なんでお前が怒る。
頭に血が昇る。
きっとわしは般若みたいな顔になっとんじゃろ。
それ程許せん。
許せん。
「ンッ…ヴッン…これは決定事項だ。憲兵連れて行け。」
後ろから憲兵が来る。
「邪魔じゃぁ!触るな!触るな!…許さんぞぉ!貴様それでも東亜を解放する皇国の皇軍かぁ!」
右に、左に憲兵が飛ばされる。
まさに鬼だ。
鬼がいる。
「ヒィッ?!!憲兵ェ!何をしてる!押さえろぉ!こいつをぉ!」
「じゃぁかぁー」
その時は背後から音がする。
“ドン”その瞬間火薬のにおいが鼻に当たる。
「しぃ…」
撃たれた。
それだけは理解できた。
…気づけば、わしは独房の中じゃった。
「許せん…あのハゲズラ…」
独り言が独房にこだましよる。
わしはずっと、ここからどう出るかを考え取った。
少なくても、あのハゲズラがここにおる時にわしが出されることはない。
それは分かる。
じゃが、許せんのだ。
あのクズを。
「カァァー、神さん、仏さん!なんなら悪魔でもいい!あのハゲズラを殴らせろぉ!」
ー壁を殴れば殴るほど怒りが増していく。
血が溢れるが、痛みは鈍く、もはや何が何だか分からない程である。手は血だらけ、顔は真っ赤になり、鬼のような形相でひたすら怒り続けている。
これは違う世界。
この世で終わるお話。
しかし、それを気に食わないと言う者もいる。
「―力を貸そうか?そこのお前。」
「?!、誰じゃぁ!」
―怒りながら辺りを見渡す。
誰もいない。それはそうだ。この部屋は独房で個室の設計をしている。
ましてや、ドアの開く音もしていない。
この部屋には、いやこの付近には今誰もいないはずなのだ。
「お前だ、そこの兵士。」
「だから誰じゃぁ?!」
―怒りが収まる事はないにしても、奇妙な状態になっている事は理解できる。
しかし、この石原砲代という男。
理解はできても、応用の利く男ではないのだ。
彼は理解してもきっと怒り続けるだろう。
「さっさと面を見せんかぁぁ!!」
「静かにしろ。力を貸すと言っているのだ。復讐がしたいんだろう?」
「…ほうじゃ。許せんのじゃ、あのクズを。」
せめて一発、いや二発。
殺めるまではせんとも、半殺しにはしたい。
「じゃぁ、"契約"しよう。」
「なんじゃぁ〜契約ゥ?書類でも出さなきゃならんのかぁ?」
それは困る。
わしは書類作業には向かん人間じゃ。
「いや、お前と私との間で口約束をするんだ。」
「ほぉー。で、なんじゃ。わしは何をすればいいんじゃ?」
わしは脚を組み、座禅をする。
なんじゃ、面白そうな話じゃねぇか。
「…話が早いな。」
「おうよぉ!わしはなぁ、"これだ!"って思った事には全部、賭けることにしとるんじゃ!今の所全部当たっとるからのぉ!」
―自慢げに話す砲代の間には、何処かゆるい空気を感じる。
何処か抜けた男だ。
ーーーはそう感じた。
「まぁ、いい。契約の内容は簡単。俺はお前がここから自力に出れるほどの力をやる。その男に復讐をした後、私の頼み事を聞いてくれればいい。」
「ほう。」
なーんじゃ、胡散臭いのぉ〜
じゃが…
「…ええじゃろう。乗ってやろうや、その話。」
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ー
―男は気分が悪かった。
理由は自分の幾つも下の階級の男に殴られ、犯すつもりだった女にも逃げられたからだ。
この男、幾度もこの手の犯罪を犯しては、自分の階級やコネを使って事件を揉み消す畜生である。
「…くそ…あの下士官め…」
―赤く膨れた頬を抱えて、男は次の女を探す。
胸の大きい女…尻のでかい女…髪の綺麗な…
「お!」
あれは上玉だ!
