百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない   作:稲荷竜

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感想ありがとうございます
マーティンの人生はどうなるのか
今日は違う人の話です
お楽しみに


109話 デートのお誘い

 注視していたはずなのに、気づけなかったことがいくらかある。

 

 サラのことだ。

 

 娘は大きくなった。すでに八歳を迎えて、体も心もすくすくと成長していく。

 大きくなるにつれて、彼女の顔立ちや体つきは、当時のミリムを思い出させるものになっていった。やはり人種の影響は大きいような気がする。猫耳としっぽがついてたら、どんなに顔立ちが俺に似てたとしても、やっぱりミリム寄りに見えるだろう。

 

 彼女はいつのまにか言葉が達者になって、口調から舌足らずさが抜けてきたように思う。

 友達もたくさんできたようだ。彼女の口から知らない男の名前が飛び出すと、俺はドキリとして、その名前を持つ男がどんなヤツなのか、確認したい衝動をおさえきれなくなりそうだ。

 

 服装もいつのまにかオシャレになっている。

 昔は俺やミリムが買い与えたものをそのまま着ていたのだが、今では自分で服を選ぶし、アクセサリーなんかにも興味を持ち始めている――まあ、金属製アクセサリーとかではなく、髪を留めるシュシュとか、そういうものではあるのだけれど。

 

 片時も目をそらしていないとは言えないかもしれないが、俺はサラのことをずっと見てきたはずだった。

 それでも『いつのまにか大きくなっていた』という感覚がぬぐえないのは、それだけ、子供の成長というのが早いからかもしれない。

 

 きっとこのまま、彼女は『いつのまにか』大人になるのだろう。

 

 ならば俺にできることは『心の準備』だけだ。

 俺はサラを愛している……愛しているものを奪われるのは、誰だってつらいだろう。しかし彼女は俺の手を離れていく。それが当然なのだ。

 だから俺にできることは、彼女が離れていっても『奪われた』ではなく『成長し、彼女は彼女自身の世界を作り上げた』と認識し、そして『いつでも彼女は帰ってくるのだ』というのを心に抱き、送り出すことである。

 

 ところで七月の夏休み間近のある日、サラからこんなことを言われた。

 

「夏休みプールでデートするの」

 

 ダメですけど!!!!!????????

 

 俺はとっさにそう言いかけて、あわてて口をつぐんだ。あわてすぎて舌を噛んだ。クッソ痛い。

 

 くそ、誰だいたいけな娘をデートに誘うとか……しかもプール……プールってアレやん。水着やん。娘はもう八歳なんだぞ……八歳の娘とプールでデートとか誰だよマジで……

 

 しかし俺は冷静な判断力をもっていた。

 百万回の人生経験は伊達ではない……まずはどこの不埒な野郎が娘をデートに誘ったのか調べ上げて、平和裏に撤回してもらえるように裏で手を回さないといけない。

 

 俺は『親として相手を確認するのは不自然なことじゃない』という気持ちを抱きながら娘にたずねた。――誰とデート行くの?

 

「ルカくん」

 

 その名前を聞いた瞬間、俺の中で荒れ狂っていた『絶対に行かせないぞエネルギー』が急にピタリと躍動を止めた。

 

 ルカ。

 

 それが誰かと言えば、そう、誰あろう、アンナさんの息子だった。

 

 たしかそろそろ五歳になっているはずだ。

 俺はあんまりつきあいがないのだけれど、最近働き方を変えて家にいる時間の増えたミリムなどは、よくサラを連れてアンナさんの家に行き、ルカくんと遊んでいるようだった。

 

 俺が振り上げた拳の置きどころに困ったのは言うまでもない――『アンナさんの息子』『五歳になったばかりの幼児』。この二つの特徴を兼ね備えた相手が、八歳の娘とデートする。

 ほほえましく送り出すべき条件がそろっている――っていうか保護者同伴しないとアレな条件がそろっている。

 

 っていうかそのデートはなに? どっちから誘ったの?

 

「ルカくんに誘われたの!」

 

 サラは嬉しそうに言った。

 俺はこの笑顔の意味を解釈する――『ルカくんが男前だから』というよりも、弟のように接してる幼い子に誘われて、お姉ちゃんとして嬉しくなった、という感じだろう。きっとそうだ。

 さすがに八歳だしな。五歳児は恋愛対象の外だよな……外だよな?

 

 俺は自分が八歳の時にどうだったか思い返そうとした。

 けれど、そんな細かな感情の機微までは覚えておらず、そのころはとにかくアンナさんにあこがれてたような気がするだけで終わった。

 

 うーん……六歳のころ五歳のミリムが恋愛対象だったかと問われると、全然そんなことはないと思うんだが……

 まあ、そうだな。俺にとってミリムが『妹』だった感じで、サラにとってルカくんは『弟』なんだろう。そうだな。そうに決まっている。

 

 俺はサラに告げた――いいけど、パパもママもついていくからな。ほら、ルカくんはまだちっちゃいし……っていうかアンナさんとかには許可とってるの?

 

「アンナおばちゃんは、パパに聞いておいでって」

 

 アンナおばちゃん。

 俺の中では永遠にお姉さんであるアンナさんも、サラにかかればおばちゃんなのだった。

 

 そのくせカリナのことは『カリナ』って呼び捨てなのだ。

 これはサラが無礼とかじゃなくて、『おばさん』と絶対に呼ばれたくないカリナの洗脳調教によって、カリナと呼ばされているのである。

 

 というか――五歳になったばっかりの子が八歳の女の子をプールに誘うってなに?

 どういうコミュ力?

 

「……誘われちゃったの!」

 

 サラがほっぺたをおさえてモジモジする。

 俺は胸をおさえてモヤモヤする。

 

 こうしてアンナファミリーとのプール行きが決定した。

 けっこう憂鬱である――あのイケメンすぎるアンナさんの旦那さんと水着でプールに立つんだぜ。

 密かに筋トレの量を増やそうと誓った、七月のある日。

 約束の日まではもう、一週間ぐらいしかないのであった――

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