第三十五発目 わたる世間に…
早朝、朝日と共に砲代とマキマは樹海を抜け出した。体力の温存の為にと、出来る限り大砲の悪魔になる事なく、程よい港町に行くつもりであった。
あの後から、マキマはあまり喋らなくなった。砲代はそんな彼女を気にして、公安の奴らに何かされたのかと、声をかけたりする。しかし、マキマの答えはいつだって、"大丈夫"か"別に"と、そっけないものであった。
静岡県の中心に差し掛かった頃、砲代はマキマを担ぎ、大砲の悪魔となって空を飛んだ。
あの事件から砲代もマキマもまともに、食事という食事をしていなかった為か、あっという間に体力は尽き、奈良の山岳部で一度足を止めた。
「お父さん、お腹へった」
「…金は少ないが…ファミレス程度なら行けるじゃろ」
人目を気にしながら、山を降りて二人は近くのハンバーガー屋…ファミリーバーガーにて、昼食をとっていた。
ーおかしい…何故こんなにもマキマは静かなんじゃ…
いつも食べているお気に入りの照り焼きチキンフィレオを頬張っているのにも関わらず、その顔には暗く、曇りがかっている。
マキマの異常は砲代が一番感じ取っていた。目を空に、ずっと何かを熟考している様であった。あの場所からマキマを救い出してからであったが。
ーやはり…何か嫌なことでもされのか…?!
砲代は心の中で大きく舌打ちをする。こう言う時に限っては相手の心への干渉は、慎重にならなくてはならない。それが年頃の自分の娘となると、よりそうである。砲代自身、思い当たる節がないわけではなかった。これから逃げる事に対して不安を持っているのか…それとも、もう学校に行けないかもしれないと考えているのか…
…ワシのこの体についてか
不器用な事に、この男…砲代も真実を打ち明ける時が来ていると自覚していながらも、それを語る勇気は出ていなかったのである。
また野宿はきついだろうと、少し経った後近くの民宿になけなしの金を使って、泊まる事にした。
少しボロついた、奈良でも山側の民宿だ。
「おやまぁ…可愛いお嬢ちゃんだねぇ」
シワの多い老婆が出迎えてくれ、部屋に入った後すぐマキマを風呂へと入れてくれた。
部屋は2階にあった。少し、呆然と部屋を眺めた砲代は少しすると窓を開けて、ただ暗闇を見つめた。この後のこと、マキマのこと、公安のクァンシや岸辺、井伊乃達のことを思って遠くの暗闇を覗いていた。しかし、暗闇を見ているからと言って、それらに対する明確な答えや、解決策は浮かばなかった。
結局、最後にはこの闇…家の灯りの届かぬ場所に悠々と広がるこの黒に対する恐怖心すら抱いてしまったのだ。
それから10分程度が経ったであろうか。
「ただいま、お風呂上がったよ」
バスタオルを肩にかけて、髪の毛を少し濡らしたマキマが砲代に声をかける。チラリと、マキマの方を見て闇から目を背くと、窓を閉めてドライヤーを手に取る。
「ほい、こっちに…
「いい、お父さんすごく汗臭いもん」
「ガッ?!」
予想外の一言をくらい、胸に重傷を負った砲代を横目に、マキマはドライヤーをひったくり髪の毛を乾かし始めた。
仕方なく砲代も、マキマの一言を胸に風呂に入る為、階段を降りて一階に行く。妙に暗い階段をゆっくりと降り、渡り廊下に出ると老婆がいるであろう居間からテレビの音が聞こえる。
…緊急速報です。
昨日未明、東京で大きな危険度をもつ魔人が公安警察との戦闘の末、逃亡。現在、近畿地方に向かっているとのことです。魔人は先日の銃の悪魔出現の際に死亡した、石原砲代氏の遺体を使用している模様です。近くで魔人らしきものを見つけたら、すぐに公安警察までお知らせ下さい…
「おやまぁ…あなた魔人なの?」
後ろからの声に、驚きすぐさま振り向く。そこには、砲代の分のバスタオルを持った老婆が、弱々しい目を砲代へとむけていた。
「…そう言われとる」
「言われてるだけかい?」
「信じてもらわれんかもしれんが…言われてるだけじゃ、ワシは悪魔でも魔人なんかでもない」
「そうなの」
そう言って頷いた老婆は、居間へとつながる障子を引いて砲代に入る様に促した。砲代はそんな彼女にどうしたものかと悩んでいた。ここで公安に通報されて仕舞えば、これからの動きもバレてまうし、先回りだってされてしまう。きっと、逃げることは叶わなくなる。しかし、かと言ってこの老婆を喋られなくするなどと言う、非人間的行為をする度胸も砲代は持ち合わせていなかった。
「話を聞かせてくれないかしら」
「話じゃと…?話してどうなるんじゃ」
「どうなるなんて…私はそんな事は知らない」
「じゃぁ
「でも、貴方の悩みを聞いて、貴方自身の話を聞いてあげる事はできる」
嗄れた声で老婆は、優しそうに砲代に呟く
「私は生い先短いもの、ここで死んでも、結局変わらないわ」
「殺されても良いというんか…」
「そうじゃないけど…老人のおせっかいだと思ってくれたらいいのよ」
ちゃぶ台に正座した老婆と向かい合わせに、砲代は胡座を描いて座った。そこから、ポツリポツリと老婆に話をした。
話の終わった後、砲代は風呂に入って部屋へと戻った。ドアを開けた向こうには暗闇に包まれた、黄色い目をこちらに向けるマキマの姿があった。
評価とコメントのほどよろしくお願いします!
そろそろ第一部が終わるのかと、自分でもセンチになってるのを感じる
原作突入まで見守りたい人
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いえす!
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いやじゃ!