いいもんを見つけたァ〜
―ニヤついて男は女に近づく。
「おい、そk「おぉぉい!そこのハゲズラァァァァァォ‼︎」
「?!」
あれはなんだ…
あれは…
あれは…?!
「ぶち殺させろォォォォォ‼︎こんのぉ〜屑やろォォォォォ!」
「ヒェェィィィイィ?!!!!」
なんであいつが…!
なんで!
―すぐ逆方向に走り出し、砲代から逃げ始める。
しかし、それは無駄であった。
「なぁぁんでぇ!あんな足が速いんだよぉ〜!」
―先ほど目視では200メートルは裕にあった距離を、もうすぐ後ろというところまで来てしまった。
「捕まえたぞ…このボケが…」
襟をしっかりと掴んでは、その腕の筋肉だけで持ち上げていく。
「け…憲兵ェェェェェ‼︎助けt」バコーン!
すぐそばにあった露店の壁を壊し、その奥の茂みに吹き飛ばされる。
男は這いつくばり、どうにか逃げようと匍匐を行う。
しかし、
頭が痛い…
血も出てる…
なんてやつだ…人間じゃない!
鬼だ!
鬼が来やがった!
鬼の前では、逃げられない。
「反省せぇ…反省せんかぁ!!」
―男の胸ぐらを掴んでは地面に叩き伏せる。
そこからは前の時と同じであった。
馬乗りになって、殴る、殴る、殴る、殴る。
血を吐き、目が白目になってしばらくした後、砲代の拳は動きを止めた。
「このくらいでいいじゃろ。いやぁ〜良いことをすると気分がよくなるのぉ〜」
「なんだ。もう良いのか?」
―また辺りを見渡すが、誰もいない。
しかし、直ぐに人はやってくるだろう。
憲兵の声が少し遠くから聞こえる。
「…まずいのぉ…よし!」
―彼は白目のを剥いた服を全て脱ぎ、帽子、拳銃、軍刀を持ってその場を立ち去る。
後のその場には、ふんどしのみのハゲた男のみが残っていた。
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「ぉうぉう!来とるのぉ〜!」
―後ろからは銃声と、怒号がやってくる。
どうせ、自動車も出しておるのだろう。
脱走兵一人の為とはいえよくやる者だ。
「でー、何処なんじゃぁ!?おまえさんの言うドアとやらは?!」
「もうすぐだ。」
―ジャングルをぐんぐんと進む。
足場が悪いせいか、先程の身のこなしもうまく使えない。
「待てぇ!「うぉ!失せんかい!」
―武器を引ったくり、兵を吹き飛ばす。
これでもう後戻りはできんの。
取り敢えず、前線に出て敵拠点を単騎で制圧くらいしないと、生かしてもらわれんじゃろ。
「ここだ。」
―そんなことを考えていると。
少し、薄暗い洞穴にたどり着いた。
少なくても、ここに例の"ドア"とやらがあるとは思えなかった。
「お前さん…わしに嘘をついたのかぁ〜?」
「早く行け。追っ手も来てる。」
「ドコダァ!」 「サガセェ!」
「…わかった。行ってやるわい。」
――本の薄暗い洞穴、壁にはところどころ壁画のようなものが見える。
奥に行けば行くほど、それは増えているのだ。
「なんともキミの悪い場所じゃ……ん?ありゃぁ?」
―そこには一つの木製の扉があった。
黒い、ひたすら黒い扉。
少し塗装が外れているが、その黒の塗料は明らかに彼が見た中で一番黒く、暗い色をしていた。
「ここじゃな?で、わしにどうしろと――
「日 本 を 救 え 。 こ れ は 契 約 だ 。 」
その瞬間。
わしはドアに引き摺り込まれた。
原作突入まで見守りたい人
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いえす!
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いやじゃ!